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兄弟仲への嫉妬
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カミアからのメッセージの返信はすぐにあった。文章では彼の照れは伝わってこないし、明日彼の元へ行くべき時間も同時に伝えられたから少し淡白な印象を受けてしまった。
「お電話誰っすか?」
「カミア。明日会おうって」
「急っすねー、明日はもうこっから行くんすか?」
「そうだな。家に帰らずに行くかな……こっちからのが近いし。レイ一緒に出るか? 家まで送るよ」
「何時っすか?」
「九時くらいだな」
「ちょっと早いっすね……まだ寝てたいっす」
ベッドを共にしたとはいえほとんど初対面の相手の家で惰眠を貪るつもりなのか、なかなか図太いな。
「大丈夫か? 一人で帰って……形州が本当に諦めたってのは俺あんま信用してないし、子分共が個人的に恨み晴らそうとする可能性もあるだろ。アキとかシュカがボコボコにしちゃったし……」
「じゃあ兄貴に送らせるよ」
「俺よりよっぽどいいボディガードだな、お願いしようかな」
「えっ、あの人っすか? ちょっと怖いっすね……一人で帰れるはずなんすけど、なんかあったらまたせんぱいとせんぱい達に迷惑かけちゃうし……ぅー……じゃあ、フタお兄さんにお頼みするっすよ」
フタが頼みを聞いてくれれば全て安心だ。彼が来たらすぐに相談しよう、と玄関の方を何気なく向いたその時、ちょうどインターホンが鳴った。
「兄貴かな、メッセ来てるし。水月かレイちゃんドア開けてきてくれる? ボク料理あっため直すから」
「分かった」
「あっ、せんぱい俺も行くっす。明日お世話になるっすから愛想良くしておくっすよ」
案外と強かなレイに微笑みかけ、二人で玄関へ向かう。扉を開けた瞬間俺達は硬直してしまった。言おうとしていた「こんばんは」も冗談半分の「遅いですよ」も口から出てこなかった。
「うぃーす……えーっと、サンちゃんのダーリンのぉ……えー、みつきぃ……? と、あー、分かんね」
「あ、レ、レイっす。改めて、よろしくお願いしますっす」
「おぉー……」
雑な返事をするフタは昼間会った時に比べて明確に傷が増えていた。昼間よりも大きくなった頬のガーゼに滲んだ血はまだ黒ずんでいない、右腕に包帯は巻いていなかったはずだ、眼帯なんてしていなかったはずだ。
「あ、あのっ……フタさん、怪我増えてませんか?」
「サンちゃんには内緒な~?」
弟に心配をかけたくないという思いには共感する、黙っていてやろう。
「……分かりました。どうして怪我したんですか?」
こんなの聞かなくても分かり切っている、ヒトの仕業だろう。サンが先程椅子を割るほど苛立っていたのはそれを感じ取ったからに違いない。俺が黙ったところで大した意味はないかもしれないな。
「んー……ヒト兄ぃさぁ、ボス来る日は機嫌悪くなんだよね~。んでさぁ、しかもさぁ、ボスと何話したかとかはちゃーんと共有っつーの? 報告しなきゃダメでさぁ、でも俺何話したか上手く話せなくってぇ……そのお仕置き的な~?」
「そんな……こんなの、酷い……」
「大丈夫大丈夫、行こ? 腹減っちった」
フタをダイニングに案内すると、温め直された料理が既に机に並んでいた。サンはニコニコと嬉しそうに笑ってフタが来るのを待っていた。
「兄貴?」
「よ、サンちゃん」
「暇だからって帰んないで欲しかったな、どうせヒト兄貴に何かされたんだろ? だから家に居て欲しかったのに」
「んなこと言われてもよ~、サンちゃん居ねぇし退屈でさぁ……兄貴に報告せっつかれてたし?」
「報告はいつもボクが適当にでっち上げて、兄貴はそれ読むだけだったろ? 全く……もういいから、早く食べて。また冷めちゃう」
サンはフタの身に何があったかを察している、顔に触れることはなかったから正確な傷は分かっていないだろうけれど。
「美味しい?」
「超うめぇ」
「……明日も仕事休みだよね? 水月明日帰っちゃうし、明日もここに居てよ」
「おう」
「ちょっと頼みもあるんだよね、いい?」
内容を聞く前にフタは頷き、その後サンがレイを家まで送って欲しいと言っても首を横に振ることはなかった。
「ありがと兄貴。メモに書いておくから明日ちゃんと見てね」
「んー」
サンは音声入力機能を使い、レイを家まで送ってサンの家に戻ってくるというメモをフタのスマホに残した。
「えっとぉ……レイ? って子? サンちゃんの友達?」
「まぁそうだね、友達……だね」
「そっかそっかー、サンちゃん急に彼氏とか友達とか出来てさぁ、すげーじゃん。マジ尊敬、羨ましい。お兄ちゃん嬉しいぜ~? あ、レイちゃん? ちょっとこっち向いてー?」
俺の背に隠れるのをやめたレイが身体ごとフタの方を向く。
「はい、チーズ」
パシャッ、とシャッター音が鳴った。
「レイ、ね。れー、い……よっしゃ、完璧だぜ。俺フタ、サンちゃんの兄貴。よろしくぅ~」
俺の絵の時のように写真のキャプションにでも名前を書いたのだろう。そういえば玄関で俺の名前を呼んだ時はスマホを見ていなかったな……俺の顔も名前も覚えてくれたのか、嬉しいな。
「兄貴、ご飯食べてる最中にスマホ弄っていいんだっけ?」
「え? あっ、ダメ。ごめんごめんサンちゃん」
「……ふふっ」
幸せそうなサンを眺めていると胸が温かくなると同時に、ドロっとした感情も膿のように現れる。恋人の俺が兄弟仲に嫉妬するなんて馬鹿げている、この嫉妬深さは早めに改めなければ不幸の素だな。
「お電話誰っすか?」
「カミア。明日会おうって」
「急っすねー、明日はもうこっから行くんすか?」
「そうだな。家に帰らずに行くかな……こっちからのが近いし。レイ一緒に出るか? 家まで送るよ」
「何時っすか?」
「九時くらいだな」
「ちょっと早いっすね……まだ寝てたいっす」
ベッドを共にしたとはいえほとんど初対面の相手の家で惰眠を貪るつもりなのか、なかなか図太いな。
「大丈夫か? 一人で帰って……形州が本当に諦めたってのは俺あんま信用してないし、子分共が個人的に恨み晴らそうとする可能性もあるだろ。アキとかシュカがボコボコにしちゃったし……」
「じゃあ兄貴に送らせるよ」
「俺よりよっぽどいいボディガードだな、お願いしようかな」
「えっ、あの人っすか? ちょっと怖いっすね……一人で帰れるはずなんすけど、なんかあったらまたせんぱいとせんぱい達に迷惑かけちゃうし……ぅー……じゃあ、フタお兄さんにお頼みするっすよ」
フタが頼みを聞いてくれれば全て安心だ。彼が来たらすぐに相談しよう、と玄関の方を何気なく向いたその時、ちょうどインターホンが鳴った。
「兄貴かな、メッセ来てるし。水月かレイちゃんドア開けてきてくれる? ボク料理あっため直すから」
「分かった」
「あっ、せんぱい俺も行くっす。明日お世話になるっすから愛想良くしておくっすよ」
案外と強かなレイに微笑みかけ、二人で玄関へ向かう。扉を開けた瞬間俺達は硬直してしまった。言おうとしていた「こんばんは」も冗談半分の「遅いですよ」も口から出てこなかった。
「うぃーす……えーっと、サンちゃんのダーリンのぉ……えー、みつきぃ……? と、あー、分かんね」
「あ、レ、レイっす。改めて、よろしくお願いしますっす」
「おぉー……」
雑な返事をするフタは昼間会った時に比べて明確に傷が増えていた。昼間よりも大きくなった頬のガーゼに滲んだ血はまだ黒ずんでいない、右腕に包帯は巻いていなかったはずだ、眼帯なんてしていなかったはずだ。
「あ、あのっ……フタさん、怪我増えてませんか?」
「サンちゃんには内緒な~?」
弟に心配をかけたくないという思いには共感する、黙っていてやろう。
「……分かりました。どうして怪我したんですか?」
こんなの聞かなくても分かり切っている、ヒトの仕業だろう。サンが先程椅子を割るほど苛立っていたのはそれを感じ取ったからに違いない。俺が黙ったところで大した意味はないかもしれないな。
「んー……ヒト兄ぃさぁ、ボス来る日は機嫌悪くなんだよね~。んでさぁ、しかもさぁ、ボスと何話したかとかはちゃーんと共有っつーの? 報告しなきゃダメでさぁ、でも俺何話したか上手く話せなくってぇ……そのお仕置き的な~?」
「そんな……こんなの、酷い……」
「大丈夫大丈夫、行こ? 腹減っちった」
フタをダイニングに案内すると、温め直された料理が既に机に並んでいた。サンはニコニコと嬉しそうに笑ってフタが来るのを待っていた。
「兄貴?」
「よ、サンちゃん」
「暇だからって帰んないで欲しかったな、どうせヒト兄貴に何かされたんだろ? だから家に居て欲しかったのに」
「んなこと言われてもよ~、サンちゃん居ねぇし退屈でさぁ……兄貴に報告せっつかれてたし?」
「報告はいつもボクが適当にでっち上げて、兄貴はそれ読むだけだったろ? 全く……もういいから、早く食べて。また冷めちゃう」
サンはフタの身に何があったかを察している、顔に触れることはなかったから正確な傷は分かっていないだろうけれど。
「美味しい?」
「超うめぇ」
「……明日も仕事休みだよね? 水月明日帰っちゃうし、明日もここに居てよ」
「おう」
「ちょっと頼みもあるんだよね、いい?」
内容を聞く前にフタは頷き、その後サンがレイを家まで送って欲しいと言っても首を横に振ることはなかった。
「ありがと兄貴。メモに書いておくから明日ちゃんと見てね」
「んー」
サンは音声入力機能を使い、レイを家まで送ってサンの家に戻ってくるというメモをフタのスマホに残した。
「えっとぉ……レイ? って子? サンちゃんの友達?」
「まぁそうだね、友達……だね」
「そっかそっかー、サンちゃん急に彼氏とか友達とか出来てさぁ、すげーじゃん。マジ尊敬、羨ましい。お兄ちゃん嬉しいぜ~? あ、レイちゃん? ちょっとこっち向いてー?」
俺の背に隠れるのをやめたレイが身体ごとフタの方を向く。
「はい、チーズ」
パシャッ、とシャッター音が鳴った。
「レイ、ね。れー、い……よっしゃ、完璧だぜ。俺フタ、サンちゃんの兄貴。よろしくぅ~」
俺の絵の時のように写真のキャプションにでも名前を書いたのだろう。そういえば玄関で俺の名前を呼んだ時はスマホを見ていなかったな……俺の顔も名前も覚えてくれたのか、嬉しいな。
「兄貴、ご飯食べてる最中にスマホ弄っていいんだっけ?」
「え? あっ、ダメ。ごめんごめんサンちゃん」
「……ふふっ」
幸せそうなサンを眺めていると胸が温かくなると同時に、ドロっとした感情も膿のように現れる。恋人の俺が兄弟仲に嫉妬するなんて馬鹿げている、この嫉妬深さは早めに改めなければ不幸の素だな。
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