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スペルなんて気にしまセーン
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意外だった。義母はアキを半ば見捨てているようなものだと思っていた。だから暴力を振るうネイを見て恋が冷めたりはしても、アキのためにあそこまで怒るなんて予想出来ていなかった。
《何だよ、クソ……今更、クソババア……ふざけんなよ》
アキにとっては喜ばしいことと考えるのが普通だが、暗い表情でぶつぶつ愚痴を言っている姿を見るとアキが喜んでなどいないことは明らかだ。
「セイカ、ただいま」
アキの部屋に帰ると、床に座っているネイの膝の上に居たノヴェムが立ち上がって俺の腰に抱きついてきた。ふわふわの髪を撫でる俺の横を抜け、アキは倒れ込むようにベッドの上のセイカに抱きついた。
「……作戦成功したって聞いたけど」
「あぁ、でも何かアキ落ち込んじゃって。理由聞けたら聞いてくれないか?」
「水月くん、通報は止められましたか?」
「あ、はい。大丈夫だと思います、そんな感じのこと言ってもなかったし……ぁ、そうだ、母さんには作戦説明しとかないと」
俺はメッセージアプリを使って母に今回の作戦を説明した。既読はすぐに付いたが、返事はない。義母の相手をしているのだろう。俺はスマホをポケットに戻し、ノヴェムを抱き上げた。
「しかし秋風くんの演技が上手過ぎて、本当に殴っちゃったんじゃないかと思いましたよ」
「でしょう? 俺の弟はすごいんですよ」
「……どうして落ち込んでいるんでしょう、お母さんを騙した罪悪感……とか? だとしたら申し訳ないですね」
義母を騙した罪悪感はネイにはないんだな。俺にもあんまりないけど。
「セイカ、分かったか?」
「あ、うん……秋風の予想としては、自分を「何か余計なこと言ったんだろ」とか言って責めて、ネイに「すいませんウチの息子が」なんて媚びる感じだったんだって」
「最悪の展開じゃん……」
「……そういうとこ見れば、もう親子の縁は切れたも同然って言うか……もうあの人に何言われても気にならなくなるはずって、そう期待してたみたいで……ほら、鳴雷みたいな息子がよかったとか、そういうこと言われる度に秋風ちょっと荒れるだろ? いちいちああいう愚痴を気にする自分が嫌で変えたかったんだってさ」
じゃあそもそもアキにはネイを義母のウザ絡みから救うつもりも、母と義母のよりを戻させようという気もなかったんだな? まぁ、マイペースなアキらしいけど。俺達は始めから一枚岩ではなかったとなると、ちょっと思うところはあるな。
「…………秋風くんはお母さんと縁を切りたいんですか?」
「ちょっと待って………………うん、そうみたい。期待して縋り付いたって、どうせチクチクやなことばっか言われるだろうから……今回みたいなちょっと嬉しいことなんて、むしろない方がいいんだって」
「なるほど……参考になりますね、チクチクやなことは言わないようにしなければ」
ネイはぽんぽんとノヴェムの頭を撫でた。ノヴェムは満面の笑みを浮かべ、ネイの方へ手を伸ばす。
「そんな気を張らなくてもネイさんはノヴェムくんに嫌われたりしないと思いますよ?」
「そうだといいんですが……ノヴェム、抱っこしてあげたいのは山々ですが、ギックリ腰になるかもしれないので……もういい加減結構なサイズなんですよあなた」
《ノヴェム、お父さんは腰が危な……》
「……セイカ?」
セイカは途中で翻訳をやめた。
「いやなんで俺がアンタの翻訳しなきゃなんないんだよ!」
「あっ、つい水月くんと話してた流れで日本語で……すいませんすいません、ふふ……しかしすごいですね百鬼丸ボーイ、その歳で三ヶ国語を操るとは。まぁ私は四ヶ国語イケますが」
「四!? すごいですね、内訳は……」
「アメリカ、中国、日本、イギリス」
「三じゃねぇか!」
「……ホントだ!」
「反応が遅いですよ水月くん」
鼻にティッシュ突っ込んだまま真顔でそんなボケ入れてくると思わないじゃん。
「でもアメリカ英語とイギリス英語の使い分けは普通に難しいんですよ百鬼丸ボーイ。秋風くんの日本語はカタコト外国人キャラを演じるにあたってとても参考になるので、普段から頑張って日本語で話して欲しいところですね」
「前はもっと日本語話してたんですけどね、セイカが翻訳してくれるようになってから甘えちゃってサボっちゃって……日本来たばっかの時なんかずっと音声教材聞いてたのに、今そうでもなくて……勉強すらしてないんだろうなって」
「そうなんだよ……コイツ勉強しないんだよ、通訳してやらないぞって言っても可愛い顔してゴリ押してきて……」
「セイカそういうゴリ押し通じるんだ…………月と曜日の英語の勉強、勘弁して欲しいにゃん!」
きゃるーん、という効果音が付きそうなほど可愛こぶってみるとセイカは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「お前は分かってない……自分の美形の使い方を全然分かってない……各英単語百回書き取りしろ」
「んぃやあああーっ! ネイさんネイさんっ、ウェンズデーのスペルの覚え方コツとかありませんか!?」
「水曜日のスペルですか。Wensday……でしたっけ」
「Wednesday! アンタそれでもアメリカ人か!?」
セイカの意識がネイに移り始めた。よしよし、そのまま俺の勉強のことなんて忘れてしまえ。
「……ネイティブはスペルなんて気にしまセーン! そんなこと気にするのは神経質なジャパニーズだけデース!」
「アンタネイティブじゃないだろ!」
「ネイティブなアメリカ人なんてアメリカでは少数派ですよ!」
「センシティブな先住民事情を突っ込んでくるな! 日本生まれ日本育ちだろってことだよ!」
「日本生まれ日本育ちの人間はウェンズデーなんて書けませんよぉ! なんでdとかhとか発音しないものが入ってるんですか!?」
「hはウェンズデーにはないよ! アンタも書き取りやってけ!」
「社会人になればスペルや漢字の書き順なんて意味ありまセーン!」
書き取りのことは忘れていないみたいだな……よし、今日は風呂に入ったらアキの部屋には行かず自室で夜を明かそう!
《何だよ、クソ……今更、クソババア……ふざけんなよ》
アキにとっては喜ばしいことと考えるのが普通だが、暗い表情でぶつぶつ愚痴を言っている姿を見るとアキが喜んでなどいないことは明らかだ。
「セイカ、ただいま」
アキの部屋に帰ると、床に座っているネイの膝の上に居たノヴェムが立ち上がって俺の腰に抱きついてきた。ふわふわの髪を撫でる俺の横を抜け、アキは倒れ込むようにベッドの上のセイカに抱きついた。
「……作戦成功したって聞いたけど」
「あぁ、でも何かアキ落ち込んじゃって。理由聞けたら聞いてくれないか?」
「水月くん、通報は止められましたか?」
「あ、はい。大丈夫だと思います、そんな感じのこと言ってもなかったし……ぁ、そうだ、母さんには作戦説明しとかないと」
俺はメッセージアプリを使って母に今回の作戦を説明した。既読はすぐに付いたが、返事はない。義母の相手をしているのだろう。俺はスマホをポケットに戻し、ノヴェムを抱き上げた。
「しかし秋風くんの演技が上手過ぎて、本当に殴っちゃったんじゃないかと思いましたよ」
「でしょう? 俺の弟はすごいんですよ」
「……どうして落ち込んでいるんでしょう、お母さんを騙した罪悪感……とか? だとしたら申し訳ないですね」
義母を騙した罪悪感はネイにはないんだな。俺にもあんまりないけど。
「セイカ、分かったか?」
「あ、うん……秋風の予想としては、自分を「何か余計なこと言ったんだろ」とか言って責めて、ネイに「すいませんウチの息子が」なんて媚びる感じだったんだって」
「最悪の展開じゃん……」
「……そういうとこ見れば、もう親子の縁は切れたも同然って言うか……もうあの人に何言われても気にならなくなるはずって、そう期待してたみたいで……ほら、鳴雷みたいな息子がよかったとか、そういうこと言われる度に秋風ちょっと荒れるだろ? いちいちああいう愚痴を気にする自分が嫌で変えたかったんだってさ」
じゃあそもそもアキにはネイを義母のウザ絡みから救うつもりも、母と義母のよりを戻させようという気もなかったんだな? まぁ、マイペースなアキらしいけど。俺達は始めから一枚岩ではなかったとなると、ちょっと思うところはあるな。
「…………秋風くんはお母さんと縁を切りたいんですか?」
「ちょっと待って………………うん、そうみたい。期待して縋り付いたって、どうせチクチクやなことばっか言われるだろうから……今回みたいなちょっと嬉しいことなんて、むしろない方がいいんだって」
「なるほど……参考になりますね、チクチクやなことは言わないようにしなければ」
ネイはぽんぽんとノヴェムの頭を撫でた。ノヴェムは満面の笑みを浮かべ、ネイの方へ手を伸ばす。
「そんな気を張らなくてもネイさんはノヴェムくんに嫌われたりしないと思いますよ?」
「そうだといいんですが……ノヴェム、抱っこしてあげたいのは山々ですが、ギックリ腰になるかもしれないので……もういい加減結構なサイズなんですよあなた」
《ノヴェム、お父さんは腰が危な……》
「……セイカ?」
セイカは途中で翻訳をやめた。
「いやなんで俺がアンタの翻訳しなきゃなんないんだよ!」
「あっ、つい水月くんと話してた流れで日本語で……すいませんすいません、ふふ……しかしすごいですね百鬼丸ボーイ、その歳で三ヶ国語を操るとは。まぁ私は四ヶ国語イケますが」
「四!? すごいですね、内訳は……」
「アメリカ、中国、日本、イギリス」
「三じゃねぇか!」
「……ホントだ!」
「反応が遅いですよ水月くん」
鼻にティッシュ突っ込んだまま真顔でそんなボケ入れてくると思わないじゃん。
「でもアメリカ英語とイギリス英語の使い分けは普通に難しいんですよ百鬼丸ボーイ。秋風くんの日本語はカタコト外国人キャラを演じるにあたってとても参考になるので、普段から頑張って日本語で話して欲しいところですね」
「前はもっと日本語話してたんですけどね、セイカが翻訳してくれるようになってから甘えちゃってサボっちゃって……日本来たばっかの時なんかずっと音声教材聞いてたのに、今そうでもなくて……勉強すらしてないんだろうなって」
「そうなんだよ……コイツ勉強しないんだよ、通訳してやらないぞって言っても可愛い顔してゴリ押してきて……」
「セイカそういうゴリ押し通じるんだ…………月と曜日の英語の勉強、勘弁して欲しいにゃん!」
きゃるーん、という効果音が付きそうなほど可愛こぶってみるとセイカは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「お前は分かってない……自分の美形の使い方を全然分かってない……各英単語百回書き取りしろ」
「んぃやあああーっ! ネイさんネイさんっ、ウェンズデーのスペルの覚え方コツとかありませんか!?」
「水曜日のスペルですか。Wensday……でしたっけ」
「Wednesday! アンタそれでもアメリカ人か!?」
セイカの意識がネイに移り始めた。よしよし、そのまま俺の勉強のことなんて忘れてしまえ。
「……ネイティブはスペルなんて気にしまセーン! そんなこと気にするのは神経質なジャパニーズだけデース!」
「アンタネイティブじゃないだろ!」
「ネイティブなアメリカ人なんてアメリカでは少数派ですよ!」
「センシティブな先住民事情を突っ込んでくるな! 日本生まれ日本育ちだろってことだよ!」
「日本生まれ日本育ちの人間はウェンズデーなんて書けませんよぉ! なんでdとかhとか発音しないものが入ってるんですか!?」
「hはウェンズデーにはないよ! アンタも書き取りやってけ!」
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