過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

文字の大きさ
319 / 604

脱出方法の目処はある

しおりを挟む
俺を転生させた女神は邪神だ。それも、俺が前世で遊んでいたTRPGの題材にもなった創作神話の中のキャラクターの名を借りたバケモノ。
あの邪神、自分はニャルラトホテプだと名乗りつつも本物ではなく人類の願いの結晶だなんて言いやがった。

よく分からない話だが、クトゥルフ神話の小説に出てくるニャルラトホテプそのものでないのなら、TRPGなどから大衆が得たニャルラトホテプの共通認識の具現化であると言うのなら、勝てる。
ゲームはプレイヤーに勝ち筋が用意されているからだ。

「問題は……プレイヤーキャラを生贄にすると他キャラを救えるタイプのシナリオってことか」

俺を転生させた女神、赤の女王と呼ばれるらしい邪神は俺の中で眠っている。俺は彼女のサナギなのだ。この島の王が一度燃え尽きて邪神に変わったように、俺も消えてしまう。
サナギが食い破られる条件は部屋からの脱出。

「脱出……はぁーっ……俺が死ねば、みんな出れる……それ以外に方法ないんだもんな、仕方ないよな……分かってる、今度こそちゃんと死ぬよ……」

酷い目にも遭ったが、転生後の生活は楽しかった。社畜だった前世とは大違いだ、いい思い出と一緒なら死ぬのは怖くない、怖くないんだ、怖くないと思わなければならない。

「…………なぁ、ネメスィ、カタラ、ちょっといいか?」

俺はアルマとシャルが眠っているベッドから抜け出し、床に寝転がってボードゲームに興じる二人に話しかけた。査定士はまた本を持ったまま椅子で寝落ちしている。

「なんだ? サク」

カタラはこちらを向いたけれど、ネメスィはボードゲームに集中していて返事をしてくれない。俺はボードゲームの横に座ってネメスィの肩を叩いた。

「ネメスィ、何考え込んでるんだ?」

「……何度考えても三手以内に負けるんだ」

「詰んでるじゃん、諦めれば? ちょっと話したいことあるんだよ、俺の話聞いてくれよ」

チェスに似ているが少し違う謎のボードゲーム。俺には馴染みのないそれの駒を一つ動かし、ネメスィはようやく顔を上げた。

「はい、リーダー討伐」

「…………サクが話しかけたから負けたぞ」

俺が話しかける前から詰んでいただろう、妙な言いがかりはやめて欲しい。

「……それで? 何の話がしたいんだ」

大した話ではないと思っているのか、ネメスィの態度は悪い。

「ネメスィのさ……その、叔父さんにもらったネックレスの石、割ったら叔父さんが来てくれるんだよな?」

「…………あぁ、割ったことはないが叔父上からそう聞いている。何かあれば割れと」

ネメスィの叔父は魔神王、邪神の敵だ。

「叔父さん呼んだらさ、ここから出られないかな?」

「分からん。この石の効果がどんなものか知らないんだ。割ったら叔父上に分かるのか、割ったら叔父上が召喚されるのか……」

ファンタジー世界だからという認識があるからだろう、俺はなんとなく後者のイメージだけを持っていた。

「召喚はねぇだろ……石割っただけで魔神王召喚されてたまるかよ」

カタラの言う通りだ。おそらく石は狼煙のようなもの、割ればネメスィの位置が分かるのだろう。
予報外だったが、大丈夫だ。
石がどんな方法を使ったとしても俺の計画には支障ない。そう……俺を生贄にして五人の男達を救う計画は、何の問題もなく進んでいる。

「どっちにしてもさ、魔神王呼べばここから出られるんじゃないか?」

「それもそうだな! 手作りパイ食うだけでめちゃくちゃ強くなるんだから、魔神王なら何とかなりそうだ。仕組み自体は俺にも解析できてるんだし……ネメスィ、それ割れよ」

まずい、今割られるのは困る。せめて子供の顔を見たい。

「…………サク、お前……確か、部屋を出たらサナギになるとか言ってなかったか? 消えると……聞いた記憶がある」

「確かに俺もそれは聞いた。でも……サクに何か仕込まれてる感じはしないぞ? 閉じ込めておくための嘘ってことはないか?」

「異界の邪神の気配の探知は難しい、お前に出来るとは思わない」

カタラは不機嫌そうにネメスィを睨み、不安そうな目で俺を見つめた。

「……そういや、先輩もまた死ぬとか言ってたけど」

「先輩は……もう、見えない。気付いたんだ、うぅん、最初から分かってた……先輩は生き返ってないって」

今にも泣き出しそうな俺の頬を二人が撫でてくれる。

「自力で気付けたんだな、よかった……困ってたんだぜ俺達、お前にどうやって分からせればいいんだろって」

「ごめん……認めたくなかったんだ。先輩が死んで、でも俺は逃げなきゃいけなかったから何も出来なくてっ……せめてちゃんとお別れしたかったから、生き返ったって思いたくて」

「誰かが死んだとか……認められないもんだよ。泣け泣け、カタラさんの胸ならいつでも貸してやる」

「ん……ぅ、ぺったんこ」

「うっせぇ」

ネメスィやアルマとは違い薄い胸板。薄いからこそ背に腕を回してがっちり抱き締められる。

「…………それで? サク。この部屋から出たらサクはどうなるんだ?」

「邪神のサナギにされて、消えちゃう」

「……死ぬ、のか?」

「多分……それより酷い」

俺の背に絡みついたカタラの腕の力が強くなる。

「邪神が一柱増えるのか? 邪神の顕現が一つ増えるのか?」

「同じ奴……」

俺の中で眠っている女神邪神を含めて三つの顕現が居る。皮膚のないバケモノ、漆黒の美人……どちらも見た目は違うし独立しているようだが同じ存在だ。

「……サクが死ぬだけで耐えられないことなのに、その上邪神が増えるなんてメリットが皆無だ」

「だな……俺、外に出たかったけど、サクが犠牲になっちゃ意味ない。サクと一緒に色んなところに行きたいってだけだったからさ」

「この石は厳重に管理する。サク、間違っても変な気を起こすなよ。俺達にはお前が必要だ、お前が居なければ生きていけない」

「サクが消えるのと引き換えに部屋出たって何も嬉しくない、なーんもいいことなんてないよ」

ネメスィのネックレスの石を割ればここから出られるという俺の予想は正しかった。それの確認なんてするべきじゃなかった、ネメスィが警戒してしまう前に割るべきだったのだ。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...