冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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目が覚めた? (水月+ハル・ノヴェム・ネイ)

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ノヴェムを連れてリビングに戻った。どうやらノヴェムの泣き声は聞こえていなかったようで、彼氏達は普通に出迎えてくれた。

「おかえり~、みっつん、ノヴェムくん」

顔を洗わせたことで顔全体の赤みが引いていたため、ノヴェムの顔をさっと見ただけでは彼の変化に気付けない。

「ねぇみっつん、ノヴェムくん……水月お兄ちゃん帰ってこない水月お兄ちゃん迎えに行くって聞かなかったから、仕方なく行かせたんだけど……大丈夫だった? その、一人でシてたりしてなかったよね?」

「してないしてない、流石に来客中にやるほどバカじゃないよ」

「ならいいけどぉ~……」

「……ネイさんは?」

「ダイニング居るけど」

ネイは何事もなかったかのようにダイニングでスマホを弄っていたが、俺の視線に気付くとこちらへ真っ直ぐやってきた。

「な……なんですか?」

恐怖と、ほんの少しの劣情が言葉を詰まらせる。

「そろそろ帰ろうかと思いまして」

「あ、あぁ……そうですか」

ノヴェムがまた口を滑らせないうちに撤退しようという判断か? 俺としては彼氏だけの空間が戻ってくるのでありがたい。

《ノヴェム、帰りますよ》

《え? なんで?》

《いつまでもお邪魔していちゃ迷惑でしょう》

《やだ! お兄ちゃんと一緒がいい!》

ノヴェムは俺にしがみついて離れなくなった。ネイはそんなノヴェムの小さな肩を掴み、軽く引っ張ったり優しく揺すったりしたが、ノヴェムの気が変わることはない。

《お父さんの言うこと聞いてくれたら、今日の晩ご飯はご馳走にしますよ》

「ノヴェムくん帰る気ないな~。めっちゃ懐いてんねみっつん。子供にも好かれるんだね~、優しいしカッコイイしぃ、当たり前っちゃそうなんだけど~……みっつん変な時にキョドったりひよったりするから~……ねぇ?」

「うん……分かる」

「ハル、セイカ……俺、頼りないかな?」

「え? そう聞こえた? ん~、普段はそんな感じだけど~……ここぞって時は、ねっ」

「うん、大事な時は……すごい」

「…………そっか」

二人は俺がネイの誘惑にほぼ負けていたことを知ったら失望するだろうか、呆れるだろうか。俺を見つめる同い歳の彼氏達の明るい笑顔を見ていると、嘘っぽい大人との一晩なんて、大した価値がないように思えてきた。

「困りましたねぇ……水月くん、ノヴェムを家まで運んでもらえませんか? そこでどうにか引き剥がします」

「……お断りします。こんなに泣いてるんですから、もう少しいいでしょう。ネイさん、お仕事とかあるんですか? 俺が見てますからどうぞ、おひとりでお帰りください」

「みっつん……?」

ネイの温和な表情が一瞬曇り、戸惑いが混じり、それからまた優しい微笑みへと戻った。

「なんならお泊まりでもこっちは構いませんよ、学校の用意とか着替えとか取ってきて、ここから学校行かせても……俺は全然」

「そこまでお世話になる訳には参りませんよ」

「そうですか?」

「……みっつん みっつんどったの、なんか怒ってる? バチバチじゃない?」

「何も怒ってなんかないよ」

不安げなハルを安心させるため笑顔を見せ、ネイに向き直る。

「ノヴェムが帰りたくないと泣くのはいつものことじゃないですか、それにこの子こうやって駄々は捏ねますがダメだと分かると……家に帰ると、案外すぐ落ち着くんです。切り替え早いんですよ、だから大丈夫」

そう、ノヴェムが俺に抱きついて「帰りたくない」と喚くのはいつものことだ。しかし今回は、先程俺の取り合いのような喧嘩をしたばかりなのだ。こんな状態で帰っても、家庭の空気は地獄だろう。

(気まずいだけならまだしも……過去バラしたり、わたくし落とすの邪魔したり、ノヴェムくんネイさん的には利敵行為ばっかしてるんですよな。ネイさん舌打ちしてましたし……ノヴェムくんには相当苛立っているはず。このまま帰して、もし、もしも、ネイさんがノヴェムくんを叩いたり……したら、そんなことになったら)

自宅で痩せ細り、ぐったりと横たわっていたセイカの姿が瞼の裏に浮かぶ。

(い、いや、ネイさん優しい方ですしノヴェムくん愛してるっぽいですから大丈夫……いやいやいや、アレは、アレは印象操作。ネイさんの本性は嘘つきってこと以外何も分かってないんですぞ! 今までの彼のイメージは捨て去って、ちゃんと頭を回しなされ!)

瞬きの度、セイカの姿がフラッシュバックする。母に撫でられそうになる度に怯える彼が、俺が片手鍋を持っただけで顔を真っ青にした彼が、街や店で聞く子供を窘める母親の声に震える彼が、ノヴェムの姿に置き換わる。

「……っ!」

ノヴェムは虐待なんてされていないし、多分されない。分かっているのに可能性が頭に浮かんでしまった瞬間、俺の脳は先程ネイに落とされかけていた時の鈍さが嘘だったかのような高速回転を見せ、最悪の未来を想像させ、ノヴェムを抱き締める腕の力を強めさせた。

《お兄ちゃん……?》

「…………ぁ、ご、ごめん、痛かったかな。ごめんっ、大丈夫? 大丈夫……大丈夫、か、よかった、ごめん……」

「みっつんマジでどうしたの? なんかおかしくない?」

「大丈夫……」

「顔色悪いって。あの……ネイさん、すいません、水月調子悪いみたいなんで……しばらくそっとしておいてもらえますか?」

「そのようですね。なら尚更ノヴェムをここに置いておく訳にはいきません」

強く抱き締めてしまった反動で腕が緩んでいた、ノヴェムも俺を気にして俺にしがみつく手の力を緩めていた。ネイはその隙を逃さず、ノヴェムの脇に手を通してさっと抱き上げた。いつもは腰がどうとか言ってノヴェムが抱っこをせがんでも断るくせに……そんなとこまで嘘なのかよ。

《……!? お兄ちゃん! お兄ちゃん!》

《お兄ちゃんは調子が悪いんですって、ゆっくり休ませてあげましょう。お邪魔な私達は帰りましょうね》

《やだ! お兄ちゃん元気ないんだったら、ぼく、えっと……かんびょー? する! 下ろして! はなしてえ! お父さんのばか! やだ、やだ! お兄ちゃん、みつきおにーちゃあんっ!》

頭の芯に響く、子供特有のキンッキンの声。その声は俺の名の形に歪んでいた。脳を揺さぶられた俺は、気付けばノヴェムを奪い返そうとしていた。力任せにしてはノヴェムが痛がってしまうから、奪い取ることは叶わなかった。

「……水月くん?」

「風邪とかじゃないんで……うつしませんから」

「ノヴェムを心配してるんじゃなく、あなたが休めるように帰るんですよ?」

「…………心配しろよ」

「え……? 水月くん、ごめんなさい、聞こえませんでした。もう一度──」

「心配しろっつったんだよノヴェムの方をよぉ! 今まで散々腰がどうとかいって抱っこ嫌がってたくせに、抱けるんじゃないですか! ノヴェムくんあんなに抱っこ抱っこって言ってたのに! なんなんですかそれも印象操作!? はぁ……あぁ、もう、好きだったのに、憧れてたのに……もう、いい、さっきはやばかったけど、ノヴェムくんのおかげで目が覚めた……子供大事に出来ない人とか、いくら綺麗で床上手でも……ないですから」

煮汁のアクを取り去ったように、ノヴェムのおかげでネイへの想いが一気に冷めた。さぁ、どう誤魔化す? どうノヴェムを連れ帰る? 嘘をついてみろよ嘘つきめ。

「………………子供を、大事に出来ない?」

どうせまた優しい笑顔で俺をなだめて、ハル達を誤魔化して、ノヴェムを連れ帰ろうとするのだろうという俺の予想は外れた。どうやら俺はネイの少ない地雷を見事踏み抜いたらしい。
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