冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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感謝を示せ (〃)

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壊れた物は、この世での役目を終えた物。死んだ生き物と同じあの世のモノ。そんな考えをカサネに教えてもらった俺達はすぐに実行した。ネイが傷を縫うための針を曲げ、縫合糸を切った。

《……! 感触がある。その感触も妙に薄いが……人を縫っている感触だ》

折れ曲がった針は何故かスムーズに刺さり、通り、数センチしかないはずの糸が通った後は繋がっていた。

《…………術式終了》

数十分後、男は深いため息をついて腕をダラリと垂らした。ゆっくりと起き上がったミタマは袖で首元の血を拭い、縫われたばかりの首を摩った。

「……うむ、塞がっておる。首回すだけでブチブチちぎれそうで怖いが……大人しゅうしとりゃ直に再生するじゃろう。大儀であったシェパードよ! 褒美を取らす。宝くじでも株でも博打でも好きなものに手を出すがよい、しばらくはバカヅキじゃ!」

「株や賭けには元手が少ない。宝くじやる。帰る。疲れた」

「あっ……ま、待って、ありがとうございました!」

荷物をまとめてさっさと帰ろうとする男を呼び止め、自分の足に額を打ち付ける勢いで頭を下げた。

「必要ない。兄貴分の失態を取り返したまで。フタの兄貴が殺したかったのは、狐じゃない。だから治した。本来のターゲットなら、俺は何もしていない」

「……本来のターゲットって、俺ですよね」

「俺達弟分は積極的に手伝いはしない、だが……妨害はしない。出来ない、と言った方が正しい。鳴雷 水月、俺達弟分はお前をフタの嫁と認めている、お前を隣に置いて幸せそうにしているフタをまた見たい。何が原因かは知らない、無理によりを戻せとも言えない、けれどフタの殺意が消えることを願っている」

彼はフタが俺を殺そうとしているのは、痴話喧嘩の発展系か何かだと思っているのだろうか。まぁ、それが普通だよな、恋人を殺そうとする理由なんて普通はそれだ。

「……帰る」

「ぁ……はいっ、お疲れ様でした、本当にありがとうございましたっ!」

俺は再び頭を下げ、男を見送った。庭に戻ると血に染まっていたはずの服を元通りの汚れ一つないものに変え、マフラーを巻き直しているミタマが居た。よくよく周囲を観察してみれば、セイカの服に飛んだ血や、芝生を赤く変えた血、アキの手を染めていた血なども消えている。

「コンちゃんっ……! コンちゃん、首っ」

「うむ。みっちゃん達のおかげで元通りじゃ。おおきに、みっちゃん、あーちゃん、せっちゃん。英寧もな」

「……もう大丈夫なんですか? すごいな……これが幽霊、いえ、付喪神でしたっけ」

「霊力はスッカスカじゃがのぅ。シェパードとかいうのに礼を払ってしもうたし」

「稲荷寿司いっぱい頼んだぞ。あ、そろそろ着くって……行ってくる」

セイカがまた家に戻った。

「最近の出前は到着直前に連絡をくれるんですね」

「その~……みっちゃん、言い辛いんじゃが、ワシ……油揚げとか稲荷寿司食えば霊力回復するっちゅう訳じゃないんじゃよ。ワシの力の源は人間からの信仰や感謝の念であってぇ……飯じゃ、ないんよ」

「え、じゃあ油揚げって……趣味?」

「礼や献上品として渡されるから力になるんじゃ」

「ふむ……人間にとって誠意が金銭であるように、あなたにとって感謝は油揚げ、ということですね」

「誠意見せろや! ってヤツですかぁ? なんか違う気が……」

「慰謝料だって賠償だってお金です。大人にとって誠意とはお金なんですよ、水月くん」

間違ったことは言っていないけれど、寂しい話だ。

「しかし、食物を消費して全くエネルギーが得られないというのも納得しにくい話ですね」

「全くっちゅう訳じゃないが、念がこもっとらんと弱いな。あまり意味がない」

「バター盛り盛りのクッキーとダイエットクッキーみたいな感じ?」

「それより激しい差があると思うぞぃ。困ったのぅ……何かしてやらんと感謝はもらえん、しかしもう何かをするほどの霊力は残っとらん」

「お皿洗いとかする?」

「地道じゃのー……」

ミタマは深いため息をついている。

「……ところで、水月くん。私は今日あなたに紹介され穂張事務所の方と話すことが出来たのですが、何故あなたが後から来たのですか? 何故、あなたの立っていた位置にミタマさんが倒れていたのでしょう」

「ぅ……ば、化けて、代理を頼んだんです……どうしても遊びに行きたくて。ごめんなさい……」

「と、いうことは、ですよ水月くん」

「はい……? 詐欺罪ですか……?」

「ミタマさんが居なければあなたは死んでいた、ということになりますね。首をスッパリ切られれば、人間なら死にます。そうでしょう? つまりミタマさんはあなたの命の恩人……感謝しなければなりませんね」

「……確かに!」

「鳴雷~、十人前届いたぞー。分野歩けるんなら中で食わせよう」

セイカが届けられた稲荷寿司をダイニングの机に運んでくれたようだ。俺はミタマに手を貸し、ウッドデッキに引き上げ、彼をダイニングの上座に座らせた。

「コンちゃん、ありがとう。コンちゃんのおかげで俺死なずに済んだよ」

稲荷寿司を一つ取り、ミタマの口へと運ぶ。

「はぐっ……んむ、んんっ……! 美味い、ええとこの稲荷寿司じゃ……しかもこの、多量の感謝の念っ……! 百万当てさせてやった時より大きいではないか! アレ、あんまり嬉しくなかったのか?」

「命と百万ならそりゃ命だよ……」

「……そっか、鳴雷の命の恩人か。分野、俺からも……ありがとう」

「ぁむ……んん! せっちゃんもすごい量くれるのぅ、みっちゃんより多いぞ」

「へぇ? セイカ、俺より俺が助かったの嬉しいんだぁ……?」

「よ、余計なこと言うなよ分野!」

「セイカくん、感謝の念がミタマさんの力となるようです。秋風くんにも彼が命の恩人であることを説明し、稲荷寿司を食べさせさせてください」

「えっ、ぁ、はいっ」

「……みっちゃん、今回のこと恋仲の者全員に伝えよ。ワシ、尻尾増えるかもしれん」

「尻尾の数って生きた年数とかじゃないんだ……?」

ミタマの背と椅子の背もたれの間で揺れる太い尾。これが四本に増えるとなれば、ミタマはよりモフモフとする訳で、それはとても魅力的な話だ。
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