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人間と同じ身体になるには
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俺が地下室へ向かったと思っていただろうネメスィは驚いた顔をしていた。本をいくつも並べて肖像画だとかを参考に化ける顔を考えていたようだ。
「何か用か?」
「ネメスィにだけ言うから、秘密にしてくれよ? 実は……レコードアイの話、全部嘘なんだ」
金色の瞳が驚愕に見開かれる。
「どうしてそんな嘘を……どうする気なんだ、お前が情報を集めないと作戦は破綻するぞ」
「スパイに行って情報取ってこようと思うんだ」
もちろん前世ではスパイの経験なんてないし、前世で見たスパイ映画は秘密道具のオンパレードで会話術だとかを習得できるようなものではなかった。
「何をバカなことを。黒髪のインキュバスの価値は分かってるんだろう? 捕まって終わりだ」
「インキュバスだってバレないようにすればいい。人間には黒髪多いしさ」
スパイの心得の一つも知らないけれど、俺には自信があった。それはスキルだ、女神に付与された男に好かれるスキル。これさえあれば敵陣に潜り込める。
「……お願いネメスィ。俺の羽と尻尾を引っこ抜いて」
「なっ……!?」
「そうすれば人間に見える。人間になれたら潜入出来る自信があるんだ。お願いネメスィ、お願い……誰にも言わずに俺を人間に化けさせて、外に出させて」
ネメスィは否定の声を出さない。迷っているようだ。情報の大切さは分かっているのだろう。
「…………一つ条件がある」
「やってくれるの? やった……! 条件って何?」
ネメスィは首にかけていたネックレスを外し、俺にかけ、優しいキスをした。
「必ず無事に戻れ」
「……うん」
ありがちだな、でも……泣きそうだ。
「このネックレス大事な物なのにいいの?」
「何かあればそれを叩き割れ。そうすれば叔父上が来てくれるらしい。神性の存在を感知すれば周囲一帯を焼け野原にしかねないから、彼を助けるなら呼べない……でも、サク、お前が死ぬくらいなら…………」
周囲一帯ならシャルやアルマやカタラも危ない。そんな危険なもの呼べる訳がない。たとえ俺が死んだとしても、俺の家族には生きていて欲しい。
「……俺はアルマと結婚してるから平気だよ。あの契約があれば死なないんだろ?」
「そういう問題じゃない、お前が死ぬような目に遭うなら……俺は、彼を助けたいとは思えない」
ネメスィは付き合いが浅いから、俺やシャルほど査定士を助けたいとあまり思っていないのだろう。
「ネメスィの大切なものだし壊さないようにするよ。ネメスィ……そろそろ出発したいから」
「……あぁ、ベッドに寝転がれ」
ベッドにうつ伏せになり、枕を抱き締めてぎゅっと目を閉じ、枕に噛み付いて声を殺す準備も整える。
「羽と、尻尾……だな。サク……こんな真似しなくても俺が変身してスパイとやらをすればいいだろう?」
「ネメスィが男に身体売ったら情報買わせてもらえるのか? ただでさえネメスィは会話苦手じゃん、直球で聞いてバレる未来しか見えない」
「サク……」
「大丈夫、ネメスィ。俺嬉しいんだ、やっと役に立てそうで……それも、ずっとこれしか能がないんだって思ってたセックスで。インキュバスらしくやってくるよ」
これまでずっと助けられるばかりだった。この痛みは怠惰への罰だ、この後の仕事は恩返しだ。
「……まずは頭の羽から切るぞ。電気を流して麻痺させるが、切られた後の痛みはあるからな」
「大丈夫、切られたことあるし」
枕を噛み締め、根元からナイフで切り落とされた痛みに唸る。
「再生しないよう俺の細胞を詰めて阻害しておく。ハゲが出来たから髪を生やして……よし、触っても分からないはずだ」
頭が少し軽くなった気がする。頭羽が切り落とされた傷口に柔らかい物がねじ込まれ、血管などを塞いで止血してくれた。
「腰のは少し掘るぞ」
脊椎に電流が流れる。それは不思議と痛くはなく、身体の感覚が薄くなっていく気がした。同時にネメスィは俺の腰の肉などを切って背骨に生えている腰羽を本当の根元から切り落とし、傷口に自分の細胞を埋めて止血した。
「大丈夫か? 痛みは?」
「まだしびれてて、よく……ぅあっ、きた……けど、そこまでかな。腰痛より余裕」
「足は動くな?」
「ん? うん」
「そうか……脊椎でも傷付けたかと心配だったんだ」
人間のものと全く同じ滑らかな肌だけの腰になったらしく、ネメスィは羽があった場所を撫でる。
「…………サク、尻尾はやめておけ。ズボンに隠せばいいだろう」
「ダメ……お願い、一気にやって」
「よく考えろサク、インキュバスの尻尾は脊椎骨の延長……脊髄も先端までしっかりと入っている。そんなもの引き抜いたら、サク、お前は……」
俺は無言で枕を噛み、掴み、覚悟を訴える。ネメスィは深いため息をつき、俺の尻尾を掴んで麻酔代わりの電流を流す。腰周りから感覚が消え、ゴリゴリと何かを削っているような振動が脊椎に響く。処置が終わったのだろう、えぐれた跡にネメスィの細胞が埋められた。
「……サク、立てるか」
「ん……ぅわっ」
ネメスィに手を引っ張られて立ち上がるが、何故か尻もちをついてしまう。尻尾がなくてバランスが崩れたのだろう、そうは思ったが腰に衝撃が届いた瞬間に絶頂してしまった驚きと快楽で詳しい考察ができない。
「ひっ……ぁ、な、なにっ、なんで、今……イったんだよ」
「脊椎を途中で切ったんだ、断面は神経が丸出しなんだぞ。そんな転び方をすればイくのは当然だ」
「そ、かっ……気を、付ける」
足を震わせながらインキュバスらしく見える服を脱ぎ、ネメスィのぶかぶかの服を借り、邸宅にあったローブを着る。
「どう? 人間に見える?」
「…………耳が長いな」
「あっ……忘れてた。切ってくれ」
電流が流れ、耳が麻痺する。尖った部分が切り落とされ断面を埋められると、ピアスを開けた程度の違和感が残る。
「これで見た目は完璧だが、人間に比べれば伸縮性が高く、体重が軽いというのも忘れるな。バレないよう気を付けろ。しつこいようだがバレた時は──」
「ネックレスの石を割る、だよな?」
「……分かっているならいい」
髪と目の色と顔の造形を変えたネメスィに連れられて邸宅を後にする。途中まで一緒に歩き、日が落ちたら目立つ看板の店の前で集合だと約束し、別れた。
「売春からのスパイ……とは言ったものの、まずは兵士に買われないことには……兵舎近く行ってみようかなぁ」
兵舎は民家とは建材が違ってすぐに分かる。しかし兵舎に乗り込んで情報をくれと言うわけにもいかない。情報を集めようとする売春婦(男)なんて怪しすぎる。
「貴様! そこで何をしている」
兵舎を眺めて悩んでいると大声が聞こえて身体が跳ねる。肩を掴まれて振り返らされた先には鎧を着込んだ兵士がいた、二人組だ。
「怪しい奴め……」
「あ、怪しいものじゃありません! あのっ……俺、体を……売っていて、その……色々と溜まっているでしょう兵士のみなさんを、癒してあげたいな……と」
二人の兵士は顔を見合わせる。
「男娼か……所属は?」
「へっ?」
「この辺ならルクスリア商会か?」
所属とか組合とかあるのかよ。やばい、適当に頷いて後でバレたら罰せられるかもしれない。
「こ、個人です……ダメですか?」
「決まりはないが、商会に何を言われるか分からんぞ」
「犯罪組織とズブズブだからな、下手すりゃ土の下だ」
ヤクザみたいなものなのか、前世でヤクザと関わってないからよく分からないけれど。
「そ、それじゃあ……そのっ、商会に俺を紹介してくれませんか?」
「どうして俺達がそんな面倒な真似しなきゃならないんだ」
「……い、一回タダでヤらせてあげますから。自由恋愛……ってことで」
ずっと被っていたフードを恐る恐る脱ぎ、顔を晒す。しかし彼らは目元を隠す兜をズラそうとしない。
「俺、男には興味ないからなぁ……」
「俺もあんまり」
真面目に顔を見ようとしない兵士達の手を掴む。厚手の手袋越しにぎゅっと握る。
「じゃあ……口だけ、口なら女の子と変わりませんし、タダですよ? 商会に紹介してくれたら……」
片方の兵士には手を払われてしまったが、「あんまり」と言っていた方の兵士は手招きをして物陰に隠れ、排泄のために開くように作られているのだろう鎧の機能を使った。
「よかったら紹介してやるよ」
「ありがとうございますっ!」
すぐに兵士の前に膝立ちになり、すえた雄の匂いに頭がクラクラする感覚を味わいながら陰茎に頬擦りをする。蒸れた匂いにインキュバスの本能が刺激され、本能のままに口淫を始めた。
「何か用か?」
「ネメスィにだけ言うから、秘密にしてくれよ? 実は……レコードアイの話、全部嘘なんだ」
金色の瞳が驚愕に見開かれる。
「どうしてそんな嘘を……どうする気なんだ、お前が情報を集めないと作戦は破綻するぞ」
「スパイに行って情報取ってこようと思うんだ」
もちろん前世ではスパイの経験なんてないし、前世で見たスパイ映画は秘密道具のオンパレードで会話術だとかを習得できるようなものではなかった。
「何をバカなことを。黒髪のインキュバスの価値は分かってるんだろう? 捕まって終わりだ」
「インキュバスだってバレないようにすればいい。人間には黒髪多いしさ」
スパイの心得の一つも知らないけれど、俺には自信があった。それはスキルだ、女神に付与された男に好かれるスキル。これさえあれば敵陣に潜り込める。
「……お願いネメスィ。俺の羽と尻尾を引っこ抜いて」
「なっ……!?」
「そうすれば人間に見える。人間になれたら潜入出来る自信があるんだ。お願いネメスィ、お願い……誰にも言わずに俺を人間に化けさせて、外に出させて」
ネメスィは否定の声を出さない。迷っているようだ。情報の大切さは分かっているのだろう。
「…………一つ条件がある」
「やってくれるの? やった……! 条件って何?」
ネメスィは首にかけていたネックレスを外し、俺にかけ、優しいキスをした。
「必ず無事に戻れ」
「……うん」
ありがちだな、でも……泣きそうだ。
「このネックレス大事な物なのにいいの?」
「何かあればそれを叩き割れ。そうすれば叔父上が来てくれるらしい。神性の存在を感知すれば周囲一帯を焼け野原にしかねないから、彼を助けるなら呼べない……でも、サク、お前が死ぬくらいなら…………」
周囲一帯ならシャルやアルマやカタラも危ない。そんな危険なもの呼べる訳がない。たとえ俺が死んだとしても、俺の家族には生きていて欲しい。
「……俺はアルマと結婚してるから平気だよ。あの契約があれば死なないんだろ?」
「そういう問題じゃない、お前が死ぬような目に遭うなら……俺は、彼を助けたいとは思えない」
ネメスィは付き合いが浅いから、俺やシャルほど査定士を助けたいとあまり思っていないのだろう。
「ネメスィの大切なものだし壊さないようにするよ。ネメスィ……そろそろ出発したいから」
「……あぁ、ベッドに寝転がれ」
ベッドにうつ伏せになり、枕を抱き締めてぎゅっと目を閉じ、枕に噛み付いて声を殺す準備も整える。
「羽と、尻尾……だな。サク……こんな真似しなくても俺が変身してスパイとやらをすればいいだろう?」
「ネメスィが男に身体売ったら情報買わせてもらえるのか? ただでさえネメスィは会話苦手じゃん、直球で聞いてバレる未来しか見えない」
「サク……」
「大丈夫、ネメスィ。俺嬉しいんだ、やっと役に立てそうで……それも、ずっとこれしか能がないんだって思ってたセックスで。インキュバスらしくやってくるよ」
これまでずっと助けられるばかりだった。この痛みは怠惰への罰だ、この後の仕事は恩返しだ。
「……まずは頭の羽から切るぞ。電気を流して麻痺させるが、切られた後の痛みはあるからな」
「大丈夫、切られたことあるし」
枕を噛み締め、根元からナイフで切り落とされた痛みに唸る。
「再生しないよう俺の細胞を詰めて阻害しておく。ハゲが出来たから髪を生やして……よし、触っても分からないはずだ」
頭が少し軽くなった気がする。頭羽が切り落とされた傷口に柔らかい物がねじ込まれ、血管などを塞いで止血してくれた。
「腰のは少し掘るぞ」
脊椎に電流が流れる。それは不思議と痛くはなく、身体の感覚が薄くなっていく気がした。同時にネメスィは俺の腰の肉などを切って背骨に生えている腰羽を本当の根元から切り落とし、傷口に自分の細胞を埋めて止血した。
「大丈夫か? 痛みは?」
「まだしびれてて、よく……ぅあっ、きた……けど、そこまでかな。腰痛より余裕」
「足は動くな?」
「ん? うん」
「そうか……脊椎でも傷付けたかと心配だったんだ」
人間のものと全く同じ滑らかな肌だけの腰になったらしく、ネメスィは羽があった場所を撫でる。
「…………サク、尻尾はやめておけ。ズボンに隠せばいいだろう」
「ダメ……お願い、一気にやって」
「よく考えろサク、インキュバスの尻尾は脊椎骨の延長……脊髄も先端までしっかりと入っている。そんなもの引き抜いたら、サク、お前は……」
俺は無言で枕を噛み、掴み、覚悟を訴える。ネメスィは深いため息をつき、俺の尻尾を掴んで麻酔代わりの電流を流す。腰周りから感覚が消え、ゴリゴリと何かを削っているような振動が脊椎に響く。処置が終わったのだろう、えぐれた跡にネメスィの細胞が埋められた。
「……サク、立てるか」
「ん……ぅわっ」
ネメスィに手を引っ張られて立ち上がるが、何故か尻もちをついてしまう。尻尾がなくてバランスが崩れたのだろう、そうは思ったが腰に衝撃が届いた瞬間に絶頂してしまった驚きと快楽で詳しい考察ができない。
「ひっ……ぁ、な、なにっ、なんで、今……イったんだよ」
「脊椎を途中で切ったんだ、断面は神経が丸出しなんだぞ。そんな転び方をすればイくのは当然だ」
「そ、かっ……気を、付ける」
足を震わせながらインキュバスらしく見える服を脱ぎ、ネメスィのぶかぶかの服を借り、邸宅にあったローブを着る。
「どう? 人間に見える?」
「…………耳が長いな」
「あっ……忘れてた。切ってくれ」
電流が流れ、耳が麻痺する。尖った部分が切り落とされ断面を埋められると、ピアスを開けた程度の違和感が残る。
「これで見た目は完璧だが、人間に比べれば伸縮性が高く、体重が軽いというのも忘れるな。バレないよう気を付けろ。しつこいようだがバレた時は──」
「ネックレスの石を割る、だよな?」
「……分かっているならいい」
髪と目の色と顔の造形を変えたネメスィに連れられて邸宅を後にする。途中まで一緒に歩き、日が落ちたら目立つ看板の店の前で集合だと約束し、別れた。
「売春からのスパイ……とは言ったものの、まずは兵士に買われないことには……兵舎近く行ってみようかなぁ」
兵舎は民家とは建材が違ってすぐに分かる。しかし兵舎に乗り込んで情報をくれと言うわけにもいかない。情報を集めようとする売春婦(男)なんて怪しすぎる。
「貴様! そこで何をしている」
兵舎を眺めて悩んでいると大声が聞こえて身体が跳ねる。肩を掴まれて振り返らされた先には鎧を着込んだ兵士がいた、二人組だ。
「怪しい奴め……」
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二人の兵士は顔を見合わせる。
「男娼か……所属は?」
「へっ?」
「この辺ならルクスリア商会か?」
所属とか組合とかあるのかよ。やばい、適当に頷いて後でバレたら罰せられるかもしれない。
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「決まりはないが、商会に何を言われるか分からんぞ」
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ヤクザみたいなものなのか、前世でヤクザと関わってないからよく分からないけれど。
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「どうして俺達がそんな面倒な真似しなきゃならないんだ」
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ずっと被っていたフードを恐る恐る脱ぎ、顔を晒す。しかし彼らは目元を隠す兜をズラそうとしない。
「俺、男には興味ないからなぁ……」
「俺もあんまり」
真面目に顔を見ようとしない兵士達の手を掴む。厚手の手袋越しにぎゅっと握る。
「じゃあ……口だけ、口なら女の子と変わりませんし、タダですよ? 商会に紹介してくれたら……」
片方の兵士には手を払われてしまったが、「あんまり」と言っていた方の兵士は手招きをして物陰に隠れ、排泄のために開くように作られているのだろう鎧の機能を使った。
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「ありがとうございますっ!」
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