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雪の降らない日々
おじさんと、いち
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車に乗ると叔父は仕事のスイッチを入れたのか途端に真面目な顔をし、書類を片手に依頼内容の最終確認を行った。
「体調不良や不幸が続き、近所の神社に行ったところ霊能力者組合の連絡先を教えられ……はぁ、霊視結果とか載ってないの? 軽く見るくらいするだろ、その神主はかなりの無能──ねぇ聞いてる?」
「……い、てる」
「じゃあ続けるけどさ、何も分からない状態で仕事が回ってくるなんてありえないんだよ、最悪なんだよ。普通は霊視した上で対応出来そうな霊能力者に向けて募集をかけるんだよ。今後はこういう仕事取らないように気を付けなよ、悪徳だから」
叔父の話が右耳から左耳へと抜けていく。
「俺、霊視苦手なんだよね……幽霊が取り憑いてるとか分かりやすいのなら見えるけど、変な物触って呪われたとかだと依頼者見ても俺の目じゃ原因が分かんないからなぁ」
精神安定剤である雪兎も雪風も居ない今、車に乗ったのは失敗だった。失敗と言っても回避出来るようなものではないが。
「……ねぇ、聞いてる? 君のために説明してあげてるのにさっきからずっとハァハァ言ってさ、何、俺に興奮でもした? って感じじゃないね、車酔い?」
頭を抱えて蹲る俺を見下ろし、叔父は呆れたようなため息をついて眼帯をズラした。
「……っ! 見るな!」
「わ、何、体調不良ならやばいと思って見てあげたんだから感謝して欲しいくらいなんだけど……ふふ、車怖いの知られたくなかった? 犬みたいだもんね、車嫌いとか」
「うるさい……」
「すっごい、恐怖の色ダダ漏れ。お化け屋敷行ってもここまでにはならないよ。本当に大丈夫? 結構体に負担かかってると思うよ、そんなに怖がってたら」
叔父に殺意を抱こうとしても上手くいかない、叔父の綿密な殺害計画を立てようとしても上手く考えられない。
「……手、繋いであげようか」
視線を少し上げると綺麗な手が見えた。細長く滑らかな指の節は大きく、確かな男性らしさがある。男女両方の魅力を併せ持つ手の主は雪風だ。
「雪風……」
「なーんてね、って、ちょ……本当に繋ぐの? 嘘なんだって、ねぇ、ちょっと……」
触れてみると肌の滑らかさに覚えがあった。やはり雪風の手だ、少し呼吸が落ち着いてきた。
「雪風、雪風……雪風」
ぎゅ、ぎゅ、と手を握る。深いため息をついて頭を下げ、自分の足をじっと見つめる。
「はぁ……分かった、握っててあげるよ、もう……しょうがないなぁ。大丈夫だよ、真尋、大丈夫、俺がついてる」
「雪風っ、雪風……ありがとう」
「…………若神子一族特攻とか揶揄される訳だよ」
山道の幻覚が雪風の気配でかき消され、相変わらず恐怖はあるものの泣き叫ばずに耐えていられた。車が目的地に到着して恐怖が冷めると、俺は握っていた手が雪風のものでないことに気が付いた。
「正気に戻ったみたいだね?」
「……あぁ、戻った」
「離してくれる?」
すっかり同じ温度になった手は正気に戻った今も雪風のものだと思えてならない。本当に雪風と叔父は瓜二つなのだ、違うのは髪と目の色、そして髪型だけだ。
「あーぁ面白かった、しばらくこのネタで弄ってやろうかな」
「好きにしろ、今回ばっかりは何も言えねぇよ」
「そういう反応されると弄る気なくすなぁ」
手を離して車から降り、叔父をじっと見つめて「声まで同じなのは悪質だな」とため息をついた。
「顔はまだいいけど、声とか手までそっくりってどういうことだよ。手なんか食習慣とかで変わってくるだろ……」
「人の顔見てため息つかないでよ」
「……異母兄弟だよな? 双子じゃなくて。似過ぎだろ。母親の遺伝子どこやったんだよ」
「若神子一族はそんなもんだろ。いいから行くよ」
「俺何すればいいんだっけ、車乗ったら全部忘れた」
「あぁもう……その都度指示する!」
怒った顔も雪風にそっくりな叔父は依頼者の家のインターホンを押した。俺は隣に並んで表情から不満を抜き、依頼者が出てくるのを待った。
「体調不良や不幸が続き、近所の神社に行ったところ霊能力者組合の連絡先を教えられ……はぁ、霊視結果とか載ってないの? 軽く見るくらいするだろ、その神主はかなりの無能──ねぇ聞いてる?」
「……い、てる」
「じゃあ続けるけどさ、何も分からない状態で仕事が回ってくるなんてありえないんだよ、最悪なんだよ。普通は霊視した上で対応出来そうな霊能力者に向けて募集をかけるんだよ。今後はこういう仕事取らないように気を付けなよ、悪徳だから」
叔父の話が右耳から左耳へと抜けていく。
「俺、霊視苦手なんだよね……幽霊が取り憑いてるとか分かりやすいのなら見えるけど、変な物触って呪われたとかだと依頼者見ても俺の目じゃ原因が分かんないからなぁ」
精神安定剤である雪兎も雪風も居ない今、車に乗ったのは失敗だった。失敗と言っても回避出来るようなものではないが。
「……ねぇ、聞いてる? 君のために説明してあげてるのにさっきからずっとハァハァ言ってさ、何、俺に興奮でもした? って感じじゃないね、車酔い?」
頭を抱えて蹲る俺を見下ろし、叔父は呆れたようなため息をついて眼帯をズラした。
「……っ! 見るな!」
「わ、何、体調不良ならやばいと思って見てあげたんだから感謝して欲しいくらいなんだけど……ふふ、車怖いの知られたくなかった? 犬みたいだもんね、車嫌いとか」
「うるさい……」
「すっごい、恐怖の色ダダ漏れ。お化け屋敷行ってもここまでにはならないよ。本当に大丈夫? 結構体に負担かかってると思うよ、そんなに怖がってたら」
叔父に殺意を抱こうとしても上手くいかない、叔父の綿密な殺害計画を立てようとしても上手く考えられない。
「……手、繋いであげようか」
視線を少し上げると綺麗な手が見えた。細長く滑らかな指の節は大きく、確かな男性らしさがある。男女両方の魅力を併せ持つ手の主は雪風だ。
「雪風……」
「なーんてね、って、ちょ……本当に繋ぐの? 嘘なんだって、ねぇ、ちょっと……」
触れてみると肌の滑らかさに覚えがあった。やはり雪風の手だ、少し呼吸が落ち着いてきた。
「雪風、雪風……雪風」
ぎゅ、ぎゅ、と手を握る。深いため息をついて頭を下げ、自分の足をじっと見つめる。
「はぁ……分かった、握っててあげるよ、もう……しょうがないなぁ。大丈夫だよ、真尋、大丈夫、俺がついてる」
「雪風っ、雪風……ありがとう」
「…………若神子一族特攻とか揶揄される訳だよ」
山道の幻覚が雪風の気配でかき消され、相変わらず恐怖はあるものの泣き叫ばずに耐えていられた。車が目的地に到着して恐怖が冷めると、俺は握っていた手が雪風のものでないことに気が付いた。
「正気に戻ったみたいだね?」
「……あぁ、戻った」
「離してくれる?」
すっかり同じ温度になった手は正気に戻った今も雪風のものだと思えてならない。本当に雪風と叔父は瓜二つなのだ、違うのは髪と目の色、そして髪型だけだ。
「あーぁ面白かった、しばらくこのネタで弄ってやろうかな」
「好きにしろ、今回ばっかりは何も言えねぇよ」
「そういう反応されると弄る気なくすなぁ」
手を離して車から降り、叔父をじっと見つめて「声まで同じなのは悪質だな」とため息をついた。
「顔はまだいいけど、声とか手までそっくりってどういうことだよ。手なんか食習慣とかで変わってくるだろ……」
「人の顔見てため息つかないでよ」
「……異母兄弟だよな? 双子じゃなくて。似過ぎだろ。母親の遺伝子どこやったんだよ」
「若神子一族はそんなもんだろ。いいから行くよ」
「俺何すればいいんだっけ、車乗ったら全部忘れた」
「あぁもう……その都度指示する!」
怒った顔も雪風にそっくりな叔父は依頼者の家のインターホンを押した。俺は隣に並んで表情から不満を抜き、依頼者が出てくるのを待った。
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