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決死の電話
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すっかり風邪が治ったアキの隣で朝食のトーストを齧る。
「水月、前から言ってた通り今日は私葉子とデートしてくるから、好きなようにパーティしていいわよ」
「ありがとうございまそ」
「帰ってきた時に散らかりっぱなしだったら、分かってるわね?」
「はい……」
「昨日みたいに警察沙汰になったらもう二度とパーティさせないわよ。ホントにびっくりしたんだから……」
「お騒がせしました。いやぁ誕生日プレゼントを探していたらついついあんな時間に」
この言い訳は昨日パトカーの中で考えたものだ。母は疑っていたようだが、嘘だろうとまでは言われずなぁなぁになっている。
「唯乃、私そろそろ……」
「あぁ、うん。行ってらっしゃい、また後でね」
食後のコーヒーを飲み終えた義母はダイニングを出ていった。部屋に戻ったようだ。
「……デートでは?」
「デートの前にエステ行きたいって言い出してね。一番綺麗な姿でデートしたいってことよ、可愛いわよねぇ。家から一緒なのもいいけど、待ち合わせってのもオツなものよ」
「ほぉー……ママ上はエステとか行きませんのん?」
「いいこと? 水月。私達はエステ如きでちょっと綺麗になるとかならないとか、そういう次元に居ないのよ」
まぁ確かに、浮腫も肌荒れもないからな……
「アンタの彼氏ちょっと見たいし、もうしばらく家に居るわ」
「昼前集合ですから結構時間ありますが」
と話している最中、スマホが鳴った。表示されているのは知らない番号だ。
「彼氏?」
「いえ、知らない番号ですな。もしもしー?」
「知らない番号躊躇なく出るんじゃないわよ」
浅く、速過ぎる呼吸音だけが聞こえてくる。泣くのが下手な少年のような、過呼吸になっているような、そんな音だ。再会したばかりの頃のセイカがよくこんな泣き方をしていた。
「……っ、ちょっと失礼します」
「水月?」
俺は駆け足で自室に戻り、呼吸を落ち着けてからスマホの向こうの人物に語り掛けた。
「…………セイカか?」
『……っ、申し訳、ありませ…………こちら、鳴雷様の携帯電話で間違いないでしょうか』
「は、はい。すいません、人違いを……どちら様でしょう」
セイカじゃない、声が少し違う。
『申し遅れました……狭雲 星炎です。以前お会いしましたが、覚えてくださっていますでしょうか』
「ほむらくん? セイカの弟の……うん、覚えてるよ。どうしたんだ? なんで電話番号……セイカに聞いたのか? セイカ大丈夫なのか? セイカどうしてるんだ?」
つい質問攻めにしてしまうとまた不規則な呼吸音が聞こえてきた、しっかりしているからと失念していたが彼はまだ中学生だ。しかも泣いている真っ最中、聞き方には気を付けなければ。
「ごめん、今のなし。えっと……ほむらくん、なんで、俺に、電話、掛ける、した?」
アキと話す時の言い方をしてしまった。
『た、助けて……欲しく、てっ…………ぁ、兄様……兄様が、死んじゃいそうでっ……母様に頼んでも、父様に言ってもダメでっ……僕、じゃ……なにもっ……』
「……兄様ってセイカのことだよな? 何があったんだ?」
逸る気持ちを抑え、怒鳴りそうになる口を一旦閉じ、深呼吸をしてから尋ねた。
『じゅ、住所っ……住所を言うので、来てくれませんかっ? 母様が買い物に行っている間に……あとっ、三十分くらいで帰って、きます……』
「…………分かった。メモする、ゆっくり言ってくれ」
泣きじゃくりながらも必死に伝えてくれた住所をメモし、部屋を出た。
「ママ上! ちょっと彼氏のお迎え行ってきますぞ!」
「やっぱ彼氏だったの?」
「はい、えーと、スマホ修理中でご兄弟の借りてたらしくて」
「ふーん……? 部屋行かなくてもいいのに」
「はは……行ってきますぞ!」
気の抜けた「行ってらっしゃい」を背に受け、駅へと走る。
「今家出た。何があったか説明してくれるか?」
『な、何……何が? とは、えっと……』
「……セイカに何かあったんだろ? 教えてくれよ」
『ぁ、あに……あにさま、兄様、が……死んじゃう』
「……っ、だからなんで! 死んじゃいそうなんだよって聞いてんですけど!」
声が裏返ってしまった。セイカによく似た唸るような泣き慣れていない下手くそな泣き声に胸がきゅっと締め付けられる。
「ご、ごめん! ごめん大声出して、怒ってない、怒ってないから、大丈夫、ゆっくり話してくれ」
『ぁ、あに、あにさま、あにさま……が』
「うん、セイカが?」
『ぬい、ぐるみっ? 捨て、なくて』
ぬいぐるみ? 俺が贈ったテディベアのことだろうか。捨てない、とは?
「捨てろって誰かに言われたのか?」
『母様、が……』
「お母さんが? なんで?」
『……ぬいぐるみ、捨てないと……ご飯……ダメ、て…………なのに、兄様、ぬいぐるみ……』
「…………ごめん、電車乗るからちょっと切るぞ」
電話を切り、電車に乗る。ガラガラの車内を軽く見渡し、深いため息をつきながら椅子に腰を下ろす。家に来る予定の彼氏達に何か言っておいた方がいいかな、とか、セイカは大丈夫なのかな、とか、色々考える。
「…………」
ご飯、ダメ……って何だ? 食事を与えられていないということか? 何故? テディベアがセイカの母の気に障った? そんな理由で息子に食事を与えないなんてありえるか? ホムラは今の今まで飢えていく兄を放置していたのか? どうして? いや、ホムラは責める対象じゃない。彼は勇気を出してくれた。それが遅かろうとまずは称えるべきだ。
憎むべきは、顔も声も名前も知らない女ただ一人。いや、あまり話に出ないから忘れかけていたが、男もだな。
「水月、前から言ってた通り今日は私葉子とデートしてくるから、好きなようにパーティしていいわよ」
「ありがとうございまそ」
「帰ってきた時に散らかりっぱなしだったら、分かってるわね?」
「はい……」
「昨日みたいに警察沙汰になったらもう二度とパーティさせないわよ。ホントにびっくりしたんだから……」
「お騒がせしました。いやぁ誕生日プレゼントを探していたらついついあんな時間に」
この言い訳は昨日パトカーの中で考えたものだ。母は疑っていたようだが、嘘だろうとまでは言われずなぁなぁになっている。
「唯乃、私そろそろ……」
「あぁ、うん。行ってらっしゃい、また後でね」
食後のコーヒーを飲み終えた義母はダイニングを出ていった。部屋に戻ったようだ。
「……デートでは?」
「デートの前にエステ行きたいって言い出してね。一番綺麗な姿でデートしたいってことよ、可愛いわよねぇ。家から一緒なのもいいけど、待ち合わせってのもオツなものよ」
「ほぉー……ママ上はエステとか行きませんのん?」
「いいこと? 水月。私達はエステ如きでちょっと綺麗になるとかならないとか、そういう次元に居ないのよ」
まぁ確かに、浮腫も肌荒れもないからな……
「アンタの彼氏ちょっと見たいし、もうしばらく家に居るわ」
「昼前集合ですから結構時間ありますが」
と話している最中、スマホが鳴った。表示されているのは知らない番号だ。
「彼氏?」
「いえ、知らない番号ですな。もしもしー?」
「知らない番号躊躇なく出るんじゃないわよ」
浅く、速過ぎる呼吸音だけが聞こえてくる。泣くのが下手な少年のような、過呼吸になっているような、そんな音だ。再会したばかりの頃のセイカがよくこんな泣き方をしていた。
「……っ、ちょっと失礼します」
「水月?」
俺は駆け足で自室に戻り、呼吸を落ち着けてからスマホの向こうの人物に語り掛けた。
「…………セイカか?」
『……っ、申し訳、ありませ…………こちら、鳴雷様の携帯電話で間違いないでしょうか』
「は、はい。すいません、人違いを……どちら様でしょう」
セイカじゃない、声が少し違う。
『申し遅れました……狭雲 星炎です。以前お会いしましたが、覚えてくださっていますでしょうか』
「ほむらくん? セイカの弟の……うん、覚えてるよ。どうしたんだ? なんで電話番号……セイカに聞いたのか? セイカ大丈夫なのか? セイカどうしてるんだ?」
つい質問攻めにしてしまうとまた不規則な呼吸音が聞こえてきた、しっかりしているからと失念していたが彼はまだ中学生だ。しかも泣いている真っ最中、聞き方には気を付けなければ。
「ごめん、今のなし。えっと……ほむらくん、なんで、俺に、電話、掛ける、した?」
アキと話す時の言い方をしてしまった。
『た、助けて……欲しく、てっ…………ぁ、兄様……兄様が、死んじゃいそうでっ……母様に頼んでも、父様に言ってもダメでっ……僕、じゃ……なにもっ……』
「……兄様ってセイカのことだよな? 何があったんだ?」
逸る気持ちを抑え、怒鳴りそうになる口を一旦閉じ、深呼吸をしてから尋ねた。
『じゅ、住所っ……住所を言うので、来てくれませんかっ? 母様が買い物に行っている間に……あとっ、三十分くらいで帰って、きます……』
「…………分かった。メモする、ゆっくり言ってくれ」
泣きじゃくりながらも必死に伝えてくれた住所をメモし、部屋を出た。
「ママ上! ちょっと彼氏のお迎え行ってきますぞ!」
「やっぱ彼氏だったの?」
「はい、えーと、スマホ修理中でご兄弟の借りてたらしくて」
「ふーん……? 部屋行かなくてもいいのに」
「はは……行ってきますぞ!」
気の抜けた「行ってらっしゃい」を背に受け、駅へと走る。
「今家出た。何があったか説明してくれるか?」
『な、何……何が? とは、えっと……』
「……セイカに何かあったんだろ? 教えてくれよ」
『ぁ、あに……あにさま、兄様、が……死んじゃう』
「……っ、だからなんで! 死んじゃいそうなんだよって聞いてんですけど!」
声が裏返ってしまった。セイカによく似た唸るような泣き慣れていない下手くそな泣き声に胸がきゅっと締め付けられる。
「ご、ごめん! ごめん大声出して、怒ってない、怒ってないから、大丈夫、ゆっくり話してくれ」
『ぁ、あに、あにさま、あにさま……が』
「うん、セイカが?」
『ぬい、ぐるみっ? 捨て、なくて』
ぬいぐるみ? 俺が贈ったテディベアのことだろうか。捨てない、とは?
「捨てろって誰かに言われたのか?」
『母様、が……』
「お母さんが? なんで?」
『……ぬいぐるみ、捨てないと……ご飯……ダメ、て…………なのに、兄様、ぬいぐるみ……』
「…………ごめん、電車乗るからちょっと切るぞ」
電話を切り、電車に乗る。ガラガラの車内を軽く見渡し、深いため息をつきながら椅子に腰を下ろす。家に来る予定の彼氏達に何か言っておいた方がいいかな、とか、セイカは大丈夫なのかな、とか、色々考える。
「…………」
ご飯、ダメ……って何だ? 食事を与えられていないということか? 何故? テディベアがセイカの母の気に障った? そんな理由で息子に食事を与えないなんてありえるか? ホムラは今の今まで飢えていく兄を放置していたのか? どうして? いや、ホムラは責める対象じゃない。彼は勇気を出してくれた。それが遅かろうとまずは称えるべきだ。
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