過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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魔王会議開幕

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先程まで響いていた怒鳴り声や物が壊れる音は止み、会議室の壁や床、机や椅子などに破損はなかった。会議室は静かだ、だが時折ブゥンと不快な音が聞こえる。蜂やアブなんかの羽音、いやもっと大きい虫の羽音だ。

「今回初参加の魔王様には資料をお渡しします」

そう他人行儀に言ったネメシスに何も書いていないまっさらな紙を一枚渡された。困惑していると紙が焦げるように文字が浮かび上がった。

『会議中、僕達警備員に自由な発言は許されていない。けれど他の魔王達に比べあまりにも無知な君がこの場で不利にならないよう、僕が念写で助言を行う。テレパシーの紙に文字を浮かべるバージョンだと思って欲しい』

ネメシスの思考が浮かび上がるのか、これは助かる。資料に目を通しているフリをしてネメシスと話そう……いや、俺からは話せないのか。ネメシスの話を一方的に聞くだけだな。それでも助かる。

「……シャル」

「はい、兄さん。読んでいますよ」

先程の文字は俺が読み終えると消え、紙は真っ白に戻ってしまった。頭の悪い俺ではせっかく教えてもらった情報を忘れるかもしれない、記憶力のいいシャルにも読んでいてもらおうと声をかけたが、そんな必要はない、優秀なシャルは既に読んでいた。

「僕が兄さん宛の文を読まない訳がないじゃないですか……兄さんがちゃんと僕に読ませようとしてくれて嬉しいです、兄さんが自分宛の手紙だから僕には読ませないなんて言ったら、僕、僕……」

俺の想定とは違って愛情由来の理由だったけれど、それはそれで嬉しい。

「羽止めろや便所蝿、うるっせぇんだよ」

「……ぁ?」

紙にまた文字が浮かんできた。今度は白黒写真のような物も付いている。髪をオールバックにしたガラが悪そうながらにそれなりの地位に居そうな男……マフィアのボスのような雰囲気のある男の顔写真だ。いや、精巧な似顔絵なのかな。

『強欲の魔王。種族は悪魔で、本来の姿は頭が二つある鳥のような怪物。人間界に居る間は基本的に人間に化けている』

説明付きだ。悪魔か……下級な魔物の淫魔とは違って上級も上級、最強クラスの魔物の種類だよな。やっぱり気が重い。

『暴食の悪魔と諍いが絶えないが、統治の手腕は魔神王から高評価を得ており、彼の治める大陸は文化水準が高い。商売の上でなら種族問わず対等に付き合うため、交易は彼がオススメ』

オススメ、とか言われてもなぁ。現在進行形で乱闘を始めそうな人だしなぁ。と思っていると写真が消え、また別の顔が浮かんだ。少女のようだ。いや、少年か? 微妙な見た目だな。頭に虫のような触角が生えていてちょっと気持ち悪い。

『暴食の魔王。彼も悪魔、本来の姿は四枚羽の蝿。最も危険。目に映るもの全て美味そうか不味そうかでしか測らない。まともな付き合いは不可能、会話も避けた方がいい』

さっきからブゥンと鳴っているのは暴食の魔王の羽のようだ、他の魔王とは違って完全な人間の姿には化けていない。アイツは以前俺の子を食おうとしたヤツだ、ネメシスに言われるまでもなく付き合いを持つつもりはない。

「便所蝿便所蝿と汚ぇ呼び方しやがって、何度やめろっつっても聞き入れませんね。あぁ鳥頭ですもんねすいませんね今夜の献立はてめぇの丸焼きだ!」

「汚ぇうるせぇ蝿を便所蝿っつって何が悪いクソ食い虫が!」

ガタンッ! と大きな物音。いつの間にか暴食の魔王の背後に立っていたのはネメスィの……えっと弟、確か五男だ、魔王の肩を掴んで押さえている。

「ご着席なさったままの議論をお願いします」

「……今、あの魔王さん立ち上がりましたね。それで、ネメスィさんの弟さんが座らせて……すごく速くて、目で追うのがやっとでした」

シャルがヒソヒソとそう話してくれたが、俺にはどちらの動きも全く見えなかった。

「帯電スライムですか……刺激的なデザートになりそうですが、主菜狩りの邪魔をするなら前菜になっていただきますよ」

コト、と魔王の目の前にプリンが置かれた。アレは……タバコ咥えてるから長男だ、長男がプリンを置いた。

「おかわりもございますよー……」

「ん……! なかなか。とりあえず二十個」

プリンを一口食べた魔王は目を見開き、人差し指と中指を立てた。

「少々お待ちをー……」

長男は気だるげに会議室を出ていった。魔王は虫らしい気味の悪い触角を楽しげに揺らしてプリンを食べている。

「ハッ、単純な蝿だな」

と笑った強欲の魔王の前には次男がネックレスを置いた。大きな宝石が眩しい。

「……へー、このカット、サイズ……おぉ……なかなか」

「今回の会議で暴れなかったらあげるって叔父さっ、魔神王様が言っててぇ……言ってた、です」

敬語苦手なんだな。

「あ、そぉ……へぇ……気前いい……」

毎回乱闘騒ぎとか聞いていたからどれだけ気難しい連中なんだと思っていたが、単に強過ぎる力を持っただけのガキじゃないか。最悪だな。

「……会議始めてもええんか?」

「あなたが、はぐっ、仕切る、んむ……のは、ぁむっ、どうかと……んっ、一番弱い、はむ、くせに」

「食いながら喋んなや行儀悪いのぉ」

「んっ……おかわり! 三十個!」

また写真が変わった、今度は控え室で少し話した赤髪の鬼の顔だ。

『暴飲の魔王。種族は鬼。サクが入るまで悪魔でない魔王は彼と僕のお父様だけだった。妖怪ばかりの列島をまとめ上げていて、魔王の中ではまともに会話が出来る方』

叩き上げって感じの人なのかな。アルマの種族の先祖の種族……犬でいう狼? 的な感じなのも好感が持てる。

『ただし、彼の体液には非常に強い毒が含まれているから、ヤるどころかキスもダメだよ、サク』

しないよ! と大声で言いたい。好感が持てるってのはそんな意味じゃない。と憤っていると今度は写真が長髪の青年に変わった。

「めんどくさーい……終わったら起こして」

羊の角が頭から生えた彼は持参した枕を机に置き、眠り始めてしまった。

『怠惰の魔王。ほとんど寝てるし、彼が治めている島は自然そのまま。交易なんかもやってないから特に仲良くする理由もないし、そうする手段もない。寝てるから。悪魔だけど面倒臭がりだから危なくはないよ』

良くも悪くも無意味、と。前世で要領が悪く仕事を押し付けられるタイプの社畜だったせいかああいうサボっているヤツには腹が立つ。

「しゃあないの……来ただけで奇跡みたいなもんやしもうええわ。憤怒の、偏愛の、欺瞞の、自分らは参加してくれるんやろなぁ」

写真が変わる、褐色の男だ。

『憤怒の魔王、最強の悪魔だ。本当の姿は黒いドラゴン。彼は魔界に居を構えているから、交易などの理由で付き合う必要はない。けれど暴食の魔王を抑え込める数少ない人材だから、ヤツに喰われないために彼の好感度を稼いでおくのは重要かもしれない』

今更だけれど魔界とか人間界とかあるんだなぁ。魔王が治めていて魔物が跋扈しているんだから人間界も魔界みたいなもんだろ……この異世界、前世でやったゲーム風に言えば勇者が生まれなかったり負けたりした後の、魔物側の世界征服が完了した世界なんだよな。色んなゲームで人間側として世界を救ってきた身としては考えさせられるものがある。人間が支配しようと魔物が支配しようと、世界のあり方はそう変わらないのだ。むしろ人間もそこそこ暮らしている分、魔物を全滅させるようなゲームの世界よりマシでは? なんてゴチャゴチャ考えていると写真が変わった、仮面を着けた少年だ。

『偏愛の魔王、彼は魔物ではなく異界の神だ。魔神王の親友を自称している。羊飼いの住む島を治めていて、羊関連の製品の輸出が盛んだから交易の面では仲良くしておくべき』

彼は魔王になったばかりの頃、俺に就任祝いを色々くれた。酒に肉にチーズに服にぬいぐるみキット……既に結構仲良くなれていると思う。

『僕は彼と話したことがほとんどないから把握出来ていないけれど、妙なところに地雷があるから会話には注意して』

写真がまた変わる。白黒写真だからネメシスにも見えるけれど、これはネメスィやネメシスの父親だ。

『欺瞞の魔王、僕達の製作者。お父様……僕達と同じショゴスだけど元は人間。交易とかは普通に出来るはず。自我を消して飼い殺しにするのが彼の愛し方だから絶対気に入られないようにして。魔王同士の表面的な付き合いだけをして。絶対個人的な会話なんてしないで』

これまでの魔王とは違い、感情的な文章だ。

『……これで全員の紹介は終わったかな。でもこの紙から目は離さないでね、色々助言とかするから』

着席している魔王達全員を監視出来る位置に立っているネメシスに視線を送り、頭羽を軽く揺らす。ネメシスは微かに頬を赤らめ、俯いた。
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