冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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空間把握はお手の物

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ヒトとサンと共にエレベーターに乗ると、ヒトはスマホを弄り始めた。間もなくして俺のスマホが鳴る。

「水月の?」

「あ、うん……彼氏から」

「ふーん? 予定の子かな」

正解だ。ヒトからのメッセージ通知を見てサンの勘のよさを笑う。

『サンはご存知の通り盲目ですので、あなたの家に着いたかどうかなど分からないと思います』
『少し回り道をして予定の店にあなたを下ろします。サンを送ってから合流しますので、店で少し待っていてください』

なるほど……

「絵の具の匂いがキツいですね。窓開けます」

車の発進前にヒトは全ての窓を開けた。しかしそれでも、後部座席でサンの隣に座っている俺が感じる油絵の具の匂いはあまり薄れない。

「久しぶりだね、サン。近畿旅行ぶりだっけ……メッセ送ったり電話かけたりしたのに、全然返事ないんだもん。寂しかったよ」

「旅行の後は描く気がもりもり湧いてきてね~。昨日今日あたりでようやく尽きてきてさ、水月からのメッセも気付いたんだけど……多過ぎて、なんか、面倒臭くなっちゃって。大した内容じゃなかったしいいかな~って」

「もぉ……元気かどうかくらい教えてね」

「は~い」

高級ホテルの前で車が停まる。まさかヒトが予約したレストランとは、ホテル内にあるレストランのことなのか? 大人の財力を感じる。

「着きましたよ、鳴雷さん」

「ありがとうございます。さようなら、ヒトさん。またね、サン」

「あー待って待って水月、せーくんとアキくんに挨拶しておきたいんだ」

「あ、ごめんねサン……セイカは今日新しい義足の、なんて言うんだろ、測定? とかやっててさ、居ないんだ。アキはほら、セイカにベッタリだろ? だから一緒に行ってて……」

「そう……じゃあ適当によろしく言っといて~。ばいば~い」

車の窓から伸びたサンの手を掴み、手を振る。サンを騙している罪悪感に胸を痛めながらも、俺はホテルの前でヒトを待った。



ヒトは恐らく俺の家からサンの家まで走ったと演出するため、遠回りをして距離を稼いでくるのだろう。数十分待つことも覚悟したが、ヒトの車は数分で俺の前に帰ってきた。

「あれ……」

酷く落ち込んだ様子のヒトと、いつも通りの無気力に見える表情のサンが降りてきた。

「…………失敗しました」

「水月~、一緒にご飯食べよ~」

「えっ、え……ど、どういうこと……」

「……バレたんです。いえ、バレていたと言った方がいいでしょうか。何があったかお話します──」

暗く小さな声でヒトは語り始めた。



鳴雷さんを降ろしてすぐ、数メートルほど進んだ頃、運転席が後ろから激しく蹴り付けられました。

「兄貴、どういうつもり?」

「……っ、こっちのセリフです! 何ですかいきなり!」

「匂いが違う、曲がる回数がおかしい。ここ、どこ? 水月をどこに降ろしたの」

「何を言って……鳴雷さんのご自宅にお送りしたんですよ」

「……ねぇ、ここどこ?」

サンのスマホが現在地の詳細な住所を答えて、私は青ざめました。

 「ボスもよく言ってるけどさ~……バカだよねぇ兄貴って。彼氏との待ち合わせ場所に水月を送ったって言えばいいだけなのに……この辺ならレイちゃんとかさ。体感でどれくらい走ったか測るしかないボクに、遠回りの道を使って距離を誤魔化すアイディア自体はまぁいいとして…………盲の空間把握能力ナメてんじゃねぇぞ」

「………………嘘をついたのは、謝ります。待ち合わせ場所に送ったと正直に言えば……鳴雷さんの彼氏との約束を、あなたが邪魔しないかと……だから」

「まだ嘘をつくようなら、小指だけじゃ済まさないけど」

私は観念しました。サンは昔から妙に勘がよく、それ以上に疑り深く、何よりも私を嫌い信用せず……話す他なくなりました。

「………………旅行の時より、鳴雷さんと……お付き合いをさせていただいております」

「へぇ? 兄貴ってもう離婚したんだっけ」

「いえ……」

「だよねぇ、親父に唯一褒められたんだもんね。ガキ作ったこと。ボクが作れなかったガキ作れて褒められたのが人生で唯一褒められたことだもんね。まぁオスじゃなくてメスだったから反応微妙だったけど、次はオス産ませろって頼まれもしたんだもんね。それまで親父にはどーでもよさそうに扱われてたのにさぁ? そんな思い入れのあるメスブタとメスガキ、そうそう簡単には捨てられないよね~……水月知ってんの、それ。あの子泣かせたら沈めるぞ?」

「…………はい、不倫であることは最初に伝えました。だから……誰にも、特に組関係者にはバレないようにと」

「ふーん……」

「……誰にも言わないでください」

私にはもう、サンに秘匿を懇願する道しか残されていませんでした。

「どうして?」

「分かるでしょう、不倫の上高校生に手を出していたなんてなったら大問題です。あのクソ女に自分の浮気は棚に上げて慰謝料踏んだくられますし、水月の親御さんにもきっと……警察の厄介になるかもしれないし、何より二度と鳴雷さんに会えなくなるかもしれない」

「……兄貴、水月のことそんなに好きなんだ?」

「…………はい。お願いします……サン、私から水月を奪わないでください。今度こそ、水月だけは」

「何その言い方、まるでボクが今まで兄貴から何か盗ってきたみたいな言い方だね」

「奪ってきたでしょう……父の愛情も、弟の信頼も、古株の忠誠も、部下の尊敬も、何もかも」

「ガキをこさえただけでボクから組長の座を奪って、ボクの絵の売り上げもかなりピンハネしてるくせして何言ってんの」

「組長の座はあなたいらないって言ってたでしょう! 金だって……あなたがあまり使わないから、あなたが好きにしていいって言った分を会社の運営に回しているだけです」

「私服肥やしてるくせに~……ま、金はいいよ、どうでも。水月はね、ボクが先に好きになったんだよ。兄貴達より前にボクが。なのに抜け駆けしようだなんて……それはダメだろ? ねぇ……」

「……抜け駆け、なんて」

「不倫、誰にも言わないし、水月と別れろとも言わない。兄貴の大好きな現状維持をさせてあげる。だからね兄貴、今日は一緒にご飯食べよ」

それを拒否することなど私には許されません。



語り終えたヒトは酷い乱暴を受けた少女のような表情になっていた。

「──と、いうような流れで……バレてしまい、サンもここに来ることに……ごめんなさい。初めてのまともなデートなのに……こんなことになって」

被害者面のままそう語るヒトの隣にサンは居ない。ヒトが長々と話している間に、サンは「シャワー借りてくるね」と先にホテルに入っていったのだ。こんな高級ホテルにあんな格好で入っていって、追い返されないのだろうか。ホテルのシャワーで絵の具を洗い流すなんて許されるのだろうか、色々心配でヒトの話に身が入らなかった。
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