冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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眠る者には置き手紙を (水月+ヒト)

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向かいのベッドに居るらしい穂張事務所の社員達にも一応挨拶しておこう。挨拶……挨拶って何言えばいいんだろう。お疲れ様? はちょっとおかしいよな。

(外明るいですな、今何時なんでしょう……って私のスマホは?)

先程まで寝ていたベッドに戻り、脇にあった棚を探るとスマホやカサネから借りたナイフ、救急箱などが見つかった。

(もう朝食の時間過ぎてるじゃないですか)

荒凪を取り返しに出たのが夜で、今は朝。物部の元に乗り込んで何時間あの施設を探索していたんだ? 俺はここで何時間眠っていたんだ?

(……とりあえず挨拶を済ませまそ)

声をかけられないので壁をコンコンと叩き、返事がなかったのでカーテンの隙間からそっと中を覗いた。

(寝てますな)

カイと呼ばれていた地黒な男と、トサと呼ばれていた大柄なハーフ風の男は静かに目を閉じている。荒凪を取り返すため尽力し、少なからず傷を負った彼らへの感謝の手紙をしたためて、棚の上にそっと置いて部屋を去った。

(……あの人達は漢字読めますよな?)

フタとの筆談にはフリガナが必要だったことを思い出し、少し不安になりながら隣の病室を尋ねる。扉を叩いても返事はなく、四つあるのだろうベッドはどこもカーテンが閉じられている。

(ヒトさんどこでしょう)

覗いてみると見覚えのある男。穂張事務所の社員だ。先程とほぼ同じ文面の手紙をそれぞれ置いてから、ヒトのベッドの傍に立った。

(寝てますな)

ヒトは足に銃弾を受けた傷があるんだったな。実際に受けた訳ではなく、荒凪を撃ったらそれを返されて……俺やフタより重い傷だ、麻酔の量も多いのかもしれない。

「ん……」

静かに眠っている彼の頬に手を触れると息と共に微かな声が漏れた。

(お手紙書きますかな)

壁に立てかけられたパイプ椅子を開いて座り、ヒトに宛てた手紙を書く。その途中でヒトが目覚める、なんて都合のいい展開は起こらず、長文を書き終えた。

(お疲れ様でした、ヒトさん)

頭を撫で、彼の元を去る。足を撃たれた傷はどれくらいで完治するのだろう、どれくらい痛むのだろう、歩けないだろうからデートはしばらく出来そうにない、家には行ってもいいだろうか、セックスは……イく時に足に力が入るから、それが痛いかな? やめておくべきだろうか。

(セイカ様の車椅子をお借りしてのデートとかどうでしょう。ヒトさんデカいから合わないかも……いや車椅子ってそんな細かい体格に合わせたもんじゃないでしょ)

部屋に戻りながら考え事に勤しむ。

(……ヒトさん、車椅子利用者を見下してそうですよな。車椅子使いませんかとか言ったらプライド傷付けて不機嫌になるかもでそ。まぁヒトさんの性格と偏見が悪いんですけども、三十路のそういうのって修正不可能感ありますし、つつかない方がいいんでそ)

デートは他の彼氏達としよう。そう決めて、ベッドに腰掛ける。

『コンちゃん、サキヒコくん』

と書いて、虚空に向かって掲げる。前後左右に揺らしてみる。しかし二人は現れない。

(居ませんな。荒凪きゅんのとこ行ってるんでしょうか)

寝転がってみても、全然眠くならない。気絶したついでにぐっすり眠ったようだ。それより腹が減っている。

(ご飯……)

入院患者の食事は部屋まで届けてくれるのが普通だと思うが、俺は既に朝食をスルーしている。普通の病院なら起こして食わせるだろ、多分……

(コンビニとかありませんかな)

あまりにも腹が減った。病院内にコンビニはないか? せめて自販機でコーンポタージュやおしるこなんかの腹が膨れるものが欲しい。

(コンビニとかは大抵一階にありますよな)

エレベーターに乗り、物部の拠点に攻め入った時のことを思い出す。扉が開いた途端に銃を向けられたこと、動かないエレベーターの上に飛び降りてとても怖かったこと……エレベーター、苦手になったかも。

(ご飯ご飯)

感じた寒気を食事について考えることで誤魔化しながら、エレベーターを降りた。

(……ない!)

一階をウロウロと歩き回ってみたものの、コンビニその他売店らしきものは見当たらない。自販機はあったが、スマホ決済不対応だ。こんな自販機が置いてあるなんて、少なくとも都心の病院ではなさそうだな。

(財布持ってませんぞ!)

喉も乾いてきたのに何も買えない。ポケットを探っても百円玉一枚出てきやしない。ミタマが居れば自販機の下に落ちていた小銭を偶然発見する、なんて幸運も有り得ただろうに彼も居ない。

(仕方ありませんな……)

部屋に帰って昼食を待とう。昼食、あるかどうか分からないけど。大した怪我ではないし、もう処置も済んだのだから、さっさと病院を出たい。彼氏達に会いたい。でも、荒凪達と一緒でなければ帰れない。可能という意味でなら、帰れるけれども。

(あれ……? エレベーター、どっちでしたっけ)

道に迷った。

(わたくし別に方向音痴という訳では……うーむ、どこもかしこも同じ景色)

ウロウロ歩いていくとエレベーターを見つけられたが、何か変だ。まず立地が違う。こんなところから降りてきた覚えはない。だがまぁ、病院にエレベーターが一基でないのは至って普通のことだ。そう思って乗ってみたが、今度はボタンがおかしい。全てBが付いている。つまり、このエレベーターは地下にしか向かわない。

(…………え、怖)

冥界へ向かうエレベーター、なんて怪異じゃないだろうな。降りようとしたその時、扉が閉まった。下で誰かがエレベーターを呼んだのだろう。

(えっ……ど、どうしましょう)

こういう時に頼れるミタマは今俺の傍に居ない。サキヒコも居ない。声を上げようにも掠れた汚い音が漏れるばかりだ。
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