過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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控え室は割と静か

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どこかの城の中の広間なのだろう会議室には既に魔王が二人到着しており、早速喧嘩をしていた。俺達はネメシスに連れられて控え室として使っているらしい小部屋に押し込まれた。

「はぁー……まさかもう乱闘になってるなんてね」

ネメシスは呆れたようにため息をついているだけだが、シャルは顔を青くして頭と腰の羽を大きく広げている。

「シャル? 大丈夫か? 怖かったよな」

「……あんな凶暴で強力な魔力、僕達の島では見たことがありません」

俺はシャルとは違い魔力の扱いに酷く疎い、喧嘩しているところを間近で見ても相手の力量を測ることは出来ない。

「みんな、着替え終わった……? そろそろ仕事して欲しいんだけど」

ネメシスが呼びかけたのは金髪の青年達だ。全員がスーツを着ているが、半数はジャケットを脱いだりシャツのボタンを全開にしたり袖を捲っていたりと、上品さの欠片もない。

「あぁもうっ、ちゃんと着てって言ったのに……」

「あ、ネメスィ! よかったぁ、早速会えた」

青年達の中にネメスィを見つけた。すぐに駆け寄り、ジャケットを脱いでいる彼にジャケットを着せた。

「ちゃんと着ろって言われたんなら着ろよな。ネクタイも締めないで……どれ? これ? 締め方分かるか?」

「よく分からん」

「もぉー……後ろ回るよ」

前世は社畜だった者としてネクタイの扱いには慣れているが、正面から他人のネクタイを締めるのは難しい。俺はネメスィの背後に回って身体を浮かし、ネメスィの頭に抱きつくようにしてネクタイを締めてやった。

「出来た。ねぇネメスィ、この人達は?」

なんとなく予想は付いているが、一応聞いてみた。

「……兄弟らしい。今日初めて会った。おいお前ら、俺の子を産んだ者にして魔王のサクだ。自己紹介しろ」

俺の子を産んだ、だけ強調して言うのはやめろ。

「ふぅ……長男、ネメジ」

ジャケットは着ているがネクタイは締めていない男がタバコ片手に気だるげに答えた。

「……じなーん、ネメジス」

ジャケットを着ていないどころかシャツのボタンすら閉めていない男が緩く手を挙げた。

「俺が三男、ネメスィだ」

「僕は四男、ネメシス」

「名前ややこしいなぁ……そこの人は?」

四人は似たような背格好だけれど、唯一ちゃんとスーツを着ている男だけ頭一つ抜けて背が高い。

「アポストロス」

「急に名前変わった! 五男さんだよね? 四男のネメシスとの間に何があったんだろ」

「アポストロスだけが成功品らしいぜ」

「その他四人は失敗作……」

「僕達の父親……サクも前に会ったよね? 僕と同じ髪型と顔で、黒髪の人。彼としては魔力の量とか操作とか色々基準があったらしいよ」

「まぁそんな失敗作の一つである俺が一番幸せな人生を送っているが……」

ネメスィは俺の腰に腕を回して自慢げに鼻を鳴らした。初対面の兄弟に対する態度がこれで本当にいいのか? ネメスィはいいんだろうけど、俺は胃が痛いぞ。

「うわウッザ。お前もう嫌い」

「俺には煙草がある……」

スライム強化版みたいな万能細胞の塊がニコチンにハマるってどういうことなんだろう。

「……おい、お前はどうなんだ? 俺が一番だと認めるのか?」

ぼーっとしている五男にネメスィが鬱陶しく問い掛けるも、彼はこちらに目を向けることすらしない。

「あー……ネメスィ? アポストロスは作成後父……欺瞞の魔王様が何度も手を加えて改良に改良を重ねているから、会話はあんまり出来ないよ」

「……どういうことだ?」

「簡単に言うと、脳みそ弄られてて自我が希薄ってこと。魔法でロックかけられてるみたいだから自己進化も脳に限っては出来ないみたいでね、知能自体は高いんだけど感情がほぼないから雑談は全く出来ないよ」

ネメスィの父親って本当……ネメスィを捨てた上に存在を認めすらしていないような言動を繰り返している時から思っていたが、カスなんだな。嫌われるって分かってるところが更にタチが悪い。

「はっ、んだそれ。じゃあ唯一の成功品で俺達の中で最強のてめぇは、単なるお人形さんってことか? 哀れ哀れ、失敗作でよかったぜ」

「あっ、ネメジス、攻撃に対してはちゃんと……」

次男がバンバンと後頭部を叩くと、五男はその腕を掴んで力任せに投げ、彼を壁に叩き付けた。黒い液体が壁や床に飛び散り、てらてらと虹色の輝きを放つ。

「……反撃はするよ、って言いたかったんだけど……遅かったね。アポストロス、暴食の魔王様と強欲の魔王様が揉めてるから収めてきてもらえるかな?」

「了解」

「ネメジス~、大丈夫? 再生出来そう?」

「クソが……ぁ? 腕がねぇ、腕の分足りねぇ」

「あっちに飛んでるのがそうかな、取ってくるね」

後から生まれた者ほどヤツが求める生物として優秀なのだろう。次男はネメスィやネメシスほどの再生能力は見せなかった。増殖や変形も得意ではないようだ。

「くっついた? じゃあお仕事しようか。ネメジとネメスィも、魔王様達の喧嘩止めに行こう。サク、安全になったら呼ぶから待っててね」

「う、うん……頑張って。無理しないでね」

ネメスィ達が控え室を出ていってしまった。扉が開き、閉まるし直前まで響いていた音や振動などは伝わってこない、何らかの魔術が扉にかけられているのだろうか。

「……音しないよな」

「そういった術のようですね。助かります……あんな魔力の嵐ずっと浴びていたら僕、どうにかなってしまいます……」

「よしよし……帰ったらいっぱい慰めてやるからな。俺のことも慰めてくれよ」

「はい、兄さん。一緒に疲れを癒し合いましょう。帰るのが楽しみです……」

そう誓い合ってから数十分後、扉が開いた。入ってきたのはネメシスでもネメスィでもなく、仮面を被り黄色いローブを身にまとった少年だ。

「ぁ」

「あれ、久しぶりだよねー」

「お久しぶりです。ハスター様……えっと、偏愛の魔王様?」

「ちゃんと二つ名まで覚えてたんだねー、えらいえらい」

彼には以前も会ったことがある。いや、以前は全魔王が俺の顔を見に来たらしいから、今会議室で暴れているヤツらにも見覚えはあるのだろう。よく見えなかったから分からないけれど。

「君はもう二つ名決まったの?」

「決めるものなんですか? それ」

「魔神王くんが決めたりー、自分で思い付いたの言って承認してもらったりって感じかなー。僕は考えてもらったよー」

あんまりいい意味じゃないよな、偏愛って。だから魔王にしては珍しく温厚でちゃんと会話をしてくれるのに、警戒を解く気になれない。

「自分で考えるのもなんか恥ずかしいし、俺も決めてもらおうかな……何になるんだろ」

「最弱の魔王とかー?」

「俺から攻略するの必至じゃないですか。一番弱いのに一番攻め込まれるのは困りますよ」

「冗談だよー」

「……あなたは側近連れてないんですね」

「僕の島、僕以外は人間と羊しか居ないし、こんなとこ連れてきたら死んじゃうよー」

人間と羊しか居ない、か。それが偏愛と呼ばれる所以なのかな? なんて考察しているとまた扉が開いた。今度は角を生やした大柄な男と、同じく角を生やした……男か女か分からない美人が入ってきた。和装だ。

「よぉ、邪魔すんで、偏愛のんと新入り。あんの蝿また暴れとってかなんわ。警備員用の控え室でも向こうよりマシやな」

関西弁だぁ……前世で住んでいたのは関東だから馴染みはないけれど、テレビだとかで聞き覚えはあるし、転生してからは全く聞く機会がなかったから何だか嬉しい。

「ぁ、あのー……もしかして、鬼の方ですか?」

「ん? おぉ、種族は鬼やよ」

「わ……! あのっ、俺の旦那様オーガなんです。オーガの先祖は鬼って聞いて……」

「おぉせやせや、鬼が絶滅しそうやから頭領が俺元にして作ってくれはってん。なんやデカぁ赤ぁなったけど」

「はい、あなたより大きくて赤いです」

「……魔力は桁違いですけどね」

シャルは羽を大きく広げ、尻尾を揺らしている。魔王達の動き次第ではすぐに戦闘に移るつもりであることは容易に察知出来た。

「君も久しぶり~」

「うわ……イカ……」

「随分な反応だね、お酒持ってきてあげたのに」

黄色いローブの内側からすっと取り出されたのは黄金色の瓶。

「……! いやぁ時代は無脊椎動物ですわぁ」

「…………彼は暴飲の魔王、妖怪とか居る島の魔王様だよー。お酒あげておけば仲良くしてくれるからー、新入りの君は彼から篭絡していくといいよー」

「篭絡って」

酒、酒か、地酒はよくある名産品だ。篭絡はともかく酒については考えてみてもいいかもな。

「失礼します! 全員お集まりになられましたので、ご着席ください」

また扉が開き、今度こそネメシスが現れた。扉の外はもう静かだ、怒鳴り声も何かが壊れる音も聞こえない。恐る恐る会議室に出たが、どこにも壊れた物はない、魔術だとかで修理したのだろうか。

「……サク、頑張れ」

ネメシスに促され席へと向かう途中、ネメスィにぽんと背を叩かれた。
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