冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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彼らの登下校方法

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更衣室で着替えた俺はセイカの乗る車椅子を押してエレベーターに乗った。

「……繰言先輩だっけ。随分仲良くなってたな」

「あぁ、うん。お前と好きなゲーム似てたから、その話したらすっごい話してくれて」

「このキモオタキラーがよ……」

「鳴雷? なんか、怒ってる……? なんで……」

「そりゃ怒るよ他の男の隣座ってたり仲良く話してたりするとこ見たんだから!」

「え……ご、ごめん」

俯いてハムスターのぬいぐるみを握り締めるセイカを見下ろして、ようやく罪悪感が湧いた。だが罪悪感よりもずっと、独占欲が満たされていく悦びの方が強かった。

「…………セイカだって、友達作りたいよな。でも、やだ……リュウとかハルとか居るじゃん、我慢しててよ、彼氏同士ならいいから……他所の男と仲良くするのやめて。俺ので居てよ」

「俺は鳴雷のだよ。身も心も、命も、鳴雷の。虐めても、優しくしても、憎んでも、好きでいても、生かしても、殺してもいい……鳴雷は俺に何しても自由。鳴雷のだよ、俺は、俺の全部は。ずっと、永遠に、鳴雷だけのもの」

嬉しくて、申し訳なくて、目頭に熱を感じながらセイカを背後から抱き締めた。途切れた腕が俺の頭を撫でる。セイカからしか味わえない愛撫を目を閉じて堪能しているとポーンと電子音が聞こえて、俺は慌てて身体を起こした。エレベーターの扉が開き、帰宅や部活の準備のため行き交う生徒達の視線がチラホラと俺達に向く。

「鳴雷ー、倒れたってー?」

「ちょっとな、もう大丈夫だよ」

「二人共お大事にー」

「あぁ、どうも」

「俺何ともないんだけどな……」

その他大勢の生徒達からの声に適当な返事をしながら、教室へと帰った。

「セイカ、俺ロッカーに教科書入れてくるから」

「うん」

「おかえり~。みっつん、体調どぉ? 全員で押しかけるのもどうかと思って~、生徒会連中に任せたんだけど~」

「あぁ、大したことなかったよ。っとそういえばリュウ、お前行進中バイブどうしたんだ?」

「あー……着替えん時に抜いとってん、けどぉ……今もうちゃんと入れたから、怒らんといてな」

「俺に許可取らず抜いたんだ、お仕置きだな。ま、今日はもう時間ないし……明日以降だけど」

「……! へへっ……」

「じゃ、俺ロッカー行くから」

机から出した教科書を抱えてロッカーへ。教科書を片付けたら教室へ。彼氏達は彼氏達同士でだけ談笑しており、大変微笑ましい。繰言と仲良さげにしているのを見た時のような苛立ちなんて、欠片もない。

「ただいま」

おかえりー、と笑顔で出迎えてくれる彼氏達。くじ引きでない席替え、最高! 今までこれほど担任に感謝したことはない。



外履きの靴に履き替えて、ハルと別れて下校……はまだせず、ハルとも一緒に教師や客用の駐車場へ行ってみた。

「あっ……」

「む」

「水月くん、みんなも。どうしたんだい?」

「やっぱりこっちに居たんですね! 下校の時に見かけたことがないので、車で帰ってるのかもって昨日話したんです。なぁ?」

「ええ、予想は的中したようですね」

「なるほどね~」

「車で登下校ですか、ええなぁ」

ミフユはネザメを日陰へと導いた。俺達との立ち話をしばらく続けようとしてくれているようだ。

「一緒に帰るかい?」

「あぁいえ、すんまへん。催促のつもりで言うたんとちゃうんです」

「この人数は車に入りませんよ、ネザメ様」

「でも、水月くんは倒れたばかりだし、心配だよ。車椅子を押していくのも大変だろう? 水月くんと狭雲くんだけでも……ダメかな?」

ミフユは「うーん」と考えるような仕草をしながら俺の方を向く。

「えっと……でも、申し訳ないって言うか」

「恋人に遠慮なんて不要だよ、水月くん」

「そうですよ、また倒れても困りますし送ってもらいなさい。狭雲さんだって車の方がいいでしょう?」

「え……う、うん。俺はいいけど、鳴雷は……今日倒れたの心配だし、俺押してくのも大変かなって……」

彼氏全員から勧められては断れない。もう体調は何ともないのにと言いつつ頷いた。



運転手のミフユの親戚の方に車椅子を畳んでもらい、車に積み込んでもらう。セイカは申し訳なさそうにしていたけれど、エアコンの効いた車内の柔らかなソファに座ると顔を綻ばせた。

「水月くん、狭雲くん、シートベルトは締めたかい?」

声を揃えて返事をするとネザメは微笑んだ。

「もういいよ。あぁ、窓を開けてもらえるかな。友人達がそこに居るんだ」

車の窓が開き、手を振っている彼氏達の声が車内に届く。窓から手を振り、バイバイまた明日といつも通りの挨拶を送った。

「水月くんの家の場所分かるかい? えぇとね……」

ネザメは運転手に俺の家の住所を教えてくれている。俺がやるべきことだったな……少し落ち込む。

「狭雲一年生、繰言二年生と仲良くなっていたようだが連絡先の交換などは行ったか?」

「あ、してない……してません」

「そうか、ヤツはサボり癖のある問題児でな……しょっちゅう学校を休み、学校に来ても保健室から出てこない……貴様が連絡先を獲得し、仲の良さを利用して家や保健室から誘き出してくれないかと思ったのだが」

「…………それサボりなんですか? なんか、学校居辛いタイプの子っぽいなって俺は思いましたけど」

「いや、サボりだ」

ミフユはそういったことに理解のない人だったか? そうだとしても、俺には分からない繰言の本性を見抜いているのだとしても、どちらでも納得は出来る。

「どうして言い切れるんです?」

「我がクラスは客観的に見て居心地の悪さを感じるような箇所はないと思われる。ヤツが話すのを苦手とする人間でないのも分かっている。以前話した時、ミフユが話す隙すら与えなかったぞ」

話すのが苦手、というのは人と対面すると黙り込んでしまう者だけを指す言葉ではないと思う。言葉のキャッチボールという会話が出来ない者も分類されていると思う。

「その際に本人が言っていたのだ、サボりだとな。心身の不調ならともかく、単なる怠慢でネザメ様の在籍するクラスから留年者を出すなど許せん!」

「なるほど……いやぁ、でも……」

本人の発言でもあまり信用は出来ない。自分の弱さを隠すために適当なことを言ったり、雑に自分を卑下するタイプだと俺は思う。

「まぁ、厳しくし過ぎても逆効果だと思うので……お手柔らかに」

「……分かっている。だが……ミフユには、やり方が分からん。出席日数にも余裕がない、ゆっくりと優しく対応してやれる期間など、とうに過ぎたのだ」

ミフユは深くため息をついて憂いに満ちた瞳で車窓から外を眺めた。俺には同級生が留年したことでネザメの評判が下がるとは思えない、仲がいい訳でもないクラスメイトのことで頭を悩ませるミフユの気持ちを理解してやれる日は遠そうだ。
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