冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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泣き続ける弟 (〃)

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欲望のままに俺は口を開いた。死刑囚を使おうとしている前社長の考えに乗る気など全くなかった。

「あの……女を、お願い……」

前社長は電話に夢中だ、俺は彼に背を向けて荒凪と向かい合い小さな声で彼に頼んだ。きっと前社長は俺が荒凪をなだめていると思うだろう。

「狭雲、星煉?」

何も呪ってしまわないようにと必死に耐えているのか苦しげに俯いていた荒凪が、顔を下に向けたまま目玉だけで俺を見た。ギョロ、と、いつも通り見開かれた目が、俺を見たのだ。睨まれたと勘違いしてしまいそうだった。

「……うん。ぁ……こ、殺しちゃダメだよ。もちろん……」

ゆっくりと荒凪が顔を上げる。キラキラと輝く真昼の海面のようだった髪の内側の青が、深海の如き黒に染まっていく。

「水月は報いを願っている。何の報いを?」

「え……そ、そりゃ、セイカを虐めた報いを」

荒凪は主腕と複腕でそれぞれ指を絡めて手を組んだ。その手がほどかれると同時に髪に青い輝きが戻ってきた。

「終わった」

「……お、終わった? もう……呪った、の?」

実感も達成感も何もない。呆然とする俺の肩を前社長が掴んだ。

「おい! 何やった! 急に霊力が萎んだっ……何に使った!? お前が使わせたのか!?」

「ぇ、いやっ、あの」

奇妙な模様が描かれた布越しにも伝わる剣幕にたじろぐ。

「全て水月の願い通りに」

「てめぇじゃねぇか! いや、じゃねぇだろ!」

「ち、違っ、そういう意味で言ったんじゃ……つい言っちゃったっていうか、ぁ、あの、落ち着いて」

イジメられっ子だったからか俺は怒鳴り声が苦手だ。動悸がして、目眩も起こって、上手く話せなくなる。

「落ち着けるか! 何させたかさっさと言え蹴り殺すぞ!」

「……っ、真尋さんに許可はもらってます! ぁ、荒凪くんの霊力? が、溜まり過ぎてて危なくなったら、俺の判断で……呪わせて、いいって」

「はぁ……!? おい真尋!」

前社長は突き飛ばすように俺の肩を離し、電話先の秘書を問い詰め始めた。

「……ありがとう荒凪くん」

抱きとめてくれた荒凪に礼を言うと、荒凪は俺を支えた四本の腕を下ろした。

「水月、眠い」

「え、眠いの?」

飲ザープレイに励むつもりだったのに。

「呪ったからかな……?」

「俺は少し眠る。弟を頼む、泣き止むまで代わってるつもりだったけれど、まだ泣いてる」

「……? うん」

複腕が腕を組むようにして服の中に引っ込み、布越しの膨らみも消えた。ゆっくりと瞬きをすると瞳孔の数が二つに変わった。複腕と重瞳の消失……これは、荒夜の休眠を示しているのだろうか。

「…………夜凪くん?」

見開かれた目が潤む。すぐにぽろぽろと涙が溢れ出し、これまで動くことのなかった表情筋も歪んでいった。

「きゅうぅん……きゅううぅ……」

「あ、荒凪くんっ、大丈夫? よしよし……泣かないで」

慌てて荒凪を抱き締めて、幼子のように泣きじゃくる彼の頭や背を撫でて慰める。

「クソっ、相変わらず倫理観と道徳心の薄いヤツ……おいガキ! 真尋が許可したからってやっていいことと悪いことがあんだろ! 誰に何したんだよ!」

通話を切った前社長の怒りの矛先が再び俺に向く。

「さ、狭雲星煉です。何したのかは、よく分かりません……死なせたりは絶対するなって言ってあるので、そんな酷いことにはなってないと思いますけど」

「誰だよそれ。男か女かもよく分かんねぇ名前してんな、お前もだけど。お前そいつに何の恨みがあるわけ?」

「……俺の、恋人の……母親です。ずっと、十五年くらいずっと、俺の恋人のこと虐待してて……身も心もボロボロにした最悪の女です。いいでしょちょっとくらい痛い目見せたって! 因果応報ですよ!」

「虐待? あぁもう、真尋に似てんなぁクソガキがよ。はぁ……とりあえず住所教えろ、人魚モドキの呪いを受けた貴重なサンプルだ、素人が荒らす前にさっさと確保したい」

「…………ちょっと待っててください」

荒凪の頭を撫でる手はそのままに、もう片方の手でスマホを持つ。セイカの弟のホムラに助けを求められた時に聞いた住所をメモしていたはずだ。

「……ん? なんかコイツまたガンガン霊力増やしてねぇか?」

「あ、あなたが無遠慮に生前を思い出させるからですよっ。負の感情? で霊力って生まれるんですよね、嫌なこと思い出してるからですよきっと!」

「俺は霊視しただけだ! 大した刺激じゃねぇはずだぜ、こんなので思い出すんなら何もしなくても後二、三週間もしねぇうちに全部思い出してただろうよ。怪異化のショックでボーッとしてただけなんだろうぜ」

「だとしても今はあなたが原因じゃないですかっ、そ、それなのに対応した俺怒られるの筋違いって言うか……」

「一般人が一般人にド級の呪いぶち当てたら怒られるに決まってんだろバカかお前! とんっでもねぇ凶器なんだぞ!? お前は他に原因あるからって誰かしら刺したヤツ無罪だっつーか!? 最終的に使ったのはてめぇだろうが!」

「つ、使ったとか凶器とかっ、荒凪くんを道具扱いするのはやめてください!」

「話逸らすなそういう気持ち的な問題じゃねぇんだよ、道具なんだよ実際によぉ! 自我があるってだけだ! 呪いの最終決定権はコイツにはねぇ!」

「きゅ……きゅ、う、みつき……みつきっ」

「いいかクソガキ! 他人を害するってんならせめてそれなりの覚悟を持て! 恋人が、真尋が、荒凪が、俺がって、責任転嫁してんじゃねぇ!」

「せっ、責任転嫁なんて……!」

人差し指でづんづんと強く額をつつかれながら叱られ、返す言葉もなくなってきた頃、腕の中の荒凪が突然動いた。

「みつき痛いことしないで!」

生前の苦痛を思い出して泣いている時に怒鳴り合う男に挟まれ、混乱していたのだろう。そんな中拠り所にしていた俺が責められていると感じて、思わず腕を振ってしまっただけだ。荒凪が普通の人間なら、少し押しのけるような、振り払うような、その程度の行動だった。

「……っ!?」

だが、荒凪は怪異で怪力で、相手は庭の端まで吹っ飛んでしまった。
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