冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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レイを渡すつもりなんてないけれど、どうすればいいのか思い付かない。

「狭雲さんを分捕った時みたいに何とか出来ませんか?」

「いや……うーん……どうだろう」

男子高校生が何人集まって何時間悩んでも出ない解決策を、母なら数秒で導き出せるだろうという信頼はある。

「……サン、ボスって表の仕事何か分かる?」

「さぁ……」

母の仕事仲間だろう穂張組の上に立つ者が、母の部下なのであれば母がソイツ越しに元カレをねじ伏せてくれるかもしれない。

(上司の唯乃さんの息子さんにこれ以上迷惑かけるなって怒られたり……したら、諦めるんでしょうか? いやぁ……親戚に怒られて諦めるなら、今日みたいなことになってないでしょう)

やっぱり俺では解決策は出せない。他力本願前提でも出せない。

「……ご飯食べよっか! お腹空いてちゃ何も浮かばないよね、何食べたい?」

サンがパンッと手を叩いて空気を変えた。

「とにかくいっぱい食べたいですね、運動をしたのでお腹が好きました」

「今回の功労者のアキくんに決めてもらおうやないの。せーかぁ、頼むわ」

《秋風、昼飯何食べたい? って》

《……お腹痛いからいらない》

「え……い、いらないって。お腹痛いって……」

「ほぉか……殴られとったもんなぁ」

シュカ程ではないがそこそこ食いしん坊なアキが昼飯を抜くだなんてただ事ではない。かなり腹が痛いのだ、可哀想に、俺がもっと強ければアキにあんな危険な役割を背負わせることなんてなかったのに。

「じゃあ水月、何食べたい?」

「俺もあんまり食欲ないんだよなぁ、全身痛くって……でもお腹は空いてる」

「食べやすいもんがええんちゃう?」

「なるほどねぇ、焼肉屋行く?」

一体何を聞いていたんだ? 食欲がないと、食べやすいものにしようかと、たった今話したじゃないか。

「いや、食べやすいもん……」

「お茶漬けとかあるじゃん」

「焼肉屋のお茶漬け美味しいんですよね」

「ねー。ボクお肉食べたいし」

「何食べたい聞いといてからに」

マイペースなサンに癒される。弟っぽいと言うべき要素なのかな? 大人っぽさも子供っぽさも見せてくれるサンに俺は魅せられっぱなしだ。

「いいな、焼肉。食欲出てきたよ」

「ほんとっ? やった、じゃあ行こう」

「ええのん? 腹大丈夫か?」

「うん、見ろよ……サンの可愛い顔。癒される……」

「……調子はいつも通りみたいで安心するわ。顔殴られてしもぉたみたいやけど、口ん中切れてへん? 食べたら染みんで」

「んー、まぁ大丈夫だろ」

吐いてしまったせいか腹はとても減っている。そういえば朝食はサンが作ってくれたフレンチトーストだったな。それを吐いてしまうなんて情けない、元カレ許すまじ。

「大人数だし先に電話しなきゃね、何人居たっけ?」

「七人です。私は三人分食べるので九人です」

「OK」

呼び出し音が鳴るとみんな黙った、マナーのいい彼氏達だ。静かになった部屋にインターホンの音が響いた。

「……! ま、まさか……」

「…………俺見てくる」

「私も行きます」

元カレがここを見つけたのではないかと全員が思っただろう。俺とシュカは足音を立てずに玄関へ向かい、覗き窓からそっと外の様子を確認した。

「……誰ですか?」

外を見た俺にはシュカのヒソヒソ声が可愛らしいと思う余裕が出来た。

「フタさんだ。サンさんのお兄さん」

「……学校の前で会った方ですか」

「そうそう。あの後お兄さんにめちゃくちゃボコられたみたいだし、許してやったんだよな? その話は蒸し返すなよ……こんにちは!」

扉を開けるとフタは硬直した。

「…………タイム!」

かと思えば両手でTを作り、そう叫んだ。スマホを取り出し数秒操作し、俺を指差した。

「なるかみみつき!」

「……せっ、正解!」

「よっしゃあ! 何、今日も遊びに来てんの? 仲良いな~、兄貴的には嬉しいぜぇ」

「そんなとこです。サンさんはこっちですよ」

「おー……アンタ誰?」

フタはシュカを訝しげな目で見つめている。

「はぁあ!?」

「お、落ち着け落ち着け。人の顔覚えるの苦手なんだこの人」

「ま、いいや。俺急いでるし。サン~、サンちゃーん」

寝室の扉が開き、サンが顔を出す。どうやら予約の電話はもう終わっていたらしい。

「兄貴? どうしたの」

「ボスに渡すヤクちょうだい、どうせ盗んでったのサンっしょ?」

「……事務所の方にちょっと残しておいたと思うんだけど」

「隠し場所忘れた」

「もー……そうなると思った。よかったよ、残しておいて。取ってくるからちょっと待ってて」

ヤクとは以前俺もフタも盛られた睡眠薬だろうか。ボス……居るのか? 今、事務所に。それとも送る手筈が整った? これからフタが届けに行くのか?

「なんかいっぱい居る。みんなサンの友達?」

学校の前で出会したことのあるリュウはもちろん、初対面のはずのレイやセイカも顔が強ばる。タンクトップからはみ出た和彫りの威圧感のせいだろうか、ガーゼや絆創膏まみれの顔のせいだろうか。サンの兄弟だけあって美人なんだけどなぁ。

「そ、そうっすね。友達っす、お世話になってるっす」

年長としての自覚からか、レイが一番に返事をした。

「へー……サン全然友達とか居なかったのにな~、いつの間にか友達も恋人も作っちゃって、すげぇ。いーなぁ俺も友達とか欲しいなぁ」

「……居らっしゃらないんですか?」

「長く付き合うとなんか嫌われるんだよね」

「そうなんですか?」

第一印象は最悪だったけれど、こうして話したりサンからの話を聞くと、案外と温厚に思えてくる。初対面で嫌うならともかく、長く付き合っていけば誰とでも良き友人になれそうなのにな。

「不思議ですね」

人探しが下手で暴力的な手段を取ってしまう以外に欠点があるのだろうか。

「そんなことないよ、水月。ほら兄貴、薬」

「サン、そんなことないって酷くない? お兄さんにそんな……」

「……? 何この粉」

「常にこんな感じだからね、ずっとつるんでるとヒト兄貴みたいにイライラピリピリしてきちゃうんだよ。弟分にも結構嫌われてるだろ、兄貴」

「そうなのかな? で、何この粉」

「ボクは兄貴のこういうところ可愛くて好きだけどね。疎んでない一部の弟分も多分、手間がかかるけどヒト兄貴と違ってピリピリしてないから癒されてるとこあるんだと思う。手間はかかるけど」

フタのアレルギーの有無を熟知していた従業員のことを思い出す。

「…………あっ、ボスに渡すヤク? ありがとー、事務所置いといたんだけどどこに隠したか分かんなくなってさぁ」

スマホのメモ帳で現在の行動の理由を確認したフタは謎の粉について自己解決に至った。

「それさっき聞いたし、この間ボクが盗んだ時は机の二番目の引き出しの裏にテープで貼り付けてあったよ。事務所帰ったら探してみて」

「えーっと……メモるからもっかいゆっくり言って」

確かに短気な人とは相性が悪いかもな、ヒトとか。

「……ん! 完璧。机の引き出しの二番目の裏のテープ、帰ったら確認する。よっしゃ。ん……? えーっと……なるかみみつき、なるかみみつきってさ、名前長くね?」

「フルネームですからね。名前は水月だけですよ」

「あー、じゃあ点入れとかなきゃ」

写真のキャプションにフルネームでメモをしていたから俺のことをずっとフルネームで呼んでいたのか?

「OK。サンちゃんよろしくねダーリンくん」

フタはサンの手を握って手を振り、薬をポケットに突っ込むと走って家を出ていった。扉に鍵をかけながらため息をついたサンはとても幸せそうな顔をしていた。
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