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彼氏を先輩と協力してお風呂に入れてみた

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ぺちぺち、ぺちぺち……と弱々しく頬を叩かれて目を覚ます。俺は知らないうちに浴室に座り込んでいて、目の前では裸のミチがシャワーヘッド片手に俺の頬を叩いていた。

「ぁ、お、おおっ、おき、起きた」

寝ぼけ眼を擦って周囲を見回すと、浴室の扉が開け放たれていることに気が付いた。脱衣所に座り込んだセンパイがそこから懐中電灯を構えていることにも。

「ミチ……センパイ…………何……? どういう、状況……」

「ノ、ノ、ノゾムくんをお風呂に入れてるんだよっ。身体は一通り綺麗にしたから、ゆゆ、湯船浸かって欲しくて。い、意識ないと危ないでしょ?」

「あぁ……センパイは、何してるんですか?」

「……電球が割れていてな。買い置きがあるかもしれないし、交換は家主に相談してからの方がいいだろうと判断した。暗くて入れないからこうして照らしている」

懐中電灯の光はそれなりに強いようで、センパイは俺達に直接当てずに天井を照らしている。それで普通の電灯のように浴室全体が明るくなっているのだから、文明の利器というのは素晴らしい。
ゲームには……特にホラーゲームにはよく懐中電灯が登場するが、円形の明かりがぼんやりと浮かぶ程度でこんなふうに明るくはない。ホラゲ主人公が拾う懐中電灯はみんな安物なのだろうか。

「か、かか、懐中電灯置いてけばいいのにっ、なんでいつまでも居るんだよ!」

「……お前、ノゾムが居てそっちに行けるなら行かないか? 照らすしかやることがなくても、リビングでお前らを待つよりはマシだ」

「え、ぇ、映画でも見てればいいのにぃ……」

「…………映画を見ると暗い気分になる、積極的には見たくない」

センパイは従兄に胸糞系やバッドエンドものばかり見せられてきたようだが、ミチのようにタイトルからしてハッピーエンドが確約されているような映画は見たことがないのだろうか?

「……知らない海外の人間よりノゾムを見ていたい。ノゾム、ノゾムー……ノゾム」

「な、な、なんで洋画限定なんだよ……」

ぼーっとセンパイにオススメするサメ映画を考えていると名前を呼ばれた。どこにも向けていなかった目をセンパイに向けると、彼は強面で微かに笑って首を傾げ、その顔の真横で大きな手を小さく振っていた。

「…………ノゾム」

全身の重だるさは当然腕にもある。だからあまりハッキリとではないが、手を振り返した。するとセンパイの笑顔は深くなり、ミチが視界に割り込む。

「ぼぼっ、僕の方が近いのにぃっ、とと、遠い形州とイチャつくなよぉっ!」

「ミチぃー……」

「ゎぷ」

センパイに振っていた手で目の前にやってきたミチの頬をつまむ。

「もう身体洗ってくれたんだよな?」

「ぅ、う、うんっ……」

「ありがとう。じゃ、先に浸からせてもらうぞ」

「た、たた、立てるっ?」

心配性なミチを笑い、一人で立とうとする──足に全く力が入らず、手前に居たミチにもたれかかってしまう。

「あ、あれっ? ごめん……なんか、足が」

「もぉ……だ、だから言ったじゃんっ。きき、き、君しょっちゅうそれやるよっ? 大丈夫ーって言って転ぶやつ!」

「ごめん……自分じゃよく分かんなくて」

「…………代わろう」

ミチの力では俺を立たせられないと判断したのか、懐中電灯を置いたセンパイがひょいっと俺を抱き上げ、湯船に入れてくれた。

「ありがとうございます……」

「ぅうぅ……か、か、形州っ! どうやって身体鍛えたのか教えろぉ!」

「……遺伝だ、諦めろ」

「ぅあぁああんっ!」

「…………いいだろ、お前はそれが似合ってる。なぁ、ノゾム」

ミチは俺よりも小柄で可愛い系の美少年のくせに、セックスが激しかったり鬼畜気味だったりするギャップが魅力だ。

「うん、今のままでいいよ」

「やだ! した後にノゾムくんの面倒見てあげられないなんてっ、情けないよぉ……そ、そ、そんなんだから僕っ、ノゾムくんに誘ってもらえないんだぁっ」

「ミチ、前に俺を風呂場まで運んでくれただろ? お前ん家の……共用のとこまで」

「ぉ、お、おんぶくらいなら何とかなるから……」

「十分だよ。彼氏全員に力で勝てないとか、俺のプライドやばいし、ミチはそのままでいてくれ」

複雑そうな表情をしていたが頷いてくれた。その後は湯船に浸かったまま頭を外に突き出して髪を洗ってもらい、ミチのたどたどしい手つきに萌えたりして、浴室を出たらセンパイに服を着せてもらった。

「ん……ありがとうございます、センパイ」

「……髪を乾かすのはミチがやりたいらしい。座って待ってろ」

俺の肩にタオルをかけ、タオルの両端を引っ張って俺を引き寄せ、唇を重ねた。

「…………夕飯、何が食べたい?」

「俺は別に何でも」

「ハ、ハ、ハハ、ハンバーグ!」

髪を洗い終えたミチがぐしょ濡れのまま脱衣所に飛び出してきた。

「……もう少し水気を切ってから出てこい。ハンバーグだな、分かった。頼んでおく」

出前でも頼むつもりなのかセンパイはスマホ片手に脱衣所を出ていった。服を着たミチは頭に適当にタオルを巻き、俺の髪にドライヤーを当てた。

「ノ、ノ、ノゾムくんの髪、キラキラして綺麗だよねっ。金髪ってちょっと苦手意識あるけど……えへへっ、ノゾムくんの髪は好き」

「そっか」

「う、ぅ、うんっ。僕は、僕はね、君のことが大好きなんだよっ? だ、だ、だから……だから、ね? 僕にも頼って、いいんだからねっ?」

幼げな雰囲気を持つミチのことを問題から遠ざけてしまう癖があるのは自分でもよく理解している。そのことをミチが察していて気にしているのも理解した。今後は気を付けるという気持ちを表すため、ミチの胸に頭をもたれさせた。



髪が乾く頃には立てるようになっていて、俺と一緒に居ようとするミチに「お前も髪を乾かせ」と言い聞かせ、一人で脱衣所を出た。

「ぅ……まだ、足ちょっとガクガクするな」

俺やレンが何も言わなかったら髪を濡れたまま放っておくような子供っぽい真似をするからガキ扱いされるんだ、ミチにそう言ってやるべきだったかななんて考えながらレンの部屋へ。

「レンー……? 起きた?」

きっとダメだと分かってはいたが、眠るレンに声をかけずにはいられなかった。肩を揺らして起こそうとせずにはいられなかった。

「やっぱり……まだ、帰ってきてくれてないんだね。なんで? 俺のこと……好きだろ? ちゃんと話し合って、その後すぐ危なくなっちゃったけどレンは助けに来てくれて……抱いてくれたじゃん。なんで……なんで帰ってきてくれないの?」

ピクリとも動かないレンの頬に水滴が落ちる。俺の涙だ。

「ごめん……ご飯食べたらまた来るな。レンもお腹すいたら起きてこいよ」

涙を拭ってダイニングに向かうと美味しそうなデミグラスソースの匂いがした。

「あ……先輩?」

「よっすお嬢、パシリーイーツのお届けに来てるぜ」

「センパイ、先輩に買いに行かせたんですか? すいません、ありがとうございます」

「こういうのが仕事みたいなとこあるからねー。普段クニちゃんの名前借りて楽させてもらってるから、ま、ギブアンドテイクよギブアンドテイク」

楽? 悪行の間違いでは? とは流石に言えないな。

「……確かに受け取った。さっさと出ていけ」

「食べていかないんですか? 本当に届けてくれただけ? なんか悪いなぁ……すいません本当」

「いいのいいの。クニちゃんとしっぽりな、お嬢」

「し、しっぽり……ははは」

机に広げられた三人分のハンバーグ定食を見下ろすと腹が鳴った。自分が思っているよりも俺は腹を減らしているようだ。

「お、ぉ、おまたせっ」

「……早く座れ」

レンが大変な状況なのに呑気に食事をするのには罪悪感もあるが、罪悪感で腹は膨らまない。俺は二人とタイミングを合わせて「いただきます」と呟いた。
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