過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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インキュバスの戦い方

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現在会議に参加している魔王のざっくりとした説明をネメシスに受けた。どこと交易すべきか、誰と仲良くするべきかはネメシスに従っていいだろう。手段は……どうする? 暴飲の魔王は島で酒造りを試して、上手く行けばその酒を使って取り入ることが出来る。強欲の魔王も同じく俺が商売相手になると思わせれば交易は可能。偏愛の魔王はもう結構仲がいいし、多分頼めば輸出はしてくれるだろう。
やはり問題は、俺の島から輸出出来る物がないということだな。ネメシスのへそくりに頼りっぱなしなのは本当によくない。

「議題は何?」

ネメスィ達の父親……交易的な付き合いはした方がいいのだろうが、個人的には嫌いだな。この先どんな好ましい一面を知ったとしても、ネメスィ達の扱いだけで嫌いでいられる。

「ちょい前にまた異界から侵略があったらしいねん」

「ニャルくん? 今回は随分長く隠れてたみたいだねー、全然気配感じなかったもん」

「……あぁ、僕が様子見に行かされたヤツか」

そういえばネメスィ達の父親、俺をこの世界に転生させた邪神……ニャルラトホテプが本性を表した頃に来てたな。

「そいつ以外にも侵略者は来るかもしれんから、今後もしっかり自分の治めとるとこの管理はしっかりせーよーいう話や」

「……今回ヤツが侵略の拠点としたのは箱庭の離島だろう?」

口を開いたのは褐色の男だ、確か憤怒の魔王……魔界に住んでいるんだっけ? 交易は出来ないけれど、強いから仲良くなっておいた方が他の魔王に危害を加えられる可能性を下げられるとか何とか。

「人間に管理させてたんだっけ?」

「実験的にね。魔神王……僕のおとーともバカだよ、王として働けるのは高々数十年……その度に代替わりをして方針を変える人間なんか、統治に向いていない」

「……頭領も元人間や、期待しとったんやろ」

「監視役は一応送り込んだそうだが」

プリンや宝石に気を取られていない、居眠りもしていない、真面目に話している魔王達の視線がネメスィに向く。

「……あぁ、人間の肩持ち過ぎて、魔物殺しまくって、人間の増長を手助けして……結局、おとーとが人間皆殺しにして魂回収したんだよね」

「魔物と共存出来てても皆殺しだったんじゃないかなー? ニャルくんが汚染してるかもしれないってことでさー」

そんな鳥インフルエンザに罹った鶏みたいな理由で虐殺されてしまうのか……

「かもね。でも失敗してたのには変わりない。やっぱり失敗作は処分すべきだよ、おとーとったら優しいっていうか甘いっていうかさぁ……こんな、脳吹き飛ばせば人格が消滅するような、魂の存在も怪しい失敗作、わざわざ面倒見なくてもいいのに」

そう言いながらネメスィの父親は自身の子供達を見回し、立ち上がり、ネメスィの肩に手を置いた。

「嫌われたくないから見逃してあげてたけど、僕の弟に振られた仕事失敗するようなゴミ生かしてるのは僕のプライドに関わる。弟を失望させるなんて許せない。後で怒られるかもしれないけどやっぱり僕我慢出来ないよ、ちょうど全員揃ってるし」

不穏なことを言い始めた彼の手に魔法陣が浮かぶ。その手がネメスィの頭を掴む。

「ちょっ……」

俺が立ち上がるのと同時に彼の手から爆発が起こり、ネメスィの頭が吹き飛ばされた。周囲に赤い内容物が飛び散り、頭部を失った身体が力なく倒れ、血を浴びたネメスィの父親は不快そうに手を振った。

「ネメスィ!」

「……っ、お、お父様! 待って、僕達は叔父っ……魔神王様に言われて警備の仕事をっ」

俺はすぐにネメスィの元に走った。ネメスィの父親は俺には見向きもせず、ネメシスの方へと歩いていく。

「ネメスィ! ネメスィ起きて! ネメスィ!」

飛び散った血が赤から黒へと変色し、映像を巻き戻すようにネメスィの身体へと戻り、ネメスィの頭部は元通りに再生した。

「ネメスィっ……よかった、治った? 大丈夫? 記憶ある?」

再生したばかりの頭を抱き締める。ぬるぬるしていたり熱かったりはしない、いつも通りのネメスィの頭だ。

「サク……何してる、席に座ってろ。ん……? 俺、なんで倒れて……」

爆破された記憶はないようだが、今が会議中だとは分かっているようだ。記憶のバックアップは何分置きに取っているのだろう。

「参加者より弱い警備員に何の価値があるの? 僕の優しい弟が意味を持たない君達を気遣っただけだろ? いつまで弟の甘さにつけ込むの? 何度僕の弟を失望させるの? もう我慢の限界なんだよ僕は」

ネメシスは震える足で後ずさり、涙を浮かべて頭を横に振る。彼の父親の手にまた魔法陣が浮かぶ。

「やめろっ!」

俺は抱えていたネメスィの頭を離して立ち上がり、ネメスィが床に頭をぶつける音を背に走り出した。魔法陣が浮かんだ手のひらに触れるのは危険だと判断し、腕に抱きついて止めた。

「……何、君」

「ゴミはお前だ! どこまで酷いんだよっ、自分の子供に対して!」

「インキュバス……君のことはよく知らないけど、インキュバスが弟の期待に応えられるとは思えないな。君も失敗作と同じで弟を失望させそうだね、僕そういうの許せないんだよ」

ギョロ、と真っ黒な瞳で睨まれた瞬間、ネメスィ達の父親の身体が吹っ飛んだ。俺が抱きついていた腕は肩から切り落とされ、俺が持ったままだった。

「ひっ……!?」

思わず手を離すと腕はボトリと床に落ちた。血は出ていない。

「兄さん、ご無事ですか兄さん……あぁ兄さん、ネメスィさん達のために怒るなんて、兄さんのそういうところ僕大好きです。でも兄さん危ないです……」

どうやらシャルが父親の腕を切り落としつつ身体を蹴り飛ばしたようだ。

「やばいやばいやばいっ……サク、シャルっ、すぐに飛ばすから……!」

父親を怒らせる危険性を理解しているネメシスはすぐに俺達を安全な場所へ空間転移させようと魔法陣を構築し始めたが、その腕は前触れもなく弾けた。

「失敗作が……未だに魔法陣の構築に時間をかけるのか? 詠唱しなきゃ使えないのか?」

シャルに蹴り飛ばされた父親は特にダメージを負った様子なく、こちらにゆっくりと近付いてくる。そんな彼に俺達の後方から雷撃が放たれた。ネメスィだ。

「……事情はよく分からんが、サクに危害を加えるのはたとえ父親だろうと許さん」

「お兄ちゃん頭吹っ飛ばされたんだよ、僕達を処分するつもりみたいで……」

「そうか……やっぱり嫌われてるな。兄貴達は?」

そうだ、長男と次男は? 会議室のどこにも見当たらない。居るのは五男だけだ、ぼーっと立っている。

「逃げたか……アポストロス! ネメジとネメジスを捕まえてこい!」

「了解」

俺達の会話を聞いていたネメスィの父親も彼らの不在に気付き、五男に指示を飛ばした。ネメスィの雷撃は効かなかったのか? ヤツは無傷に見える。

「ネメスィ、ネメシス、シャルっ……勝てそう?」

「逃げるのも無理……」

「兄さんだけでも逃がせませんか?」

「俺が時間を稼ぐ、空間転移の構築を急げ」

「本気出されたら僕達まとめて一瞬で灰だし、どこに転移しても痕跡追われてすぐに追いつかれるよっ。無理なんだよもう……!」

呼ばれた会議に来ただけなのに、ただ話すだけだと聞いたから来たのに、なんで俺達はこんな絶体絶命の危機に瀕しているんだ? 来なければよかった。

「……っ、欺瞞の魔王様っ、お願い……やめて! 何でもするから!」

島の人間達への演説のために磨いた魅了の術。人間達にしたような薄く広げる使い方ではなく、細く絞り込むようにイメージして使う──これが効けばヤツは恋の奴隷だ。最弱種族インキュバスの底力見せてやる。

「…………効いた?」

「サク……? 魅了使ったの? 無理だよ、お父様ブラコンだもん。叔父様がケモナーだから効かないみたいに、お父様にも多分……」

ネメスィ達の父親はじっと俺を見つめている。

「………………よく見ると君可愛いね。うん、うん……ふふっ、可愛い」

効いた! やった! と拳を握った瞬間、俺を庇うように立っていた三人の身体が両断された。崩れ落ちていく彼らを目で追う暇も与えられず、瞬時に目の前に立った父親に両手で挟むように顔を掴まれた。

「弟には僕から言っておくよ、魔王やめるって。僕の城においで、可愛がってあげる。名前は?」

「汚い手で兄さんに触るなっ!」

俺の顔に触れていた両手が引き裂かれる。だが、父親は涼しい顔をしている。

「シャ、シャルっ、シャルぅ……!」

「……っ、触らないでください兄さん、すいません……再生が遅いんです、多分そういう術で……上手く、くっつかなくて」

俺が今抱きついていたらシャルの上半身と下半身はまた分かれていたのだろう。

「お、俺の弟になんてことするんだよっ! 俺のこと好きになったんだろ!? お前もブラコンなんだろっ、なら俺の弟も丁重に扱えよぉっ!」

「……なんか強いね、突然変異かな? でも僕が欲しいの君だけだから」

「兄さんは渡さない!」

「突然変異の強さは気になるなぁ、どのくらいまでなら再生出来るのか見てみたいな」

「やめろ! シャルにもう痛いことするなぁ! これ以上するなら嫌いになるからな!?」

「君もう僕のこと嫌いだろ? いいよ別に。脳弄るのは慣れてるんだ。っていうか僕が作った脳と入れ替えた方が早いかな」

魅了は効いたが人格に問題があり過ぎる、好かれたところで俺すら助からない。

「はぁ……もう……会議しようや言うとるやろ。欺瞞の! ええ加減にせぇ、会議は頭領の命令やし新入り魔王やて認めたんは頭領や、自分の息子ら殺すな言うとるんも頭領や! いっちゃん命令違反しとんの自分やぞ!」

……そうか、魅了をかけるべきだったのはコイツじゃなかったんだ。他の魔王、もっとまともな性格の魔王なら俺をちゃんと庇ってくれるし、その後も島の統治についてアドバイスをもらったり交易も俺に有利なように出来るかもしれない。

「暴飲の魔王様!」

こんな状況だ、正々堂々交流するだとか、魅了をかけてしまうのは罪悪感がだとか言ってられない。

「何でもするから助けて!」

他人任せは悪だなんて人間の価値観は捨てろ、これがインキュバスの戦い方だ。
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