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雪の降らない日々
おとーさんと、じゅうはち
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キスだけで勃起してしまうなんて、まるで童貞だ。
「……あの人にバレてたよな、俺達の関係。いいのか? 恋人を息子の補佐に……なんて意味分かんないこと知られて。縁故採用は反感買うぞ」
「大丈夫大丈夫、気にすんなよ」
「…………そうか」
雪風の気楽さには不満を覚えた。俺は元々周囲の印象を気にするタイプではない、若神子家に引き取られる前は不良呼ばわりされるほど暴れていたのが証拠になるだろう。
社員に僻まれたところで感情的には何も支障はないが、社員達との意思疎通が上手く行かずに仕事に支障が出る可能性はある。雪風や雪兎に迷惑がかかるかもしれない、それだけが不安だ。
「地下戻るか、キスしてたら再燃しちまった。もっかいヤろうぜ」
「俺は別にいいけど……大丈夫なのか? 明日も仕事だろ?」
「平気平気。お前の誕生日もうそろそろだろ? 休み取るためにも仕事片付けとかないとな」
「……専務が早く帰ってるしわ寄せ来てるんじゃないだろうな」
「違う違う。この製薬会社はあくまでも表家業だ、俺にはオカルトの方の仕事もある……仕事掛け持ちしてるようなもんだから、どうしても忙しくなるんだよ。表家業だけなら他の企業の社長共に比べりゃ仕事量は少ない方だぜ」
あまり疲労を溜めて欲しくない。けれど、雪風が望むならセックスでも何でもして癒してやりたい。彼が自分の体調を分かった上でねだってくれていることを願い、地下の社長室に戻って雪風を抱いた。
会社で雪風を抱いたり、専務に紹介されたり、その後また雪風を抱いたりした日から数日後の昼間。俺は祖父の元に居た。
「……蝉が騒がしいな」
「ですね」
「蝉の声は嫌いじゃない。特にミンミンゼミは好きだ、ツクツクボウシも面白い。お前は好きな蝉は居るか?」
潔癖症な祖父は虫が嫌いなイメージがあったが、そうでもないようだ。
「ヒグラシですかね」
「……それはみんな好きだろ」
「物悲しくて嫌いって人も多いですよ」
今年はまだヒグラシの声を聞いていない。九月末頃までには出てきてくれるだろうか。この辺りには居ないのだろうか。
「ま、蝉なんてどうでもいいんだ。雪也、お前欲しいものはあるか?」
「……欲しいもの、ですか? 何故?」
「お前、九月が誕生日だろ」
「あ、あぁ……でも俺、欲しいものなんて」
今の俺の望みは「雪兎に会いたい」ただ一つだけだ。他に欲しいものなんて何もない。
「何でもいいぞ、何かあるだろ?」
「…………欲しいもの」
「服でも装飾品でも、何でもいいぞ」
「…………………………それじゃあ、携帯電話……スマートフォンを一つ、新しく契約して欲しい……です」
俺の望みは意外だったようで、祖父は目を見開いた。
「スマホなら渡してるはずだが……機種変じゃなく、新しくもう一つ欲しいのか? 一台じゃ足りないのか?」
「……従弟と連絡を取りたいんです。家にかけてもあの子が出ることはあまりなくて……色々と心配で」
「そういうことなら誕生日にわざわざ頼まなくてもいい、買ってやる。誕生日プレゼントはお前の物をやりたいんだ、考えておけよ」
祖父はすぐにどこかに電話をかけてくれた。多分、従弟……國行に与えるスマホを買ってくれているのだ。
「おい、雪也、色は何にする?」
「あ、シルバーで」
スマホって電話一本で買えるものなんだなぁ。
「雪也、その従弟の住所書け」
國行の元に届けるところまでやってくれるのか、すごいな。
「…………よし、これで終わりだ。何日かすればその従弟から電話でもかかってくるだろう」
國行がスマホの扱い方を分かっているとは思えない。俺への電話の掛け方を書いた手紙でも送ろうかな。
「……あの人にバレてたよな、俺達の関係。いいのか? 恋人を息子の補佐に……なんて意味分かんないこと知られて。縁故採用は反感買うぞ」
「大丈夫大丈夫、気にすんなよ」
「…………そうか」
雪風の気楽さには不満を覚えた。俺は元々周囲の印象を気にするタイプではない、若神子家に引き取られる前は不良呼ばわりされるほど暴れていたのが証拠になるだろう。
社員に僻まれたところで感情的には何も支障はないが、社員達との意思疎通が上手く行かずに仕事に支障が出る可能性はある。雪風や雪兎に迷惑がかかるかもしれない、それだけが不安だ。
「地下戻るか、キスしてたら再燃しちまった。もっかいヤろうぜ」
「俺は別にいいけど……大丈夫なのか? 明日も仕事だろ?」
「平気平気。お前の誕生日もうそろそろだろ? 休み取るためにも仕事片付けとかないとな」
「……専務が早く帰ってるしわ寄せ来てるんじゃないだろうな」
「違う違う。この製薬会社はあくまでも表家業だ、俺にはオカルトの方の仕事もある……仕事掛け持ちしてるようなもんだから、どうしても忙しくなるんだよ。表家業だけなら他の企業の社長共に比べりゃ仕事量は少ない方だぜ」
あまり疲労を溜めて欲しくない。けれど、雪風が望むならセックスでも何でもして癒してやりたい。彼が自分の体調を分かった上でねだってくれていることを願い、地下の社長室に戻って雪風を抱いた。
会社で雪風を抱いたり、専務に紹介されたり、その後また雪風を抱いたりした日から数日後の昼間。俺は祖父の元に居た。
「……蝉が騒がしいな」
「ですね」
「蝉の声は嫌いじゃない。特にミンミンゼミは好きだ、ツクツクボウシも面白い。お前は好きな蝉は居るか?」
潔癖症な祖父は虫が嫌いなイメージがあったが、そうでもないようだ。
「ヒグラシですかね」
「……それはみんな好きだろ」
「物悲しくて嫌いって人も多いですよ」
今年はまだヒグラシの声を聞いていない。九月末頃までには出てきてくれるだろうか。この辺りには居ないのだろうか。
「ま、蝉なんてどうでもいいんだ。雪也、お前欲しいものはあるか?」
「……欲しいもの、ですか? 何故?」
「お前、九月が誕生日だろ」
「あ、あぁ……でも俺、欲しいものなんて」
今の俺の望みは「雪兎に会いたい」ただ一つだけだ。他に欲しいものなんて何もない。
「何でもいいぞ、何かあるだろ?」
「…………欲しいもの」
「服でも装飾品でも、何でもいいぞ」
「…………………………それじゃあ、携帯電話……スマートフォンを一つ、新しく契約して欲しい……です」
俺の望みは意外だったようで、祖父は目を見開いた。
「スマホなら渡してるはずだが……機種変じゃなく、新しくもう一つ欲しいのか? 一台じゃ足りないのか?」
「……従弟と連絡を取りたいんです。家にかけてもあの子が出ることはあまりなくて……色々と心配で」
「そういうことなら誕生日にわざわざ頼まなくてもいい、買ってやる。誕生日プレゼントはお前の物をやりたいんだ、考えておけよ」
祖父はすぐにどこかに電話をかけてくれた。多分、従弟……國行に与えるスマホを買ってくれているのだ。
「おい、雪也、色は何にする?」
「あ、シルバーで」
スマホって電話一本で買えるものなんだなぁ。
「雪也、その従弟の住所書け」
國行の元に届けるところまでやってくれるのか、すごいな。
「…………よし、これで終わりだ。何日かすればその従弟から電話でもかかってくるだろう」
國行がスマホの扱い方を分かっているとは思えない。俺への電話の掛け方を書いた手紙でも送ろうかな。
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