冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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昔と今と

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セイカは過去に俺を虐めたことをアキに話すと決断した。覚悟を決めた高潔な視線からは彼が成長したがっているように感じた。死にたがっていた彼は、立ち止まって腐ろうとしていた彼は、もう居ない。たとえアキに嫌われたとしても俺が萌えるようなぐずぐずした態度は見せないかもしれない、彼はもう常に前を向いているのかも──

「……やっぱりやめようかな。秋風に嫌われたらこの家気まず過ぎる」

──考え過ぎか。

「ゃ、でも、そろそろほむら出ていくし……鳴雷が居ない間は鳴雷の部屋で一人で待ってりゃいいだけだよな。秋風も前までそうしてたんだし……よしっ」

まだぐずぐずもだもだはしてしまうようだが、セイカは覚悟を決めてドアノブをひねった。直後、下着姿の秋風に飛びつかれ、抱き締められ、硬直した。

《おかえりスェカーチカ! 寂しかったぁ……》

《………………た、ただいま。びっくりしたー……》

「にーに! おかえりなさいです、ぼく一人長いするです、寂しいするです、にーに、ぼく、ぎゅーするです」

「ふふっ、そうだな。ぎゅーしないといけないな……」

セイカとのハグを終えて無邪気に俺とのハグを求めたアキを抱き締め、この屈託のない笑みがセイカのカミングアウトによって消えてしまうかもしれないと思うと、セイカを止めたいという考えが頭の中をぐるぐると走り出した。

《何買ってきたんだ? 服? スェカーチカずっと兄貴の服着てたもんな》

《……話したいことがあるんだ》

《何ー?》

《俺の……俺と鳴雷の、昔の話だ。真面目な話。真面目に聞いてくれ》

セイカの声がいつもより少し低い、アキの表情がスンっと冷たくなった。ロシア語が分からない俺には彼らの機微に注意を払うことしか出来なかった。

《……座ろうか。えっと……どこから話そうかな》

二人はベッドに腰を下ろした。俺は床にクッションを置いてその上に座り、今日買ったセイカの衣類に付いたタグ取りを始めた。何かしていないと落ち着かないのだ。

《俺、鳴雷と中学の頃同級生だったんだ。最初の頃は仲良くってさ……鳴雷虐められそうなヤツだったから、俺が相手してターゲットにならないように誘導しててさ……でな》

落ち着いた声色だ、アキも口を挟まずに聞いている。いや、しかし、見ているのかもしれない。

《俺の母親は完璧じゃないとダメって感じの人で、俺はテストで九十九点取ったりする度に殴られたんだ、色んなもので。鳴雷は俺より成績悪かったから、俺より酷い折檻受けてると思ってたんだけど……俺が受けてたのは虐待で、鳴雷が母親と仲良くしてるの見てムカついて……虐めたんだ》

《虐めた?》

《お前の兄貴を……俺、中学の頃ずっと虐めてたんだ。たくさん酷いことした、殴ったり蹴ったり、金盗ったり……ちょっとロシア語での表現まだ分からないような酷いことも、したんだ》

《ふーん》

《鳴雷はただ普通に母親に可愛がられてただけなのにっ、鳴雷もお揃いの孤独であって欲しかったなんて、そんな理由で俺っ……!》

セイカは話しているうちに段々と涙目になっていった、アキは相変わらず氷のように冷たい顔のままで少し怖い、既にセイカを嫌悪しつつあるのか?

《……ごめん、取り乱して。話、終わり。俺は昔鳴雷に酷いことしたってこと、知ってて欲しかったんだ》

目を擦って無理矢理泣き止もうとするセイカの手を掴み、首を横に振る。そんなに目を擦っては目を痛めるよと仕草で伝える。

「話したのか?」

「うん……終わった」

「アキはなんて?」

「まだ、何も……嫌われたかなっ?」

ポロポロと涙が溢れる。俺が居ればそれでいいなんて言っていたけれど、セイカはやはりアキのことも大好きなようだ。イジメに遭った経験のあるアキには難しいかもしれないが、セイカを受け入れてこれまで通り過ごして欲しい──と祈っていると、セイカの手を掴んでいた手がアキに払われた。

「……ア、アキ?」

イジメっ子なんかに触るなということだろうか、そんな予想はアキがセイカを抱き締めたことで否定された。

「にーに、すぇかーちか泣くするさせるです、またです」

お兄ちゃんったらまたセイカを泣かせて! って感じ? あれ? 昔話したんじゃないの?

「セイカ? アキ……対応変わらなさ過ぎるけど」

ポロポロと涙を零しながらセイカはぽかんと目と口を開いていたが、俺が話しかけるとハッとしてロシア語を話し始めた。

《秋風、俺はお前の兄貴虐めてたんだぞ》

《おぅ、聞いたぜ》

《……伝わってるよな? 俺言葉間違えたか? 俺はお前の兄貴に酷いことしてたんだって……そんな、そんなヤツに、なんで優しくしてんだよっ……俺のこと嫌いになっただろ?》

《泣くなよスェカーチカ》

濡れた頬に唇を寄せるアキはそのまま宗教画に出来そうなほど美しい。まさに天使だ。

《なんで……》

《当の本人がスェカーチカのこと大好きなんだから、もう解決してんだろ? そん時の兄貴知ってて、兄貴がボロボロにでもなってたんなら恨んでたりしたかもだけど、俺兄貴がどうなってたか知らねぇし》

《……酷いことしたんだってば、いっぱい殴ったんだって》

《いくら言ったって俺はスェカーチカのこと嫌いになったりしないぞ? 昔どんなヤツだったって、俺のために傘差しくれたり、俺と話すためだけにロシア語習得してくれたスェカーチカは、今はイイヤツだ。大好きだぞっ、可愛い可愛いスェカーチカ》

「……っ、ぅ……う、ぅう……ぅ、あぁ……」

《うわ大号泣、泣くなよスェカーチカ……よしよし》

何を話していたかは全く分からなかったが、本格的に泣き出したセイカをアキが慰めているようだから、多分上手くいったのだろう。

(アキきゅんは過去にこだわらない男だった、ということでしょうか)

安堵のため息をつくとアキの視線がこちらに向いた。

「にーに、にーに、すぇかーちか、好きです?」

「……大好きだよ、昔は辛かったけど……今は大好き」

アキは満面の笑みを浮かべてセイカを強く抱き締めた。被害者が許しているなら許すとか、そういう考え方なのかな……?

「イジメっ子の顎割ったとか聞いてたからちょっと怖かったよ」

《イジメっ子の、ひっく……顎、割ったって聞いてたから、ぐすっ……不安だったって》

《兄貴が復讐して欲しいって言うならやるけど》

「鳴雷がっ……ぅう、ひっく……復讐して欲しいなら、やるって」

「やっぱり結構ドライだよな……」

泣きながらも通訳の役割を果たすセイカが健気で可愛くて、復讐なんてする気は起きない。するとしても愛する弟にやらせたりしない。

(どんなことでも当事者の意志を尊重するってのはやっぱ大事ですな)

俺は一人で溜め込んでしまうタイプだから、ハルのように心配するなと言っても心配してくれる人も必要だけれど、同居している以上はアキがドライで助かった。
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