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脱出方法の目処はある
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俺を転生させた女神は邪神だ。それも、俺が前世で遊んでいたTRPGの題材にもなった創作神話の中のキャラクターの名を借りたバケモノ。
あの邪神、自分はニャルラトホテプだと名乗りつつも本物ではなく人類の願いの結晶だなんて言いやがった。
よく分からない話だが、クトゥルフ神話の小説に出てくるニャルラトホテプそのものでないのなら、TRPGなどから大衆が得たニャルラトホテプの共通認識の具現化であると言うのなら、勝てる。
ゲームはプレイヤーに勝ち筋が用意されているからだ。
「問題は……プレイヤーキャラを生贄にすると他キャラを救えるタイプのシナリオってことか」
俺を転生させた女神、赤の女王と呼ばれるらしい邪神は俺の中で眠っている。俺は彼女のサナギなのだ。この島の王が一度燃え尽きて邪神に変わったように、俺も消えてしまう。
俺が食い破られる条件は部屋からの脱出。
「脱出……はぁーっ……俺が死ねば、みんな出れる……それ以外に方法ないんだもんな、仕方ないよな……分かってる、今度こそちゃんと死ぬよ……」
酷い目にも遭ったが、転生後の生活は楽しかった。社畜だった前世とは大違いだ、いい思い出と一緒なら死ぬのは怖くない、怖くないんだ、怖くないと思わなければならない。
「…………なぁ、ネメスィ、カタラ、ちょっといいか?」
俺はアルマとシャルが眠っているベッドから抜け出し、床に寝転がってボードゲームに興じる二人に話しかけた。査定士はまた本を持ったまま椅子で寝落ちしている。
「なんだ? サク」
カタラはこちらを向いたけれど、ネメスィはボードゲームに集中していて返事をしてくれない。俺はボードゲームの横に座ってネメスィの肩を叩いた。
「ネメスィ、何考え込んでるんだ?」
「……何度考えても三手以内に負けるんだ」
「詰んでるじゃん、諦めれば? ちょっと話したいことあるんだよ、俺の話聞いてくれよ」
チェスに似ているが少し違う謎のボードゲーム。俺には馴染みのないそれの駒を一つ動かし、ネメスィはようやく顔を上げた。
「はい、リーダー討伐」
「…………サクが話しかけたから負けたぞ」
俺が話しかける前から詰んでいただろう、妙な言いがかりはやめて欲しい。
「……それで? 何の話がしたいんだ」
大した話ではないと思っているのか、ネメスィの態度は悪い。
「ネメスィのさ……その、叔父さんにもらったネックレスの石、割ったら叔父さんが来てくれるんだよな?」
「…………あぁ、割ったことはないが叔父上からそう聞いている。何かあれば割れと」
ネメスィの叔父は魔神王、邪神の敵だ。
「叔父さん呼んだらさ、ここから出られないかな?」
「分からん。この石の効果がどんなものか知らないんだ。割ったら叔父上に分かるのか、割ったら叔父上が召喚されるのか……」
ファンタジー世界だからという認識があるからだろう、俺はなんとなく後者のイメージだけを持っていた。
「召喚はねぇだろ……石割っただけで魔神王召喚されてたまるかよ」
カタラの言う通りだ。おそらく石は狼煙のようなもの、割ればネメスィの位置が分かるのだろう。
予報外だったが、大丈夫だ。
石がどんな方法を使ったとしても俺の計画には支障ない。そう……俺を生贄にして五人の男達を救う計画は、何の問題もなく進んでいる。
「どっちにしてもさ、魔神王呼べばここから出られるんじゃないか?」
「それもそうだな! 手作りパイ食うだけでめちゃくちゃ強くなるんだから、魔神王なら何とかなりそうだ。仕組み自体は俺にも解析できてるんだし……ネメスィ、それ割れよ」
まずい、今割られるのは困る。せめて子供の顔を見たい。
「…………サク、お前……確か、部屋を出たらサナギになるとか言ってなかったか? 消えると……聞いた記憶がある」
「確かに俺もそれは聞いた。でも……サクに何か仕込まれてる感じはしないぞ? 閉じ込めておくための嘘ってことはないか?」
「異界の邪神の気配の探知は難しい、お前に出来るとは思わない」
カタラは不機嫌そうにネメスィを睨み、不安そうな目で俺を見つめた。
「……そういや、先輩もまた死ぬとか言ってたけど」
「先輩は……もう、見えない。気付いたんだ、うぅん、最初から分かってた……先輩は生き返ってないって」
今にも泣き出しそうな俺の頬を二人が撫でてくれる。
「自力で気付けたんだな、よかった……困ってたんだぜ俺達、お前にどうやって分からせればいいんだろって」
「ごめん……認めたくなかったんだ。先輩が死んで、でも俺は逃げなきゃいけなかったから何も出来なくてっ……せめてちゃんとお別れしたかったから、生き返ったって思いたくて」
「誰かが死んだとか……認められないもんだよ。泣け泣け、カタラさんの胸ならいつでも貸してやる」
「ん……ぅ、ぺったんこ」
「うっせぇ」
ネメスィやアルマとは違い薄い胸板。薄いからこそ背に腕を回してがっちり抱き締められる。
「…………それで? サク。この部屋から出たらサクはどうなるんだ?」
「邪神のサナギにされて、消えちゃう」
「……死ぬ、のか?」
「多分……それより酷い」
俺の背に絡みついたカタラの腕の力が強くなる。
「邪神が一柱増えるのか? 邪神の顕現が一つ増えるのか?」
「同じ奴……」
俺の中で眠っている女神を含めて三つの顕現が居る。皮膚のないバケモノ、漆黒の美人……どちらも見た目は違うし独立しているようだが同じ存在だ。
「……サクが死ぬだけで耐えられないことなのに、その上邪神が増えるなんてメリットが皆無だ」
「だな……俺、外に出たかったけど、サクが犠牲になっちゃ意味ない。サクと一緒に色んなところに行きたいってだけだったからさ」
「この石は厳重に管理する。サク、間違っても変な気を起こすなよ。俺達にはお前が必要だ、お前が居なければ生きていけない」
「サクが消えるのと引き換えに部屋出たって何も嬉しくない、なーんもいいことなんてないよ」
ネメスィのネックレスの石を割ればここから出られるという俺の予想は正しかった。それの確認なんてするべきじゃなかった、ネメスィが警戒してしまう前に割るべきだったのだ。
あの邪神、自分はニャルラトホテプだと名乗りつつも本物ではなく人類の願いの結晶だなんて言いやがった。
よく分からない話だが、クトゥルフ神話の小説に出てくるニャルラトホテプそのものでないのなら、TRPGなどから大衆が得たニャルラトホテプの共通認識の具現化であると言うのなら、勝てる。
ゲームはプレイヤーに勝ち筋が用意されているからだ。
「問題は……プレイヤーキャラを生贄にすると他キャラを救えるタイプのシナリオってことか」
俺を転生させた女神、赤の女王と呼ばれるらしい邪神は俺の中で眠っている。俺は彼女のサナギなのだ。この島の王が一度燃え尽きて邪神に変わったように、俺も消えてしまう。
俺が食い破られる条件は部屋からの脱出。
「脱出……はぁーっ……俺が死ねば、みんな出れる……それ以外に方法ないんだもんな、仕方ないよな……分かってる、今度こそちゃんと死ぬよ……」
酷い目にも遭ったが、転生後の生活は楽しかった。社畜だった前世とは大違いだ、いい思い出と一緒なら死ぬのは怖くない、怖くないんだ、怖くないと思わなければならない。
「…………なぁ、ネメスィ、カタラ、ちょっといいか?」
俺はアルマとシャルが眠っているベッドから抜け出し、床に寝転がってボードゲームに興じる二人に話しかけた。査定士はまた本を持ったまま椅子で寝落ちしている。
「なんだ? サク」
カタラはこちらを向いたけれど、ネメスィはボードゲームに集中していて返事をしてくれない。俺はボードゲームの横に座ってネメスィの肩を叩いた。
「ネメスィ、何考え込んでるんだ?」
「……何度考えても三手以内に負けるんだ」
「詰んでるじゃん、諦めれば? ちょっと話したいことあるんだよ、俺の話聞いてくれよ」
チェスに似ているが少し違う謎のボードゲーム。俺には馴染みのないそれの駒を一つ動かし、ネメスィはようやく顔を上げた。
「はい、リーダー討伐」
「…………サクが話しかけたから負けたぞ」
俺が話しかける前から詰んでいただろう、妙な言いがかりはやめて欲しい。
「……それで? 何の話がしたいんだ」
大した話ではないと思っているのか、ネメスィの態度は悪い。
「ネメスィのさ……その、叔父さんにもらったネックレスの石、割ったら叔父さんが来てくれるんだよな?」
「…………あぁ、割ったことはないが叔父上からそう聞いている。何かあれば割れと」
ネメスィの叔父は魔神王、邪神の敵だ。
「叔父さん呼んだらさ、ここから出られないかな?」
「分からん。この石の効果がどんなものか知らないんだ。割ったら叔父上に分かるのか、割ったら叔父上が召喚されるのか……」
ファンタジー世界だからという認識があるからだろう、俺はなんとなく後者のイメージだけを持っていた。
「召喚はねぇだろ……石割っただけで魔神王召喚されてたまるかよ」
カタラの言う通りだ。おそらく石は狼煙のようなもの、割ればネメスィの位置が分かるのだろう。
予報外だったが、大丈夫だ。
石がどんな方法を使ったとしても俺の計画には支障ない。そう……俺を生贄にして五人の男達を救う計画は、何の問題もなく進んでいる。
「どっちにしてもさ、魔神王呼べばここから出られるんじゃないか?」
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まずい、今割られるのは困る。せめて子供の顔を見たい。
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「……そういや、先輩もまた死ぬとか言ってたけど」
「先輩は……もう、見えない。気付いたんだ、うぅん、最初から分かってた……先輩は生き返ってないって」
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「…………それで? サク。この部屋から出たらサクはどうなるんだ?」
「邪神のサナギにされて、消えちゃう」
「……死ぬ、のか?」
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