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邪神を鎮めるのは魔神
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羊の角が頭に生えた白髪の少年。仮面を被って顔を隠し、黄色いローブだけを着て常に裸足。それが偏愛の魔王ことハスターだったはずだ。
今目の前にあるコレは何だ?
俺よりも背が低いくらいの小さな身体だったのに、今は身の丈数メートルに達し、彼の無邪気っぽさを示すような可愛らしい黄色のローブは触手の塊に引っかかった黄色いボロ切れと成り果てている。触手の塊……そう、触手の塊だ。ネメシスがプレイの際に生やすような、エロい類いのアレじゃない。
イカやタコみたいな吸盤があって、でもそんな美味しい生物と並べて語れない不気味さがあって、ぬめってて、臭くて、見ているだけで、存在を感じるだけで、脳を撫で回されて吐き気を覚えるような不快感があった。
「……っ、ハ、ハスター……様? 大丈夫です、よね」
ニャルラトホテプにいいようにされていた時に感じた不快感と似ている。尻尾を振る狐を見て犬らしいと思うような、近縁の種だと感じ取るような、そんな感覚。
「クソっ……おい! 偏愛の魔王! シャンデリアが壊れそうだからさっきの姿に戻ってくれないかな、頭ぶつけてるよ! さっきの姿だったら喧嘩に付き合ってあげても──」
触手の塊の内側から文字化不可能かつ不気味な咆哮が響く。欺瞞の魔王は言葉を止め、大きな魔法陣を自身の前に展開した。瞬間、極太の触手がその魔法陣を叩く。
「重っ……! アポストロス! そんな鬼もういいほっとけ! コイツをどうにかしろ!」
暴飲の魔王を抑え込んでいたネメスィの弟、末弟のアポストロスが欺瞞の魔王の元に戻る。魔法陣をバンバンと叩いていた触手をハンマーで殴り飛ばす。
「まずいことになってますね」
「こりゃ魔神王様怒るぜ」
「うわっ!?」
いつの間にか俺の両隣に暴食の魔王と強欲の魔王が立っていた。暴食の魔王はプリン片手に、強欲の魔王は宝石を眺めながら他人事のように話す。
「偏愛の魔王……あの姿を見たのは何年ぶりでしょう。二百くらい?」
「三か四は行かね?」
「あ、あのー……質問、いいですかね」
暴食の魔王には子供を攫われかけたり卵を食われたりした嫌な思い出がある。いや、卵は孵らない無魂卵だから俺が自ら渡したんだけども……とにかく暴食の魔王は苦手なので、強欲の魔王に話しかけた。
「何くれる?」
「えっ」
強欲の二つ名を持つだけのことはある、タダで質問に答える気はないようだ。そっちがその気なら俺にも考えがある、魅了の術を使ってやる。しっかりと目を合わせて、恋人をセックスに誘うのとは違いフェロモンだとかには訴えないで、純粋な魔力だけを注ぐように意識して──
「ほっぺにキスしてあげます」
──俺のことを好きになってとお願い、なんて可愛げのあるものじゃない。俺を愛せと命令するつもりで術を使う。自信過剰なくらいじゃないと術の成功率が下がる。
「…………」
効いたか? ダメだったのか?
「……いいよ。完璧な見返りだ、何聞きたいの?」
効いた!
「ぶっ、ふふふ……魅了かけられてる、面白過ぎますってこれ、淫魔に魅了かけられる悪魔とかっ、五百年はこれ擦れる……!」
暴食の魔王は肩を震わせて笑っている。
「ハスター様、今どうなってるんですか? アレって何か、戦闘用の姿……とか、ですよね?」
触手の塊はやたらめったらに触手を振り回し、黒っぽい粘液を撒き散らし、時折暴風を起こしてはいるが、ちゃんと俺達を守ってくれているので暴走しているとかではないように思える。
「まぁ戦闘用っちゃ戦闘用だけどよ、アレ邪神モードだよな」
「ですね。本人的には封印した姿ってヤツです」
「偏愛の魔王は邪神扱いされんの嫌いなのよ、自分は羊と羊飼いを見守る善なる神だって思ってる」
「文明滅ぼすタイプなんですけどね」
「人間が発展すんの嫌いなのよ。牧歌的な風景が好きってヤツ。悪魔的には人間の良さはうじゃうじゃ増えるとこと、他種族よりも向上心が強いこと、戦争するとこ、その辺なんだけど……アイツは違う」
「決まった数の人間と羊が仲良く暮らしてるのを眺めるのが好きなんです、気持ち悪いでしょう」
「羊飼いの仕事に効率を求め過ぎたり、他の魔王が納める土地の文化に興味を持ったり、荒っぽい性格でトラブル起こすタイプの人間は全部処分」
「頭お花畑の人間が悲しまないよう記憶や痕跡も消す徹底っぷり。いやぁ気持ち悪い、全くこれだから神は嫌だ。傲慢で支配的なくせ自分はいいことしてるって信じてる。悪気がある分悪魔の方がマシですよ」
「魔神王も似たようなとこあるよな、思った通りにならなかったからって箱庭の人間滅ぼしたりさ。神ってそういうもんなのよ」
愚痴のように偏愛の魔王の偏愛の二つ名の所以を教えてくれた。
「んで、そう、邪神モードね。本人的にはアレは穢され貶められた解釈の姿って言ってる」
「神は人間の信仰や解釈で結構簡単に姿変わりますからね。私だって元は農耕神だったんですよ。散々手助けしてやったのに悪魔堕ちさせやがって人間共め……大嫌いですよ。味はまぁまぁいいと思いますけどね」
やっぱり人間食ってるんだコイツ。
「コイツみたいに元神や天使の悪魔もまぁまぁ居るから、邪神はまぁいいのよ。暴飲の魔王の納めるとこにも邪神一柱居たよな?」
「アイツの親父ですね、アイツと同じで飲んだくれの。雨降らすんで嫌いです、翅が濡れちゃう」
虫のような羽を震わせ、ぶぶぶ……と不快な音を立てる。
「邪神が居るのは別にいい。ただアイツの邪神っつー側面はまずい。魔神王が嫌うニャルラトホテプと関係が深い、世界から追い出したアイツとまた縁が繋がっちまう」
「今回はあなたを母体にして這い出てきたって聞きましたよ。それがアイツでも起こりかねないんです」
「だからアイツが邪神モードに入ると魔神王様が……そろそろじゃね?」
「まだだと思いますけど」
何がそろそろなんだと聞こうとしたその時、ズンッ……と重力が数倍になったかのような錯覚を覚えた。魔力の圧だ、このとてつもないプレッシャーには覚えがある。魔神王だ。
「来た来た。賭けは俺の勝ちだな。魔神王様の到着は邪神モードに入ってから五分以内」
「クソ……八分くらいかかると思ったんですけどね」
暴食の魔王は髪に着けていた宝飾品を一つ、強欲の魔王の手に落とした。会議室の中心に出現した魔王は触手の塊に手を翳し、黒い霧のような魔力を吸い取った。すると触手は黄色いローブの内側に吸い込まれるように縮んでいき、白く細い手足が顕になった。
「ハーくん、大丈夫?」
長過ぎる白髪を引き摺り、床に落ちた仮面を拾い、黄色いローブの少年に被せた。
「んー……? 何やってたっけ僕、なんで立ってんの?」
「……悪い夢でも見てたんだろ。座ってて」
偏愛の魔王を椅子に座らせると、魔神王は再生に手こずっているネメスィの兄弟達……長男と次男に手を翳し、魔力を吸い取った。やはり黒い霧のような見た目だった。
「再生阻害の術か、酷いことするね」
吸い取った魔力は再生阻害の術に使われた分だけだったようで、二人の再生が順調に進み始め、ぐったりとしていたがネメスィ達は起き上がる。
「叔父上……」
「叔父さぁん! 親父が、つーかアポストロスが虐めたぁ!」
「ん、後でね」
二人を跨ぎ、ネメスィとネメシス、シャルにも手を翳して魔力を吸い取った。暗かった表情が明るくなる。
「……っ、は……治った。叔父上……ありがとうございます」
「叔父上様……! 叔父上様ぁ……」
「兄さんお怪我は……あっ、魔神王、様? 助けてくださりありがとうございます。兄さんお怪我はありませんね? あぁ兄さん……」
傷が治るとシャルは俺に飛びつき、俺を抱き締め、安堵した様子で頭羽と腰羽を緩く揺らした。ネメシスは子供が親に泣きつくように魔神王の足に縋り、ネメスィは深く感謝を告げた。
「うんうん……みんな無事だね、よしよし、可愛い甥っ子達…………少し待っててね。にいさま、話がある」
ネメスィ達四人兄弟に向けた声とは違う、明らかに怒った様子の声。それを聞いた欺瞞の魔王は気まずそうに目を逸らし、指を鳴らし姿を消した。
「空間転移中止!」
魔神王が叫ぶと何もない空間から欺瞞の魔王が現れ、倒れる。
「……いっ、たぁ……体ちぎれるかと思った。おとーと! 空間転移の途中で引っ張り戻すなんて、なんて酷いことするの! そんな子に育てた覚えはないよ!」
ちぎれても平気だろ、スライムなんだから。
「黙れ! 育てられた覚えはない! 何回言ったら分かるんだ、子供を殺そうとするのをやめろ!」
「あんなゴミ子供じゃない! 失敗作処分しようとしてるだけなのになんでそんなに怒るの!? お兄ちゃん怒らないでよ!」
「もうお前が子供じゃないならあの子達は僕の部下だ! 勝手に手を出すな!」
「お前!? お兄ちゃんに向かってお前!?」
「あ、あの……あのー……」
恐る恐る魔神王の肩をつついた。つんつん、と。
「何? えっと、サク君だっけ」
「は、はい。サクです。あの、あっちで暴飲の魔王様が倒れてるんですけど……」
部屋の隅で倒れている暴飲の魔王を指すと、魔神王は驚いた様子で駆けていった。途中、自分の髪を踏んで何度か転んでいた。
「ボコボコじゃないか! なんてことするんだよにいさま! 酒呑は再生苦手なんだよ!?」
「と、頭領……はよ治して」
「あぁごめんごめん……はい、治った」
「はぁ……おおきに。あのボケ人のことトンカチでボコボコ殴りよってからに……」
「アポストロスがやったの? そっか……あの子は許してあげて、悪いのはにいさまだから……後で魔力取り上げるから、好きに殴って」
「おとーと!?」
報復タイムを設けてくれるのか。そうか……俺も参加しようかな。
今目の前にあるコレは何だ?
俺よりも背が低いくらいの小さな身体だったのに、今は身の丈数メートルに達し、彼の無邪気っぽさを示すような可愛らしい黄色のローブは触手の塊に引っかかった黄色いボロ切れと成り果てている。触手の塊……そう、触手の塊だ。ネメシスがプレイの際に生やすような、エロい類いのアレじゃない。
イカやタコみたいな吸盤があって、でもそんな美味しい生物と並べて語れない不気味さがあって、ぬめってて、臭くて、見ているだけで、存在を感じるだけで、脳を撫で回されて吐き気を覚えるような不快感があった。
「……っ、ハ、ハスター……様? 大丈夫です、よね」
ニャルラトホテプにいいようにされていた時に感じた不快感と似ている。尻尾を振る狐を見て犬らしいと思うような、近縁の種だと感じ取るような、そんな感覚。
「クソっ……おい! 偏愛の魔王! シャンデリアが壊れそうだからさっきの姿に戻ってくれないかな、頭ぶつけてるよ! さっきの姿だったら喧嘩に付き合ってあげても──」
触手の塊の内側から文字化不可能かつ不気味な咆哮が響く。欺瞞の魔王は言葉を止め、大きな魔法陣を自身の前に展開した。瞬間、極太の触手がその魔法陣を叩く。
「重っ……! アポストロス! そんな鬼もういいほっとけ! コイツをどうにかしろ!」
暴飲の魔王を抑え込んでいたネメスィの弟、末弟のアポストロスが欺瞞の魔王の元に戻る。魔法陣をバンバンと叩いていた触手をハンマーで殴り飛ばす。
「まずいことになってますね」
「こりゃ魔神王様怒るぜ」
「うわっ!?」
いつの間にか俺の両隣に暴食の魔王と強欲の魔王が立っていた。暴食の魔王はプリン片手に、強欲の魔王は宝石を眺めながら他人事のように話す。
「偏愛の魔王……あの姿を見たのは何年ぶりでしょう。二百くらい?」
「三か四は行かね?」
「あ、あのー……質問、いいですかね」
暴食の魔王には子供を攫われかけたり卵を食われたりした嫌な思い出がある。いや、卵は孵らない無魂卵だから俺が自ら渡したんだけども……とにかく暴食の魔王は苦手なので、強欲の魔王に話しかけた。
「何くれる?」
「えっ」
強欲の二つ名を持つだけのことはある、タダで質問に答える気はないようだ。そっちがその気なら俺にも考えがある、魅了の術を使ってやる。しっかりと目を合わせて、恋人をセックスに誘うのとは違いフェロモンだとかには訴えないで、純粋な魔力だけを注ぐように意識して──
「ほっぺにキスしてあげます」
──俺のことを好きになってとお願い、なんて可愛げのあるものじゃない。俺を愛せと命令するつもりで術を使う。自信過剰なくらいじゃないと術の成功率が下がる。
「…………」
効いたか? ダメだったのか?
「……いいよ。完璧な見返りだ、何聞きたいの?」
効いた!
「ぶっ、ふふふ……魅了かけられてる、面白過ぎますってこれ、淫魔に魅了かけられる悪魔とかっ、五百年はこれ擦れる……!」
暴食の魔王は肩を震わせて笑っている。
「ハスター様、今どうなってるんですか? アレって何か、戦闘用の姿……とか、ですよね?」
触手の塊はやたらめったらに触手を振り回し、黒っぽい粘液を撒き散らし、時折暴風を起こしてはいるが、ちゃんと俺達を守ってくれているので暴走しているとかではないように思える。
「まぁ戦闘用っちゃ戦闘用だけどよ、アレ邪神モードだよな」
「ですね。本人的には封印した姿ってヤツです」
「偏愛の魔王は邪神扱いされんの嫌いなのよ、自分は羊と羊飼いを見守る善なる神だって思ってる」
「文明滅ぼすタイプなんですけどね」
「人間が発展すんの嫌いなのよ。牧歌的な風景が好きってヤツ。悪魔的には人間の良さはうじゃうじゃ増えるとこと、他種族よりも向上心が強いこと、戦争するとこ、その辺なんだけど……アイツは違う」
「決まった数の人間と羊が仲良く暮らしてるのを眺めるのが好きなんです、気持ち悪いでしょう」
「羊飼いの仕事に効率を求め過ぎたり、他の魔王が納める土地の文化に興味を持ったり、荒っぽい性格でトラブル起こすタイプの人間は全部処分」
「頭お花畑の人間が悲しまないよう記憶や痕跡も消す徹底っぷり。いやぁ気持ち悪い、全くこれだから神は嫌だ。傲慢で支配的なくせ自分はいいことしてるって信じてる。悪気がある分悪魔の方がマシですよ」
「魔神王も似たようなとこあるよな、思った通りにならなかったからって箱庭の人間滅ぼしたりさ。神ってそういうもんなのよ」
愚痴のように偏愛の魔王の偏愛の二つ名の所以を教えてくれた。
「んで、そう、邪神モードね。本人的にはアレは穢され貶められた解釈の姿って言ってる」
「神は人間の信仰や解釈で結構簡単に姿変わりますからね。私だって元は農耕神だったんですよ。散々手助けしてやったのに悪魔堕ちさせやがって人間共め……大嫌いですよ。味はまぁまぁいいと思いますけどね」
やっぱり人間食ってるんだコイツ。
「コイツみたいに元神や天使の悪魔もまぁまぁ居るから、邪神はまぁいいのよ。暴飲の魔王の納めるとこにも邪神一柱居たよな?」
「アイツの親父ですね、アイツと同じで飲んだくれの。雨降らすんで嫌いです、翅が濡れちゃう」
虫のような羽を震わせ、ぶぶぶ……と不快な音を立てる。
「邪神が居るのは別にいい。ただアイツの邪神っつー側面はまずい。魔神王が嫌うニャルラトホテプと関係が深い、世界から追い出したアイツとまた縁が繋がっちまう」
「今回はあなたを母体にして這い出てきたって聞きましたよ。それがアイツでも起こりかねないんです」
「だからアイツが邪神モードに入ると魔神王様が……そろそろじゃね?」
「まだだと思いますけど」
何がそろそろなんだと聞こうとしたその時、ズンッ……と重力が数倍になったかのような錯覚を覚えた。魔力の圧だ、このとてつもないプレッシャーには覚えがある。魔神王だ。
「来た来た。賭けは俺の勝ちだな。魔神王様の到着は邪神モードに入ってから五分以内」
「クソ……八分くらいかかると思ったんですけどね」
暴食の魔王は髪に着けていた宝飾品を一つ、強欲の魔王の手に落とした。会議室の中心に出現した魔王は触手の塊に手を翳し、黒い霧のような魔力を吸い取った。すると触手は黄色いローブの内側に吸い込まれるように縮んでいき、白く細い手足が顕になった。
「ハーくん、大丈夫?」
長過ぎる白髪を引き摺り、床に落ちた仮面を拾い、黄色いローブの少年に被せた。
「んー……? 何やってたっけ僕、なんで立ってんの?」
「……悪い夢でも見てたんだろ。座ってて」
偏愛の魔王を椅子に座らせると、魔神王は再生に手こずっているネメスィの兄弟達……長男と次男に手を翳し、魔力を吸い取った。やはり黒い霧のような見た目だった。
「再生阻害の術か、酷いことするね」
吸い取った魔力は再生阻害の術に使われた分だけだったようで、二人の再生が順調に進み始め、ぐったりとしていたがネメスィ達は起き上がる。
「叔父上……」
「叔父さぁん! 親父が、つーかアポストロスが虐めたぁ!」
「ん、後でね」
二人を跨ぎ、ネメスィとネメシス、シャルにも手を翳して魔力を吸い取った。暗かった表情が明るくなる。
「……っ、は……治った。叔父上……ありがとうございます」
「叔父上様……! 叔父上様ぁ……」
「兄さんお怪我は……あっ、魔神王、様? 助けてくださりありがとうございます。兄さんお怪我はありませんね? あぁ兄さん……」
傷が治るとシャルは俺に飛びつき、俺を抱き締め、安堵した様子で頭羽と腰羽を緩く揺らした。ネメシスは子供が親に泣きつくように魔神王の足に縋り、ネメスィは深く感謝を告げた。
「うんうん……みんな無事だね、よしよし、可愛い甥っ子達…………少し待っててね。にいさま、話がある」
ネメスィ達四人兄弟に向けた声とは違う、明らかに怒った様子の声。それを聞いた欺瞞の魔王は気まずそうに目を逸らし、指を鳴らし姿を消した。
「空間転移中止!」
魔神王が叫ぶと何もない空間から欺瞞の魔王が現れ、倒れる。
「……いっ、たぁ……体ちぎれるかと思った。おとーと! 空間転移の途中で引っ張り戻すなんて、なんて酷いことするの! そんな子に育てた覚えはないよ!」
ちぎれても平気だろ、スライムなんだから。
「黙れ! 育てられた覚えはない! 何回言ったら分かるんだ、子供を殺そうとするのをやめろ!」
「あんなゴミ子供じゃない! 失敗作処分しようとしてるだけなのになんでそんなに怒るの!? お兄ちゃん怒らないでよ!」
「もうお前が子供じゃないならあの子達は僕の部下だ! 勝手に手を出すな!」
「お前!? お兄ちゃんに向かってお前!?」
「あ、あの……あのー……」
恐る恐る魔神王の肩をつついた。つんつん、と。
「何? えっと、サク君だっけ」
「は、はい。サクです。あの、あっちで暴飲の魔王様が倒れてるんですけど……」
部屋の隅で倒れている暴飲の魔王を指すと、魔神王は驚いた様子で駆けていった。途中、自分の髪を踏んで何度か転んでいた。
「ボコボコじゃないか! なんてことするんだよにいさま! 酒呑は再生苦手なんだよ!?」
「と、頭領……はよ治して」
「あぁごめんごめん……はい、治った」
「はぁ……おおきに。あのボケ人のことトンカチでボコボコ殴りよってからに……」
「アポストロスがやったの? そっか……あの子は許してあげて、悪いのはにいさまだから……後で魔力取り上げるから、好きに殴って」
「おとーと!?」
報復タイムを設けてくれるのか。そうか……俺も参加しようかな。
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容姿は垢抜けないモサ男くんといった感じです、詳しくは三話を御参照ください。
性格は押しに弱く、同僚には仕事を押し付けられ後輩にはナメられていました。
趣味はTRPGで、特にクトゥルフ神話のものを好んでいましたが、就職後は仕事に忙殺され趣味に割く時間などはありませんでした。度数高めのチューハイを買い込んでいましたが、効率良く酔って早く寝るためだけに飲んでいたので、チューハイが特別好きという訳ではありませんでした。
過労死までの数年間は仕事をしているか酔い潰れて寝ているか、主人公は虚無な人生だったなぁと他人事のように考えていてあまり未練はないようです。
更新ありがとうございます!!!!
なんかアカウントが消えちゃって作り直しました( ; ; )
ずっと気になってた続きが読めてうれしいです!
前のお話からもずっと不穏な空気が漂っていて心配だったけれど案の定…笑
ネメスィやネメシス、シャルがサクを助けるために必死になってるのがきゅんとしました…💕
サクは魅了使っちゃったけど大丈夫なのかな…この場をやり過ごしても執着されそうで心配…笑
最近寒暖差も激しいので体調にお気をつけて、のんびり執筆頑張ってください!まってます!💕
感想ありがとうございます!!
そんなことあるんですか……恐ろしい話ですね:(ˊ◦ω◦ˋ):
ありがとうございます、長らくお待たせしまして申し訳ありませんでした!
魔王ばかりの会議が平穏に進む訳もなく……
力及ばずでしたけど、三人とも一生懸命でしたね💞
助かるため、助けるために、魅了使っちゃいましたね。後先考えていられる場合ではありませんでしたが……どうなることやら。
ありがとうございます。体調を崩し執筆も返信も遅れてしまい……ようやく治ってきたのでまた執筆頑張っていきます!(ง •̀ω•́)ง