1,274 / 2,313
合鍵を持つ者
しおりを挟む
朝、目を覚ました俺はアキの手を引いてダイニングに向かった。起きたら包帯を外そうと眠る前に話していたが、寝起きの頭は母の意見を求めた。
「うーん……どうしようかしらねぇ、アキがこれで過ごせるならこのまでもよさそうだけど」
「流石に見えないと飯も食べられないんじゃないですか? 食事中だけでも目を開けさせないと……」
「でもサンさんは普通に食べてましたぞ」
「生まれつきの全盲を引き合いに出すなよ。あぁそうだ、あの人と付き合ってるんだから水月はそういう誘導お手の物じゃないのか?」
「食事の誘導はしたことありませんぞ」
「うーん……アキのはホットサンドにしましょうかね」
母の機転によりアキの朝食は手で食べられるものとなった。俺達の分はベーコンに目玉焼き、レタス、そしてトーストだ。プレートに盛られている。
「朝食のボリュームがすごい……!」
一人暮らしの歌見は朝食の量に感激していた。
朝食を終えると歌見は急いで家を出ていった、一旦アパートに戻って荷物を取ってから大学に行かなければならないと慌てていた。
「……そろそろ私も出なきゃね。気を付けなさいね、水月」
「はい、行ってらっしゃいませ」
母を見送り、リビングに戻る。ソファでは包帯を巻き直したアキがセイカの肩に頭を預けて退屈そうにしている。
「アキの具合どうだ?」
「痛いって言ってるけど、落ち着いてる」
「そっか……」
「…………あの、な? 秋風……昨日泣いただろ? で、鳴雷が慰めた」
頷きながらセイカの隣に腰を下ろす。
「鳴雷のおかげで何とか、俺と鳴雷が殴られたりしたのは自分のせいって思い込みは薄れたみたいなんだけど……」
「そうか! よかった……ん? けど? けどって?」
「……ほら、秋風ちょっと野生動物っぽいとこあるだろ? 痛くても痛い顔しないとか、外で飯食う時は知らないヤツに背後取られないようにするとか」
後者は全く気付かなかった。
「それにプラスして、自分の大切にしてるモノは他人に知られると利用されるかもしれないから、これからは誰を大切にしてるか誰にも知られないように気を張るって……言ってて、さぁ……なんか、悲しくて」
「……だな」
異国の地で出来た大切な人達。それを紹介したのは実の父親。それが油断だとか、弱みを見せただとか、落ち度として記憶されるのはとても悲しいことだ。
「…………アキ」
俺には父親が居ないからよく分からない。でも、息子の大切な人を聞き出してそれを利用するなんて、父親のすることではないとは分かる。いや、人間のすることですらない。でも、ヤツはそれをやった。外道だ、そう非難したところであった出来事は変わらない。アキの悲しい学習をリセットするのは難しい。
「アキは多分、何言っても……思い直しちゃくれないよな。改善したつもりなんだし……この先警戒が解けていくのをゆっくり待つしかないのかな」
「……時間任せか」
「一番の薬だからなぁ」
俺に出来るのはその時間を出来る限り優しいものにしていくことくらいだろう。
「……ところで鳴雷、今日は出かけないのか? 夏休み後少しだしデートの約束とか入ってるんじゃないのか?」
「今日は流石に家に居るよ、アキが心配だし……課題終わってないし。助けてくれセイカ」
「しょうがないな。答えは教えないからな、解き方のアドバイスだけだぞ」
十分だとセイカを拝み、学校支給のノートパソコンを持って彼の隣へと戻る。雑談もしながらセイカに教えを乞い、俺は少しずつ課題を片付けていった。
「……秋風やっぱり静かだなぁ。いつもならもっと俺のこと可愛い可愛い言ってくるのに」
「それも弱みを見せない的なことなのかな?」
「めっちゃもたれてるから違うと思う。単に喋る気になれないんだと……んっ? お前のママ上……忘れ物でもしたのかな?」
その疑問の理由は至極単純、玄関扉の開閉音が聞こえたからだ。義母が出ていった音ではない、鍵を挿して回す音がした、誰かが入ってきたのだ。廊下から足音がする。
「だ、誰……? アキのお父さん来たとか?」
「え……全員ここで死ぬのか?」
戦慄する俺とセイカに対し、アキはくつろいだままだ。アキは自分の父親であるという可能性を考えていないのだろうか、そう不思議に思ったところで扉が開いた。
「せんぱーい、せんぱーい……アキくんの部屋かな……」
馴染みのある可愛らしい声と、紫色のシルエットが見えた俺は安心して声を上げた。
「あっ、レイ! こっちこっち」
ダイニングを抜けて窓から庭に出ようとするレイを呼び止める。こちらを向いた彼はパァっと笑顔になり、俺に向かって走ってきた。
「せんぱいっ!」
ソファに座っている俺の膝の上に飛び乗ってきた彼を抱き締めて、まずは唇を重ねる。
《狭いな……秋風、膝座っていいか?》
《ん……あぁ、いいぜ》
ソファの真ん中に座っていたセイカがアキの膝の上へ移動する。俺はレイの舌のピアスの感触を久しぶりに味わいながら、俺に向かい合うように座った彼の太腿を抱いて彼の身体を回し、俺の太腿の上に横向きに座らせ、セイカが先程まで座っていた方へ足を伸ばさせ、キスを続行した。
《俺達はお前の親父さんじゃないかってビビってたんだけど、秋風はくつろいだまんまだったな。なんで?》
《え? あぁ……足音軽かったからな。親父なら足音しないか、もっと重いか、どっちかだ》
《なるほど、デカかったもんな。え、足音しないかもしれないのか? 怖……》
《忍び寄るつもりなら足音消すと思うぜ》
《怖……》
キスを終え、見つめ合う。微笑み合って抱き締め合う。
「もぉ、せんぱい舌吸い過ぎっすよぉ……痺れちゃったっす。にしても久しぶりっすね、コミケぶりっすか?」
「そう……だなぁ。今日はどうしたんだ?」
「あの後せんぱいすぐまた旅行行っちゃって寂しくてぇ……帰ってきたって聞いて、居ても立っても居られなかったっす! メッセ送るの忘れちゃったっすけど、今日用事あったりしないっすよね?」
「今日は特に何もないよ」
「よかったっす。見て欲しいものがあるんすよ。でもその前に……アキくん何してるんすか? 最強呪術師のコスプレとか、じゃないっすよね……素で髪白くてちょうどいいんすけど」
「昨日の俺と同じこと言ってるな。怪我しちゃったんだよ」
「目をっすかぁ!? うわー……視力、大丈夫なんすよね……?」
「あぁ、瞼とか目の周り切っただけだから眼球は無事だよ」
レイは分かりやすくため息をついて胸を撫で下ろした。我がことのように心を動かしてくれて、とても嬉しい。
「なんでそんな怪我しちゃったんすか?」
来るだろうと予感していた当然の疑問に、俺とセイカの空気は途端に重苦しいものへと変わった。
「うーん……どうしようかしらねぇ、アキがこれで過ごせるならこのまでもよさそうだけど」
「流石に見えないと飯も食べられないんじゃないですか? 食事中だけでも目を開けさせないと……」
「でもサンさんは普通に食べてましたぞ」
「生まれつきの全盲を引き合いに出すなよ。あぁそうだ、あの人と付き合ってるんだから水月はそういう誘導お手の物じゃないのか?」
「食事の誘導はしたことありませんぞ」
「うーん……アキのはホットサンドにしましょうかね」
母の機転によりアキの朝食は手で食べられるものとなった。俺達の分はベーコンに目玉焼き、レタス、そしてトーストだ。プレートに盛られている。
「朝食のボリュームがすごい……!」
一人暮らしの歌見は朝食の量に感激していた。
朝食を終えると歌見は急いで家を出ていった、一旦アパートに戻って荷物を取ってから大学に行かなければならないと慌てていた。
「……そろそろ私も出なきゃね。気を付けなさいね、水月」
「はい、行ってらっしゃいませ」
母を見送り、リビングに戻る。ソファでは包帯を巻き直したアキがセイカの肩に頭を預けて退屈そうにしている。
「アキの具合どうだ?」
「痛いって言ってるけど、落ち着いてる」
「そっか……」
「…………あの、な? 秋風……昨日泣いただろ? で、鳴雷が慰めた」
頷きながらセイカの隣に腰を下ろす。
「鳴雷のおかげで何とか、俺と鳴雷が殴られたりしたのは自分のせいって思い込みは薄れたみたいなんだけど……」
「そうか! よかった……ん? けど? けどって?」
「……ほら、秋風ちょっと野生動物っぽいとこあるだろ? 痛くても痛い顔しないとか、外で飯食う時は知らないヤツに背後取られないようにするとか」
後者は全く気付かなかった。
「それにプラスして、自分の大切にしてるモノは他人に知られると利用されるかもしれないから、これからは誰を大切にしてるか誰にも知られないように気を張るって……言ってて、さぁ……なんか、悲しくて」
「……だな」
異国の地で出来た大切な人達。それを紹介したのは実の父親。それが油断だとか、弱みを見せただとか、落ち度として記憶されるのはとても悲しいことだ。
「…………アキ」
俺には父親が居ないからよく分からない。でも、息子の大切な人を聞き出してそれを利用するなんて、父親のすることではないとは分かる。いや、人間のすることですらない。でも、ヤツはそれをやった。外道だ、そう非難したところであった出来事は変わらない。アキの悲しい学習をリセットするのは難しい。
「アキは多分、何言っても……思い直しちゃくれないよな。改善したつもりなんだし……この先警戒が解けていくのをゆっくり待つしかないのかな」
「……時間任せか」
「一番の薬だからなぁ」
俺に出来るのはその時間を出来る限り優しいものにしていくことくらいだろう。
「……ところで鳴雷、今日は出かけないのか? 夏休み後少しだしデートの約束とか入ってるんじゃないのか?」
「今日は流石に家に居るよ、アキが心配だし……課題終わってないし。助けてくれセイカ」
「しょうがないな。答えは教えないからな、解き方のアドバイスだけだぞ」
十分だとセイカを拝み、学校支給のノートパソコンを持って彼の隣へと戻る。雑談もしながらセイカに教えを乞い、俺は少しずつ課題を片付けていった。
「……秋風やっぱり静かだなぁ。いつもならもっと俺のこと可愛い可愛い言ってくるのに」
「それも弱みを見せない的なことなのかな?」
「めっちゃもたれてるから違うと思う。単に喋る気になれないんだと……んっ? お前のママ上……忘れ物でもしたのかな?」
その疑問の理由は至極単純、玄関扉の開閉音が聞こえたからだ。義母が出ていった音ではない、鍵を挿して回す音がした、誰かが入ってきたのだ。廊下から足音がする。
「だ、誰……? アキのお父さん来たとか?」
「え……全員ここで死ぬのか?」
戦慄する俺とセイカに対し、アキはくつろいだままだ。アキは自分の父親であるという可能性を考えていないのだろうか、そう不思議に思ったところで扉が開いた。
「せんぱーい、せんぱーい……アキくんの部屋かな……」
馴染みのある可愛らしい声と、紫色のシルエットが見えた俺は安心して声を上げた。
「あっ、レイ! こっちこっち」
ダイニングを抜けて窓から庭に出ようとするレイを呼び止める。こちらを向いた彼はパァっと笑顔になり、俺に向かって走ってきた。
「せんぱいっ!」
ソファに座っている俺の膝の上に飛び乗ってきた彼を抱き締めて、まずは唇を重ねる。
《狭いな……秋風、膝座っていいか?》
《ん……あぁ、いいぜ》
ソファの真ん中に座っていたセイカがアキの膝の上へ移動する。俺はレイの舌のピアスの感触を久しぶりに味わいながら、俺に向かい合うように座った彼の太腿を抱いて彼の身体を回し、俺の太腿の上に横向きに座らせ、セイカが先程まで座っていた方へ足を伸ばさせ、キスを続行した。
《俺達はお前の親父さんじゃないかってビビってたんだけど、秋風はくつろいだまんまだったな。なんで?》
《え? あぁ……足音軽かったからな。親父なら足音しないか、もっと重いか、どっちかだ》
《なるほど、デカかったもんな。え、足音しないかもしれないのか? 怖……》
《忍び寄るつもりなら足音消すと思うぜ》
《怖……》
キスを終え、見つめ合う。微笑み合って抱き締め合う。
「もぉ、せんぱい舌吸い過ぎっすよぉ……痺れちゃったっす。にしても久しぶりっすね、コミケぶりっすか?」
「そう……だなぁ。今日はどうしたんだ?」
「あの後せんぱいすぐまた旅行行っちゃって寂しくてぇ……帰ってきたって聞いて、居ても立っても居られなかったっす! メッセ送るの忘れちゃったっすけど、今日用事あったりしないっすよね?」
「今日は特に何もないよ」
「よかったっす。見て欲しいものがあるんすよ。でもその前に……アキくん何してるんすか? 最強呪術師のコスプレとか、じゃないっすよね……素で髪白くてちょうどいいんすけど」
「昨日の俺と同じこと言ってるな。怪我しちゃったんだよ」
「目をっすかぁ!? うわー……視力、大丈夫なんすよね……?」
「あぁ、瞼とか目の周り切っただけだから眼球は無事だよ」
レイは分かりやすくため息をついて胸を撫で下ろした。我がことのように心を動かしてくれて、とても嬉しい。
「なんでそんな怪我しちゃったんすか?」
来るだろうと予感していた当然の疑問に、俺とセイカの空気は途端に重苦しいものへと変わった。
10
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話
ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる