冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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怪異より怖い (〃)

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墓に着いた。人が埋葬され供養されている場所だからだろうか、肝試しスポットとして扱うことに罪悪感がある。廃墟ではあまりそうは感じないのに。

「前から気になってたんだけどさ、なんでお墓って心霊スポット扱いされるの? ちゃんと火葬して、お墓に収めて、念仏上げてるんだから成仏ってのしてて幽霊なんか居ないはずじゃないの?」

「ふむ、真っ当な疑問じゃの。察しのいい素人はそういう疑問を抱くものじゃ」

素人なのは当然だから「察しのいい」の部分だけ抜き取って褒められていると感じよう。胸が温かくなってきた。

「大抵の浮遊霊と呼ばれるものは単なる残留思念……空間に焼き付いた強い想いじゃ。残留思念に念仏を聞かせても仕方がない、成仏させるべき魂が入っとらんのじゃからのぅ。まぁ、念仏っちゅうもんは霊力が乗せやすいもんじゃから、その霊力で大抵の残留思念は霧散するんじゃがな」

「……ん? じゃあちょくちょく唱えられてるお墓にはやっぱり居ないんじゃ?」

「大抵の、っちゅうたろ? 並の坊主の念仏では消えん強い残留思念……もしくは魂を持つ本物の幽霊、墓や寺社仏閣の周辺に居るのはざっと分けて二種類じゃ」

「ほ、本物の幽霊……」

「さっちゃんみたいに幽霊生活満喫しとるならまだしも、さっさと成仏したいって幽霊も居るんじゃ。しかし自力で成仏するんは難しい、ならば念仏を聞けば何とかなるかと近寄ってみる……しかし墓で唱えられるのは誰かに向けてのもん、自分に向けてのもんじゃない。他人向けのは効きが悪い。それに成仏したいからと聞きに行っても、なんだかんだ聞く耳を持てなかったりもする」

「えぇ……? どういうこと?」

「死ぬ死ぬ言うて手首に切り傷作っとるだけ、っちゅう生者結構居るじゃろ。死ぬんと成仏じゃ随分違うが……寸前になって現状維持を望んでしまう、二の足を踏む……よくあることじゃ」

寸前になって現状維持を望んでしまう、という言い方をされると何だか耳が痛いな。俺にも心当たりがあるんだろうか、自覚はしていないが。

「あと、幽霊は陰気な場所を好むんじゃ。大抵の生者が好かんとその好かんっちゅう念で空気が淀む、陰気になる。陰気になると生者は好まん、好まんからますます陰気になる」

「悪いスパイラルだねぇ……」

「墓、好きなヤツあんまり居らんじゃろ。陰気なんじゃ。じゃから幽霊が寄ってくる、居心地いいんじゃろ。死者のための場所じゃしな」

「死者のための場所って……埋まってる人の場所だよ? 外ふわふわしてる人達じゃなくて」

「縁側に置いといた飼い猫用の飯を野良猫が食いにきよるっちゅう感じじゃないかの?」

急に説明が雑になったな。

「…………分かったかの? 墓に色々と居る理由」

「うん……まぁまぁ」

「ならば三つのうち最後にした理由も分かるじゃろう、墓に居るのは強い。さっちゃんも強くなっておかねば食えん」

車が停まった。俺達は車を降り、墓場を覗いた。この墓場は外側から見えないように塀で囲まれており、現在俺が手前に立っている正門は鍵がかけられており侵入は難しい。生きた人間なら、の話だが。

「それじゃあワシはさっちゃんに着いていくぞぃ。本物の幽霊を食うのはまだ難しいじゃろうからな、ワシが追っ払ってやらねば」

「気を付けるんだよサキヒコくん。サキヒコくんをお願いね、コンちゃん」

「分かっている。必ず実体化出来るまでに成長してみせるから、待っていてくれミツキ」

「……前二つとは訳が違う、留守番とはいえ無防備で居るのは危険じゃ。ワシの尻尾を一本貸してやろう。霊から身を守る防具であり、霊的視力を上げる眼鏡でもある」

ミタマは何でもないような顔で自分の尻に生えた尾を一本引き抜き、俺の腰に押し付けた。すると尻尾は何故か服の上から俺の腰に引っ付いて離れなくなった。いや、ミタマに生えていた時点で服の上から生えているものではあったか。

「じゃあの~」

ひらひらと手を振ってミタマは去っていく。

「え……?」

「わ~、かわいいねぇ、かわいいよみつきぃ」

ぶんぶんと飼い主に愛でられている犬のように激しく揺れる、俺の腰に付けられた尾。それを見てニコニコと笑っているフタの肩には猫、頭の上にも猫が居る。腕に絡みついている猫は重力を感じさせない。その三匹は少し透けていて、猫にしては何だか大きくて、尾の先端が二つに割れていた。

「も、もふもふと……サビ柄と、トラ柄? え……ま、まさかイチニィミィちゃん!? うわぁ見える! 見えるぅ! この尻尾すごい!」

「みつきかわいい~。ん、どしたのイチぃ、前見えないよ~?」

長毛の猫がフタの顔に全身を擦り寄せている。他の二匹もそれぞれフタの耳辺り、二の腕に頬擦りをしている。微笑ましい光景のはずなのに、妬ましい。

(うぬぬぬ……わたくしもフタさんにスリスリしたいでそ! む……? ま、まさかこの猫達、今まで可愛がられてきたのは自分達なのにって、ぽっと出のわたくしを妬んで見えないようにしているのでわ!?)

互いに妬み合っているのでは、そう思い至った俺はフタの胸に飛び込んだ。

「わっ、どうしたのみつき~。お墓こわい?」

猫達に威嚇でもされるかと思っていたが、そんな声は聞こえてこない。恐る恐る顔を上げて猫達の様子を見る……居ない?

「あれっ、フタさん……化け猫ちゃん達は?」

「え? あれ? あぁ居た」

猫達は墓の方を向き、毛を逆立ててシャーッだのフーッだのと鳴いて威嚇している。何か居るのかと恐ろしくなり、フタに抱きつく腕の力を強める。

「みつきぃ~、動きにくい。手ぇ握っててあげるから~、ぎゅーは後ね~?」

いつもの間延びした話し方のままだ。少し安心し、俺はフタの左手を握った。強く握り返されたその瞬間、ゾクッと背筋に悪寒が走った。

「え……?」

塀をすり抜けて何かが現れた。真っ黒な人型の……人型にした針金に電気を通して砂鉄をつけてるみたいな……不気味な化け物。人間より一回り大きなそれに向かって猫達は毛を逆立てている。

「フ、フタさんっ、フタさんフタさんフタさんっ! 見えてるんですよねアレっ、フタさんにも見えてますよねあの黒いの!」

「黒いのね~、居るね~。みつきちょっと手ぇ離して」

「嫌です! 怖い!」

「かわいいね~、みつきぃ……こわい? ふふ、こわいんだ~、かわいい~」

ゆらゆらと歩いてくるそれは猫達にシャーッと威嚇されると僅かに怯む。フタはそれをさほど気にせず俺を愛で、困惑した俺がフタの手を握る力を弱めた瞬間、フタは俺の手を振り払った。

「俺の彼氏をさ~……ビビらせんないでくれるぅ? かわいいんだけどね~」

世間話のような軽い態度で話しながら、ポケットに手を入れたまま、フタは真っ直ぐに黒い何かを蹴った。意外にも蹴りが当たりよろけたそれの首を、塀をすり抜けて現れた狐が噛み、塀の向こうへと引きずり込んだ。

「追っ払う方向間違えた~! すまんの~! 此奴もう仕留めてしまうわ~!」

手を離せない家事をしながら誰かに別の用事を頼むような、何気ない大声。ミタマの声が塀の向こうから聞こえてきた。

「みつきぃ~、もう怖くないよ~」

宥めるように抱き締められながら、俺は今度は普段通りの態度のまま化け物をあっさりと片付けてしまったフタとミタマに怯えていた。
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