ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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使用人体験

うらのおしごと、じゅうはち

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ヒトではないと確信する雰囲気を感じさせた雪風を強く抱き締める。反射的に行ってしまった抱擁を俺は後悔していた。当然だ、今腕の中に居るのは人間の形をした何か、俺とは次元の違う何かだ、怯えない方がおかしい。

「真尋ぉ……へへ、お前連れてきてよかったかもな。お前に抱き締められると、なんか……安心する」

俺の頭に頭を擦り寄せ、俺の背に腕を回し、俺よりも少し低い体温を感じさせる。

「彼岸のもんと話した後は、此岸のもんと話したくなる……自分がどっち側か忘れそうになるんだ。お前がすぐに抱き締めてくれるんだったら、もう安心だな。真尋ぉ……俺のこと守ってくれてるな、嬉しい……」

守る──そうだ、守るのだ。守る者に怯えるなんて、そっちの方がおかしい。人外じみた雰囲気? 今更だな、美し過ぎるルックスからして人の範疇を超えているだろう。
雪風は自分を人間だと言った、もし人間でなくたって構わない、次元が違ったってどうでもいい、腕の中の細い身体を愛し守ることへの何の障害にもならない。

「雪風、愛してる」

「真尋……! 俺も! 俺も愛してる、大好きだぞ真尋ぉ」

抱き締める直前、雪風は俺の目を見た。きっと心を読んだのだろう、雪風の雰囲気に圧倒されていた俺の心は雪風に不安を与えた。なんて情けない、自分が許せない。

「雪風、俺の目を見てくれ。心を読め」

「え……? それ自分から言う?」

「なんか不安にさせたみたいだから。俺口下手だし、直接見てくれた方が助かる」

「いや、不安って、そんな……そういうのじゃないけど……でも……うん、ありがとうな真尋」

死んだ魚のような目と揶揄される俺の三白眼は雪風に見つめられるに耐えない代物だ。しかし、雪風は俺の目をじっと見てくれる。

「……っ、真尋のばかぁっ!」

パン、と頬に平手打ちを食らわされた。突然のことで訳が分からず、後ずさって尻もちをつく。

「ゆ、雪風……?」

「お前なんで真顔で「雪風って今ノーパンなんだよな」とか考えられるんだよ! 変態! バカ! 俺への揺るぎない愛情とかそういうのネチネチ聞かせてくれると思ったのに! バカ! お前の心なんか二度と読まねぇよ変態!」

「ま、待ってくれ雪風……!」

俺は情けなくも立ち上がることも出来ず、咄嗟に大声すらも出ず、そんなことでは雪風が振り返るわけもなく、ぷりぷり怒って行ってしまった。

「……雪風」

早く車まで戻って弁解しなければと思いながら、俺は「あの袴の下のケツもぷりぷりしてんだろうな」とか考えていた。

「そういうとこだぞバカ真尋、締めるとこ締めろ。いや締めるって下ネタじゃねぇよ! クソ……ダメだ、頭ん中ピンク過ぎる……なんなんだ俺」

弁解のムすら思い付かないまま走り、更地から少し離れて黒い高級車が何台も停まっているあぜ道まで戻ってきた。

「雪風、雪風居た! 雪風……!」

雪風は車の影で裸になっていた。巫女装束のような服は裏稼業だけでのもののようだ。

「真尋……」

山の緑と空の青のコントラストが激しい健康的な田舎のあぜ道に現れた、神聖さを醸し出す白い肢体。入道雲よりも目を引くその白は俺に生唾を呑み込ませた。

「……ジロジロ見んな、えっち」

触れたい──まずその衝動に駆られた。薄い筋肉と脂肪を覆う白磁の肌はきっと、各所で触り心地が違う。まずどこに触れようか。凄まじい魅力を放つ弾力のありそうな尻か? 柔らかそうな太腿か? 微かに筋肉の気配がある腹か? 美味そうに窪んだ腋か? 薄紅色の果実が蠱惑的な胸か?

「真尋ぉ……パンツ返してくれよ。お前さっきポケットねじ込んだだろ」

俺のポケットを真白な手が探る。指は細く滑らかでどこか女性的だが、節の大きさに男性も感じる。

「……ったく」

俺の思うがままに歪むだろう柔らかそうな太腿の間、ぷらぷらと揺れていた立派な男の象徴が下着の中に隠される。直後、赤い双眸が再び俺を見つめる。

「パンツ取り返されるなら嗅いどきゃよかったってなんだよ!」

俺は弁解と挽回のチャンスを逃してしまったらしい。
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