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しばらくぶりの帰宅
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昼食を終えた俺達はハルにデザートを奢られているリュウを横目にこの後どうするかの会議をゆるゆると始めた。
「私はこの後カラオケでも全然構いませんが」
「昼からじゃあんま歌えないじゃーん、高校生は夜時間追い出されるんだから~、午前のうちに入ってフリータイム取らないと~」
「何曲歌う気なんですか」
「七人居るんだよ~? 一曲五分として一周に三十五分、二曲歌うのに一時間以上かかるんだよ~?」
リュウはパフェに夢中、カンナはずっと元気がない、彼らはゆるい会議に参加しないだろう。
「あ、みっつんの家行こうよ。弟くん見た~い」
「いきなり六人も知らない人が来たら嫌だろ、ただでさえ何言ってるかよく分からない兄弟が急に出来たんだから……今日くらい一人の時間作ってやらないとな」
「じゃあ今日は帰らないのか?」
「いえ、夕飯までには帰ります。今日はテストお疲れ様会で晩御飯が豪華なはずなので。でもアキにお土産買ってくるって約束してるんで、この辺で何か買わないと……レイ、この辺詳しいよな?」
俺の横顔を連写していたレイは突然正面顔が撮れたことに驚いて目を見開いた。
「そこそこ詳しいっすけど、何買うんすか?」
「……数日前に出来たばかりの兄が友達とカラオケ帰りに買ってきたら嬉しい土産って何だ?」
「シチュエーションが特殊過ぎて全く分からんな」
「このめんって家この辺?」
ハルの質問にレイはオレンジジュースを飲みながら頷いた。
「じゃあさ、このめんの家行こっ。ダメ?」
「別にいいっすけど、一ヶ月くらい帰ってないんでどうなってるか分かんないすよ」
「帰ってないのか? 帰ってるって言ってなかったか?」
「ホテルに泊まってるんす、家くーちゃんにバレてるんで帰れなくて……俺デジタル絵専門なんで鞄一個で生きてけるんすよね」
パーカーは似たデザインのを高頻度で着回し、仕事が忙しいからと食事を忘れてやつれる上に、元カレに会いたくないという理由だけで一ヶ月以上家に帰らないなんて……衣食住を何だと思っているんだ。
「じゃあこのめん家で夕方頃までまったりするとしてー、このめん家行くまででみっつん弟のお土産買おっか」
「あぁ……ハルはそういうのセンスいいよな、何かないか?」
「ごっそさん。こけしとかがええんちゃう?」
パフェを食べ終えたリュウが唇の端に生クリームをつけたまま会議に参戦してきた。
「リュウはセンスないな」
歳頃の男の子へのプレゼントにこけしはないだろう。俺からアキへの初めてのプレゼントでもあるのだから、もっと記念になるものがいい。
「みっつん弟の趣味が分かんないとな~。好きなアイドルとかバンドとか知らない?」
「いや……まだほとんど何も知らない。ぁ、でも、猫好きだって言ってたな」
「おぉ、俺も聞いたでそれ。ん……なにぃ水月、どないしたん」
テーブルの向こう側に居るリュウの唇についた生クリームを拭うため立ち上がり、手を伸ばす。
「ついてた」
指の背で拭った生クリームを舐め取るとリュウはぽっと頬を赤らめる──という在り来りな展開を俺は夢見ていた。
「ほんま? おおきに!」
リュウに照れた様子など全くない、朗らかに笑っている。これはこれでイイ。
「じゃあ猫のぬいぐるみでも買いますか?」
「ぬいぐるみかぁ……十四の男の子だぞ? 女の子ならまだしも、喜ぶかな」
「あーみっつん男女差別~! 俺ぬいぐるみ集めてるもんね!」
「お前が集めてるのは推しぬいだろ」
「……俺もぬいぐるみ何個か持ってる」
「先輩……のも、推しぬいでしょ」
歌見はよく分かったなと笑っている。まぁ、推しがマイナー過ぎてグッズ化されないからと自作ぬいぐるみやフィギュアをシコシコ作っていた俺にかかればこの程度の推理なんてことない。
「ぬいぐるみなぁ……ある日突然存在が明かされた兄貴がぬいぐるみ買ってきたらどう思う?」
「……不器用ながらに好感度稼ぎに来てるな、かな」
「ですよねー。器用に普通に好感度稼ぎたいんだよ……とりあえず店に行きたいな。レイ、なんかオシャレな雑貨屋とか知らないか?」
「心当たりはあるっすよ」
会計を終えてファミレスを出る。レイが俺の右腕に抱きついて道案内をし、左腕に抱きついたハルは隣町は久しぶりだとはしゃいでいる。
「……先輩、カンナ大丈夫そうですか?」
背後の歌見にそっと話しかける。
「ん……? 特に変わった様子はないが、何故だ?」
「落ち込んでるみたいなんで……とりあえずはぐれないように見とくのだけお願いしていいですか?」
「そんなに落ち込んでいるのか……!? 最後尾ではあるが……うん、分かった、見ておく」
俺の腕争奪戦に参加すらせず、リュウの隣に行きもしないカンナは心配だ。今日は心配なことが起こり過ぎる、心臓がもたない。
「この店とかどうっすか? ティーンに人気のお店っす。服も雑貨も置いてるっすよ」
「ファンシーだな……男子高校生が入っていい場所か? ここ」
「まぁ女の子のお客さんのが多いっすけど、店の方針的にはユニセックスが基本っすよ」
「ユニ……何、なんか……俺の知らないプレイ?」
「…………性別の区別なし、誰でも着れるし使えるって意味っすよ」
ファッションに疎いところを見せてしまった。挽回するタイミングを逃さないようにしなければなと考えつつ店に入り、アキへの土産を探す。
「適当にペンでも買ってさっさと木芽さんの家に行きましょうよ。しばらくヤってないからもう溜まって溜まって……喧嘩も結局ほとんど出来ませんでしたし、欲求不満です」
「後でしっかり抱いてやるからもうちょい我慢してくれ」
「ねーみっつんみっつん、弟くん傘大事なんだよね? じゃあこれどーぉ? 傘タグ!」
ハルが持ってきたのは指でつまめるほどの大きさの猫のストラップ、いやキーホルダー……じゃなくて、傘タグらしい。
「傘タグ? って何だ?」
「傘って似たの多いから~、自分のが分かるように持ち手のとこにタグ付けんの。猫好きならこういうのどうかなーって」
「へぇ、いいな。流石ハル、センスいいなぁ」
俺は素直にハルが選んだ傘タグを購入し、シュカに急かされて家を出た。日はまだまだ高いが、これからレイの家で淫らな宴を開くことになるだろう。楽しみだ。
「私はこの後カラオケでも全然構いませんが」
「昼からじゃあんま歌えないじゃーん、高校生は夜時間追い出されるんだから~、午前のうちに入ってフリータイム取らないと~」
「何曲歌う気なんですか」
「七人居るんだよ~? 一曲五分として一周に三十五分、二曲歌うのに一時間以上かかるんだよ~?」
リュウはパフェに夢中、カンナはずっと元気がない、彼らはゆるい会議に参加しないだろう。
「あ、みっつんの家行こうよ。弟くん見た~い」
「いきなり六人も知らない人が来たら嫌だろ、ただでさえ何言ってるかよく分からない兄弟が急に出来たんだから……今日くらい一人の時間作ってやらないとな」
「じゃあ今日は帰らないのか?」
「いえ、夕飯までには帰ります。今日はテストお疲れ様会で晩御飯が豪華なはずなので。でもアキにお土産買ってくるって約束してるんで、この辺で何か買わないと……レイ、この辺詳しいよな?」
俺の横顔を連写していたレイは突然正面顔が撮れたことに驚いて目を見開いた。
「そこそこ詳しいっすけど、何買うんすか?」
「……数日前に出来たばかりの兄が友達とカラオケ帰りに買ってきたら嬉しい土産って何だ?」
「シチュエーションが特殊過ぎて全く分からんな」
「このめんって家この辺?」
ハルの質問にレイはオレンジジュースを飲みながら頷いた。
「じゃあさ、このめんの家行こっ。ダメ?」
「別にいいっすけど、一ヶ月くらい帰ってないんでどうなってるか分かんないすよ」
「帰ってないのか? 帰ってるって言ってなかったか?」
「ホテルに泊まってるんす、家くーちゃんにバレてるんで帰れなくて……俺デジタル絵専門なんで鞄一個で生きてけるんすよね」
パーカーは似たデザインのを高頻度で着回し、仕事が忙しいからと食事を忘れてやつれる上に、元カレに会いたくないという理由だけで一ヶ月以上家に帰らないなんて……衣食住を何だと思っているんだ。
「じゃあこのめん家で夕方頃までまったりするとしてー、このめん家行くまででみっつん弟のお土産買おっか」
「あぁ……ハルはそういうのセンスいいよな、何かないか?」
「ごっそさん。こけしとかがええんちゃう?」
パフェを食べ終えたリュウが唇の端に生クリームをつけたまま会議に参戦してきた。
「リュウはセンスないな」
歳頃の男の子へのプレゼントにこけしはないだろう。俺からアキへの初めてのプレゼントでもあるのだから、もっと記念になるものがいい。
「みっつん弟の趣味が分かんないとな~。好きなアイドルとかバンドとか知らない?」
「いや……まだほとんど何も知らない。ぁ、でも、猫好きだって言ってたな」
「おぉ、俺も聞いたでそれ。ん……なにぃ水月、どないしたん」
テーブルの向こう側に居るリュウの唇についた生クリームを拭うため立ち上がり、手を伸ばす。
「ついてた」
指の背で拭った生クリームを舐め取るとリュウはぽっと頬を赤らめる──という在り来りな展開を俺は夢見ていた。
「ほんま? おおきに!」
リュウに照れた様子など全くない、朗らかに笑っている。これはこれでイイ。
「じゃあ猫のぬいぐるみでも買いますか?」
「ぬいぐるみかぁ……十四の男の子だぞ? 女の子ならまだしも、喜ぶかな」
「あーみっつん男女差別~! 俺ぬいぐるみ集めてるもんね!」
「お前が集めてるのは推しぬいだろ」
「……俺もぬいぐるみ何個か持ってる」
「先輩……のも、推しぬいでしょ」
歌見はよく分かったなと笑っている。まぁ、推しがマイナー過ぎてグッズ化されないからと自作ぬいぐるみやフィギュアをシコシコ作っていた俺にかかればこの程度の推理なんてことない。
「ぬいぐるみなぁ……ある日突然存在が明かされた兄貴がぬいぐるみ買ってきたらどう思う?」
「……不器用ながらに好感度稼ぎに来てるな、かな」
「ですよねー。器用に普通に好感度稼ぎたいんだよ……とりあえず店に行きたいな。レイ、なんかオシャレな雑貨屋とか知らないか?」
「心当たりはあるっすよ」
会計を終えてファミレスを出る。レイが俺の右腕に抱きついて道案内をし、左腕に抱きついたハルは隣町は久しぶりだとはしゃいでいる。
「……先輩、カンナ大丈夫そうですか?」
背後の歌見にそっと話しかける。
「ん……? 特に変わった様子はないが、何故だ?」
「落ち込んでるみたいなんで……とりあえずはぐれないように見とくのだけお願いしていいですか?」
「そんなに落ち込んでいるのか……!? 最後尾ではあるが……うん、分かった、見ておく」
俺の腕争奪戦に参加すらせず、リュウの隣に行きもしないカンナは心配だ。今日は心配なことが起こり過ぎる、心臓がもたない。
「この店とかどうっすか? ティーンに人気のお店っす。服も雑貨も置いてるっすよ」
「ファンシーだな……男子高校生が入っていい場所か? ここ」
「まぁ女の子のお客さんのが多いっすけど、店の方針的にはユニセックスが基本っすよ」
「ユニ……何、なんか……俺の知らないプレイ?」
「…………性別の区別なし、誰でも着れるし使えるって意味っすよ」
ファッションに疎いところを見せてしまった。挽回するタイミングを逃さないようにしなければなと考えつつ店に入り、アキへの土産を探す。
「適当にペンでも買ってさっさと木芽さんの家に行きましょうよ。しばらくヤってないからもう溜まって溜まって……喧嘩も結局ほとんど出来ませんでしたし、欲求不満です」
「後でしっかり抱いてやるからもうちょい我慢してくれ」
「ねーみっつんみっつん、弟くん傘大事なんだよね? じゃあこれどーぉ? 傘タグ!」
ハルが持ってきたのは指でつまめるほどの大きさの猫のストラップ、いやキーホルダー……じゃなくて、傘タグらしい。
「傘タグ? って何だ?」
「傘って似たの多いから~、自分のが分かるように持ち手のとこにタグ付けんの。猫好きならこういうのどうかなーって」
「へぇ、いいな。流石ハル、センスいいなぁ」
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