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輪をかけて引きこもる (水月+カサネ・荒凪・アキ・セイカ・リュウ)
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荒凪を抱き締めて眠った、次の日の朝。俺はカサネに電話をかけた。メッセージでなかった理由は単純明快、昨日の夕方から夜にかけて何通送っても返事が来なかったからだ。
「……あ、もしもし先輩?」
『もしもし……? 何だよこんな時間に』
「すいません、朝早くから」
『今から寝るのに……』
あれ、おかしいな。カサネも俺と同じ学生だよな。学生は準備を整えて登校する時間のはずなんだけどな。
「先輩今日学校来ないんですか?」
『…………行かない。しばらく、外出ない。フランクには悪いけど……しばらく室内運動だな』
「話したいんですけど」
『直接会わなくても話せるだろ、今話してるし』
「……メッセ返さないのはどこの誰でしたっけ」
『ぅ……わ、悪いと思ってるよ、それは……いやでも、お前読み返してみろよ自分のメッセ。何あの、あの……何、辞書で情緒不安定って引いたら例文として載ってそうな感じ』
辞書で例文として載っているのは情緒不安定を使った文章であって、情緒不安定な人間が書いた文章ではないだろう。
「俺が不安定って言いたいんですか?」
『お前だいぶ病んでると思う……』
「先輩が会ってくれないからじゃないですか」
『うわ片鱗見せてきた』
「……家来てくれたんですよね? 一昨日」
『え? いや昨日……ん? 一昨日か。え? いや、昨日……?』
引きこもりって時間感覚狂ってるんだな。
「言ってくれたらよかったのに……初めて家に来てくれたのに居ないなんて、ちょっと……ね?」
『……俺だってお前居ると思って行ったんだけど』
「え、マジすか」
『そうだよ……早苗ちゃん、お前が居ると話進まないとか言ってたけど』
「……セイカからのその辺の信用がない心当たりはありますね。それで、カサネ先輩、その……家の前で何かありませんでした?」
『その話はしたくない』
てぃろん、と電子音。通話が切られた音だ。
「…………もしもし?」
『秒でかけ直ししてくんの怖い』
「すいません、実はネイさんから聞いてるんです。あっネイさんって言うのは」
『隣の王子様だろ、知ってる』
王子様……確かにネイは御伽噺の挿絵に相応しいルックスだ。
「じゃあ、その……動く死体に襲われたって話」
『……あぁ』
「怪我ありませんかっ?」
『ねぇよ。あったっけその王子さんから聞いてんだろ』
「じゃあ、その……何があったか、何されたか……ちょっと詳しく聞きたいんです。どうしてそんな怪奇現象が起こったのか、先輩の話から何か手がかりが見つかるかも」
『…………話すの? 今?』
「今はちょっと、時間ないんで。メッセででも送っててくれれば後で読みますけど……話、したくないって言ってましたし、打つ方が楽かなって思うんですけど、どうでしょう」
カサネからの返事はない。時刻を確認した俺はスマホを耳と肩で挟んだまま着替えを始めた。
『……怖い』
シャツを着た辺りでカサネがぽつりと呟いた。
『話してると寄ってくるとか、よく聞くべ? 怖ぇよ……外出んのも怖ぇ。黙って、部屋こもって……じっとしてたっけギリ見逃される気がすんだろ』
声が震えている。かなり怯えているようだ、死体に襲われたとネイに聞いた、それによる精神的ダメージを俺は少し侮っていたのかもしれない。
「カサネ先輩……」
くぅぅぅ……と、甲高い鳴き声が聞こえた。カサネが飼っているパグ犬が鳴いているのだろう、カサネが「フランク」と呟いている。
「……カサネたん!」
『わっ、きゅ、急に大声出すな!』
「カサネたん、えー……水曜日! 水曜日俺バイト休みなんです、家行きます」
『……は、話したくねって、言ってるだろ』
「話したくないならそれでもいいです。とにかく会いたい、カサネたんが家出られないなら俺が行きます。本当、例の件の話なんて少しもしなくていい……俺と遊びましょ、ゲームでもして。ちょっとスキンシップでも取らせてくれたら嬉しいです」
『…………ほ、ほんとに、遊びに来るだけ?』
「はい、行かせてください」
『……なら、いつでも来ていい。ぁ……俺、ヘッドホンつけてるから、インターホンとか聞こえねぇかも。着いたらメッセ送って』
「はい! じゃあ水曜日、行きますね」
『うん……待ってる』
てぃろん、と再び通話が切られた音。けれど今回の俺は達成感に満ち、かけ直すことはなかった。
「みつき、またがっこ? きゅるるる……みつき、そと、ですぎ」
「ごめんね? アキと遊んでてね。行ってくるね。アキ、荒凪くんと仲良くね。行ってきます」
《兄貴忘れもん! 行ってらっしゃいのちゅー……ふふ。早く帰ってこいよ、兄貴》
玄関まで見送りに来てくれた二人に手を振り、名残惜しく思いながら玄関扉を素早く閉めた。日光に弱いアキには、開いた扉から射し込む光すら避けるべき対象なのだ。
「アキ今日は機嫌良かったな。いつも俺が出る前嫌そうにしてるのに」
「……あんだけヤりゃ、な」
「やっぱりそれが理由かな? あ、セイカ。昨日はごめんな、何時間か床で寝させちゃって……身体痛くないか?」
「ん……大丈夫」
「本当か? 辛くなったらすぐ言えよ」
遠慮しがちなセイカには念入りに言っておかなければならない、時々こちらから体調を尋ねることも大切だ。改めてセイカの扱いを頭の中だけで確認する俺の目に、俺達に向かって大きく手を振る金髪美少年の姿が映った。
「水月ぃ~、おはよーさん」
手を振り返したいし、おはようのハグとキスもしたい。けれど彼の心を満たすため俺はあえて彼の挨拶を無視する。
「……! 今日は無視? へへ、ええやん……気付いた上で無視してまっせってアピっとるような態度が逆にええわ」
相変わらず頭を使わせてくるな。早朝くらい何も考えず挨拶に挨拶を返し、のんびり過ごしたいものだ。
「……あ、もしもし先輩?」
『もしもし……? 何だよこんな時間に』
「すいません、朝早くから」
『今から寝るのに……』
あれ、おかしいな。カサネも俺と同じ学生だよな。学生は準備を整えて登校する時間のはずなんだけどな。
「先輩今日学校来ないんですか?」
『…………行かない。しばらく、外出ない。フランクには悪いけど……しばらく室内運動だな』
「話したいんですけど」
『直接会わなくても話せるだろ、今話してるし』
「……メッセ返さないのはどこの誰でしたっけ」
『ぅ……わ、悪いと思ってるよ、それは……いやでも、お前読み返してみろよ自分のメッセ。何あの、あの……何、辞書で情緒不安定って引いたら例文として載ってそうな感じ』
辞書で例文として載っているのは情緒不安定を使った文章であって、情緒不安定な人間が書いた文章ではないだろう。
「俺が不安定って言いたいんですか?」
『お前だいぶ病んでると思う……』
「先輩が会ってくれないからじゃないですか」
『うわ片鱗見せてきた』
「……家来てくれたんですよね? 一昨日」
『え? いや昨日……ん? 一昨日か。え? いや、昨日……?』
引きこもりって時間感覚狂ってるんだな。
「言ってくれたらよかったのに……初めて家に来てくれたのに居ないなんて、ちょっと……ね?」
『……俺だってお前居ると思って行ったんだけど』
「え、マジすか」
『そうだよ……早苗ちゃん、お前が居ると話進まないとか言ってたけど』
「……セイカからのその辺の信用がない心当たりはありますね。それで、カサネ先輩、その……家の前で何かありませんでした?」
『その話はしたくない』
てぃろん、と電子音。通話が切られた音だ。
「…………もしもし?」
『秒でかけ直ししてくんの怖い』
「すいません、実はネイさんから聞いてるんです。あっネイさんって言うのは」
『隣の王子様だろ、知ってる』
王子様……確かにネイは御伽噺の挿絵に相応しいルックスだ。
「じゃあ、その……動く死体に襲われたって話」
『……あぁ』
「怪我ありませんかっ?」
『ねぇよ。あったっけその王子さんから聞いてんだろ』
「じゃあ、その……何があったか、何されたか……ちょっと詳しく聞きたいんです。どうしてそんな怪奇現象が起こったのか、先輩の話から何か手がかりが見つかるかも」
『…………話すの? 今?』
「今はちょっと、時間ないんで。メッセででも送っててくれれば後で読みますけど……話、したくないって言ってましたし、打つ方が楽かなって思うんですけど、どうでしょう」
カサネからの返事はない。時刻を確認した俺はスマホを耳と肩で挟んだまま着替えを始めた。
『……怖い』
シャツを着た辺りでカサネがぽつりと呟いた。
『話してると寄ってくるとか、よく聞くべ? 怖ぇよ……外出んのも怖ぇ。黙って、部屋こもって……じっとしてたっけギリ見逃される気がすんだろ』
声が震えている。かなり怯えているようだ、死体に襲われたとネイに聞いた、それによる精神的ダメージを俺は少し侮っていたのかもしれない。
「カサネ先輩……」
くぅぅぅ……と、甲高い鳴き声が聞こえた。カサネが飼っているパグ犬が鳴いているのだろう、カサネが「フランク」と呟いている。
「……カサネたん!」
『わっ、きゅ、急に大声出すな!』
「カサネたん、えー……水曜日! 水曜日俺バイト休みなんです、家行きます」
『……は、話したくねって、言ってるだろ』
「話したくないならそれでもいいです。とにかく会いたい、カサネたんが家出られないなら俺が行きます。本当、例の件の話なんて少しもしなくていい……俺と遊びましょ、ゲームでもして。ちょっとスキンシップでも取らせてくれたら嬉しいです」
『…………ほ、ほんとに、遊びに来るだけ?』
「はい、行かせてください」
『……なら、いつでも来ていい。ぁ……俺、ヘッドホンつけてるから、インターホンとか聞こえねぇかも。着いたらメッセ送って』
「はい! じゃあ水曜日、行きますね」
『うん……待ってる』
てぃろん、と再び通話が切られた音。けれど今回の俺は達成感に満ち、かけ直すことはなかった。
「みつき、またがっこ? きゅるるる……みつき、そと、ですぎ」
「ごめんね? アキと遊んでてね。行ってくるね。アキ、荒凪くんと仲良くね。行ってきます」
《兄貴忘れもん! 行ってらっしゃいのちゅー……ふふ。早く帰ってこいよ、兄貴》
玄関まで見送りに来てくれた二人に手を振り、名残惜しく思いながら玄関扉を素早く閉めた。日光に弱いアキには、開いた扉から射し込む光すら避けるべき対象なのだ。
「アキ今日は機嫌良かったな。いつも俺が出る前嫌そうにしてるのに」
「……あんだけヤりゃ、な」
「やっぱりそれが理由かな? あ、セイカ。昨日はごめんな、何時間か床で寝させちゃって……身体痛くないか?」
「ん……大丈夫」
「本当か? 辛くなったらすぐ言えよ」
遠慮しがちなセイカには念入りに言っておかなければならない、時々こちらから体調を尋ねることも大切だ。改めてセイカの扱いを頭の中だけで確認する俺の目に、俺達に向かって大きく手を振る金髪美少年の姿が映った。
「水月ぃ~、おはよーさん」
手を振り返したいし、おはようのハグとキスもしたい。けれど彼の心を満たすため俺はあえて彼の挨拶を無視する。
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