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恋人の弟
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サウナとはただ暑いだけの部屋ではなかった。いい香りのする水を蒸気に変えて更に温度を上げ、葉っぱの塊で全身を叩かれる苦行じみた行為をサウナと呼ぶ……らしい、少なくともアキは。
「にーに、ばーにゃ好きです?」
「バーニャ……サウナのことだよな? うーん……今のとこ嫌い……」
「……残念です。にーに、いつも、一緒入るする、する欲しいでした」
「今のところ、だからな」
巷ではサウナに入ると「ととのう」と噂されている。アレはサウナに入っている最中のことではない、身体を冷やして「ととのう」を体験してから次回以降を考えよう。
「出るするです?」
「うん……」
こんな命の危機を感じるような行為が身体にいいとは思えないな、と疑いつつサウナを出た。アキはすぐにプールに飛び込んで俺に手招きをした。
「……っ、冷たぁっ……!」
火照った身体が急速に冷えていく。心臓が騒ぐ。何度でも言おう、本当にこれが身体にいいのか?
「はぁ……」
心臓に悪い気はするけれど、熱い身体を冷やすのは気持ちいい。
「にーに、出るするです」
「んー? もう出るのか? お兄ちゃんこっちならもっと入ってられるんだけどなぁ」
身体が冷え切る前にアキにプールを出るように言われ、促されるままにプールサイドに置かれたベッドに横たわった。しばらくすると鼓動が落ち着いてくる。
「ぁー……なんか、気持ちいい……なんだろこれ」
アキも俺と同じように俺の隣に寝転がっている。赤い瞳は瞼の下に隠されており、俺も裸のアキという素晴らしいものを眺めるのをやめてリラックスのため目を閉じた。
「これが……ととのう……?」
睡眠と覚醒の狭間、筆舌に尽くし難い心地良さを味わった。
ととのいタイムを終えてシャワーを浴びてアキの部屋に戻った。トレーニング後とは思えないスッキリとした気分だ、サウナすごい。
「質のいい温泉入った後みたいな……ちょっと違うかな。疲れてるんだけどなんかサッパリスッキリしてて……いやーいいなぁサウナ、好きだよ。えーっと……アキ、俺、バーニャ? 好き」
「にーに好きです? 嬉しいです! にーに、一緒入るする、いつもです」
「……あぁ、また一緒に入ろう」
「にーに、ばーにゃ好きする、よかったです。ぼく、寂しいするしないです」
昨日セイカの見舞いに行った時に話していても思ったが、アキは本当に寂しがりな性格のようだ。色素欠乏症のせいでろくに外で遊べず、学校はイジメが原因で辞めてしまって、両親との関係も手放しに良いとは言えず……出来たばかりの兄に依存するのも納得だ。
「…………アキ、おいで」
その新雪のような髪や肌と同じ、彩られなかった今までのアキの人生を憐れみ、腕を広げた。アキはすぐに俺の腕の中に飛び込んで満面の笑みで俺を見上げた。
「にーにぃ! えへへ……にーに、ぼく、にーに、好きです」
「オゥフ……俺もアキが大好きだよ」
こんなにも可愛らしい子が俺の弟だなんて、やはり俺は前世で銀河を救った英雄だったに違いない、今世の幸福はそのご褒美だ。
昼過ぎまでアキと楽しく過ごした俺は私服に着替えて家を出た。昨日セイカに聞いておいたホムラが通う中学校へと向かい、校門近くで待った。
(……反社風の方の気持ちが分かりますなぁ)
まだホームルーム中なのだろう中学校はとても静かで、今日は休校ではないかなんて不安が湧いた。俺を執拗につけ回すあの刺青男も似た気持ちだったのだろうか、なんて大した意味のないことを考えていると校門の脇の小さな扉が開いた。
「君、そこで何してるの」
この学校の用務員のようだ、怪しまれているのだろうか。落ち着け、俺は超絶美形、爽やかな微笑みを忘れなければ信用を勝ち取れるアドバンテージを持っている。中学時代のキモオタデブスはもう居ないのだ。
「鳴雷と申します。この学校の狭雲という生徒の兄の友人です。この度その兄が入院しまして、その関係で彼の家に人が居ない状態になりまして……私達は家族ぐるみの付き合いでして、こういった場合は互いの家で預かるようになっていまして、彼はスマホを持っておらず連絡手段がないので迎えに来たんです」
「…………この暑いのに外で待ってちゃ倒れちゃうよ、中においで」
用務員の待機所のような小さな小屋に招かれた。空調はないようだが扇風機はある、直射日光の下よりはマシだろう。
「その狭雲くんは何年何組?」
「えーっと……確か──」
念の為に昨日セイカから聞いておいてよかった。学年と組を伝えると用務員は内線を掛け、それから数分後チャイムが鳴り響き、更に数分後教師に連れられてホムラが用務員室に現れた。
「あ……鳴雷さん」
「……知ってる人?」
隣に居るおそらく担任教師だろう男は訝しげな目で俺を見ている。
「はい、兄の恋人です」
「えっ……あ、あぁ……そうなんだ」
「どうされたんですか? 鳴雷さん」
「……お兄さんに頼まれて迎えに来たんだよ」
セイカに似たジトッとした目付き、上品な和風の顔立ち、それらは俺の庇護欲を掻き立てる。セイカよりも幼い顔をした彼が目を丸くする様子は微笑ましい。
「ありがとうございます、鳴雷さん」
聞き分けが良くて助かる、俺を怪しんでいた教師達の前に長居はしたくない。
「じゃ、おいで」
「はい。先生、用務員さん、さようなら」
「あぁ、また明日」
ホムラを連れて校門を抜けた瞬間、俺は深いため息をついた。
「はぁ……ミッションコンプリート」
「鳴雷さん、兄様はどうしていますか?」
「断薬の影響が酷かったから入院中。ホムラくんはどうしてたの? いつの間にか居なくなってたからびっくりしたよ、まさかあの状態でも学校に行くほどいい子だとは思ってなくて……舐めてたよ正直」
「驚かせてしまい申し訳ありません。七夕の次の日、鳴雷さんの家から直接学校に行きました。制服や荷物はありませんでしたが家に戻るのは嫌だったので、保健室で体操服を借りて教科書類も他クラスの知人に借りて……少し大変でした」
「お疲れ様。その後は? なんで帰ってこなかったの?」
「……僕が家から居なくなったと母は学校に連絡をしていたようで、学校まで迎えに来られてしまって……それからは普通に、いつも通りに……鳴雷さん、ありがとうございます。帰りたくなかったんです、僕……痛いの、もう…………前は、何ともなかったのに」
次第に声を小さくし、俯いていくホムラを見下げ、俺は昨日セイカに言われるまで彼のことを忘れていた自分を恥じた。
(はぁー……ほんっと、ホントわたくしダメ人間……セイカ様で頭がいっぱいだったからってぁああー! ごめんなさいほむほむぅ……)
帰宅して一番にやるべきは虐待の傷跡の手当てだな、救急箱の中身は万全だっただろうか。薬局に寄るべきかな。
「……ホムラくん、アイスとかお菓子とか欲しくない? 今から薬局寄りたいんだけど、ついでにおやつも買っていこうと思っててさ。ホムラくんのも買ったげるから好きなの考えておきな」
自分の罪悪感を軽くする為のお詫びもしておこう。
「にーに、ばーにゃ好きです?」
「バーニャ……サウナのことだよな? うーん……今のとこ嫌い……」
「……残念です。にーに、いつも、一緒入るする、する欲しいでした」
「今のところ、だからな」
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「出るするです?」
「うん……」
こんな命の危機を感じるような行為が身体にいいとは思えないな、と疑いつつサウナを出た。アキはすぐにプールに飛び込んで俺に手招きをした。
「……っ、冷たぁっ……!」
火照った身体が急速に冷えていく。心臓が騒ぐ。何度でも言おう、本当にこれが身体にいいのか?
「はぁ……」
心臓に悪い気はするけれど、熱い身体を冷やすのは気持ちいい。
「にーに、出るするです」
「んー? もう出るのか? お兄ちゃんこっちならもっと入ってられるんだけどなぁ」
身体が冷え切る前にアキにプールを出るように言われ、促されるままにプールサイドに置かれたベッドに横たわった。しばらくすると鼓動が落ち着いてくる。
「ぁー……なんか、気持ちいい……なんだろこれ」
アキも俺と同じように俺の隣に寝転がっている。赤い瞳は瞼の下に隠されており、俺も裸のアキという素晴らしいものを眺めるのをやめてリラックスのため目を閉じた。
「これが……ととのう……?」
睡眠と覚醒の狭間、筆舌に尽くし難い心地良さを味わった。
ととのいタイムを終えてシャワーを浴びてアキの部屋に戻った。トレーニング後とは思えないスッキリとした気分だ、サウナすごい。
「質のいい温泉入った後みたいな……ちょっと違うかな。疲れてるんだけどなんかサッパリスッキリしてて……いやーいいなぁサウナ、好きだよ。えーっと……アキ、俺、バーニャ? 好き」
「にーに好きです? 嬉しいです! にーに、一緒入るする、いつもです」
「……あぁ、また一緒に入ろう」
「にーに、ばーにゃ好きする、よかったです。ぼく、寂しいするしないです」
昨日セイカの見舞いに行った時に話していても思ったが、アキは本当に寂しがりな性格のようだ。色素欠乏症のせいでろくに外で遊べず、学校はイジメが原因で辞めてしまって、両親との関係も手放しに良いとは言えず……出来たばかりの兄に依存するのも納得だ。
「…………アキ、おいで」
その新雪のような髪や肌と同じ、彩られなかった今までのアキの人生を憐れみ、腕を広げた。アキはすぐに俺の腕の中に飛び込んで満面の笑みで俺を見上げた。
「にーにぃ! えへへ……にーに、ぼく、にーに、好きです」
「オゥフ……俺もアキが大好きだよ」
こんなにも可愛らしい子が俺の弟だなんて、やはり俺は前世で銀河を救った英雄だったに違いない、今世の幸福はそのご褒美だ。
昼過ぎまでアキと楽しく過ごした俺は私服に着替えて家を出た。昨日セイカに聞いておいたホムラが通う中学校へと向かい、校門近くで待った。
(……反社風の方の気持ちが分かりますなぁ)
まだホームルーム中なのだろう中学校はとても静かで、今日は休校ではないかなんて不安が湧いた。俺を執拗につけ回すあの刺青男も似た気持ちだったのだろうか、なんて大した意味のないことを考えていると校門の脇の小さな扉が開いた。
「君、そこで何してるの」
この学校の用務員のようだ、怪しまれているのだろうか。落ち着け、俺は超絶美形、爽やかな微笑みを忘れなければ信用を勝ち取れるアドバンテージを持っている。中学時代のキモオタデブスはもう居ないのだ。
「鳴雷と申します。この学校の狭雲という生徒の兄の友人です。この度その兄が入院しまして、その関係で彼の家に人が居ない状態になりまして……私達は家族ぐるみの付き合いでして、こういった場合は互いの家で預かるようになっていまして、彼はスマホを持っておらず連絡手段がないので迎えに来たんです」
「…………この暑いのに外で待ってちゃ倒れちゃうよ、中においで」
用務員の待機所のような小さな小屋に招かれた。空調はないようだが扇風機はある、直射日光の下よりはマシだろう。
「その狭雲くんは何年何組?」
「えーっと……確か──」
念の為に昨日セイカから聞いておいてよかった。学年と組を伝えると用務員は内線を掛け、それから数分後チャイムが鳴り響き、更に数分後教師に連れられてホムラが用務員室に現れた。
「あ……鳴雷さん」
「……知ってる人?」
隣に居るおそらく担任教師だろう男は訝しげな目で俺を見ている。
「はい、兄の恋人です」
「えっ……あ、あぁ……そうなんだ」
「どうされたんですか? 鳴雷さん」
「……お兄さんに頼まれて迎えに来たんだよ」
セイカに似たジトッとした目付き、上品な和風の顔立ち、それらは俺の庇護欲を掻き立てる。セイカよりも幼い顔をした彼が目を丸くする様子は微笑ましい。
「ありがとうございます、鳴雷さん」
聞き分けが良くて助かる、俺を怪しんでいた教師達の前に長居はしたくない。
「じゃ、おいで」
「はい。先生、用務員さん、さようなら」
「あぁ、また明日」
ホムラを連れて校門を抜けた瞬間、俺は深いため息をついた。
「はぁ……ミッションコンプリート」
「鳴雷さん、兄様はどうしていますか?」
「断薬の影響が酷かったから入院中。ホムラくんはどうしてたの? いつの間にか居なくなってたからびっくりしたよ、まさかあの状態でも学校に行くほどいい子だとは思ってなくて……舐めてたよ正直」
「驚かせてしまい申し訳ありません。七夕の次の日、鳴雷さんの家から直接学校に行きました。制服や荷物はありませんでしたが家に戻るのは嫌だったので、保健室で体操服を借りて教科書類も他クラスの知人に借りて……少し大変でした」
「お疲れ様。その後は? なんで帰ってこなかったの?」
「……僕が家から居なくなったと母は学校に連絡をしていたようで、学校まで迎えに来られてしまって……それからは普通に、いつも通りに……鳴雷さん、ありがとうございます。帰りたくなかったんです、僕……痛いの、もう…………前は、何ともなかったのに」
次第に声を小さくし、俯いていくホムラを見下げ、俺は昨日セイカに言われるまで彼のことを忘れていた自分を恥じた。
(はぁー……ほんっと、ホントわたくしダメ人間……セイカ様で頭がいっぱいだったからってぁああー! ごめんなさいほむほむぅ……)
帰宅して一番にやるべきは虐待の傷跡の手当てだな、救急箱の中身は万全だっただろうか。薬局に寄るべきかな。
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