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彼の止め方 (水月+レイ・ネイ・ノヴェム・ヒト・フタ)
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フタが突然ネイに殴りかかった。ネイは咄嗟に頭を腕で庇い、自ら背後に跳んで大きな身体から繰り出された一撃を可能な限り弱めることに成功した……んだと思う、多分。
「くっ……な、何を」
《お父さん!? お父さんっ!》
「レイ! ノヴェムくん頼む! フタさんっ!」
ネイに駆け寄ろうとするノヴェムを抱き上げ、暴れる彼をレイに押し付ける。華奢な彼がノヴェムを押さえていられるとは思えない、すぐフタを止めなければ。
「フタさん、フタさん急に何してるんですか!」
フタの腕に飛びついた。
「痛た……えぇと、フタ……さん? 私、何か気に触ることでも……」
「離してみつき、コイツ叩き出す」
「何言ってるんですか……どうして!」
全く分からない。事態が把握出来ない。ネイは何もしていないし、何も言っていない。フタが突然誰かに殴りかかることはたまにあると以前聞いたことがあるが、それか? こんなにも前触れのないものなのか? 対策のしようがないじゃないか。
「離してってみつき……ねぇ、離して。はな、せっ!」
力任せに振り払われ、尻もちをつく。なんて力だ、俺も鍛えてはいるのに適う気がしない。
「水月くん! 大丈夫ですか!?」
「……みつきの名前呼んでんじゃねぇぞデコ助がぁ!」
ネイは前髪を下ろしているし、薄毛が進行している訳でもない。デコ……額が目立つような人じゃない。
「ちょっと……! 落ち、着いてっ!」
ネイは単純な軌道で襲い来るフタの拳を上手くいなしている、多分柔術か何かだ。流石警察。俺は隙を狙ってフタの背後から彼に抱きつき、羽交い締めにした。
「やめてくださいってばフタさん! 落ち着いてください、聞いてください!」
フタの「みつきの名前呼んでんじゃねぇ」という発言から察するに、フタはヤキモチを焼いているだけなんじゃないか? 恋人の俺に近付く見知らぬ男を追い払いたいだけなのでは?
「ネイさんはただのご近所さんです!」
「離せっ! 離せって……!」
いや、それだけでは説明が付かない。今まで俺の他の彼氏達にフタが危害を加えたことなんてない、付き合う前ならシュカやアキと争ったりはあったけれど……単なる嫉妬や独占欲だとしたら何故ネイにだけ反応した? 大人の男だからか? なら歌見だとかにも反応するべきでは?
「……っ、イチニィミィ!」
フタの肩に長毛の猫が現れる。シャーッと威嚇されたが、猫の威嚇程度で怯んで離すような真似はしない。
「君達も止めてよ!」
サビ柄の猫が俺の腕に現れ、俺の鼻を殴った。猫パンチだ。一発じゃない。
「痛い痛い痛い痛い!」
猫パンチで前が見えないが、腕にも鋭い痛みを感じる、噛まれているのか?
「うわっ!?」
噛まれた痛みと猫パンチに気を取られ、腕に込める力が緩んでしまったようだ。フタは激しく身体を振って俺を吹っ飛ばした。
《お兄ちゃんっ! お兄ちゃ……お父さん……やめてよぉ! お兄ちゃんもお父さんもいじめないでぇ!》
ノヴェムの泣き叫ぶ声が聞こえる。祭りに参加している人々は皆遠巻きに眺めるばかりで止めに入るものは居ない。こんな時に限ってあのムカつくレイの元カレは近くに居ないみたいだし、アキも戻ってこない。サンも居ない。フタを止められる人間が居ない。
「はぁーっ……ウザ」
拳も蹴りもいなされるばかりのフタが、俺に向ける猫なで声とは違う低く唸るような雄の声を漏らした。舌打ちをし、ネイから数歩離れ、彼を指差す。
「イチ、ニィ、ミィ、金縛り」
構えていた姿勢のままネイが硬直する。フタは助走をつけてネイの胸に飛び蹴りをかました。
「……っ、ぐぅ……!」
そのままマウントを取り、ネイの顔に向かって拳を振り下ろす。しかし金縛りは倒れた時に解けていたようで、ネイは何とか腕で防御した。フタは再び舌打ちをしてネイの腕を掴み、地面に縫いつける。そしてその状態で──
「金縛り」
──猫達に拘束を命じた。三匹の化け猫はネイとフタを囲むようにし、耳を寝かせ毛を逆立てて二本の尾を立てている。
「やめてくださいフタさっ……へぶっ!?」
抵抗を封じられたネイの顔に向かって拳を振り下ろそうとするフタを止めるため、彼の腕を掴もうとした俺の顔に毛の塊がぶつかる。あのモフモフした長毛の化け猫だ、顔に飛びついてきたんだ。
「あっ、ノヴェムくんっ……!」
《お父さんいじめるなぁ!》
猫のくせに冷たい身体を振り落とすと、ノヴェムが泣きながらフタの背をぽこぽこと叩く様が目に飛び込んできた。ノヴェムに振り払われたばかりのレイが慌てて彼を抱き締め、引き剥がす。
《はなして! お父さんっ、お父さん助けるの!》
ノヴェムの悲痛な叫びが虚しく響く。英語力の低い俺には内容はちょっと分からないけど……
「フタさんやめてくださいっ、うわまとわりつくな……離れろって! 普段姿も見せないくせにぃ……!」
死んで妖怪化したモノとはいえ見た目は小さな毛玉、愛らしい猫相手に乱暴な手段を選べるような度胸も残虐性もない俺は猫の妨害を払い切れない。しかし一匹でも欠ければ金縛りをかけ続けてはいられないようで、ネイが今殴られているのは頭を庇う腕だけだ。不幸中の幸いと言えるだろうか?
「ちょっと……どいて、どいてください!」
人混みの向こうからピーピーと笛の音が聞こえる。騒ぎになったから誰かが通報したのだろうか?
「どいて! 本部の者です、通してください!」
周囲の人間よりも頭一つ大きな影がこちらにやってくる。
「どけつってんだろそこのバカの兄貴なんだよ俺ぁ!」
力任せに人混みをかき分け、金の糸で刺繍された明王が特徴的な黒い浴衣の男が現れる。彼は一直線にフタの元へと走り、浴衣を捲り上げ、下駄を履いたままフタの側頭部を思い切り蹴り抜いた。
「うわ……!」
カァアァンッ! といい音が響き、俺は思わず一歩引いた。フタは声を上げることなく失神し、その場に倒れた。
「はぁ……はぁ……クソ弟が…………わっ、猫? ちょっと寄らないでください、アレルギーなんです」
んにゃんにゃにゃうにゃおと猫達がヒトに向かって何かを言う、多分文句だ。一通り言い終えるとフタに駆け寄り、頭をぺろぺろざりざりと舐め始め、その姿をすぅっと透かして見えなくなった。
「……? え……猫……え?」
消えた猫三匹に困惑するヒト、這い出す元気もないのかフタの下敷きになったまま深いため息をつくネイ、泣き続けるノヴェム、遠巻きに眺めるばかりかスマホのカメラを向ける群衆……どこから手をつけたものか。
「くっ……な、何を」
《お父さん!? お父さんっ!》
「レイ! ノヴェムくん頼む! フタさんっ!」
ネイに駆け寄ろうとするノヴェムを抱き上げ、暴れる彼をレイに押し付ける。華奢な彼がノヴェムを押さえていられるとは思えない、すぐフタを止めなければ。
「フタさん、フタさん急に何してるんですか!」
フタの腕に飛びついた。
「痛た……えぇと、フタ……さん? 私、何か気に触ることでも……」
「離してみつき、コイツ叩き出す」
「何言ってるんですか……どうして!」
全く分からない。事態が把握出来ない。ネイは何もしていないし、何も言っていない。フタが突然誰かに殴りかかることはたまにあると以前聞いたことがあるが、それか? こんなにも前触れのないものなのか? 対策のしようがないじゃないか。
「離してってみつき……ねぇ、離して。はな、せっ!」
力任せに振り払われ、尻もちをつく。なんて力だ、俺も鍛えてはいるのに適う気がしない。
「水月くん! 大丈夫ですか!?」
「……みつきの名前呼んでんじゃねぇぞデコ助がぁ!」
ネイは前髪を下ろしているし、薄毛が進行している訳でもない。デコ……額が目立つような人じゃない。
「ちょっと……! 落ち、着いてっ!」
ネイは単純な軌道で襲い来るフタの拳を上手くいなしている、多分柔術か何かだ。流石警察。俺は隙を狙ってフタの背後から彼に抱きつき、羽交い締めにした。
「やめてくださいってばフタさん! 落ち着いてください、聞いてください!」
フタの「みつきの名前呼んでんじゃねぇ」という発言から察するに、フタはヤキモチを焼いているだけなんじゃないか? 恋人の俺に近付く見知らぬ男を追い払いたいだけなのでは?
「ネイさんはただのご近所さんです!」
「離せっ! 離せって……!」
いや、それだけでは説明が付かない。今まで俺の他の彼氏達にフタが危害を加えたことなんてない、付き合う前ならシュカやアキと争ったりはあったけれど……単なる嫉妬や独占欲だとしたら何故ネイにだけ反応した? 大人の男だからか? なら歌見だとかにも反応するべきでは?
「……っ、イチニィミィ!」
フタの肩に長毛の猫が現れる。シャーッと威嚇されたが、猫の威嚇程度で怯んで離すような真似はしない。
「君達も止めてよ!」
サビ柄の猫が俺の腕に現れ、俺の鼻を殴った。猫パンチだ。一発じゃない。
「痛い痛い痛い痛い!」
猫パンチで前が見えないが、腕にも鋭い痛みを感じる、噛まれているのか?
「うわっ!?」
噛まれた痛みと猫パンチに気を取られ、腕に込める力が緩んでしまったようだ。フタは激しく身体を振って俺を吹っ飛ばした。
《お兄ちゃんっ! お兄ちゃ……お父さん……やめてよぉ! お兄ちゃんもお父さんもいじめないでぇ!》
ノヴェムの泣き叫ぶ声が聞こえる。祭りに参加している人々は皆遠巻きに眺めるばかりで止めに入るものは居ない。こんな時に限ってあのムカつくレイの元カレは近くに居ないみたいだし、アキも戻ってこない。サンも居ない。フタを止められる人間が居ない。
「はぁーっ……ウザ」
拳も蹴りもいなされるばかりのフタが、俺に向ける猫なで声とは違う低く唸るような雄の声を漏らした。舌打ちをし、ネイから数歩離れ、彼を指差す。
「イチ、ニィ、ミィ、金縛り」
構えていた姿勢のままネイが硬直する。フタは助走をつけてネイの胸に飛び蹴りをかました。
「……っ、ぐぅ……!」
そのままマウントを取り、ネイの顔に向かって拳を振り下ろす。しかし金縛りは倒れた時に解けていたようで、ネイは何とか腕で防御した。フタは再び舌打ちをしてネイの腕を掴み、地面に縫いつける。そしてその状態で──
「金縛り」
──猫達に拘束を命じた。三匹の化け猫はネイとフタを囲むようにし、耳を寝かせ毛を逆立てて二本の尾を立てている。
「やめてくださいフタさっ……へぶっ!?」
抵抗を封じられたネイの顔に向かって拳を振り下ろそうとするフタを止めるため、彼の腕を掴もうとした俺の顔に毛の塊がぶつかる。あのモフモフした長毛の化け猫だ、顔に飛びついてきたんだ。
「あっ、ノヴェムくんっ……!」
《お父さんいじめるなぁ!》
猫のくせに冷たい身体を振り落とすと、ノヴェムが泣きながらフタの背をぽこぽこと叩く様が目に飛び込んできた。ノヴェムに振り払われたばかりのレイが慌てて彼を抱き締め、引き剥がす。
《はなして! お父さんっ、お父さん助けるの!》
ノヴェムの悲痛な叫びが虚しく響く。英語力の低い俺には内容はちょっと分からないけど……
「フタさんやめてくださいっ、うわまとわりつくな……離れろって! 普段姿も見せないくせにぃ……!」
死んで妖怪化したモノとはいえ見た目は小さな毛玉、愛らしい猫相手に乱暴な手段を選べるような度胸も残虐性もない俺は猫の妨害を払い切れない。しかし一匹でも欠ければ金縛りをかけ続けてはいられないようで、ネイが今殴られているのは頭を庇う腕だけだ。不幸中の幸いと言えるだろうか?
「ちょっと……どいて、どいてください!」
人混みの向こうからピーピーと笛の音が聞こえる。騒ぎになったから誰かが通報したのだろうか?
「どいて! 本部の者です、通してください!」
周囲の人間よりも頭一つ大きな影がこちらにやってくる。
「どけつってんだろそこのバカの兄貴なんだよ俺ぁ!」
力任せに人混みをかき分け、金の糸で刺繍された明王が特徴的な黒い浴衣の男が現れる。彼は一直線にフタの元へと走り、浴衣を捲り上げ、下駄を履いたままフタの側頭部を思い切り蹴り抜いた。
「うわ……!」
カァアァンッ! といい音が響き、俺は思わず一歩引いた。フタは声を上げることなく失神し、その場に倒れた。
「はぁ……はぁ……クソ弟が…………わっ、猫? ちょっと寄らないでください、アレルギーなんです」
んにゃんにゃにゃうにゃおと猫達がヒトに向かって何かを言う、多分文句だ。一通り言い終えるとフタに駆け寄り、頭をぺろぺろざりざりと舐め始め、その姿をすぅっと透かして見えなくなった。
「……? え……猫……え?」
消えた猫三匹に困惑するヒト、這い出す元気もないのかフタの下敷きになったまま深いため息をつくネイ、泣き続けるノヴェム、遠巻きに眺めるばかりかスマホのカメラを向ける群衆……どこから手をつけたものか。
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