過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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本格的お風呂場レスリング

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アルマと共に脱衣所に戻り、服を脱ぐ。明るいところで見ると赤い肌には土汚れが目立つ。

「……灯りの下で見るとサクはますます可愛いな。今まで洞穴に居たのがもったいないよ」

「あ、ありがとう……アルマもカッコイイよ」

改めて裸を眺められると照れてしまう。頭羽が勝手に顔を隠したその時、浴場から大きな物音が響く。

「な、何故殴る! カタラ、やはり俺が化け物なのが気に入ら……ぅぐっ!? み、みぞおちはやめろ!」

「うるせぇバカ! 十年分殴らせろ!」

ムードもクソもない。浴場に戻ってさっさと体を洗おう。
広い浴場の床は濡れており、かなり滑る。そんな場所でネメスィとカタラは大喧嘩中だ、初めはネメスィは防御するばかりだったが次第に反撃するようになり、もうノーガードの殴り合いになっている。

「……ウィザードの格闘能力じゃねぇよなぁ」

「サク、何をどう使えばいいのか分からないんだが……ぅわっ!?」

振り返れば物珍しそうに蛇口をいじっていたアルマがシャワーからの水を顔に受けて慌てている。もうどっちを見ればいいのか分からない。

「はぁ、はぁ……カタラ、もうやめよう、ただでさえお前は何体も精霊を呼んで疲れているだろう」

「うる、せ……お前に膝つかせるまで、やめて、たま、る……か」

「カっ、カタラ! カタラーっ!」

とうとうカタラが倒れてしまった。何見てんだろ俺。

「……っ!? 目が、な、なんだ、目が痛いっ……」

「え……何、石鹸目に入っちゃった!? 落ち着いてアルマ、洗い流して! ほら目開けて、擦っちゃダメ!」

見るべきはアルマの方だったらしい。液体石鹸のボトルの蓋を開けて覗いてしまったようだ。

「兄さん、先にあがりますね」

アルマに目を洗わせているとシャルが俺に声をかけながら通り過ぎる。

「マイペース過ぎる……あ、待って! シャル、カタラの介抱してやってくれ」

「……分かりました。兄さんの頼みなら」

嫌そうな顔をしつつもシャルはカタラの方へ行ってくれた。
オーガの集落にも石鹸はあったようで、固形ではないがこれも石鹸なんだと説明すればアルマの理解は早かった。頭を洗うだけなら事故は起きそうにないのでネメスィの方へ行く。

「ネメスィ、だいぶ殴られてたけど大丈夫か?」

「サク……あぁ、平気だ」

「鼻血出てるぞ。目の端も切れてる……口の中もか?」

「血…………ふっ、馬鹿らしいな。こんなものを流して人間を装って、なぁ? サク」

ネメスィは彼らしくもなく自嘲の笑みを浮かべている。

「……お前は俺を嫌うんだろう? 気持ち悪いと言っていたな」

初めて彼の本性を見た後、彼の偽物だと思い込んで彼に「気持ち悪かった」と語ってしまった。その後で「嫌わないで」と泣かれて──

「…………嫌わないでくれ。サク……好きなんだ。頼む、嫌わないでくれ……人間でいるから、溶けたりしないから、このままでいるから……」

──あぁ、今もだ。俺は彼を相当深く傷付けてしまっていたらしい。

「……ごめんな。ネメスィ……嫌わないよ、絶対嫌いになんかならない。好き……大丈夫、大好きだよ」

「さ、く……本当に? 俺は、俺はっ……化け物で、本当は人間じゃなくて……人間のフリをしてるだけで」

「泣かないで。大丈夫……愛してる。ごめん、酷いこと言って。大丈夫、ネメスィ……お前が今溶けたって同じように抱き着くし、キスもするから」

初めて見た時は恐ろしくて仕方なかった。けれど一度ネメシスに抱かれた今は、先程粘液から人型に戻ったネメスィを見ても気味悪くならなかった。

「…………ありがとう。サク……俺も愛している。誓おう、俺はお前だけを永遠に愛する」

「ありがとうネメスィ、俺もずーっと愛してるよ」

抱き締め合ってキスをして舌を絡ませて、シャワーとは別に温かい水音を鳴らし、惜しみながら顔を離す。

「……俺も体を洗わなければな。脱いでくる、また後で、サク」

浴場を出ていくネメスィに手を振っていると背後から体を掴まれた。腕に抱かれたのではなく、大きな手に胴を掴まれたのだ。

「ア、アルマ……?」

「…………ああいう男が好きなのか。俺にはもう飽きたのか?」

「ち、違うよアルマぁ……怒らないで、アルマのこと嫌いになったとかじゃない、ずっと会いたかった。アルマ……」

アルマは床に膝立ちになっているというのに俺は見下ろされている。じとっとした金色の瞳に怒りはあまり感じない、嫉妬して拗ねている……と言ったところだろうか。

「ほ、ほら、アルマ……背中流してあげるから、機嫌直して」

風呂場用の椅子はアルマには小さく、座ればミシミシと音を立てる。なのでアルマには床に胡座をかいてもらい、俺は液体石鹸をアルマの背に塗り広げた。

「……おっきい背中」

ついさっき何本も槍が刺さった。なのに今は傷一つない。魔物の再生能力が高いのは良いことなのだろうが、痛みの跡が見えないというのはどこか悲しい。

「かっこいい、あったかいなぁ……」

大きな背中に抱き着いて分厚い皮膚と筋肉越しに鼓動を聞く。

「……サク?」

「あぁごめん、ちゃんと洗うよ」

アルマの背中は広く、手で洗うのには時間がかかる。俺はそっとアルマの首に腕を回し、腹をアルマの背に擦り付けた。

「サク? 何を……?」

「ん……洗う、のっ……アルマの背中、洗ってる、だけだよ……?」

自然と性器を擦り付けることになって感じてしまう。いや、最初からそれが目的だったのかもしれない。

「兄さん、カタラさん起きましたよ」

「……よ」

気付けばアルマの隣でカタラが頭を洗っていた。傍に立ったシャルはじっと俺を見つめている、夫の背に性器を擦り付けているところを弟に見られるなんて……あぁ、体が熱くなってきた。

「君がサクの弟か?」

「はい、えっと……アルマさんですよね、兄さんから色々聞いてます。とっても優しい方だとか」

にこやかなシャルの瞳は冷たい。

「優しい……? いや、俺はダメな奴だ。何度もサクを危険に晒してしまった、全く守れていない」

「そうですね」

「…………弟さんもサクに似て可愛らしいな。名前は?」

「シャルリル・リルル……シャルって呼んでください。お義兄さん」

一通り背中は洗えたのでアルマの前に回ると嬉しそうに笑っていた。今度はアルマの腹に擦り付けようと勃起した陰茎を揺らす俺を膝に座らせ、無邪気に語る。

「聞いてくれサク、お兄さんと呼んでくれたぞ。不安だったがよかった、認めてくれたんだ」

紫の瞳の奥に負の感情が冷たく沈殿しているのはアルマは感じ取っていないようだ。

「シャル、君には俺は部外者かもしれないが君とも家族になりたい。愛しいサクの大事な弟だ、仲良くなりたいと思っている。お兄さんと呼んでくれるなら……君も同じ気持ちだろうか?」

「…………えぇ、兄さんが選んだ人です。否定なんてしませんよ」

「ありがとう! 今日から君も俺の家族だ!」

口だけでニコニコと笑っていたシャルはアルマに抱き寄せられて笑顔を崩し、紫の目を見開いた。呆然としたシャルは両太腿を片手で掴まれてアルマの膝に俺と同じように座らされる。

「酷い目に遭ったんだってね。サクから聞いたよ……こんなにも小さい、子供みたいな君やサクに非道な真似をするなんて、なんて奴らだ……!」

アルマと俺達の身長差は1m以上ある。子供扱いは当然だ。そうなるとアルマにぺド趣味を疑うことになるが──まぁ、別にいいか。

「なんつーか、旦那さんよ。金で女囲ってる嫌な大富豪みたいになってんな」

頭を洗い終えたカタラが俺達を横目で見てボヤく。前世で言えば雑誌の最後の方に載っている怪しい商品紹介の札束風呂写真と言ったところだろうか。

「……サクとシャルは男だが」

俺には分かったがアルマには分からなかったようで首を傾げている。

「お前も混ざったらどうだ? 女顔だろ」

「うっせぇ! 俺は童顔なの! んでちょっと中性的なだけ!」

ネメスィも寄ってきた。先程キスをしていたからかアルマはネメスィに鋭い視線を向け、俺をぎゅっと抱き締めた。

「言いたいことは分かりますが、不愉快です。僕はお金でなびいたりしません」

「……サクがアクセ欲しいとか言って金が必要だったら?」

「その店の主人を殺してアクセサリーを根こそぎ奪います」

物をねだることはないと思うけれど、もし欲しい物があったら財布の紐が緩いネメスィに言おう。

「そっちかー……いやそれやったら俺らお前退治しなくちゃならなくなるからやめろよ?」

「へぇ? ならあなた方も片付けられて最高ですね」

カタラを睨み上げるシャルの肩にアルマの腕が回る。突然抱き締められたシャルは硬直している。

「俺の家族に喧嘩を売るのはやめてもらえないか」

「へいへい、過保護だなー」

両手のひらを上に向けて呆れたと表現したカタラは大人しく座り直し、体を洗った。
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