俺の名前は今日からポチです

ムーン

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ゆうはん、さん

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俺は額を机の縁に乗せ、快楽に悶える。足の指が勝手に開いて、四肢の末端が痙攣する。そんな俺の背に大きな手が優しく触れた。

「おい……大丈夫か?」

どうやら雪風は俺が体調を崩していると思っているらしい。横暴な彼の意外な一面には驚かされるし、その心配は嬉しい。けれど、今背をさすられるのは逆効果だ。

「んっ、ぁ、んん……ゆ、きかぜっ、やめて、触らないでっ……」

「症状を言え、吐きそうなら吐いた方がいい」

「……ぁ、んっ……すぐ、治るから…………ほっといて……くれ」

そうだ、雪兎がリモコンを拾えば振動を弱めるか止めるかするはずだ。こんなところで俺を喘がせて、誰かにバレて困るのは雪兎だろう。

「……おい!  誰か!」

雪風は従業員を呼び付けて、俺の体調が悪い事とその対応を話した。雪兎がようやくこちらに関心を戻し、俺に耳打ちする。

「ごめんねポチ、リモコン壊しちゃった。止めらんないや。ローターは外して来ていいよ、でもベルトはダメ。分かった?  ごめんね」

数人の従業員が集まり、椅子を引いて俺に肩を貸す。

「部屋に帰られますか?」

「……トイレ、行きたいです。お腹痛いんで…………行って治ったら、こっちに……」

「分かりました」

トイレに行ってローターを外し、ついでにベルトも外して一発抜く。その後またベルトを巻いて、雪兎には外していないような口をきく。
俺はそんな作戦を立て、広間を後にした。



雪風は空席となった席に移り、酒を飲みながら雪兎に話しかける。

「腹痛か……アレルギーは無かったよな?  調べたか?」

「えっ……と、うん、無かったよ。ちゃんと調べた」

「過去、食中毒に罹った事は?」

「無いんじゃないかな」

引き取る前に入念な下調べが行われた。雪兎はその中の病歴を思い返す。
雪風は雪兎の話を途中まで真面目に聞いていたが、皿の影に割れた機械の部品を見つけてそちらに集中する。

「…………あ、悪い。呼ばれた」

「忙しいねー、いってらしゃい」

別の机の親族に呼ばれたと、雪風はコップを持って立ち上がる。
雪兎の後ろを通り、雪兎が皿の影に隠した壊れたリモコンを観察する。踏み壊したと言っても原型は留めているし、何よりその色が特徴的だ。
雪風は全てを察し、別の机にコップを置いてトイレに向かった。



何かあったら声をかけろと残し、従業員は入口付近に立つ。声を出すつもりは無いが息遣いで不審がられては面倒なので、離れてくれて助かった。
一番奥の個室に入り、便器に腰掛けてすぐに浴衣を捲り上げる。トイレが洋式で助かった。
ローターを外して本体の電源を切り、とりあえず一息。カバン置きらしき棚にベルトとローターを置き、もう一つのベルトに指をかけた丁度その時、扉がノックされた。

「……大丈夫でーす」

従業員が来たものと思い、意識を失っていないことを主張する。けれど、扉は再び叩かれた。

「なんですか?」

「…………緊急です、開けてください」

「はぁ……?」

人のトイレも待てない緊急、とは何だ。火事か?  なら警報でも鳴るはずだが……

「雪兎様が……雪兎様が……」

俺の思考はその名前に中断される。雪兎に何かあった、なら、すぐに出なければ。俺は浴衣を適当に整え、扉を開いた。

「……ほんっと、仲良いんだな。お前ら」

外に居た者の声色が変わる、開き始めた隙間から腕が伸び、俺の口を塞いだ。
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