過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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矛盾点が目立ったとしても

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シャルの笑顔は素晴らしい。心が洗われる。今まで俺が犯してきた罪全てが、いや、人類全てが赦されるような──何言ってるんだろうな、俺。

「かーわいぃなぁ……シャルぅ、お前は可愛いよ」

跪いたシャルの前に膝立ちになり、抱き締める。跪いた意味がなくなったからか苦笑いのシャルに抱き返され、二人で上機嫌に尻尾を揺らす。

「……ちょっといいか? 昨日、この部屋の魔力を調べて分かったことがいくつかある」

カタラが説明しようとしているのを察し、シャルと共にベッドに腰掛ける。シャルと腕を絡ませて先輩と手を繋ぎ、じぃっと話の始まりを待つ。

「部屋の外側には空間系の術がかけてあって、下手に干渉して出ようとしたら亜空間に放り出されて死ぬまで何も無い空間を漂うことになる」

真っ暗な空間を落ち続けるのを妄想して怖くなり、先輩の手をぎゅっと握る。

「で、内側には俺達の思考をある程度読んで欲しがったものをどこかから転移させる術がかかってある」

「……つまり、このワインは誰かの貯蔵品だと?」

「商品かもしれねぇし、出荷前の品かもしれねぇ、自分の家にないもんなら他人のもんだな」

無意識に泥棒をさせる術ということか、とんでもないな。

「で、その転移の術にも限界があって、これを調べ切るのは不可能そうなんだが……とりあえず生き物はダメ、部屋に入らないのもダメ……まぁ、常識の範囲内での日用品を欲しがるくらいなら不都合はないと思うぜ」

「カタラ、何とか菌が生きていると謳われる牛乳から作られる製品などはどうなんだ?」

「……だからどこからどこまでが生き物かどうかは分かんねぇって、菌とかは多分平気だと思うけど。試してみろよ、ヨーグルトだろ?」

「…………あぁいうドロっとした食べ物はあまり好きじゃない」

「じゃあ聞くな!」

一時は先輩に対して妙な態度を取っていたネメスィだが、カタラと共にふざける様子は普段と変わりない。

「んで、えっと……どこまで話したっけ」

「どこからどこまでが生き物なのか……でした」

「いやいやシャル、それは脱線した内容であってだね、本筋はこの部屋の転移の術に関してだよ」

シャルが査定士の方を振り返って頷いている。弟の尊敬の視線を他人に奪われているというのは、兄として悔しい。ここは俺が生き物とそうでないのと境目を当ててみせよう。まずは生でも食える生き物……捌きたてを食べるべき生き物の、包丁を入れられる前だ。

「……おっ、来た」

膝の上にべちょっとタコが落ちる。大して大きくはないが、足が太くて美味そうだ。包丁とまな板と皿と醤油も欲しいなーなんて考えたが、シャルが飛び上がった驚きで思考を止めてしまった。

「シャル? どうしたんだ?」

「に、兄さん……その得体の知れない物体は何ですか!? き、気持ち悪いですっ……!」

シャルはタコを掴んでネメスィの顔へと投げてしまう。

「おー、足いっぱい……ネメスィ、お前がさっき生やしてた触手にちょっと似てないか?」

「……吸盤なんて作ってない」

前世の世界でもタコは食べる地域と忌み嫌う地域があったなと呆然と思い出す。

「タコだね、珍しい。この島は断崖絶壁に囲まれているからこういった海産物は輸入に頼るしかないのに、この島は輸入輸出を行っていないからね……市場に滅多に並ばないよ」

鎖国中なようなものか。

「まぁ、正体はどうでもいいが……これ、食べられる物なのか?」

「毒がある種類も居るらしいよ」

死んだタコなら捌く自信はあるが、生きているタコにトドメを刺す勇気はない。そのうちにタコが動く、ネメスィの手に絡みつく。

「返品とか出来ればいいのにな……」

小さく呟いた瞬間、タコが消えた。

「お……おお! すげぇなサク、返品可能……これは大発見だぞ」

「大発見? ほんと?」

「マジマジ! ありがとなぁサクぅ! 返品とか思い付かなかったぜ、このシステムを上手く使えば外に出られるかも……!」

カタラが喜んでくれたのは本当に嬉しい。けれど、やはり彼は外に出たいのかと思うと憂鬱になる。俺は外に出たら消えてしまうかもしれないのに、カタラはそれでいいのかななんて考えてしまう。

「サク、少しいいか?」

ネックレスを首から下げたネメスィが寄ってくる。シャルと先輩に挟まれたまま微笑み、無言で用事を伺う。

「……また受け取ってもらえるか?」

ネメスィは俺にチョーカーを差し出す。黒革のベルト部分に黄色いハートがぶら下がった可愛らしいチョーカーは、もらった時とは少し変わっている。

「…………もちろん!」

黒革部分に見受けられる細かな傷や汚れ、それはまるで俺とネメスィの仲を示す勲章のようだ。

「ネメスィに着けて欲しいな」

渡そうとしてくるネメスィの手を押し返し、顎を上げて首を伸ばす。チョーカーが首に巻かれて、首の後ろでカチッと金具がはまる音がした。

「よく似合うよ、サク。ところで……その指輪は」

「あぁ、うん。指輪はカゴに入れてちゃ失くしそうだったからさ、着けてみたんだ。これ誰の?」

「……お前の物だ」

やはり俺への贈り物か、自惚れの勘違いではなくてよかった。

「贈り物だよな? 一回外すから着けてくれよ」

「……俺じゃない」

「え……? そっか、ネメスィが一番指輪とかくれそうだったから……じゃあ誰?」

周囲を見回してもそれらしき仕草の者は居ない。

「…………お前が働いていた店にお前を探しに行った時、従業員から渡された。お前の教育係が代理で買わせた物らしい、渡す前に死んだようだがな」

「……先輩が?」

そんな馬鹿な、先輩が聞いてきたんだぞ? この指輪は何だって……それなのに先輩が俺に渡すために買っておいた物だなんて、おかしい。

「せ、先輩? 先輩がくれようとしてたんですか? ならこれ何とか聞かないでくださいよ、知ってたんでしょ、あえてですか? 意地悪ですね」

先輩はニコニコと笑って軽く謝罪し、俺の左手の薬指から指輪を抜いて、また同じ指に指輪をはめた。気取ったセリフすらない数秒の行いだったのに何故か嬉しくて、自然と笑顔が零れる。

「サク? 一人で何やってるんだ?」

「はぁ? 一人でって……何言ってんだよネメスィ。先輩に指輪はめ直してもらったんだよ」

部屋の灯りを反射して輝く石を眺める。キラキラと輝く宝石になんて興味がなかったはずなのに、転生して俺は随分変わった。

「……指輪ありがとうございます、本当に嬉しいです先輩。でも、俺……もう結婚してて」

『じゃあなんで指輪持ってなかったんだよ』

「それは、アルマとの婚姻はそういうのじゃなかったって言うか……」

『指輪買ってくれなかったのか?』

「そういうのじゃなくて」

アルマと結婚した証拠になる物はどこにもない。衆目に交尾を晒して血を混ぜて、そんな野蛮な儀式をして確かに俺達は結婚したけれど、それだけだ。
チョーカーをくれたネメスィの方が傍から見れば夫のように見えるかもしれないし、指輪をくれた今は先輩が一番そう見えるだろう。

『……俺の指輪がアイツからのに見られるのは嫌だな』

「そんなこと言われても」

『なぁ、サク……どうせ一緒に居るんだろ? だったら誰と結婚しても一緒じゃん、お前に出会うのが遅かっただけで俺の愛情は誰より強いと思うんだ』

先輩の愛情は確かに強い、彼は俺のために命を──

「……ごめんなさい。俺の夫はアルマだけです」

『…………だよな、ごめんな変なこと言って。ならちゃんと指輪買ってもらえよ、俺から言ってやろうか?』

「や、やめてくださいよ……大丈夫ですよ、もらえたら嬉しいけど、欲しがるのはなんか違う気がします」

先輩に言われたせいでアルマにねだりたくなってきた。目を閉じて我慢しようとしていると、不意に大きな手が俺の頬を撫でた。

「呼んだか? サク」

「アルマ……? いや、呼んではないけど」

「確かに聞こえたんだけどな」

名前を言いはした、それは先輩との会話の中でだ。そう説明しようとする口を大きな唇に塞がれた。

「んっ……ん、ん…………アルマ」

「可愛い妻が俺を求める声を間違えるはずはない。そうだろう? 次は俺の番だ」

番……そういえば俺を順番に抱くとか言ってたな。

「…………うん、求めてた。嬉しい、アルマ……」

シャルと先輩から手を離し、ベッドの真ん中に移動する。五人の視線を感じながら、ネメスィからのチョーカーの宝石を鎖骨の間に揺らし、先輩からの指輪を煌めかせ、俺は両手を広げてアルマを迎えた。
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