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子に母親はいつまで必要?
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目は閉じているはずなのに、チカチカと光が煌めいている感覚がある。
「サク、サク……大丈夫か?」
胸がジンジンと痺れている。足がピクピク震えている。目を開けたはずなのに何が見えているのかよく分からない。
「すまないな、調子に乗って……少しやり過ぎた。俺が誰か分かるか?」
ぼやけた視界に揺れる赤い影、優しげな声、意識する前に口が動いた。
「あるま……」
「大丈夫そうだな、下ろすぞ」
片腕で抱えられていたらしい俺はベッドに寝かされる。
段々と何があったか思い出してきた。最後の卵が孵って、子供の様子を見ていただけなのに何故かアルマに乳首を弄られて、イかされまくって失神したんだ。
「サク、起き抜けで悪いが乳をやってくれないか?」
赤い鱗のドラゴンはアルマの指を噛んでいる。他のドラゴン達よりも大きな彼に胸を吸わせるのは少し怖い。いや、アルマの子なのだから大丈夫、きっとアルマに似て優しい子だ、俺を傷付けたりしない。
「うん。あ、待って。術解いてもらわないと母乳出ない……カタラに解いてもらってくるから待ってて」
「あぁ」
部屋の隅でもたれあって眠っているネメスィとカタラの前に屈む。仲のいい奴らだ、幼い頃から一緒に育ったと聞いたし友人や恋人などではなく兄弟なのだろうけど。
「カタラ、起きて……」
カタラの肩を揺さぶるとネメスィの金髪が揺れる。それを見て不意に思い出した、この部屋からの脱出に使えるネメスィのネックレスのことを。
「…………今なら、イケる」
ネメスィが叔父である魔神王から渡されたというネックレス、その石には魔神王を呼び出す力がある。魔神王を呼べばきっと部屋から脱出出来る。でも、部屋を出れば俺は──
「……まだ、母乳いるのかな」
──邪神のサナギとなって消えてしまう。それは構わない、相思相愛の男達のためなのだから、一度失った命を使うのに躊躇いはない。そう自分に言い聞かせなければ部屋から一生出られない。
「俺が母乳あげなかったら……死ぬのかなぁ」
俺はどうなってもいい、その覚悟はある。けれど子供達はどうなる? 世話はみんながしてくれるだろうけど、母乳を与えられるのは母親である俺しか居ない。俺が消えたせいで飢え死に……なんてオチ、絶対に嫌だ。
「もう少し育ってから……ぁ、でも、ネックレスは……」
魔神王を呼んで脱出させてもらうのはまた今度、次のチャンスがいつやってくるか分からないのだからネックレスは盗んでおかなければ。その後はどうしよう、どこかに隠して俺が持っていなければいけない。
「…………よし」
隠し場所はベッドの骨組みとマットレスの間に決定。きっと誰も覗いたりしない、きっと見つからないだろう。俺はネメスィのネックレスの紐に指を引っ掛けた。
「よっ……あれ?」
紐はネメスィの頭を通ったのに、石の部分が何かに引っかかって取れない。ネメスィの服の中に隠れているが、シャツに石が引っかかる部分なんてあるだろうか?
「なんだよもう……」
眠るネメスィのシャツをめくりながらネックレスの紐を強く引っ張ると、ネメスィの鎖骨の間の皮膚が突っ張った。
「は……?」
ネメスィの身体から紐が生えている。いや、ネックレスの石を体内に隠しているのか。
何故そんなことをするのか、どうやって石を盗ればいいのか、悩む俺の手をネメスィが掴む。寝起きの金眼に睨まれ、頭羽が耳を覆う。
「…………何してる」
「ネメスィ……な、何してるんだはこっちのセリフだよっ、なんで胸から紐生えてるんだよ……」
「……どうして俺のネックレスを取ろうとしたんだ?」
瞬きを三度、ハッキリと開いた帯電しているような金色の視線から逃れるように顔を背ける。
「む、胸から紐生えてるのが不思議で……引っ張っただけだよ。ネックレスの紐だったんだな、それ……」
「以前、お前がネックレスを狙っているようなことを言っていたからな、体内に収納した。お前が取りに来たら分かるように紐だけは出してな……随分とあっさり引っかかったものだ」
今の今までネックレスの石が体内に隠されていることに全く気付かなかった。
「ちっ、違う! 俺がネメスィのネックレス盗る理由ないだろ!? 紐が気になっただけなんだよ本当に!」
大声を出すとカタラが目を覚ます。欠伸をして、目を擦って、ネメスィとは反対側の壁にもたれてまた目を閉じた。寝起きが悪い。
「石を割れば叔父上が来て俺達は部屋から出られるかもしれない……そんな話をしたな」
「俺はここから出たらサナギにされて死ぬんだよ! だからっ……俺は、ここから出たくない。最初にそう言っただろ、俺死んじゃうからここから出ようとしないでって!」
「…………それもそうだな、お前にはデメリットしかない」
俺が自分達のために命を捧げるとまでは思っていないらしいネメスィは不思議そうに目を丸くした。一瞬首を傾げ、キョトンとした顔のまま俺を眺める。
「ともかく、この石がお前にとって危険なのには変わりない。触るなよ」
「知らなかったんだって……」
この場は何とか誤魔化せた。しかし、問題は解決していない。体内に隠されていてはネックレスの石を取り出すのは俺には不可能だ。シャルならネメスィの体を抉ってでも取り戻すだろうけど、俺は肉体的にも精神的にも何も出来ない。
「はぁ……」
唯一の脱出手段が潰れ、ため息をつきながらベッドに戻る。赤いドラゴンに構っていたアルマが身体を起こして俺を見つめる。
「……サク? カタラは?」
「へ? カタラ?」
「もう解いてもらったのか?」
「とく……? 何を?」
アルマが何の話をしているのか分からない。
「……母乳、出ないように魔術をかけてあるんだろう? 解いたのか?」
「え……? あっ、あぁ! ごめん、カタラ起こすの忘れてた」
本来の目的はカタラを起こすことだった。ネックレスを盗む緊張感で全て忘れてしまったようだ。
「サク、待って。術はもういいんだ、これを見てくれ」
アルマは数時間前に俺が作ったペーストを食べているドラゴンを見せる。自分が一度口に入れたものを自分の子供が食べる様子はあまり見たくない。
「この子は歯や腹の発達が他の子より早いようだね」
「……母乳いらないのか」
「あぁ、だからもうしばらく休んでいていいよ」
あのくらいに大きくなれば母乳はいらない。他の子達があの大きさになるのはいつだろう、その時が来たら俺が消えるのに何の心配事もなくなる。
「そっか……じゃあ、お言葉に甘えて」
ベッドの上に気楽そうに寝転がっているだけにアルマは見えるだろう。しかし、俺の脳はネメスィのネックレスをどう盗むかでいっぱいいっぱいだ。
「サク、サク……大丈夫か?」
胸がジンジンと痺れている。足がピクピク震えている。目を開けたはずなのに何が見えているのかよく分からない。
「すまないな、調子に乗って……少しやり過ぎた。俺が誰か分かるか?」
ぼやけた視界に揺れる赤い影、優しげな声、意識する前に口が動いた。
「あるま……」
「大丈夫そうだな、下ろすぞ」
片腕で抱えられていたらしい俺はベッドに寝かされる。
段々と何があったか思い出してきた。最後の卵が孵って、子供の様子を見ていただけなのに何故かアルマに乳首を弄られて、イかされまくって失神したんだ。
「サク、起き抜けで悪いが乳をやってくれないか?」
赤い鱗のドラゴンはアルマの指を噛んでいる。他のドラゴン達よりも大きな彼に胸を吸わせるのは少し怖い。いや、アルマの子なのだから大丈夫、きっとアルマに似て優しい子だ、俺を傷付けたりしない。
「うん。あ、待って。術解いてもらわないと母乳出ない……カタラに解いてもらってくるから待ってて」
「あぁ」
部屋の隅でもたれあって眠っているネメスィとカタラの前に屈む。仲のいい奴らだ、幼い頃から一緒に育ったと聞いたし友人や恋人などではなく兄弟なのだろうけど。
「カタラ、起きて……」
カタラの肩を揺さぶるとネメスィの金髪が揺れる。それを見て不意に思い出した、この部屋からの脱出に使えるネメスィのネックレスのことを。
「…………今なら、イケる」
ネメスィが叔父である魔神王から渡されたというネックレス、その石には魔神王を呼び出す力がある。魔神王を呼べばきっと部屋から脱出出来る。でも、部屋を出れば俺は──
「……まだ、母乳いるのかな」
──邪神のサナギとなって消えてしまう。それは構わない、相思相愛の男達のためなのだから、一度失った命を使うのに躊躇いはない。そう自分に言い聞かせなければ部屋から一生出られない。
「俺が母乳あげなかったら……死ぬのかなぁ」
俺はどうなってもいい、その覚悟はある。けれど子供達はどうなる? 世話はみんながしてくれるだろうけど、母乳を与えられるのは母親である俺しか居ない。俺が消えたせいで飢え死に……なんてオチ、絶対に嫌だ。
「もう少し育ってから……ぁ、でも、ネックレスは……」
魔神王を呼んで脱出させてもらうのはまた今度、次のチャンスがいつやってくるか分からないのだからネックレスは盗んでおかなければ。その後はどうしよう、どこかに隠して俺が持っていなければいけない。
「…………よし」
隠し場所はベッドの骨組みとマットレスの間に決定。きっと誰も覗いたりしない、きっと見つからないだろう。俺はネメスィのネックレスの紐に指を引っ掛けた。
「よっ……あれ?」
紐はネメスィの頭を通ったのに、石の部分が何かに引っかかって取れない。ネメスィの服の中に隠れているが、シャツに石が引っかかる部分なんてあるだろうか?
「なんだよもう……」
眠るネメスィのシャツをめくりながらネックレスの紐を強く引っ張ると、ネメスィの鎖骨の間の皮膚が突っ張った。
「は……?」
ネメスィの身体から紐が生えている。いや、ネックレスの石を体内に隠しているのか。
何故そんなことをするのか、どうやって石を盗ればいいのか、悩む俺の手をネメスィが掴む。寝起きの金眼に睨まれ、頭羽が耳を覆う。
「…………何してる」
「ネメスィ……な、何してるんだはこっちのセリフだよっ、なんで胸から紐生えてるんだよ……」
「……どうして俺のネックレスを取ろうとしたんだ?」
瞬きを三度、ハッキリと開いた帯電しているような金色の視線から逃れるように顔を背ける。
「む、胸から紐生えてるのが不思議で……引っ張っただけだよ。ネックレスの紐だったんだな、それ……」
「以前、お前がネックレスを狙っているようなことを言っていたからな、体内に収納した。お前が取りに来たら分かるように紐だけは出してな……随分とあっさり引っかかったものだ」
今の今までネックレスの石が体内に隠されていることに全く気付かなかった。
「ちっ、違う! 俺がネメスィのネックレス盗る理由ないだろ!? 紐が気になっただけなんだよ本当に!」
大声を出すとカタラが目を覚ます。欠伸をして、目を擦って、ネメスィとは反対側の壁にもたれてまた目を閉じた。寝起きが悪い。
「石を割れば叔父上が来て俺達は部屋から出られるかもしれない……そんな話をしたな」
「俺はここから出たらサナギにされて死ぬんだよ! だからっ……俺は、ここから出たくない。最初にそう言っただろ、俺死んじゃうからここから出ようとしないでって!」
「…………それもそうだな、お前にはデメリットしかない」
俺が自分達のために命を捧げるとまでは思っていないらしいネメスィは不思議そうに目を丸くした。一瞬首を傾げ、キョトンとした顔のまま俺を眺める。
「ともかく、この石がお前にとって危険なのには変わりない。触るなよ」
「知らなかったんだって……」
この場は何とか誤魔化せた。しかし、問題は解決していない。体内に隠されていてはネックレスの石を取り出すのは俺には不可能だ。シャルならネメスィの体を抉ってでも取り戻すだろうけど、俺は肉体的にも精神的にも何も出来ない。
「はぁ……」
唯一の脱出手段が潰れ、ため息をつきながらベッドに戻る。赤いドラゴンに構っていたアルマが身体を起こして俺を見つめる。
「……サク? カタラは?」
「へ? カタラ?」
「もう解いてもらったのか?」
「とく……? 何を?」
アルマが何の話をしているのか分からない。
「……母乳、出ないように魔術をかけてあるんだろう? 解いたのか?」
「え……? あっ、あぁ! ごめん、カタラ起こすの忘れてた」
本来の目的はカタラを起こすことだった。ネックレスを盗む緊張感で全て忘れてしまったようだ。
「サク、待って。術はもういいんだ、これを見てくれ」
アルマは数時間前に俺が作ったペーストを食べているドラゴンを見せる。自分が一度口に入れたものを自分の子供が食べる様子はあまり見たくない。
「この子は歯や腹の発達が他の子より早いようだね」
「……母乳いらないのか」
「あぁ、だからもうしばらく休んでいていいよ」
あのくらいに大きくなれば母乳はいらない。他の子達があの大きさになるのはいつだろう、その時が来たら俺が消えるのに何の心配事もなくなる。
「そっか……じゃあ、お言葉に甘えて」
ベッドの上に気楽そうに寝転がっているだけにアルマは見えるだろう。しかし、俺の脳はネメスィのネックレスをどう盗むかでいっぱいいっぱいだ。
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