冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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体調不良の対策を

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五階建て以上のビルが建っていない、田舎という程ではないが到底都会とは言えない町から少し外れた自然豊かな場所。

「坂道っ、はぁ……キツいな。お前の家山ん中にあるのか?」

「神社の横やからなぁ。神社はだいたい高台にあるもんやから、しゃあないやん。しっかしこんなちょっと登っただけで息切れてもぉてまぁ体力ないやっちゃなぁ、夏休みやから言うてゴロゴロしとったんちゃうん」

「お前車椅子押してみろよ! めちゃくちゃ重たいんだぞこれ!」

「ぁ……ご、ごめんなさいっ……歩く、俺自分で歩くから」

「あー! 違うんだよセイカぁ! あぁもうリュウがっ……セイカは気ぃ遣わなくていいから! 座っててくれ!」

「…………ごめんなさい」

大人しく座り直してくれたけれど、セイカはテディベアを強く抱き締めて蹲り、声を殺して泣き始めた。鼻をすする音は頭の中でぐわんぐわんと反響する蝉の声に何故か掻き消されることなく俺の耳に届いた。

「…………」

騒がしい静寂の中、汗ばむ身体の不快感も足してリュウを睨む。

「………………すまん」

リュウは目を伏せながら小さく謝った。

(うわぁ……空気悪ぅ。なんでわたくし車椅子重たいとか言っちゃったんでしょう。いやマジで重たいんですよこれ……サキヒコくん取り憑いてるせいか、すっごいしんどいですし……なんで一番しんどいわたくしが車椅子押してるんですか、アキきゅんがやってくれるべきでわ? あぁ、ダメだ……思考がダメな方に行ってる……きっと暑いからでそ)

俺が余計なことを言わなければこんな空気にはならなかった、セイカを泣かせずに済んだ。アキが車椅子を押すのを全然代わってくれないだとか、リュウがからかうからだとか、サキヒコが取り憑いていて体調が悪いだとか、そんな言い訳ばかり探すのはやめろ。全部俺の責任だ。

「……セイカ」

右手をハンドルから離し、左手でそっと彼の頭を撫でる。セイカはビクッと身体を跳ねさせた後、微かな震えを俺の手に伝えた。

「よしよし……なぁ、セイカ、車椅子押すの重いし疲れるし面倒だけどな、セイカのためだから幸せなんだ。好きな子のために大変なことしてるとさ、なんかこう、イイだろ? 誰かのために頑張る自分に酔っちゃうよな。だから本当に気にしなくていいんだ、セイカが気ぃ遣ってると酔えないよ……頑張れてる気がしない。泣かないで。な?」

「……ぅ、ん」

微かな返事が聞こえて安堵したその瞬間足の力が抜けてガクンとその場に膝をついた。手の力も抜けていて、ハンドルから両手が離れて、青ざめる。

《っと危ねぇ。大丈夫かよ兄貴》

アキが車椅子を止めてくれた。セイカが坂道を転がり落ちることも、俺が車椅子に轢かれることも、なかった。

「にーにぃ、だいじょーぶ……です?」

大丈夫だよ、ありがとう。そう言って立ち上がり、車椅子のハンドルを握り直してまた歩き出す。そうすればいい、そうするべきだ。やることは分かっている。なのに、身体が動かない。

「…………アキくん、道なりに行ったら神社あんねん。その隣にあるんが俺ん家。暑いし先行っとり、水月は俺が見たるわ。軽い熱中症か何かやろ。て……言うてくれるか、せーか」

「あ、うん……秋風」

セイカにより翻訳を受けたアキは頷き、俺の荷物を俺の肩から奪って車椅子を押して登り道を歩いて行った。その姿が小さくなってから、リュウはようやく口を開いた。

「どないしたん水月、暑いんか?」

「…………」

「寒いんやな、せやろ?」

「寒いのか? そんな、私は暑さを感じない存在になってしまったが今日は相当暑いのだろう? 今朝てれびじょんで発表された気温を私も見たぞ。それなのに寒いなんて、何か病気ではないのか?」

心配そうなサキヒコの声が聞こえる。取り憑かれていることで起こった体調不良だと思うなんて、リュウに相談出来る雰囲気ではない。

「……サキヒコくん居る?」

「ここに居るぞ」

「うぉっ……ビビったぁ、ええ、何か聞こえた……なんで?」

サキヒコはリュウに聞こえるように声を発したようだ。しかし俺と同じく姿は見えていないようで、リュウは不思議そうな顔で辺りを見回している。

「修行したのだ、以前よりも強い霊になったのだぞ」

「あぁそうなん、それでか」

「うむ! 一人二人になら声を届けられるようになったのだ」

「ぁ、いや、それでか言うたんはそれやなくて…………ゃ、何でもないわ。サキヒコくん、俺ん家神社やねん。サキヒコくんが悪霊やない言うんは分かっとんねんけど……色々とまずいわ。おじんは多分見えよるし」

「祓われてしまうということか? それは困る、ミツキは私に傍に居て欲しがってくれているし、主人とも約束したのだ。生前出来なかったことを体験して欲しいと」

「とにかく水月をどうにかせんと、サキヒコくん一回俺に……あかん、俺に取り憑かせたりしたら神さんブチ切れてまう…………せや! 水月、立って。ほら、行くで!」

「ぇ……」

リュウは俺の脇の下に潜り込み、肩を貸して俺を立ち上がらせた。てっきりリュウが取り憑かれることで起こる体調不良をこの場で解決してくれるものだと思い込んでしまっていた俺は面食らったが、しばらくしゃがんで少し楽になっていたので何とか歩くことは出来た。

「はぁ……はぁ……」

「着いたで水月。しっかりしぃ。あ、サキヒコくんは鳥居くぐったアカンで、ここで待っときや」

リュウは神社の隣にあるという実家ではなく、鳥居をくぐって神社の中に俺を連れて行った。ゆっくりと社へ向かう道中、リュウはぽつぽつと語ってくれた。

「水月ぃ、俺なぁ、神さんと話せんねん。ちょっとだけ。ここの神社の神さんとだけな。他所の神さんはアカンわ。何言うとるか分からへん」

「うん……?」

「信じてくれる?」

「あぁ、まぁ……俺もサキヒコくんとよく話してるし」

「ふふ、幽霊と神さん一緒にしたったアカンよ。せやけど、うん、信じてくれて嬉しいわ」

社の前で足を止めたリュウは俺に肩を貸すのをやめ、俺の腕をぎゅっと抱き締めた。友達のような態度で居ろと言ったくせに、恋人らしく寄り添っている。

「うん……この人。だーいすきな恋人やよ。ありがとうなぁ、十二薔薇行くん勧めてくれて……あぁせや水月、俺が十二薔薇入ったんな、神さんにここ行ったら~て言われたからやねん。ふふ……運命の人見つかるて分かってたんやろなぁ」

「そうなのか……えっと、もしかして今目の前に居る感じ? 話してるんだよな?」

リュウが頷くのを見て俺はすぐに頭を下げた。リュウの頭がおかしくなっている可能性は低い、本当に目の前に何かが居るのだとしたらリュウのご両親以上に態度には気を付けなければならない。

「え、ぁ、本日は、お日柄もよく」

「水月、水月、そういうんええから大人しゅうしとって。なぁ神さん、見とった思うけど水月幽霊に取り憑かれてんねん、ほんで体調悪しとんねん。アホやろ~」

そういえば鳥居をくぐってからあの寒さや怠さはなくなった。サキヒコが神社の前で離れたからだろうか。

「あの子は水月の大事な子やから祓ったったり出来へんねん。どないか出来ひんかなぁ……え? うん……う、うん? ちょい待って、細かいニュアンス分からへん……うん、うん? んー……? あぁはいはいはいなるほどなるほど……」

サキヒコと話している時の俺も傍から見ればこんな感じなのかなぁ、と一人で話しているリュウを眺める。

「ほんまぁ! ありがとう! 水月水月ぃ、よかったなぁ。今日一日は護りつけてくれるって。とりあえず体調崩し過ぎることはあれへんて。今日中に俺が何とかしたるさかい、待っとってな」

「え? えっと、ありがとうございます……?」

何が何だか分からないがとりあえず礼を言い、リュウと共に神社を後にした。サキヒコが戻ってきても身体の芯から冷えるようなあの感覚がない。護りとやらが効いているのだろう。

「……神社に行ったからだろうか、何だか……うーん、嫌な匂いというか……いや匂いではないな、何だろう」

サキヒコは言いようのない不快感を覚えているようだ。

「虫除けスプレーかけとる感じやね」

「神様の加護そんなふうに言っていいのかよ」

「ミツキの傍なのに落ち着かない……」

「ご、ごめんね? 今日一日だけだから我慢して欲しいな」

「うむ……」

サキヒコの顔は見えない、声色だけでは感情が読み取りにくくて不安になる。彼が素直に話してくれていることを祈るばかりだ。
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