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雪の降らない日々
たんじょーびぱーてぃ、さん
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誕生日前日の夜、雪風が邸宅に帰ってきた。使用人にそれを聞いてから彼の部屋に向かったので、彼は既にスーツを脱ぎ捨ててシャワーを浴びていた。
「んだよ真尋、覗きか? えっち」
「帰ってきたって聞いて……」
「だからってシャワールームまで開けるかね」
シャワーの湯を止めて濡れた髪をかき上げ、微笑む雪風はどこか嬉しそうだ。不躾にシャワールームの扉を開いた俺を咎めるようなことを言いながらも、俺が来たことを喜んでいる……と都合よく考えていいのだろうか。
「お前も入るか?」
白い肢体を惜しげもなく晒し、白髪を首に張り付けて、赤い瞳をシャワールームの明るい照明で輝かせる。
「入る……って、言うか」
濡れた肌に誘われて手を伸ばすも、その手をぱちんと叩かれた。
「手ぇ出すならダメだぜ」
「え……久しぶりなのに?」
「明日のお楽しみ。今日はムラムラしたまんま寝な、自分でやってもダメだぜ、明日にとっとけ」
誕生日プレゼントに身体を差し出してくれるつもりなのか? 既に下半身に血が集まっているが、そういうことなら我慢してみようか。
「……じゃあ待ってる、俺もう風呂入ったし」
濡れた裸をあまり外気に晒していては風邪を引いてしまう。俺はシャワールームの扉を閉じ、磨りガラスの向こうの雪風に向かって話し続ける。
「おぅ、ん? 待ってるって……なんか用事でもあんのか?」
「一緒に寝たいんだけど、ダメ?」
「明日まで我慢しろっつってんだろ」
「一緒に寝たいだけだよ、添い寝もダメなのか?」
「……添い寝ならいいけどよ」
シャワールームの壁も雪風も白いせいか、磨りガラス越しのシルエットがあまり楽しめない。けれど今は声を聞いているだけでいい。
「…………親父から聞いたぜ、お前の調子が悪いってな」
「別に普通だと思うけど……」
「暗いとこに行かせると叫んで倒れるとか、一人にしとくと自傷始めるとか言ってたぜ。どうなんだよ」
「してるつもりはないけど……まぁ、気付いたら医務室に居ることは最近多いな。知らない傷増えてたりもする」
水の音が止まって扉が開く。雪風は俺を見つめて深いため息をつき、俺の隣を抜けてバスタオルを頭から被った。
「ったく……ちゃんとしたカウンセリング受けさせた方がいいか?」
「なんでだよ、俺別にどこも悪くないぞ」
雑に頭と身体を拭いてバスローブを着ると雪風はさっさと脱衣所から出ていってしまう。
「雪風、髪乾かさないのか?」
「今日は疲れてるからなぁ……もう寝たい。枕にタオル敷いて寝る。ベッド行くぞ、添い寝して欲しいならさっさと来な、俺今日すぐ寝ちまうぞ」
俺は脱衣所に置いてあったドライヤーを持って彼を追った。
「歯磨きは?」
「風呂場で済ませた」
「おっさんかよ……」
「お前一回俺の歳考えてみ?」
ベッドの傍にあったコンセントにドライヤーを繋ぐと雪風は露骨に嫌そうな顔をした。
「頭隠すな。こっち来い」
頭に被ったタオルを奪い、熱風を雪風の髪に当てる。もちろん白く細い髪が傷まないように遠い位置から風を送るのを忘れずに。
「あぁー……風鬱陶しいしうるせぇ、眠たい時のドライヤー今めっちゃ嫌」
「雪兎はどれだけ眠くても髪ちゃんと乾かして油塗ってたぞ」
「俺は手入れしなくても綺麗さ保てるからいーの! もういいだろ? 眠いんだよ」
雪兎よりもずっとガキっぽい、眠気のせいか?
「まだ乾いてない」
白い髪は一本一本が細いけれど、その分とても多い。内側の方の髪まで乾かすのには時間がかかる。
「はぁー……なんかくぐるだけで一気に水分飛ぶ扉とか誰か作ってくんねぇかな……いや、汚れ飛ばすとかの方が話が早いか。殺菌くらい何とかなるとして……垢とかそういうのを落とすのは……ん~……ダメだ眠い、頭回らん」
何とか雪風が居眠りを始める前に乾かし終えた。すぐに寝転がろうとする彼を無理矢理起こし、保湿液を顔に塗りたくる。
「んぅー……」
「髪用のはないのか?」
「知らねぇよ……」
「しょうがないな。雪兎が置いてった椿油取ってくるから寝るなよ」
んー、と生返事の雪風を信用してなどいなかった。俺が雪兎の部屋から戻ると彼は既に夢の中。
眠っている彼をうつ伏せに転がし、髪のケアを施しながら俺はため息をついていたけれど、大きな幸せを感じていた。
「んだよ真尋、覗きか? えっち」
「帰ってきたって聞いて……」
「だからってシャワールームまで開けるかね」
シャワーの湯を止めて濡れた髪をかき上げ、微笑む雪風はどこか嬉しそうだ。不躾にシャワールームの扉を開いた俺を咎めるようなことを言いながらも、俺が来たことを喜んでいる……と都合よく考えていいのだろうか。
「お前も入るか?」
白い肢体を惜しげもなく晒し、白髪を首に張り付けて、赤い瞳をシャワールームの明るい照明で輝かせる。
「入る……って、言うか」
濡れた肌に誘われて手を伸ばすも、その手をぱちんと叩かれた。
「手ぇ出すならダメだぜ」
「え……久しぶりなのに?」
「明日のお楽しみ。今日はムラムラしたまんま寝な、自分でやってもダメだぜ、明日にとっとけ」
誕生日プレゼントに身体を差し出してくれるつもりなのか? 既に下半身に血が集まっているが、そういうことなら我慢してみようか。
「……じゃあ待ってる、俺もう風呂入ったし」
濡れた裸をあまり外気に晒していては風邪を引いてしまう。俺はシャワールームの扉を閉じ、磨りガラスの向こうの雪風に向かって話し続ける。
「おぅ、ん? 待ってるって……なんか用事でもあんのか?」
「一緒に寝たいんだけど、ダメ?」
「明日まで我慢しろっつってんだろ」
「一緒に寝たいだけだよ、添い寝もダメなのか?」
「……添い寝ならいいけどよ」
シャワールームの壁も雪風も白いせいか、磨りガラス越しのシルエットがあまり楽しめない。けれど今は声を聞いているだけでいい。
「…………親父から聞いたぜ、お前の調子が悪いってな」
「別に普通だと思うけど……」
「暗いとこに行かせると叫んで倒れるとか、一人にしとくと自傷始めるとか言ってたぜ。どうなんだよ」
「してるつもりはないけど……まぁ、気付いたら医務室に居ることは最近多いな。知らない傷増えてたりもする」
水の音が止まって扉が開く。雪風は俺を見つめて深いため息をつき、俺の隣を抜けてバスタオルを頭から被った。
「ったく……ちゃんとしたカウンセリング受けさせた方がいいか?」
「なんでだよ、俺別にどこも悪くないぞ」
雑に頭と身体を拭いてバスローブを着ると雪風はさっさと脱衣所から出ていってしまう。
「雪風、髪乾かさないのか?」
「今日は疲れてるからなぁ……もう寝たい。枕にタオル敷いて寝る。ベッド行くぞ、添い寝して欲しいならさっさと来な、俺今日すぐ寝ちまうぞ」
俺は脱衣所に置いてあったドライヤーを持って彼を追った。
「歯磨きは?」
「風呂場で済ませた」
「おっさんかよ……」
「お前一回俺の歳考えてみ?」
ベッドの傍にあったコンセントにドライヤーを繋ぐと雪風は露骨に嫌そうな顔をした。
「頭隠すな。こっち来い」
頭に被ったタオルを奪い、熱風を雪風の髪に当てる。もちろん白く細い髪が傷まないように遠い位置から風を送るのを忘れずに。
「あぁー……風鬱陶しいしうるせぇ、眠たい時のドライヤー今めっちゃ嫌」
「雪兎はどれだけ眠くても髪ちゃんと乾かして油塗ってたぞ」
「俺は手入れしなくても綺麗さ保てるからいーの! もういいだろ? 眠いんだよ」
雪兎よりもずっとガキっぽい、眠気のせいか?
「まだ乾いてない」
白い髪は一本一本が細いけれど、その分とても多い。内側の方の髪まで乾かすのには時間がかかる。
「はぁー……なんかくぐるだけで一気に水分飛ぶ扉とか誰か作ってくんねぇかな……いや、汚れ飛ばすとかの方が話が早いか。殺菌くらい何とかなるとして……垢とかそういうのを落とすのは……ん~……ダメだ眠い、頭回らん」
何とか雪風が居眠りを始める前に乾かし終えた。すぐに寝転がろうとする彼を無理矢理起こし、保湿液を顔に塗りたくる。
「んぅー……」
「髪用のはないのか?」
「知らねぇよ……」
「しょうがないな。雪兎が置いてった椿油取ってくるから寝るなよ」
んー、と生返事の雪風を信用してなどいなかった。俺が雪兎の部屋から戻ると彼は既に夢の中。
眠っている彼をうつ伏せに転がし、髪のケアを施しながら俺はため息をついていたけれど、大きな幸せを感じていた。
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