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夏休み
がまんがまん、じゅうろく
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俺の陰茎を解放する唯一の鍵が綺麗な放物線を描いて庭の奥へ見えなくなる様は、俺にはスローモーションで見えた気がした。だからと言って落ちた場所が完璧に分かるなんてことはありえないが。
「……大学で犬飼ってる人達と少し仲良くなったんだけどね、その人達の犬は飼い主がボールとかフリスビーとか投げると取りに行くんだ」
雪兎は呆然とする俺の首輪からリードを外す。
「大急ぎで取りに行って、飼い主に褒められると大喜び。また投げてってはしゃぐんだよ。健気で可愛かった。見てるだけでも楽しかったから、当事者になったらきっともっと楽しいんだろうね。ねぇ? ポチ。ポチは僕をガッカリさせたりしないよね?」
「……わんっ!」
陰茎を早く解放してもらうため、そして何より雪兎を喜ばせるため、俺は四つん這いでウッドデッキから飛び降りた。
「うっ……」
「ポチ! 鍵見つけられたら自分で外して戻ってきて、僕の目の前でこれに射精してね」
「はぃ……わ、わんっ……!」
膝と手のひらでの着地には慣れていない、少し膝が痛む。俺は低木の前まで四つん這いで歩き、記憶している場所を探った。
「クソ……葉が多い」
その辺のスカスカ街路樹とは違う、最高クラスの庭師が整えたのだろう低木はまんまるの緑の塊と言った具合だ。美しい曲線を描いている低木に触れるのがはばかられ、低木を押しのけて鍵を探すのも難しい。
「下は……」
流石に下は少しくらい空いているだろうと地面スレスレに顔を落とすと、芝生をよじ登っているテントウムシと目が合った。
「おぉ……アメリカにもいるんだな」
虫がいるならあまり顔を地面に近付けたくない、はばかられはするが低木を押しのけて探ろう。
「……お、地面見えた」
枝葉を掻き分けて隙間を作ると低木が生えている土が見えた。しかし、小さな鍵は見当たらない。視界の端にリスが見えて、小動物が持ち去った可能性もあるのではないかと背筋が寒くなる。
「……っ、そんなのダメだ、ユキ様……ユキ様が待ってる」
雪兎は普通の犬でするようなボール遊びをしてみたいようだった、主人の願いは叶えなければならない。
俺はいつの間にか自身の陰茎を解放するという理由を忘れ、真偽不確かな雪兎のささやかな願いのために鍵を探していた。
「鍵、鍵……」
「見つからない? 遠くに投げすぎたかな」
いつの間にか雪兎が背後に迫っていた。特に足音を殺した訳でもないだろう雪兎の接近に気付かないなんて、集中し過ぎだ。もう少し視界を広く持たないと鍵すら見落としてしまいそうだ。
「必死だねぇ、そんなに射精したいの?」
「へっ? あ、あぁ……そういえばそうでした。すいません、鍵を見つけて持っていったらユキ様を喜ばせられると、そればかりで……鍵の使い道を忘れていました」
「…………ふふっ」
落ちた場所は確かにこの辺りだったはずなのに、全く見つからない。低木に引っかかってはいないかと軽く揺らしてみると、ぽす……と小さな音が鳴った。
「今の音……あった! ありましたよユキ様!」
柔らかい土に小さな鍵が落ちた微かな音によく気付けたものだ、自画自賛しながら鍵を雪兎に見せるとコップを突き出された。
「見つけるだけじゃないよね? これに射精するまでが命令だよ」
「はいっ! ぁ、いえ、わんっ!」
「うん、して、ワンちゃん」
小さな鍵をつまんで陰茎を締める貞操帯を持ち上げる。鍵穴の位置は分かっているので、後はそこに鍵を差して回すだけ──
「……あれ?」
──鍵と鍵穴の形、全然違うぞ?
「……大学で犬飼ってる人達と少し仲良くなったんだけどね、その人達の犬は飼い主がボールとかフリスビーとか投げると取りに行くんだ」
雪兎は呆然とする俺の首輪からリードを外す。
「大急ぎで取りに行って、飼い主に褒められると大喜び。また投げてってはしゃぐんだよ。健気で可愛かった。見てるだけでも楽しかったから、当事者になったらきっともっと楽しいんだろうね。ねぇ? ポチ。ポチは僕をガッカリさせたりしないよね?」
「……わんっ!」
陰茎を早く解放してもらうため、そして何より雪兎を喜ばせるため、俺は四つん這いでウッドデッキから飛び降りた。
「うっ……」
「ポチ! 鍵見つけられたら自分で外して戻ってきて、僕の目の前でこれに射精してね」
「はぃ……わ、わんっ……!」
膝と手のひらでの着地には慣れていない、少し膝が痛む。俺は低木の前まで四つん這いで歩き、記憶している場所を探った。
「クソ……葉が多い」
その辺のスカスカ街路樹とは違う、最高クラスの庭師が整えたのだろう低木はまんまるの緑の塊と言った具合だ。美しい曲線を描いている低木に触れるのがはばかられ、低木を押しのけて鍵を探すのも難しい。
「下は……」
流石に下は少しくらい空いているだろうと地面スレスレに顔を落とすと、芝生をよじ登っているテントウムシと目が合った。
「おぉ……アメリカにもいるんだな」
虫がいるならあまり顔を地面に近付けたくない、はばかられはするが低木を押しのけて探ろう。
「……お、地面見えた」
枝葉を掻き分けて隙間を作ると低木が生えている土が見えた。しかし、小さな鍵は見当たらない。視界の端にリスが見えて、小動物が持ち去った可能性もあるのではないかと背筋が寒くなる。
「……っ、そんなのダメだ、ユキ様……ユキ様が待ってる」
雪兎は普通の犬でするようなボール遊びをしてみたいようだった、主人の願いは叶えなければならない。
俺はいつの間にか自身の陰茎を解放するという理由を忘れ、真偽不確かな雪兎のささやかな願いのために鍵を探していた。
「鍵、鍵……」
「見つからない? 遠くに投げすぎたかな」
いつの間にか雪兎が背後に迫っていた。特に足音を殺した訳でもないだろう雪兎の接近に気付かないなんて、集中し過ぎだ。もう少し視界を広く持たないと鍵すら見落としてしまいそうだ。
「必死だねぇ、そんなに射精したいの?」
「へっ? あ、あぁ……そういえばそうでした。すいません、鍵を見つけて持っていったらユキ様を喜ばせられると、そればかりで……鍵の使い道を忘れていました」
「…………ふふっ」
落ちた場所は確かにこの辺りだったはずなのに、全く見つからない。低木に引っかかってはいないかと軽く揺らしてみると、ぽす……と小さな音が鳴った。
「今の音……あった! ありましたよユキ様!」
柔らかい土に小さな鍵が落ちた微かな音によく気付けたものだ、自画自賛しながら鍵を雪兎に見せるとコップを突き出された。
「見つけるだけじゃないよね? これに射精するまでが命令だよ」
「はいっ! ぁ、いえ、わんっ!」
「うん、して、ワンちゃん」
小さな鍵をつまんで陰茎を締める貞操帯を持ち上げる。鍵穴の位置は分かっているので、後はそこに鍵を差して回すだけ──
「……あれ?」
──鍵と鍵穴の形、全然違うぞ?
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