冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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病院の地下には (水月+荒凪)

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鼓動が早まっていくのを感じる。使うつもりのなかった怪しいエレベーターで地下へと降りていく。地下二階でエレベーターは停まり、扉が開く。

「……!」

カサネに借りたナイフを握り締め、身構える。

「あれ……?」

俺を見て目を丸くする、俺よりも少し小柄な男。外国人のように見えるが、今彼の口から漏れたのは日本語に聞こえた。

「フタの兄貴の恋人さんじゃないですか」

(……え? フタの兄貴?)

フタをそう呼ぶのは穂張事務所の社員以外に居ない。俺はまだ彼らの顔と名前を覚えきれていない、けれど見覚えがないなんてありえるだろうか。

「はじめまして。俺、穂張組の者です。今出張中で、半年くらいここに居るんですけど、連絡はかなりマメに取ってるのであなたのことは一方的に知っちゃってますよ、若」

なんだよかった、初対面か。自分は美少年にしか関心のない薄情なヤツなのかと疑ってしまったじゃないか。

『はじめまして。今喉を痛めているので、筆談で失礼します』

「あ、そうなんですかぁ……お大事に。ちょっとここで待っててくださいね、この書類向こうに置いてきたらご案内しますので」

パタパタと走っていく背を見送り、どこに行きたいとも言っていないのにどこに案内してくれるつもりなのだろうと考えつつ、エレベーターから降りて操作盤の前で待つ。

「ただいま戻りました~。では、ご案内しますね」

見た目にそぐわない流暢な日本語も、ネイに出会った後の俺にとっては違和感にならない。戻ってきた男に着いていくと、畳が敷かれた広い部屋に出た。武道の練習に使われていそうなその部屋に、荒凪は居た。

「……!?」

デニムにシャツという軽装の秘書に向かって爪やヒレを振るっている、四本腕を前に流石の秘書も避けるので精一杯のようだ。

「あらっ、なぎ……ぐんっ! どまっ、で!」

大慌てで声を上げる。検査で荒凪が不快な思いをしたのか、錯乱でもしてしまったのかは分からないが、人間に危害を加える怪異だと思われたら殺処分の目に遭うかもしれない。俺の心は焦りと不安でいっぱいだった。

「きゅっ?」
「キュルル……」

二重の可愛らしい鳴き声。荒凪はピタリと静止した、色んなところの筋肉に負荷がかかっていそうな前傾姿勢で。

「げほっ、げほ、けほっ……」

「鳴雷さん、来ちゃったんですか」

「え、案内しちゃダメでした?」

「ゃ、構わない。鳴雷さん、声出さない方がいいって言ったでしょ」

「だっ……で、けほっ……」

「ほら筆談筆談」

秘書にメモ帳とペンを握り直させられ、俺は何故荒凪が秘書に襲いかかっていたのか、その理由を文章で尋ねた。

「……あぁ、荒凪が勝手に暴れだしたと思ったんですか? だから慌てて止めたと……ははっ、違いますよ。ちょっと確認したいことがあっただけです。検査が終わったので測定結果が出るまで手合わせ的な、ね」

『確認したいことってなんですか?』

「大したことじゃないんです。荒凪の攻撃パターンというか、戦闘IQというか、バトルセンスというか……そういうのが気になって。ほら、物部のとこで戦った時、俺苦戦したでしょ? アレは俺が動きにくい和装と重たいバールを装備してたので、攻撃を受け流して相手のバランスを崩し、その隙を狙うって戦法だったからダメだったんです」

和装、動きにくいと思ってたんだ。あんなにすばしっこくて強いのに。

「だから、戦法を変えて……ボクシングスタイル。避けて、打つ。これにしたらサクサク当たる。ま、荒凪にパンチなんか効かないんですけどね」

霊刀や銃弾ですら数秒で治る傷しか与えられないんだから、そりゃそうだろうな。

『それで何が分かったんです? 荒凪くんがボクシング苦手ってことですか?』

「まぁ、端的に言えばそうですね。荒凪は武道に精通していない、野生動物のような勘の良さや損切りの上手さもない、戦闘……喧嘩に関してはズブの素人。フィジカルのゴリ押し。それが分かったってことは、荒凪には武術家等の魂は使われていないし、荒凪の強化のため使われたという呪物などの材料である動物の要素も残っていない……少なくとも人格面では。ということが分かる……人格は完全に人間の子供二人、ってことです。付き合いやすいでしょ」

『はぁ……そうなんすか。って感じです』

「……いい感じの家を作って求愛するとか、雄が体に噛み付いて一体化する交尾の仕方をするとか、鼻に噛みつきながらヤるとか、そういう必要はありませんよってことです。結構大事でしょ、こういうの」

『なるほど』

それは確かに大事かもしれないな。

『でも俺、オメガバースの巣作りネタ結構好きなんですよ』

「俺オメガバースあんまり好きじゃないです」

『大金持ちに首輪付けられてるとかいうオメガバースのテンプレみたいな存在のくせに……』

「発情するとかいうエロ設定あるくせに格差とか差別とかしっかり描かれてるからエロに集中すればいいのかシリアスな態度で読めばいいのか分からなくないですか?」

『それがまたいいんじゃないですか! カプの絆が深まるというか、可哀想な受けは可愛いというか』

「可哀想なシーンがあると萎えるんですよね。攻め以外からの精神的、肉体的苦痛とか要らないでしょ。SMは好きですけど、いじめられっ子救済系とかもあんま好きじゃない。最愛の人以外から受ける苦痛とか、ゴミなんで。恋愛のスパイスじゃないんで」

そりゃアンタが筋金入りのMってだけだろ……筋金入りのM、色黒で強面で筋肉質で超強いのに、あんな子供みたいなのにいいようにされるのが好きなドMかぁ。

「エッッロ…………げほっ、けほ、げほっ、ごほっ」

「大丈夫ですか? なんかお気に入りのワンシーン思い出しました?」

あなたを見ててつい口に出ちゃったとか、絶対言えない。

「ま、俺が嫌いってだけで、そういうジャンルやジャンルが好きな方を否定する気はないです。俺他人に興味ないので」

『秘書さんオススメのエロ本教えてください』

「アルビノ美少年メイドと甘々イチャコラセックス本と、露出ゼロラバースーツダルマが拷問受ける本、どっちがいいですか?」

『両方お願いします』

「後でURL送ります」

小さくガッツポーズをしていると、荒凪の切なげな声が聞こえた。慌ててそちらを向けば、彼は俺が止まれと言った時のポーズのまま静止していた。あんなポーズのままでは腹筋その他諸々の筋肉が攣ってしまう。

「……!? あら、なぎっ……く、も……ぃ、よ」

「きゅうぅ~……みつき、ひどい」
「動き回るより辛い」

荒凪は俺への恨み言を言いながら寝転がる。

「命令の実行度、なかなかすごいですね。鳴雷さん、日本人全員殺せとか言っちゃダメですからね」

『気を付けます! 血染めルートには絶対行かない!』

言葉には今まで以上の注意が必要だ、特に荒凪へのものは。今秘書が言ったような物騒なことを言うタイプではないと自分では思っているが、オタクは何でも誇張して言いがちだ、気を付けるべきはその方面だな。
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