冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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痩せたら美人って知ってたから

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肋骨にヒビが入っていた。

「軽いものだから全治には一ヶ月もかからないと思うよ」

「はぁ……どうも。この、なんでしたっけ、コルセットみたいなの」

「バストバンド。出来る限り外さないようにしてね」

アキの付き添いで病院に来て治療を受ける羽目になるとは……ちなみにアキは予定通りに検査を受けている。ヒビが入ったと言ったら気にしてしまうだろうか、余計なことをしてしまったな。

「……あの、飛び降りた人って」

「あぁ! 本当にありがとうね、君のおかげで尊い命が救われたんだよ。また後日改めてお礼をさせてね、表彰があるんじゃないかなぁ」

「俺はむしろアキの邪魔した感じですけどね……」

いや、アキは彼に気付いていなかった。俺が行動したからアキが人を救えたのだ。アキの着地点に滑り込んだのは本当にただただ邪魔で無駄な行為だったけれど。

「…………よかったんでしょうか。俺、何も考えずに助けちゃって……あの人、俺のこと恨まないかな」

「自殺未遂で運ばれてきた人も、人を大勢殺した殺人鬼も、病院では全力の治療が行われるんだ。それが医療なんだよ。君は正しいことをした、誇っていい、私達は君を尊敬するよ。恨まれて暴言を吐かれたって、君の正しさと気高さには傷は付かない」

「……ありがとうございます」

治療もカウンセリングもどきも終えて俺は一旦開放された。アキの検査が終わるまではまだ時間がある。

「……痛い」

四階に行ってみようかな。



飛び降りがあったというのに慌ただしさはなく、階段も四階の廊下も静かだった。俺がヒビの検査をしている間に彼への対処は終わったのだろうか。

(別に会いたかないんですがね)

表彰なんてされたくない、あまり目立ちたくない、俺はひっそりと美少年ハーレムを作りたいだけなのだ。
表彰を辞退する方法はないのかななんて考えながら、俺はほとんど無意識に飛び降りた彼を探して四階を歩き回った。見舞い人だとでも思われているのか、誰にも咎められることはない。

「…………そろそろ昼飯の時間かぁ」

大量の食事を詰んだワゴンが廊下を走っている。ワゴンから目逸らすと、開いた引き戸の向こうに車椅子が見えた。何も考えず、何となくその病室に入った。

「……あ。えっと、こんにちは」

四人部屋のようだが、今は一人しか居ない。しかもその一人と言うのがアキが先程救った男だった。なんという偶然、あまり嬉しくない運命、素晴らしい俺の嗅覚。

「俺は、その……いや、すいません、部屋間違えました」

「……お前、随分痩せたなぁ」

話すことを思い付く訳もなく部屋を出ようとしたが、その言葉に足が止まった。

「そんなとこで何してんだよ、こっち来いよ」

ベッドの隣に移動しながら俺はベッドに付いているはずの名札を探した。同時に彼の顔を見たが、少し腫れている上に包帯まみれでよく分からない。

「えっと、失礼します」

俺には手足を失った知り合いは居ない。知り合いが事故に遭ったとも聞いていない。そもそも太っていた頃の俺を知っているヤツが今の俺を見て分かる訳がない。多分、人違いだろう。

「………………告白は?」

「へっ?」

「お前痩せたら俺に告白するって言ってたじゃん」

「え、と……」

そんなこと誰かに言った覚えはない。こんなふうに気さくに話しかけてくる知り合い、優しい声で話しかけてくる知り合い、キモオタデブスだった頃の俺には居ない。人違いを確信する。

「あの……多分」

「なんだよ緊張してんのか? 今起きるから……あれ」

俺と彼は同時に彼がベッドに拘束されていることを知った。自殺対策なのだろうか。

「え?」

肘下数センチから先がない右腕の先端を見つけだ彼は、包帯の隙間から僅かに見えている目を見開き、左手でそこを掴んだ。

「えっ? な、何っ、なんで、もっとあった、俺の手なんで…………あ、ぁ、あぁあああああっ!?」

大声で叫びながら左手で右手の先端を引っ掻き始めた。

「……っ!」

右手の包帯がほどけて再び血が滲んだのが見えて俺は咄嗟にナースコールを押し、彼の左手首を掴んで押さえ付けた。

「ちがうっ、ちがうぅっ! 俺、おれっ、あんなことしたかったんじゃ、ぁああぁああっ! なんでっ、やだ、ちがうっ!」

「落ち着いてください! 落ち着いて!」

「お、おれっ、ま、まもっ、守りたくてっ、なのにっ、だって裏切るからっ、ちが、ぁ、あぁっ! ごめっ、ちが、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺が悪いっ、全部俺がぁっ!」

「落ち着いてくださいって!」

バタバタと足音が近付いてくる。看護師が数人入ってきて、俺は病室の外に出された。俺は自分が救った人がどんな具合が気になってつい探してしまい、彼が右手を引っ掻いていたので止めたのだと不足が過ぎる説明を行った。無意識の保身だったのだろう。



腹と胸をベッドに固定する拘束に加えて腕の拘束が足されたらしい。

「…………」

看護師は秘密なんだけどと言って彼のことを少し教えてくれた。大きなトラックに轢かれて大怪我をししたこと、事故の影響なのか今は記憶が混濁しているらしいということ──なるほど、それで俺を誰かと間違えていたのか。

「助けてくれてありがとうね。心と体が健康になったらまた会ってあげて、その頃にはあなたにお礼を言いたくなっているだろうから」

「…………はい」

帰ったら表彰を辞退する方法を調べよう。アキの付き添いは次から断ろう。病院からの電話には出ないようにしよう。俺は美少年ハーレムを作って気楽に幸せに生きていきたい、人の生死になんて関わりたくない。
壮絶な人生を送る名も知らぬ人には、どうか幸せになれますようにと雑なお祈りでもしておこう。

「……っと、電話か」

スマホが震えた。電話可能なスペースに移動し、電話に出る。

『にーに、どこ居るするです? ぼく検査終わるするしたです。にーに怪我治すするまだです?』

「ごめんごめん、すぐそっち行くよ」

可愛い弟の可愛い声を聞き、俺は美少年好きの超絶美形の総攻め様へと意識を切り替えた。胸の痛みを感じながら。
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