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夏休み
はんけつ、いち
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雪兎は部屋を出てはいなかった。部屋を出るフリをして俺が犬のフリをいつまで続けるか見ていた。美しくも恐ろしい、被虐欲を煽る笑顔を残して今度こそ部屋を出て、鉄板を使用人に渡してすぐ戻ってきた。
「ただいま、ポチ」
「……わ、わん」
犬の座り方をして犬の鳴き真似をする。
「…………ご主人様が帰ってきたら「おかえりなさい」だろ? そんなことも忘れたの? 三ヶ月ちょっとで?」
「申し訳ありません……おかえりなさいませ、ご主人様」
きっと初めから「おかえりなさい」と言っていたら「犬が人の言葉を喋るな」と返したのだろう。これは駄犬を叱って躾け直すプレイであって、正解を選ばせるゲームではないのだから。
「さて、と……僕の言いたいことは分かるかな?」
「……ユキ様の見ていないところで犬をサボろうとしたことを、咎めるおつもり……です、よね?」
「分かってるんだ、つまりバレたら僕が怒ることって分かっててやったってことだね、タチが悪いなぁ? 確信犯だね、誤用の方の」
雪兎は楽しげに俺の前に立ち、俺を見下ろす。自分よりも背が低く、力も弱い歳下の美少年に見下されるこの感覚! 最高だ……!
「ん……? その顔……」
久しぶりの精神的快感に口角が上がってしまっていた。表情を誤魔化せなかった俺を見て雪兎も笑う。
「……僕に怒られたくてやったのかな? じゃあ故意犯だ」
「い、いえ……ユキ様が居られるとは思わず、少し体を伸ばしたくて……故意ではありません」
「バレたら怒られるってのは分かってて、怒られてもいいって思ってて、怒られてる今は嬉しいんだよね?」
バレたら怒られるかもという思考も、怒られてもいいという思考も、何もなかった。ただただ腕や背中を伸ばしたかった。
「つまり、未必の故意と言えるわけだ」
「…………ユキ様、今法学やってます?」
「え? すごーい! なんで分かったの? ポチは可愛いだけじゃなく勘もいいんだね、流石僕のペット!」
確信犯とか故意犯とか未必の故意とかポンポン言ってたら法学の勉強中か、刑事や裁判系のドラマにハマってると思って当然。雪兎はドラマを見るタイプではないので前者……という簡単な推理だ。
「初歩的な推理ですよユキ様」
「は? 何それムカつく」
「え、ぁ……いや、ホームズ……的な」
「娯楽小説は読まないんだよね。あとさ、ポチは探偵ものなら助手の筋肉担当でしょ」
読まないくせに役割分担のテンプレはざっくり理解しているのか。
「ま、いいや。犬をサボった罪、未必の故意を勘定に入れつつ、その後の生意気発言もプラスして…………判決を下す!」
「俺の弁護人はいずこへ」
「大罪犬ポチは首絞め合計三十分の刑に処す!」
「やーん早く処してぇ! 絞めてユキ様ぁーん!」
おふざけを交えて悦んでいると肩を蹴られる。要求を察して床に仰向けになると雪兎は俺の胸の上に乗った。
「久しぶりだし勘戻ってないかも、また落としちゃったらごめんね?」
「ユキ様がしてくださるなら何でもいいです……」
小さな手が俺の首に触れる。クロスした親指が喉仏を捉え、四本の指が血管を探る。
「……本当、可愛い顔するよねぇ、ポチって」
首絞めを期待する俺の顔を見て雪兎は深いため息をつく。それは呆れを表したものだったが、この上なく好意的な感情があった。
「ただいま、ポチ」
「……わ、わん」
犬の座り方をして犬の鳴き真似をする。
「…………ご主人様が帰ってきたら「おかえりなさい」だろ? そんなことも忘れたの? 三ヶ月ちょっとで?」
「申し訳ありません……おかえりなさいませ、ご主人様」
きっと初めから「おかえりなさい」と言っていたら「犬が人の言葉を喋るな」と返したのだろう。これは駄犬を叱って躾け直すプレイであって、正解を選ばせるゲームではないのだから。
「さて、と……僕の言いたいことは分かるかな?」
「……ユキ様の見ていないところで犬をサボろうとしたことを、咎めるおつもり……です、よね?」
「分かってるんだ、つまりバレたら僕が怒ることって分かっててやったってことだね、タチが悪いなぁ? 確信犯だね、誤用の方の」
雪兎は楽しげに俺の前に立ち、俺を見下ろす。自分よりも背が低く、力も弱い歳下の美少年に見下されるこの感覚! 最高だ……!
「ん……? その顔……」
久しぶりの精神的快感に口角が上がってしまっていた。表情を誤魔化せなかった俺を見て雪兎も笑う。
「……僕に怒られたくてやったのかな? じゃあ故意犯だ」
「い、いえ……ユキ様が居られるとは思わず、少し体を伸ばしたくて……故意ではありません」
「バレたら怒られるってのは分かってて、怒られてもいいって思ってて、怒られてる今は嬉しいんだよね?」
バレたら怒られるかもという思考も、怒られてもいいという思考も、何もなかった。ただただ腕や背中を伸ばしたかった。
「つまり、未必の故意と言えるわけだ」
「…………ユキ様、今法学やってます?」
「え? すごーい! なんで分かったの? ポチは可愛いだけじゃなく勘もいいんだね、流石僕のペット!」
確信犯とか故意犯とか未必の故意とかポンポン言ってたら法学の勉強中か、刑事や裁判系のドラマにハマってると思って当然。雪兎はドラマを見るタイプではないので前者……という簡単な推理だ。
「初歩的な推理ですよユキ様」
「は? 何それムカつく」
「え、ぁ……いや、ホームズ……的な」
「娯楽小説は読まないんだよね。あとさ、ポチは探偵ものなら助手の筋肉担当でしょ」
読まないくせに役割分担のテンプレはざっくり理解しているのか。
「ま、いいや。犬をサボった罪、未必の故意を勘定に入れつつ、その後の生意気発言もプラスして…………判決を下す!」
「俺の弁護人はいずこへ」
「大罪犬ポチは首絞め合計三十分の刑に処す!」
「やーん早く処してぇ! 絞めてユキ様ぁーん!」
おふざけを交えて悦んでいると肩を蹴られる。要求を察して床に仰向けになると雪兎は俺の胸の上に乗った。
「久しぶりだし勘戻ってないかも、また落としちゃったらごめんね?」
「ユキ様がしてくださるなら何でもいいです……」
小さな手が俺の首に触れる。クロスした親指が喉仏を捉え、四本の指が血管を探る。
「……本当、可愛い顔するよねぇ、ポチって」
首絞めを期待する俺の顔を見て雪兎は深いため息をつく。それは呆れを表したものだったが、この上なく好意的な感情があった。
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