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元組長の小さな癇癪
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夕食を食べ終えて食器の片付けを手伝い、一息ついてラップがかかった一人分の料理を眺める。すっかり冷めたその料理をラップ越しにつつくサンは落ち込んだ顔をしている。
「遅いなぁ、兄貴……冷めちゃったじゃん」
「……サン、あんまりつつくとラップ破けちゃうよ」
フタはまだ来ない、また忘れているのだろうか? 以前サンの頼みで俺を連れて行くことになった際も、ヒトの頼みかサンの頼みか忘れて一度事務所に戻ったりしていたもんな……それでヒトに殴られて──あぁ、嫌な光景を思い出してしまったな。気分が落ち込む。
「電話してみたらどうっすか?」
「……そうだね、仕事があるとは聞いてないし」
サンはスマホを取り出し、フタに電話をかけた。長い髪の内側に潜り込ませるようにスマホに耳を当てる仕草、イイ……新たなフェチに気付いてしまった。
「スピーカーにしちゃお、兄貴の情けない謝罪二人に晒してやる」
呼び出し音が俺達にも聞こえるようになった。
「ん~……兄貴よっぽどのことがない限りだいたい2コール目までに出るんだけどなぁ……お風呂とか入ってるのかな」
「……ご飯、冷蔵庫入れとくっすか?」
「えー? いやぁ……うーん……あっ、出た、兄貴っ?」
サンの声が分かりやすく跳ねる。兄弟仲がいいのはいいことだが、やはり嫉妬してしまうな。
『すみません、着信に気付くのが遅れまして……サンですね、フタに何か用がありましたか?』
「……ヒト兄貴? うん、フタ兄貴とご飯食べようと思って家に呼んだんだけど……なんでフタ兄貴にかけたのにヒト兄貴が出るのさ」
『鳴っているのに気付いたので拾ったんですよ』
「フタ兄貴スマホ落としてたの?」
仲良くない方の兄が電話に出て一転、サンの声が不機嫌になった。
『はい、仕方のない人ですよね』
「…………ヒト、フタ兄貴を無事にオレの家に届けるんだ。いいな? 組の古いモンはまだオレ派が多い、テメェ潰すのには十分だ。あんまり調子に乗るなよ、健常者で居たいんだろ? オレらと違って完全版の身体は唯一自慢出来ることだもんなァ? クソマザコン野郎、だーいちゅきなママにもらった身体の端っこ削られたくなきゃオレの兄貴を今すぐ返せ」
長い沈黙の後、大きな舌打ちと共に電話は切れた。
「…………」
硬直してしまった俺の腕をレイがきゅっと握る。スマホを机に置いてため息をついたサンはおもむろに立ち上がり、椅子の背もたれを握り──割った。
「……っ、サン!」
緊張と恐怖によってかけられた金縛りが解ける。気付けば俺はサンの手首を掴んでいた。椅子は木製だ、その背もたれも当然木で出来ている。破片やささくれがサンの手に刺さっているかもしれない。
「手開いて……」
俺はサンに手を開かせ、慎重に破片や粉を払った後、恋人繋ぎをするようにして手のひらをスリスリと撫で回し、ささくれの有無を確認した。
「…………大丈夫、怪我はしてない……よかった。ダメだよ、サン……サンは画家さんなんだから、特に手は大事にしないと」
安堵のため息をつき、サンに軽い注意をする。
「画家……ボク、画家?」
「え? うん……そうなんだろ?」
「…………そうだね、ボクは画家だ。うん……そっか、そうだよね、辞めたんだ、もう兄貴に指詰めろなんて迫っちゃダメだったね……ふふっ、水月、水月……手、心配してくれてありがとう、大好きだよ」
大きな手に頭を包まれて唇を重ね、サンに好かれている喜びを笑顔で表現した。
「あ、可愛い顔」
「こんなボコボコじゃ可愛くもカッコよくもないよ……それよりサン、ちょっとどいて、こっちに歩いてきて……そう。いいよ。この辺にまでは飛んでない、ここに居て。危ないから椅子の破片片付けちゃうね、チリトリとかある?」
「……ありがとう。取ってくるよ」
道具を借りて椅子の破片を片付けたら、背もたれの一部が破壊された椅子を部屋の端に避けた。
「ヒビとかは広がってないし、ヤスリとニスとかで整えたらまだ大丈夫そうだね……パテで形整えた方がいいかな? どうする? サン、俺修理出来ると思うよ」
「……新しいの買おうと思ってたけど、水月が直してくれたのが家にある方が嬉しいかも。修理してくれる?」
「分かった。次に来る時は道具持ってくるよ。それまではささくれとか危ないから触ったり近寄ったりしちゃダメだよ」
サンは申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに微笑み、頷いた。
「レイちゃんレイちゃん、見た? 今の水月……! ボクが怪我したかもってなったらすぐ来てくれた!」
「はいっす、せんぱいのああいうとこマジ好きっすぅ~」
また同調してる。
「……! 電話。ボクの……じゃないね」
「せんぱいのじゃないっすか?」
耳に届いた着信音は俺のポケットの中からのものだ。彼氏達から一歩離れてスマホを耳に当てると、明るく可愛らしい声が聞こえてきた。
『もしもし、みぃくん? マジ神アイドル、カミアだよっ☆』
「カミアか、どうしたんだ?」
『前にさ、話したよね? ほら、放送事故の件で謝罪動画撮るって。一週間以内のつもりだったんだけど雑誌の撮影とかインタビューとか色々予定が合わなくてさ、明日になっちゃった。明日来れる? 前と同じ場所なんだけど』
「あ……うん、大丈夫、行けるよ」
今度は生配信に放送事故ではなくしっかりと出ることになるのか、憂鬱だな。
『よかったぁ。マスクとかこっちで用意しようか?』
「いや、持ってくからいいよ」
下手に任せて顔があまり隠れないような物を用意されては困る、カミアはともかくカミアの母親は俺の顔を晒した方が視聴数が増えるとか考えそうだし。
『そう? じゃあそうして。えっと、それじゃバイバイ……あの、みぃくん、えっとね……すっ、好きだよっ、バイバイ!』
「あっ……」
照れながらも覚悟を決めて言ってくれた「好きだよ」に返事をしたかったのに、すぐに通話を切られてしまって何も言えなかった。
「……メッセでも送っとくか」
メッセージアプリで「さっき言えなかったけど、俺も愛してる。おやすみ」と送っておいた。
「遅いなぁ、兄貴……冷めちゃったじゃん」
「……サン、あんまりつつくとラップ破けちゃうよ」
フタはまだ来ない、また忘れているのだろうか? 以前サンの頼みで俺を連れて行くことになった際も、ヒトの頼みかサンの頼みか忘れて一度事務所に戻ったりしていたもんな……それでヒトに殴られて──あぁ、嫌な光景を思い出してしまったな。気分が落ち込む。
「電話してみたらどうっすか?」
「……そうだね、仕事があるとは聞いてないし」
サンはスマホを取り出し、フタに電話をかけた。長い髪の内側に潜り込ませるようにスマホに耳を当てる仕草、イイ……新たなフェチに気付いてしまった。
「スピーカーにしちゃお、兄貴の情けない謝罪二人に晒してやる」
呼び出し音が俺達にも聞こえるようになった。
「ん~……兄貴よっぽどのことがない限りだいたい2コール目までに出るんだけどなぁ……お風呂とか入ってるのかな」
「……ご飯、冷蔵庫入れとくっすか?」
「えー? いやぁ……うーん……あっ、出た、兄貴っ?」
サンの声が分かりやすく跳ねる。兄弟仲がいいのはいいことだが、やはり嫉妬してしまうな。
『すみません、着信に気付くのが遅れまして……サンですね、フタに何か用がありましたか?』
「……ヒト兄貴? うん、フタ兄貴とご飯食べようと思って家に呼んだんだけど……なんでフタ兄貴にかけたのにヒト兄貴が出るのさ」
『鳴っているのに気付いたので拾ったんですよ』
「フタ兄貴スマホ落としてたの?」
仲良くない方の兄が電話に出て一転、サンの声が不機嫌になった。
『はい、仕方のない人ですよね』
「…………ヒト、フタ兄貴を無事にオレの家に届けるんだ。いいな? 組の古いモンはまだオレ派が多い、テメェ潰すのには十分だ。あんまり調子に乗るなよ、健常者で居たいんだろ? オレらと違って完全版の身体は唯一自慢出来ることだもんなァ? クソマザコン野郎、だーいちゅきなママにもらった身体の端っこ削られたくなきゃオレの兄貴を今すぐ返せ」
長い沈黙の後、大きな舌打ちと共に電話は切れた。
「…………」
硬直してしまった俺の腕をレイがきゅっと握る。スマホを机に置いてため息をついたサンはおもむろに立ち上がり、椅子の背もたれを握り──割った。
「……っ、サン!」
緊張と恐怖によってかけられた金縛りが解ける。気付けば俺はサンの手首を掴んでいた。椅子は木製だ、その背もたれも当然木で出来ている。破片やささくれがサンの手に刺さっているかもしれない。
「手開いて……」
俺はサンに手を開かせ、慎重に破片や粉を払った後、恋人繋ぎをするようにして手のひらをスリスリと撫で回し、ささくれの有無を確認した。
「…………大丈夫、怪我はしてない……よかった。ダメだよ、サン……サンは画家さんなんだから、特に手は大事にしないと」
安堵のため息をつき、サンに軽い注意をする。
「画家……ボク、画家?」
「え? うん……そうなんだろ?」
「…………そうだね、ボクは画家だ。うん……そっか、そうだよね、辞めたんだ、もう兄貴に指詰めろなんて迫っちゃダメだったね……ふふっ、水月、水月……手、心配してくれてありがとう、大好きだよ」
大きな手に頭を包まれて唇を重ね、サンに好かれている喜びを笑顔で表現した。
「あ、可愛い顔」
「こんなボコボコじゃ可愛くもカッコよくもないよ……それよりサン、ちょっとどいて、こっちに歩いてきて……そう。いいよ。この辺にまでは飛んでない、ここに居て。危ないから椅子の破片片付けちゃうね、チリトリとかある?」
「……ありがとう。取ってくるよ」
道具を借りて椅子の破片を片付けたら、背もたれの一部が破壊された椅子を部屋の端に避けた。
「ヒビとかは広がってないし、ヤスリとニスとかで整えたらまだ大丈夫そうだね……パテで形整えた方がいいかな? どうする? サン、俺修理出来ると思うよ」
「……新しいの買おうと思ってたけど、水月が直してくれたのが家にある方が嬉しいかも。修理してくれる?」
「分かった。次に来る時は道具持ってくるよ。それまではささくれとか危ないから触ったり近寄ったりしちゃダメだよ」
サンは申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに微笑み、頷いた。
「レイちゃんレイちゃん、見た? 今の水月……! ボクが怪我したかもってなったらすぐ来てくれた!」
「はいっす、せんぱいのああいうとこマジ好きっすぅ~」
また同調してる。
「……! 電話。ボクの……じゃないね」
「せんぱいのじゃないっすか?」
耳に届いた着信音は俺のポケットの中からのものだ。彼氏達から一歩離れてスマホを耳に当てると、明るく可愛らしい声が聞こえてきた。
『もしもし、みぃくん? マジ神アイドル、カミアだよっ☆』
「カミアか、どうしたんだ?」
『前にさ、話したよね? ほら、放送事故の件で謝罪動画撮るって。一週間以内のつもりだったんだけど雑誌の撮影とかインタビューとか色々予定が合わなくてさ、明日になっちゃった。明日来れる? 前と同じ場所なんだけど』
「あ……うん、大丈夫、行けるよ」
今度は生配信に放送事故ではなくしっかりと出ることになるのか、憂鬱だな。
『よかったぁ。マスクとかこっちで用意しようか?』
「いや、持ってくからいいよ」
下手に任せて顔があまり隠れないような物を用意されては困る、カミアはともかくカミアの母親は俺の顔を晒した方が視聴数が増えるとか考えそうだし。
『そう? じゃあそうして。えっと、それじゃバイバイ……あの、みぃくん、えっとね……すっ、好きだよっ、バイバイ!』
「あっ……」
照れながらも覚悟を決めて言ってくれた「好きだよ」に返事をしたかったのに、すぐに通話を切られてしまって何も言えなかった。
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