冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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我が家が一番

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柔らかい物の上で目を覚ました。どうやらアキのベッドで眠ってしまっていたようだ。

「起きたかの」

ベッドを背もたれにして座っていたミタマが振り返り、呆れたように言った。

「……コンちゃん? おはよ……今何時?」

「八時じゃ。ヌシが寝てしまったからせめて寝床に上げてやってくれとさっちゃんが大騒ぎしよっての。ワシがそこへ上げてやったんじゃぞ、感謝せい」

「あ、そうなの? ありがとうコンちゃん」

「言葉だけでは足りぬな。しかし物をせしめるほどのことではない……頭なでなで、顎すりすりで手を打ってやろう」

「頭、顎……こうかな?」

左手で頭を撫でつつ顎の下をくすぐるように愛でる。ミタマは心地よさそうに愛撫を受け、気が緩んだのか狐耳を頭から尻尾を尻から生やした。耳は飼い主に撫でられて喜ぶ犬のようにぺたんと寝ており、尻尾は飼い主に愛でられて喜ぶ犬のようにブンブンと揺れている。本当は狛犬なんじゃなかろうか。

「うむ、うむ……なかなか心地よいのぅ。あぁそうじゃ、ヌシの晩飯なんじゃがな、準備はされとるはずじゃから食べに行くとええぞい。腹、空いておるじゃろ?」

「あぁ……そっか、もう八時なんだもんね。みんな食べ終わってるかな」

「あーちゃんせーちゃんが呼びに来とったが、ヌシがあんまりぐっすり寝とったもんでな、起こすのは可哀想じゃ話して帰ったわ。ワシが起こそうかとも思うたが……可哀想、じゃからの」

アキとセイカが「可哀想」とは言わず黙って帰っていたら、俺はミタマに起こされていたのだろうか。

「ん……? 二人で話してたってことは、ロシア語だったんじゃないの? 分かるの?」

「ろしあご……? 人間が何を話しとるかくらい分かるぞぃ」

「……言語の壁ないってこと? へぇー……すごいねぇ」

「ええからはよ飯食べに行きんさい」

「うん。ぁ、コンちゃんどうするの?」

「そうじゃな……霊体化して着いていくことにするか。さーっちゃん、隣失礼するのじゃ~」

ミタマの姿がすぅっと消えた。背後に居るのだろうか。一応歩き出す前に一声かけて、ダイニングに向かった。しかしダイニングには誰も居らず、机の上には何もない。リビングに目を移すとアキとセイカと共にゲームに興じる母が居た。

《スェカーチカ何でそんなカスカードまで買ってんの?》

《ランダムで盗むカード対策……》

《フルポケガード戦法ね、基本よ基本。でも初めてでそれパッと思い付けるのはすごいわよ~》

《わっ……ぁ、ありがとう……ございます》

《はぁ!? 五億スられた!? どういう金の持ち歩き方してんだ俺!》

《金は資産化しねぇとな。物件とカードは買える時に買えるだけ買っとくもんだ》

リビングだけ異国のようだ。全く聞き取れない。ダイニングに居たままではテレビ画面もよく見えない。

「皆様何してらっしゃるのん? あとわたしぽんぽんペコペコなのですが」

呼びかけながらリビングへ向かい、テレビ画面を覗く。

「あぁ……友情破壊リアル乱闘ゲームですか」

「あら、私は地理が強くなるいいゲームだと思ってたけど。水月やっと起きたのね、晩飯レンジに入れてあるからチンして食べなさい」

「レタスとかは避けておけよ」

《要らねぇカード買ってくんな貧乏神ぃ! ちくしょう……!》

「ありがとうございまそ。晩ご飯いただきますぞママ上、では!」

帰ったり起きたりしたら食事が用意されている、それの何と素晴らしいことか。久しぶりの母の手料理に心躍らせながらレンジを開ける。

「……ダイエットメニューでそぉ!」

ゆでささみ、黄身を抜かれた卵、淡白な味付け。激ヤセ後筋肉を育てている最中にトラウマになるほど食わされた献立だ。

「うぅ……侘しいでそ」

ちゃんと美味しい。美味しいけれど、俺の口は油や濃い味を求めている。大阪の串カツ屋が恋しい、フルコースメニューの最後に食べた太る気しかしないスイーツ達が瞼の裏に浮かぶ。

「まだそこまで太ってないのにぃ……」

半べそをかきながら美味しい料理を楽々完食。皿を洗った後はゲームに混ぜてもらうためリビングへ向かった。しかしそこで言い渡された残酷な条件は──

「振ったサイコロの出目の回数スクワットぉ!?」

──と、いうものだった。このゲームの基礎はスゴロク、毎ターンサイコロを振らなければならない上に、ゲームで勝ちたければ特殊なカードを入手してサイコロを増やすのはほぼ必須。

「そんなぁ! 酷いでそ酷いでそわたくしだけぇ!」

「じゃあ私達も同じ条件でやりましょうか?」

「……そういうことではなく!」

不公平だと胃を唱えたような言い方になってしまったが、俺はとにかくスクワットをしたくなかっただけなのだ。

「ごーぉっ…………ふぅ、五回終わった……ぁー、特急周遊買いたくねぇでそ……サイコロ一個縛りでゲームしません?」

「嫌よ」

「一蹴……」

《あーっ! スェカーチカてめぇ俺のカード盗みやがったな! なんで俺ばっか狙うんだよぉ!》

「そういえば鳴雷、お前課題やらなくていいのか?」

「あら、やってないの? 知らないわよ補習で彼氏と遊べなくなっても」

「鳴雷、放課後構ってくれなくなるのか……?」

「盤外戦……!?」

《貧乏神擦り付けんのやめろやスェカーチカぁ!》

スクワットによる疲労、そして母とセイカによる姑息な盤外戦術により、最終的に俺は四位の座に落ちた。アキは三位、セイカが二位、母が一位だ。この家のヒエラルキーか何かか?

「ちくせう……」

《スェカーチカ! アンタなんで俺にばっか貧乏神擦り付けてくるんだよ!》

《な、なんでって……近くに居たからだよ。そういうゲームだろ、怒るなよ》

《ユノの方が近いこと何度もあっただろ! カードだって俺ばっか狙いやがって!》

アキが怒っている。聞き取りも翻訳も出来ないけれど、内容も何となく分かる。このスゴロクゲームでは対戦相手に様々な妨害行為が出来るのだが、セイカは手に入った妨害の手札を全てアキに向けていたのだ。一点狙いもまぁ最下位を避けるための戦術の内ではあるが、一位を狙うのが定石だろう、俺もアキもそうしていたし。

(セイカ様にゃママ上は狙えませんよな……)

罪悪感や恐怖心からセイカが母に何も出来ないのは仕方ない。俺に対してもまぁ、罪悪感でもあったのだろう。それじゃゲームにならないって? ほんとそれ……

「アキ、そんな怒るなよ」

たかがゲームで、と言いかけて口を噤む。ゲームで怒っている相手にこれは禁句だ、更に怒るか拗ねるかの二択になってしまう。

「秋風……」

《んだよ陰湿野郎!》

俺が黙り込むとセイカは何かを諦めたかのような表情をした後、ゆっくりとアキを見上げた。そしてテディベアをきゅっと抱き寄せて顔の下半分を隠し、うつむき加減で瞳だけでアキを見上げた。

《その通りだよ、俺は陰湿で最低だ…………俺のことなんか嫌いになって当然だ、みんなそうなる……でも、秋風……お前には、やだ。嫌わないで》

《ごめんよスェカーチカ愛してるよぉお!》

叫びながらセイカを抱き締めて撫で回し頬を高速で擦り付けるアキを見ていると、何だか自分を見ているように思えてむず痒くなった。

《ゲーム如きでそんな怒ったり嫌ったりする訳ないじゃんほんのジョークだってぇ!》

《ほんと?》

《ガチ! マジ! 大好き!》

《……よかった。俺も秋風大好き》

《…………! 今、この瞬間……全ての兵器が朽ち、災害病魔貧困差別その他ありとあらゆる苦しみが消え、小鳥が歌い、世界に平和が満ち満ちた──》

アキは一瞬の硬直の後、ずるずると崩れ落ちた。しかし腕だけはしっかりとセイカにしがみついている。セイカはそんなアキの頭を撫で、安堵したようにため息をついた。

「ふふっ……鳴雷、コイツお前にそっくり」

「息子が旦那に似てきたことを嬉しそうに報告する熟れた人妻」

「一息で『格』を見せつけてくるじゃん」

「今晩はお楽しみですね!? 息子が寝たら久しぶりに新婚気分でってか、あの当時と比べたら魅力のない身体になっちゃったけどってか、ハァ!? 今の方が色気ムンムンですが!? っひゃー! オラ、ムラムラが止まんねぇぞ! もう一人仕込むぞマイスウィートハニィーッ!」

「意味分かんない意味分かんない来ないでキモい怖いキモい怖い怖い怖い怖い!」

「ウケる」

「息子のコレを見てソレ!?」

じゃれ合う息子達とその恋人、幸せな光景を肴にするように母は俺達を横目で見ながら缶ビールを一気に飲み干した。
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