過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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変身託児人

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新しい子供が産まれて一週間は経っただろうか? 数時間ごとに腹を減らして鳴くせいでちゃんと眠れていないし、世話があるから外には出られないし、ドラゴンに外の景色を見せると飛ぼうとするから窓も開けられない。そのせいで何日経ったかよくわからない。

「子育てって大変ですね」

「一日ごとに入れ替わるお前らと違って、俺は付きっきりだからな」

「僕は毎日来てますけど……一日くらい休んでもいいんじゃないですか?」

アルマ、ネメスィ、カタラ、査定士……と俺とドラゴンに付きっきりになる男達は一日ごとに入れ替わった。異種族の棟での宿泊は禁止なので、夜にはこうしてシャルと入れ替わったが。

「俺にしか懐いてないからなぁ……なー? 他の人まだ怖いんだもんなぁ?」

「ちぅ? ちぅう」

イグアナサイズになったドラゴンは胡座をかいた俺の足の隙間にハマり、俺の手に擦り寄ったり指を前足で掴んだりしている。

「兄さんが離さないから誰にも懐かないんですよ」

「だって離すと鳴くし……」

「親離れはまだ先でも構いませんが、物理的な親離れは出来るようになっておかないと兄さんが休めません」

風呂もベッドも一緒、食べる物も一緒、何の問題もない。トイレに行く必要のある人間だったなら困っただろうか、だが俺はあいにくインキュバスだ。

「ほら、少しは離れて……」

シャルがドラゴンの胴を両手で掴み、持ち上げてベッドから離れる。

「ちぅっ!? ぢぃっ、ぢぃいいっ!」

「わ、ちょっと、暴れないでください!」

「だから言ったじゃん無理だって。襲われてるネズミみたいな声上げてるじゃん」

俺の母性本能が落ち着いていくのに反比例するようにドラゴンは俺に懐いた。我が子を奪われても冷静でいられる俺に対し、ドラゴンはまだ上手く飛べない羽をバタつかせ、シャルの手を逃れてベッドに走った。

「よしよし……落ち着いて、ほら、おいで」

シーツに爪を引っ掛けて後ろ足と羽をバタバタと暴れさせているドラゴンの頭を撫でて落ち着かせ、シーツに刺さった爪をそっと外して抱き上げる。

「ぢゅうゔぅぅ……」

「よしよし、可愛くない声出さないの」

羽ばたきの風圧で乱れた髪を整えながらシャルが隣に戻ってくる。

「ぢゅあぁああっ!」

「こらこら威嚇しない威嚇しない、俺の弟だぞ、お前の叔父さん、ずっと一緒にいるだろ」

「ぢゅいぃ……」

「うーん……濁点が取れないな」

シャルに威嚇し始めたドラゴンの頭を胸に押し付け、シャルの姿を見せないようにする。それでもまだぐるぐると唸っている。

「大丈夫だぞー、お母さんずっと一緒だからなー」

「……ごめんなさい兄さん、迷惑をお掛けしました」

「いいよいいよ、お前は気ぃ遣ってくれたんだもんな」

「すいません……」

「今日はもう寝よう、な?」

ドラゴンを真ん中にして三人で眠る。卵は枕元だ、まだ手放せないがずっと抱えていなくてもよくなってきた。あと二、三日もすれば誰かに渡して食べさせることだって──やっぱり嫌だな。



翌朝、シャルと入れ替わりでやってきたのはネメスィだった。

「サク……あれからどう?」

その背後からひょっこりとネメシスが顔を出した。瞳と髪の色以外、何一つ似ていない兄弟が今、俺の前に揃っている。

「今まで来れなくてごめん、事後処理で忙しくて……ドラゴン関連は特に繊細なんだ。各島の魔王がピリついてる、何とか今日だけ休みを取れたんだけど……」

二人を部屋の中に招き入れ、ベッドに腰掛けてドラゴンを膝に抱く。俺の前に立ったネメシスは申し訳なさそうな顔をして、ボブヘアの金髪を揺らして俯く──ドラゴンを見て顔を上げた。

「サ、サク……その子は?」

「俺の子だけど。一週間くらい前に産まれたんだ、可愛いだろ?」

「後ろの卵……まさか、全部ドラゴン?」

「うん、でも無精卵だよ」

ネメシスが顔色を悪くしていく隣でネメスィは眉をひそめた。

「ドラゴンの場合、無魂卵と呼ぶべきだと俺はずっと主張している」

「論文でも書けば?」

「……なるほど」

「あれ……本気にした? 冗談だぞー……?」

前世の世界と似たような構造かはともかく、論文や学会の存在は分かっている。前にそれっぽい本を見かけた、読んではいないけれど。ネメスィは本気で論文を書き始めそうだ、適当なことを言わなければよかった。

「サクにドラゴンの子がいるのは分かってたけど、増えてるなんて……って言うか、無精卵とはいえその数を産めるなんて……」

「あぁ、やっぱよその島で大量出産は魔王としてダメかなって思って……自分の島帰るまでは避妊することにしたんだ」

「……あえて無精卵を産んでるだけってこと?」

戸惑いながらも頷くとネメシスはその場に膝をつき、天を仰いだ。

「ネメシス? どうしたんだ?」

「ドラゴンを単独で討伐出来るのは魔王クラスの魔物くらいのものなんだ、それだけ生物として圧倒的な強さがあるんだよ。そんなドラゴンをぽんぽん産めるなんて他の魔王が知ったら! 君は……!」

「お、俺は……?」

「……命を狙われるかもしれない、いや、産む機械にされるかも。魔神王の下に就いているとはいえ、魔王は……勝手で残忍な奴らばかりだ」

深いため息をついたネメシスは今度は床を見つめた。

「えーっと……新参者が軍備高めてるみたいな感じになるわけ? あの子達はそういうのじゃないんだけど」

「他の魔王はそんなこと信用しない! いや、信用しそうなバカや平和主義者は何人かいるけど」

「……ここの魔王さんはどうなんだ?」

宿泊している以上、五つ子のドラゴンについては理解しているはずだ。

「…………彼は魔神王様のことしか考えてないよ、それが出来るほど強いしね」

「そっか、よかった……じゃあ隠せばいいんだよな、あの子達には普通に暮らして欲しい。情報伏せてれば大丈夫だろ」

「……魔神王様とも話し合って考えてみるよ。じゃあね、サク、元気そうでよかった」

「えっ、ま、待てよ! もう帰るのか……?」

両手が塞がっていたので部屋を出ようとするネメシスの手首に尻尾を巻き付ける。ネメシスは中性的な美顔を残念そうに歪めた。

「報告することが増えたから……」

「今日は休み取ったんだろ? 明日でいいじゃん、ゆっくりしてけよ」

社畜時代にはなかった思考だが、社畜だったからこその思考だ。

「でも、急がなきゃ」

「一日くらい平気だろ。魔神王さんもお前が今日来るとか思ってないって、多分嫌がるぞ。向こうにも予定とかあるんだし」

「……それもそうか」

魔神王に損があるようなことを言うと一瞬で納得するところ、社畜根性が染み付いているな。

「俺のとこで休んでって。癒してあげるから」

「サク……お母さんになっても変わらないね」

「インキュバスだもん。しなきゃ死んじゃう」

「その子どうするの?」

ドラゴンは俺から離すと鳴いてしまう、俺ももう少し大きくなるまで離したくはない。だが、ネメシスの休日は貴重なのだ、半日程度なら平気だと思いたい。

「……ネメスィ、お願い出来る? この子連れてシャルのとこ行って欲しいんだけど」

「承った」

俺にしがみついているドラゴンの胴を無遠慮に掴む。

「ぢぃっ!? ぢゃあぁああっ!」

「わ、可愛くない鳴き声」

「鳴き声可愛くなくて可愛いよなぁ……よしよしお母さんはここだぞ~」

我が子愛しさにまた抱き締めてしまった。ドラゴンの親離れも俺の子離れも難しいな。

「なぁ、こいつは危なくないぞ? お前の兄ちゃんのお父さんなんだぞ」

「ちゅいぃ……」

「……サクにしか懐いていないのか、なるほど。ならこれでいいな?」

ネメスィの姿が一瞬黒いスライムに戻り、どろりと溶け、再び人の形を取る──ネメスィの服を着た俺がそこに立っていた。

「おぉ……!?」

「おいで、坊や」

声も変わっている、俺こんな声なのかな、なんか変な声だな。

「ちゅい……? ちゅう? ちぃい……?」

今度はネメスィが抱いても暴れない。だが、俺とネメスィを見比べて首を傾げている。

「子守りは任せろ」

「すげぇ……! ありがとう、頼んだぞネメスィ!」

ドラゴンが俺を本物だと見抜かないうちにネメスィには隣の部屋へ行ってもらった。さぁ、久しぶりのネメシスと久しぶりのセックスに励もう。
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