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仲良くして欲しかったのに
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俺達家族三人の寝室でアルマとシャルが静かに溝を深めている。彼らは家族として仲良くやれそうだったのに、俺が節操なしの淫乱なばかりにどうしても争わせてしまう。
「…………ごめん。少し言い過ぎたよ、君もサクと愛し合っているんだ、サクが好きになる男が悪い奴とは思っていないし、サクの弟である君とは仲良くしたいよ」
アルマの声が柔らかく変わる。少し言い過ぎたからこそスッキリしたのだろう。
「本当に悪かった。君はきっと俺と家族として仲良くしようとサクとの関係を隠そうとしていたんだろう? なのに隠そうとしていたことに苛立つなんて……俺が分かってなかったよな、すまない」
「…………大人、ですね。アルマさん」
「え……? あ、あぁ、まぁ君よりは長く生きているよ、ずっと檻の中だったから何の経験もないけれどね」
「僕はあなたと仲良くしたいと思ったことなんて一瞬たりともありませんよ、兄さんがそうして欲しいって言ったからそうしようとしただけです。あなたのことは嫌いです、僕は兄さん以外の全てが嫌いです、兄さんに好意を抱くモノも兄さんが好意を抱くモノもそれ以外も生物以外だって邪魔で邪魔で仕方ないっ!」
シャルの口調が早く、声が必死になっていく。ただでさえ不安定だったのに俺の不在とアルマの態度で悪化してしまった。
「この世に僕と兄さん以外のモノなんていらないっ! そうだ……そうですよね、そうだっ……! 全部全部消してしまえば兄さんは僕に頼るしかなくなるっ! 兄さんに嫌われたくないからって兄さんの周りの人を消したい欲求を堪える必要なんてないんですよね……?」
「シャル……? ま、待て、落ち着けっ!」
一瞬の静寂の後、大きな物音が一度だけ鳴った。また静寂が訪れるのが怖くて俺は二人の名前を呼びながら扉を開けた。
「サク……!」
アルマは無傷で立っていた。ひとまず胸を撫で下ろし、シャルを探した目は壁に叩きつけられて大量に出血している人型すら保てていない可愛い弟を見つけた。
「サク……違うんだ、シャルが突然飛びかかってきて、つい、その……力が入って。こんなことをしようと思ってしたわけじゃないんだ!」
弁解するアルマを無視してシャルの元へ走る。
「シャル……? シャル、大丈夫……だよ、な?」
最も脆い種族のインキュバスが、最も強靭な種族のオーガに殴られたら、たったの一撃で肉塊に近くなってしまうだなんて──でも、もう再生は始まっている。それもかなりのスピードだ、俺から大量に吸っていたのがよかったのだろう。
「…………きら、い、です」
「あぁ、分かった、分かったよ、ごめんな……無理に仲良くしようとしなくていい、俺だけでいいよ、ごめんな無茶させて」
「ぼくは……ぼくが、いちばん……きらい」
「え? な、なに……シャル?」
シャルは再生途中の体で立ち上がり、部屋を出ようとする。慌てて手を掴めば骨を包む途中の肉がちぎれてしまった。
「あっ……ご、ごめん! 痛かったよな、ごめんな?」
「…………おかまい、なく」
触れれば崩れてしまうような体に触れて止めることは出来ず、先回りをして扉を開け、そのままシャルに着いていった。アルマも恐る恐る着いてくる。
「……なぁ、シャル。自分が嫌いってどういうことだ?」
「そのままです……兄さんのことが好きって、それだけで、空っぽで自分勝手……体は脆くて兄さんをろくに守れもしなくて……鬱陶しい性格してて兄さんに面倒ばっかり…………僕は僕の好きな人に困った顔ばかりさせる僕が大嫌いです」
「困った顔なんてしてない! 俺はシャルの鬱陶しいとこ好きだぞ、可愛い範囲だ、弟の面倒見たいもんなんだよ兄貴ってのは!」
「……今も、困らせてる。廊下だってもうたくさん汚してる」
シャルが歩いてきた廊下には血の跡が残っている。
「そ、それは俺が殴ってしまったからだ……すまない。押さえる程度でよかったのに、インキュバスのシャルに手を上げるなんて……最低だ」
「そうですよね、インキュバスは脆くて加減大変ですよね、お優しいアルマさんには心労をかけて申し訳ないです」
「シャル……」
「…………兄さん、アルマさん、お願いですから一人にしてくれませんか」
振り向かずに言われてはもう足を止める他の選択肢はなく、俺達は角の向こうへ消えていくシャルをただ見送った。立ち尽くしているうちに声が出せるようになり、アルマから話した。
「…………本当にすまない、サク。俺のせいだ」
「違う……俺が浮気ばっかしてるから」
アルマは何も言わずに深いため息をついた。壁や床にべっとりと付着した血を片付けようなんて頭の片隅にもない。
「シャルは、さ」
「……あぁ」
「生まれた時からずっと俺ばっかりで……俺のことだけ考えて、俺のためだけに動いて、たくさん殺して、自分も犠牲にして」
「…………そうか」
シャルに何度も射精させられて腹が減っているけれど、流石にアルマに抱いてとねだる気にはなれなかった。
「一人にしてくれなんて、そんなこと言うなんてっ……死にかけてた時に、自分のこと忘れろって言った時みたいでっ…………どうしよう、シャルが死のうとしてたらどうしよう! シャル死んじゃったらどうしよぉっ……アルマ、やだよ、アルマぁっ、どうしよう……」
「…………一緒に行こう」
震える足を動かしてシャルが残した血の跡を追う。きっと再生が終わったのだろう、血液の量は途中から明確に減っていたが、足の裏についた血は取れずに足跡だけは残っていた。
「この部屋……? シャル、居るのか?」
入ったことのない扉を開ける。どうやら物置のようで高級そうな置物が並んでいた。そんな部屋の隅でシャルはうずくまっていた。
「シャル……! シャル、よかった、生きてた……シャル?」
顔を上げさせたシャルは目を閉じていた。静かな寝息も聞こえる、泣き疲れて寝たのだろうか? 俺が考えたほど思い詰めてはいなかったようだ。
「俺の考えすぎか、よかったぁ……シャルぅ、大好きだぞ、お前が自分のこと嫌いでも俺は大好きだからな、お前が好きな俺が好きだって言ってんだから粗末な扱いなんてするんじゃないぞ」
力が抜けている体を開かせて抱き締める。
「ここは冷えるな……サク、とりあえず部屋に戻ろう」
アルマは俺達二人を軽々と抱き上げて寝室まで戻った。俺達をベッドに寝かせると薄手の毛布をかけ、頭を撫でてくれた。
「……起きた時にサクが居た方がいいだろう。今は一緒に寝ておくといい」
「うん、ありがとうアルマ。ごめんな、シャルは……アルマからすれば浮気相手なのにな」
「………………義理の弟だよ」
心での納得はしていないが、アルマは折り合いをつけようとしてくれている。アルマの優しさや理性に甘えているだけではいけないと思うけれど、今のところ甘える以外の選択肢が見つからない。
俺はひとまず目を閉じ、アルマが部屋を出ていく気配を感じた。
数分するとアルマが戻ってきた。
「うっわ……! 何この血、廊下も酷かったけど」
カタラの声だ、アルマが呼んできたのだろうか?
「…………シャルを殴ってしまって」
「まぁムカつく奴だから気持ちは分かるけどインキュバスだぞアイツ、殴るとか鬼畜かよ……あ、鬼だったな」
「……なんとでも言え」
「あ、ごめん俺さ、軽口と冗談でコミュニケーション取りたいタイプだけど反論してくれないと不安になるタイプで」
「面倒だな、お前のタイプなんて知らん。いいから掃除してくれ」
アルマがカタラを呼んだのは血を掃除してもらうためらしい。水の精を呼び出して洗浄を行っているようで、部屋がちょっと涼しくなってきた。
「ふー……綺麗になったんじゃね?」
「素晴らしいな、いけ好かない若白髪とか思っていてすまない」
「お前割といい性格してんなぁ!」
「冗談だ、いけ好かない銀髪だと思っている」
「いけ好かない銀髪はただの事実だな」
アルマとカタラが一番仲が悪いと思っていたが、そうでもないようだ。アルマも案外と冗談を言えるタイプなんだな。
「さ、おっさんに見つからないうちに廊下も掃除するか」
「頼む、俺には何も出来ない……そうだ、夕飯を好きな品一つ譲ろう」
「お、マジ? 普通に嬉しいわ」
彼らは友人はなれそうだと安心していると部屋の外から男の悲鳴が聞こえてきた。
「……おっさんにバレたな」
「説明は俺がやる、シミにならないうちに頼む」
「おー……結構大量だし、疲れそうだな」
二人が廊下に出ると寝室は静かになった。俺はシャルのあどけない寝顔を眺めて笑みを零し、起きた時にかける言葉を考えながら眠りに落ちた。
「…………ごめん。少し言い過ぎたよ、君もサクと愛し合っているんだ、サクが好きになる男が悪い奴とは思っていないし、サクの弟である君とは仲良くしたいよ」
アルマの声が柔らかく変わる。少し言い過ぎたからこそスッキリしたのだろう。
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「シャル……? ま、待て、落ち着けっ!」
一瞬の静寂の後、大きな物音が一度だけ鳴った。また静寂が訪れるのが怖くて俺は二人の名前を呼びながら扉を開けた。
「サク……!」
アルマは無傷で立っていた。ひとまず胸を撫で下ろし、シャルを探した目は壁に叩きつけられて大量に出血している人型すら保てていない可愛い弟を見つけた。
「サク……違うんだ、シャルが突然飛びかかってきて、つい、その……力が入って。こんなことをしようと思ってしたわけじゃないんだ!」
弁解するアルマを無視してシャルの元へ走る。
「シャル……? シャル、大丈夫……だよ、な?」
最も脆い種族のインキュバスが、最も強靭な種族のオーガに殴られたら、たったの一撃で肉塊に近くなってしまうだなんて──でも、もう再生は始まっている。それもかなりのスピードだ、俺から大量に吸っていたのがよかったのだろう。
「…………きら、い、です」
「あぁ、分かった、分かったよ、ごめんな……無理に仲良くしようとしなくていい、俺だけでいいよ、ごめんな無茶させて」
「ぼくは……ぼくが、いちばん……きらい」
「え? な、なに……シャル?」
シャルは再生途中の体で立ち上がり、部屋を出ようとする。慌てて手を掴めば骨を包む途中の肉がちぎれてしまった。
「あっ……ご、ごめん! 痛かったよな、ごめんな?」
「…………おかまい、なく」
触れれば崩れてしまうような体に触れて止めることは出来ず、先回りをして扉を開け、そのままシャルに着いていった。アルマも恐る恐る着いてくる。
「……なぁ、シャル。自分が嫌いってどういうことだ?」
「そのままです……兄さんのことが好きって、それだけで、空っぽで自分勝手……体は脆くて兄さんをろくに守れもしなくて……鬱陶しい性格してて兄さんに面倒ばっかり…………僕は僕の好きな人に困った顔ばかりさせる僕が大嫌いです」
「困った顔なんてしてない! 俺はシャルの鬱陶しいとこ好きだぞ、可愛い範囲だ、弟の面倒見たいもんなんだよ兄貴ってのは!」
「……今も、困らせてる。廊下だってもうたくさん汚してる」
シャルが歩いてきた廊下には血の跡が残っている。
「そ、それは俺が殴ってしまったからだ……すまない。押さえる程度でよかったのに、インキュバスのシャルに手を上げるなんて……最低だ」
「そうですよね、インキュバスは脆くて加減大変ですよね、お優しいアルマさんには心労をかけて申し訳ないです」
「シャル……」
「…………兄さん、アルマさん、お願いですから一人にしてくれませんか」
振り向かずに言われてはもう足を止める他の選択肢はなく、俺達は角の向こうへ消えていくシャルをただ見送った。立ち尽くしているうちに声が出せるようになり、アルマから話した。
「…………本当にすまない、サク。俺のせいだ」
「違う……俺が浮気ばっかしてるから」
アルマは何も言わずに深いため息をついた。壁や床にべっとりと付着した血を片付けようなんて頭の片隅にもない。
「シャルは、さ」
「……あぁ」
「生まれた時からずっと俺ばっかりで……俺のことだけ考えて、俺のためだけに動いて、たくさん殺して、自分も犠牲にして」
「…………そうか」
シャルに何度も射精させられて腹が減っているけれど、流石にアルマに抱いてとねだる気にはなれなかった。
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「…………一緒に行こう」
震える足を動かしてシャルが残した血の跡を追う。きっと再生が終わったのだろう、血液の量は途中から明確に減っていたが、足の裏についた血は取れずに足跡だけは残っていた。
「この部屋……? シャル、居るのか?」
入ったことのない扉を開ける。どうやら物置のようで高級そうな置物が並んでいた。そんな部屋の隅でシャルはうずくまっていた。
「シャル……! シャル、よかった、生きてた……シャル?」
顔を上げさせたシャルは目を閉じていた。静かな寝息も聞こえる、泣き疲れて寝たのだろうか? 俺が考えたほど思い詰めてはいなかったようだ。
「俺の考えすぎか、よかったぁ……シャルぅ、大好きだぞ、お前が自分のこと嫌いでも俺は大好きだからな、お前が好きな俺が好きだって言ってんだから粗末な扱いなんてするんじゃないぞ」
力が抜けている体を開かせて抱き締める。
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アルマは俺達二人を軽々と抱き上げて寝室まで戻った。俺達をベッドに寝かせると薄手の毛布をかけ、頭を撫でてくれた。
「……起きた時にサクが居た方がいいだろう。今は一緒に寝ておくといい」
「うん、ありがとうアルマ。ごめんな、シャルは……アルマからすれば浮気相手なのにな」
「………………義理の弟だよ」
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俺はひとまず目を閉じ、アルマが部屋を出ていく気配を感じた。
数分するとアルマが戻ってきた。
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カタラの声だ、アルマが呼んできたのだろうか?
「…………シャルを殴ってしまって」
「まぁムカつく奴だから気持ちは分かるけどインキュバスだぞアイツ、殴るとか鬼畜かよ……あ、鬼だったな」
「……なんとでも言え」
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「面倒だな、お前のタイプなんて知らん。いいから掃除してくれ」
アルマがカタラを呼んだのは血を掃除してもらうためらしい。水の精を呼び出して洗浄を行っているようで、部屋がちょっと涼しくなってきた。
「ふー……綺麗になったんじゃね?」
「素晴らしいな、いけ好かない若白髪とか思っていてすまない」
「お前割といい性格してんなぁ!」
「冗談だ、いけ好かない銀髪だと思っている」
「いけ好かない銀髪はただの事実だな」
アルマとカタラが一番仲が悪いと思っていたが、そうでもないようだ。アルマも案外と冗談を言えるタイプなんだな。
「さ、おっさんに見つからないうちに廊下も掃除するか」
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彼らは友人はなれそうだと安心していると部屋の外から男の悲鳴が聞こえてきた。
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