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郊外の一軒家
はっぴーはろうぃん、なな
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ハロウィンパーティー当日の朝、朝食の皿を洗いながら俺はとても深いため息をついた。
「はぁ……」
雪兎と仮装パーティー、それはとても素晴らしいことだ。筆舌に尽くし難い程に。けれど全く知らない他人が大勢、それも金持ちばかり。憂鬱だ。
「ポチー? お皿洗い終わった?」
「はい」
俺は生来人と関わるのがあまり好きではない。過剰な三白眼のせいで幼稚園の頃なんて俺の顔を見ただけで泣き出す子が居たほどだ。小学校に上がれば泣く者は居なくなったが、それでも距離を取られることは変わらなかった。
「お疲れ様。わ、手冷たいねぇ、お湯使えばよかったのに」
「寒くはないので……」
短気さと腕っぷしのおかげで虐められることはなく、ただ孤立した。似た目をした従弟だけが俺を怖がらず懐いたから、溺愛した。
「……? どうしたの、じっと見つめて」
「…………お可愛らしいなぁ、と」
「えー? ふふっ、ありがとう。僕ポチの目大好きだから、ずーっと見てていいよ?」
「……ありがとうございます」
他人と関わった経験が浅いから苦手意識がある。元庶民として金持ちには苦手意識がある。
「…………表情暗いね?」
「パーティー、緊張して……」
「見た目の割に気が弱いなぁ、可愛い。大丈夫だよ、ポチは話さなくていいんだから」
自分の周囲数メートル以内に人間が居るとそれだけで気が休まらないから嫌なのだ。図書館で席に座らず人が来ない棚の影で立ち読みをするくらいに。
「……本当に元気ないねぇ」
「すいません」
「よーし、特別に太腿触っていいよ」
「ありがとうございます」
「…………あんまり元気出ないねぇ」
雪兎に心配されることを不甲斐なく思いつつも空元気すら出せず、腹痛や吐き気など体調不良すら起こしながら過ぎ去っていく時間の無情さを嘆いた。
着るだけで絶頂してしまう着ぐるみを着て、吸血鬼に扮した雪兎に手を引かれて車に乗る。
「見て見て、つけ牙」
「お可愛らしいです……!」
「血液パックも用意してもらっちゃった、中身はアセロラゼリーだから飲めるんだよ」
「こってますねぇ」
雪兎の太腿を撫で回したり頬擦りしたりさせてもらったので気分は少し良くなっていたが、車はやはり怖い。大学に着くまでに俺はすっかり精神的に弱ってしまった。
「俺まだ犬の頭被っちゃダメなんですか?」
「もう少し待ってね」
「……はぁ」
「ポチ様、よろしいですか」
大学の門の前、運転手に呼ばれて振り返る。
「念の為武器を用意致しました、ご携帯ください。金属探知機があるということで大したものではございませんが、あなた様なら十分かと」
リレーのバトンのような太さと長さの黒い棒を渡された。
「……強化プラスチックと硬質ゴム製の警棒です。こちらのボタンをグッと押し込むと伸縮致します」
稼働が猫の前足程度にされてしまう手袋をはめていても何とか押せるサイズのボタンだ。一度伸ばして長さを確認し、再び押して短く戻した。
「手袋越しでも何とか握れますね」
「ブーツに収納してください、持ち歩くと怪しまれますので」
「はい」
爪と肉球付きの可愛らしい犬の足を模したブーツを今履いているので、そこに押し込んだ。
「ポチー? 何してるのー? 行くよ!」
「……ユキ様は俺に任せてください」
「…………毒味をお忘れなく」
「分かってますよ。ユキ様、今行きます!」
着ぐるみの内側に大量に仕込まれた玩具に身体を責められ過ぎないよう慎重に急ぎ、雪兎の隣に並んだ。
「……っ、はぁ……んっ、んぅ……」
「何話してたの?」
「毒味を忘れるなと……」
「……ふーん」
雪兎は俺が毒味役であることに不満げだ。
「ところでこの玩具、金属探知機に引っかかりませんかね?」
「壊すから大丈夫」
雪兎は自分の目を指し、可愛らしく微笑む。
「……じゃあ銃でももらえばよかったな」
いや、分厚い手袋をはめたままでは銃なんて使えない、咄嗟に手袋を外せるとは思えないし、警棒で正解だったのかな。
「銃?」
「狼男を倒すのには銀の銃弾が必要ですよねって話です」
「君急に話変えるよねー……」
呆れた顔も可愛い。こんなにも可愛らしい彼には傷一つ付けられない、得物が銃だろうが警棒だろうが完璧に使いこなして雪兎を守り通さなければ。
「はぁ……」
雪兎と仮装パーティー、それはとても素晴らしいことだ。筆舌に尽くし難い程に。けれど全く知らない他人が大勢、それも金持ちばかり。憂鬱だ。
「ポチー? お皿洗い終わった?」
「はい」
俺は生来人と関わるのがあまり好きではない。過剰な三白眼のせいで幼稚園の頃なんて俺の顔を見ただけで泣き出す子が居たほどだ。小学校に上がれば泣く者は居なくなったが、それでも距離を取られることは変わらなかった。
「お疲れ様。わ、手冷たいねぇ、お湯使えばよかったのに」
「寒くはないので……」
短気さと腕っぷしのおかげで虐められることはなく、ただ孤立した。似た目をした従弟だけが俺を怖がらず懐いたから、溺愛した。
「……? どうしたの、じっと見つめて」
「…………お可愛らしいなぁ、と」
「えー? ふふっ、ありがとう。僕ポチの目大好きだから、ずーっと見てていいよ?」
「……ありがとうございます」
他人と関わった経験が浅いから苦手意識がある。元庶民として金持ちには苦手意識がある。
「…………表情暗いね?」
「パーティー、緊張して……」
「見た目の割に気が弱いなぁ、可愛い。大丈夫だよ、ポチは話さなくていいんだから」
自分の周囲数メートル以内に人間が居るとそれだけで気が休まらないから嫌なのだ。図書館で席に座らず人が来ない棚の影で立ち読みをするくらいに。
「……本当に元気ないねぇ」
「すいません」
「よーし、特別に太腿触っていいよ」
「ありがとうございます」
「…………あんまり元気出ないねぇ」
雪兎に心配されることを不甲斐なく思いつつも空元気すら出せず、腹痛や吐き気など体調不良すら起こしながら過ぎ去っていく時間の無情さを嘆いた。
着るだけで絶頂してしまう着ぐるみを着て、吸血鬼に扮した雪兎に手を引かれて車に乗る。
「見て見て、つけ牙」
「お可愛らしいです……!」
「血液パックも用意してもらっちゃった、中身はアセロラゼリーだから飲めるんだよ」
「こってますねぇ」
雪兎の太腿を撫で回したり頬擦りしたりさせてもらったので気分は少し良くなっていたが、車はやはり怖い。大学に着くまでに俺はすっかり精神的に弱ってしまった。
「俺まだ犬の頭被っちゃダメなんですか?」
「もう少し待ってね」
「……はぁ」
「ポチ様、よろしいですか」
大学の門の前、運転手に呼ばれて振り返る。
「念の為武器を用意致しました、ご携帯ください。金属探知機があるということで大したものではございませんが、あなた様なら十分かと」
リレーのバトンのような太さと長さの黒い棒を渡された。
「……強化プラスチックと硬質ゴム製の警棒です。こちらのボタンをグッと押し込むと伸縮致します」
稼働が猫の前足程度にされてしまう手袋をはめていても何とか押せるサイズのボタンだ。一度伸ばして長さを確認し、再び押して短く戻した。
「手袋越しでも何とか握れますね」
「ブーツに収納してください、持ち歩くと怪しまれますので」
「はい」
爪と肉球付きの可愛らしい犬の足を模したブーツを今履いているので、そこに押し込んだ。
「ポチー? 何してるのー? 行くよ!」
「……ユキ様は俺に任せてください」
「…………毒味をお忘れなく」
「分かってますよ。ユキ様、今行きます!」
着ぐるみの内側に大量に仕込まれた玩具に身体を責められ過ぎないよう慎重に急ぎ、雪兎の隣に並んだ。
「……っ、はぁ……んっ、んぅ……」
「何話してたの?」
「毒味を忘れるなと……」
「……ふーん」
雪兎は俺が毒味役であることに不満げだ。
「ところでこの玩具、金属探知機に引っかかりませんかね?」
「壊すから大丈夫」
雪兎は自分の目を指し、可愛らしく微笑む。
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