ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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雪の降らない日々

いとこと、ご

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國行からの誕生日プレゼントはピアスだった。それも高級そうに見える。小さな宝石がイミテーションだとしても國行に買える値段ではないだろう。

「ピアス……國行、これ買ったのか?」

考えたくはないが、もしかしたら万引きでもしたのかもしれない。出処を探らなければ。

「……おかーさんの。置いてってたの見つけたけど、おとーさんに渡したら売りそうだったから、持ってた」

万引きを疑った自分の頭をかち割りたい。

「え、叔母さんの? いいのか?」

「…………消毒した」

「いやそういう意味じゃなくてな、大事なもんじゃないのか?」

國行の母親は彼を置いて逃げた。夫に暴力を受けていたようだったから、あまり非難する気にはなれないけれど、置いて行かれて酷く傷付いた國行はあまりにも不憫だ。

「……ない。おかーさんもう戻ってこないし。それ見てるとおかーさん思い出して嫌になるから、にいちゃんのにして欲しい」

「そっか……」

母親を恋しく思う気持ちより、もはや恨みが大きいのだろう。

「……つけて」

「え?」

「……ピアス。兄ちゃんがつけてるとこ見たい。おかーさん思い出すから……思い出、変えて欲しい」

ピアスの記憶の上書きを頼んでいるのか。しかし俺はピアス穴を空けていないから、イヤーカフならともかくピアスはつけられない。

「あー、國行、悪いけどさ……」

「…………プレゼント、嬉しくない? 気に入らなかった……? プレゼントはアクセサリーがいいってテレビで言ってたのに……あのテレビ嘘つきだ」

「あ、いや、嬉しいぞ、嬉しいけどさ」

女性へのアンケートものでも見たのか? 少なくとも俺はアクセサリーをもらっても嬉しくない、首輪は別として身体に服以外のものがずっとくっついていると鬱陶しく思ってしまうタイプなのだ。

「……じゃあなんでつけてくんないの?」

「ゃ、穴が……ぁー、國行、安全ピンとか持ってないか?」

「…………? 名札のなら。持ってくる」

俺はピアスを一旦机に置き、國行が持ってきた安全ピンを受け取りながら自分の耳たぶを軽くほぐした。

「この辺かなー」

耳たぶの裏側から安全ピンの針を当て、一思いに耳たぶを貫いた。

「…………っ!?」

國行の前だ。痛いとは言えない。俺は唇を噛んで声を殺した。

「……に、にーちゃん……? 何、してるの。なんで……血、血が……出てる。耳……なんで」

「なんでって、穴空けないとピアスつけらんないだろ?」

「…………あな?」

「え、お前ピアスのつけ方知らなかったのか? ほら、この棒を通す穴が必要なんだよ。さ、もう片っぽも……っ、ふぅ……空いた。ティッシュ二枚くれ」

困惑しながらも頷いた國行に渡されたティッシュで耳たぶから流れた血を拭う。

「…………みんな、こんな痛いことしてるの? おかーさんも?」

「あぁ、普通は病院とかでちゃんと空けてもらうからここまで痛くはないかな」

「……なんで、にいちゃんは……病院でしないの?」

「國行にすぐ見せてやりたかったんだよ」

とりあえず血が止まったようなのでピアスをつける。ズキズキという痛みがずっとあったが、表情や声に出るほどではない。

「どうだ? 似合うか?」

「……ごめんなさい。おれ……ピアスのつけ方、知らなくて……わがまま言って、兄ちゃんに痛いことさせて、ごめんなさい」

「気にすんなよ。お兄ちゃんは國行のためなら手のひらに穴空いたって平気だぜ? 聖痕ってヤツだな。ははっ」

「…………俺の、ため」

浮かない顔の國行の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

「そ。お前のため。俺がプレゼント使ってるとこ早く見たかったんだろ? そのため。國行が喜ぶと思ってやったんだから、ちゃんと見ろよ。ほら、どーよ、似合う? ん? 記憶の上書きは上手くいきそうか? これはもうお兄ちゃんのピアスだからな~」

「…………兄ちゃんの、ピアス。俺のために……痛いの、我慢して……ついた、ピアス」

國行は膝立ちになって俺の耳をじっと見つめた。俺に似た三白眼は分かりやすい可愛らしさはないが、可愛げはある。

「……兄ちゃんの耳に穴空いてる」

雪兎よりも小さな指先が耳に触れる。ピアスをよく見たいのか國行は耳たぶやピアスを引っ張っている。

「國行ぃ……そんなに引っ張られるとお兄ちゃんちょっと痛いかも……ひぁっ!?」

細い指で耳の内側に触れられて思わず甲高い声を上げた。

「…………びっくりした」

「びっくりしたのは俺の方だ。人の耳をあんまり触るんじゃない、特に中の方はくすぐったいんだから」

國行の耳を指で軽く弾いてやると、ゾワっとしたのか不快そうな顔になった。

「…………ぅ」

「な? 嫌だろ? 嫌なこと人にしちゃダメだぞ」

彼の頭を撫でながら改めて言ってやると、しょぼくれた顔で頷いた。よく反省したようなので褒美として肩車をしてやり、夕方までたっぷり遊んだ。
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