過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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全て話せば

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樹液で粘つく寝床にアルマと共に横になる。彼の隣で彼の左腕を枕に、右手足を布団に、優しく背中を叩いて寝かしつけられる。

「……アルマ」

精液を吸収したことによる多幸感が薄れてきても、相手がアルマなら自己嫌悪は生まれない。

「アルマ、死んでたんだ。ほら……俺が人間達にまわされてさ、その時に……アルマ、首を……切られて、さ」

「死んだ? そうか……擬死か」

「俺、王都に連れてかれて、足切られてさ、玩具にされた」

強く抱き締められてインキュバスの脆い身体が軋むのを感じ、幸福を覚える。

「…………俺さ、弟が居るんだ。その弟と……アルマに会う前に仲良くなってた人間が居てさ、そいつらに助けてもらったんだ。それで、森に戻ってきて……アルマの首をここに運んで、くっつけたんだ」

詳細を省いた説明を終え、不意にアルマの顔を見上げると彼は涙を零していた。俺の視線に気付くと大きな顔を俺の頭頂部に押し付け、嗚咽を頭蓋骨に響かせた。

「……ごめんな、ごめん……な、サク……俺が守るはずだったのに、そう約束したのに……泣かせないと、誓ったのに……」

「アルマ……いや、俺が最初に人間に捕まったからアルマは抵抗できなくなったんだし、元はと言えば俺が珍しい見た目してるからで」

「サクの責任なんてない! ないんだ、サク……見た目は選べない、種族だって選べない、サクが人間に狙われるのも、大概のものに抵抗できる強さでないのも、サクのせいじゃない」

弟であるシャルは人間の首を容易く折った、腹を踏んで内臓を潰した。それなのに俺が人間を殴っても人によっては滾る程度の反抗に終わってしまう。俺が弱いのは本当に俺のせいではないのか? 本当に種族の問題なのか?

「…………ありがと、アルマ」

涙声になってしまったのが恥ずかしくて分厚い胸板に顔を押し付ける。そうしているとアルマは手の甲で俺の頬を撫でてくれた、嬉しくなって擦り寄っているとアルマの人差し指の爪はチョーカーに引っかかった。

「人間の匂いがするな……首輪か。今外してやる」

「ぁ……ダ、ダメっ!」

アルマの手を掴んで押しのける。慌ててチョーカーのベルト部分を撫でたが、特に傷はない。だが安堵するには早い、アルマに説明しなければ。

「サク……? どうして嫌がるんだ、人間に着けられた首輪だろう? 奴らが俺達を所有している証としている屈辱的な物だ」

「ち、違うんだ。これは首輪じゃない、チョーカーっていうアクセサリーなんだよ」

「何が違う。人間の匂いがするんだ、人間に着けられたんだろう?」

鋭い爪が首に向かってくるのが怖くて自分の首を絞めるように手で覆った。

「違うんだ……アルマ。その、これは違う……人間に着けさせられた物じゃないんだ。人間の匂いついてるかもしれないけど、そういうのじゃない」

上手い言い訳が思い付かない。けれど優しいアルマは強硬手段は取らない。

「は、外したくないんだ、分かってくれよ」

「…………まさか、好きな人間が居るのか?」

アルマが暴力を振るわないのは分かっているけれど、その大きな体と強面で凄まれては怯えてしまう。

「……か、可愛い、だろ? ハートで……尻尾とお揃いで似合うかなって、アルマに見て欲しくて。えっと、その……本当に着けられたんじゃないんだ、アルマ……信じてくれる?」

「……俺に身を飾った姿を見せるために盗んできたのか?」

頷いてしまおうか。正直に言いたくない。夫の前で別の男にもらったアクセを平気でつけているなんて最低だ、アルマに最低だと思われたくない。
俺は静かに頷いた。

「……っ、すまない、疑って……! 人間かサクに何をしたか思い返すと悔しくて、あの後何をされたか考えると胸が苦しくて…………そうか、そうだな、この石は俺の目に似ている……そのつもりで盗ったんだろう?」

虹彩が小さくて分かりにくいけれどアルマの瞳は金色だ、偶然にもネメスィと同じで、チョーカーに着いた石の色に似ている。

「すまない、サク、可愛いよ、よく似合っている」

アルマの指が優しく優しくチョーカーにぶら下がった石に触れる。

「本当によく似合っているよ。可愛らしい」

アルマからの贈り物が欲しいと思うのは欲張りだ。彼には十分過ぎるほどに愛をもらっている。なのに指輪をはめて欲しいなんて我儘だ、絶対に言うな。

「すまなかったな、えっと……楽しい話をしよう。サクには弟が居たんだな、一度会ってみたいものだ。サクを助けてもらった礼と、サクと伴侶になった報告をしなければ。俺のことを兄と認めてくれるだろうか……」

シャルは首だけになったアルマを破壊しようとしていた、俺の記憶からアルマを消そうとしていた。けれど相当反省していたように見えたし、根は優しいいい子だ、きっとアルマとも仲良くしてくれる。

「弟さんは今どこに居るんだ?」

「…………王都」

「……え? 王都……?」

「弟……シャルは、俺の黒髪珍しいらしいけど、シャルも珍しい見た目してて、研究にって捕まって」

アルマの身体が強ばったのが伝わってくる。

「……インキュバスだから夢で会えたんだ。泣いてた。兄さんって……兄さん大好きって、遺言みたいに。すごく酷いことされてるんだ。助けたい……アルマ、俺……シャルを助けたいんだ」

「………………分かった」

強く抱き締められて肺から空気が追い出され、慌てて吸った空気はアルマの匂いに満ちていて、身体が勝手にピクンと跳ねてしまった。

「……助けに行こう。サクはここで待っていてくれ」

「え……で、でもっ」

「また捕まったら今度こそ逃げ出せない。それに……サク、その足で何が出来る?」

「……アルマは目立つじゃないか! 俺は黒髪だから、羽とかさえ隠せば人間として忍び込んで情報集められる!」

「足の切れた人間が一人で街を這い回ると思うか? 俺も人間に詳しい訳ではないが……」

確かに俺は足でまといだろう、足があったって約立たずなのは同じだ。けれどアルマを一人で行かせてまた死なせるなんて嫌だ。

「……俺の足が治ったら俺が一人で忍び込んで情報を集める。集まったら一回王都を出て、アルマに知らせる」

「ダメだ、危険過ぎる。俺一人で行く」

「居場所が分からないのに自殺行為だ! それこそ危険過ぎる……ダメだ、アルマ……」

堂々巡りになってしまい、結論が出ない。当然だ、譲れない部分が被ってしまっているのだから。結論が出ないまま時間だけが過ぎて、生き返ったばかりなのに俺を二度も抱かされたアルマの体力が尽き、アルマは眠ってしまった。

俺も眠ろうと目を閉じて、弟に会いたいと願って意識して呼吸を落ち着かせる。しかしなかなか寝付けずに寝返りを繰り返し、とうとうアルマの腕の中から抜けてしまった。深い眠りの中に居るアルマは身動ぎ一つしない。腕の中に戻ろうと身体を起こした俺の耳に剣戟の音が聞こえた。

洞穴の出入り口から顔だけを覗かせて外の様子を伺ってみれば、ゴブリンが切り飛ばされるのが見えた。小さな手が目の前に飛んできて思わず悲鳴を上げると、俺に気付いたゴブリンがこちらに向かってくる。頭を腕で守る反応すら出来ずに醜悪な顔を見続け、その顔の真ん中を貫いた剣先が前髪を揺らした。

「……引っ込んでろ」

月光も届かない深い森の中でもネメスィの金髪は眩く輝き、その輝きは剣にも宿り、その剣先を地面に突き立てるとゴブリン達はいっぺんに黒焦げになって倒れた。
感電だろうかと素直に感心しているとネメスィが倒れる。もう他の男のものになっている俺のために倒れるまで戦ってくれていたのだ、その間俺は呑気に喘いで……!

「ネっ、ネメスィ! ネメスィ、大丈夫か? 起きろ、ここで寝たら危ないぞ、中に……」

洞穴から這い出て不規則に呼吸するネメスィに手を伸ばして頬に触れると、バチッという音ともに指先が痺れた。

「さ、わ……るな」

拒絶された訳ではない、不可抗力だ、そう分かっているのにどうして俺はショックを受けているんだ。
樹液を飲ませればマシになるかと洞穴に戻ろうとしたその瞬間、ネメスィの顔の頬を掠めて幹に矢が突き刺さった。
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