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郊外の一軒家
はじめての……ろく
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ヘリの窓から見下ろしても状況は分からない、そんな視力はない。
「ユキ様、ほら、ちゃんと着てください」
雪兎にパラシュートを着けさせ、もしもの時に備える。その備えを使う時は来ず、ヘリは無事にプライベートジェットが待つ空港に到着した。
「ユキ様、行きましょう」
当初は俺だけが飛行機に乗り、日本に帰る予定だった。けれどもう状況が変わった、飛行機のパイロットも、整備士達も、その他の使用人達もそれらを理解している。雪兎も共に乗って帰国するのだ。
「ポチ……」
俺の羽織を頭から被せて飛行機に乗り込んだ。
「まだ脱いじゃダメですよ」
俺の羽織も、パラシュートも、まだ必要だ。ヘリが無事だったからと言ってプライベートジェットも無事に飛べるとは限らない。
「ポチさん、少しよろしいですか」
「はい」
「米空軍に申請した護衛の到着を待つため、離陸は今より五分四十秒後となります」
「……その護衛機の中にユキ様の殺害を狙う者が居ないという確証は?」
「先代様と現当主様が先程徹底的な調査を行いました。物心つく前からの記憶、今回の作戦への思い、全て問題の無い者を選び抜きました」
祖父は目を合わせた者の記憶を、雪風は感情を読み取ることが出来る。思想調査にはピッタリだな。カメラなどを介しても能力が弱まりすらしないのは先程俺が体験したばかりだ、曽祖父は俺の怪我を治してくれた。
「了解。頑張ってください……と、他の方にもお伝えください」
それから約五分後、予定通り飛行機は陸を離れた。窓から外を見ると戦闘機らしき姿が見えた。
「…………」
そんなもの見ていても仕方ない。俺は窓から顔を離し、俺の羽織の下から俺の顔を見上げている雪兎の頭を羽織越しに撫でた。
「ポチ……もう大丈夫なんだよね?」
鉄錆臭い。先程雪兎が能力を行使し、破裂させてしまった人間のものだろう。俺も雪兎もあの瞬間は真っ赤になった、今はチョコレートのような色だ。
「分かりません、まだ油断はしないようにしてください」
動く度にパリパリと音が鳴り、赤黒い粉が落ちる。不愉快だ、あの男は死んでもなお俺と雪兎に不快感を与える、殊更不愉快だ。
「早く家に帰ってシャワー浴びたいですね」
「え……? あ、うん……そうだね」
「……前も危なかったですけど、今回はより危なかったですよね。何人か死んじゃいましたし、ユキ様もう海外の大学に通えなんて言われないんじゃないですか?」
「あ……そう、だね」
雪兎の声が僅かに明るくなった。泣き止んでもずっと暗い顔をしていて心苦しかったから、この兆候は嬉しい。
「一緒に居られる時間伸びそうですね」
「…………そうだけど、喜べないよ。僕を狙ってきた人達のせいで、使用人さん、何人も……ぅ、うっ、うぇええぇんっ……ぽち、ぽちぃっ、ひっく、ひっく……ぅええん……」
また泣き出してしまった。俺は雪兎を膝に乗せて抱き締めて慰めながら、心の中でほんのりと死んだ使用人達を恨んだ。ヤツらが大怪我程度で済んでいれば雪兎が気に病むことはなかったのに、と。
「……よしよし」
死んだ人間に対して悲しむことも冥福を祈ることもせず、厄介がるなんて、俺はどうかしている。若神子邸に帰ったら精神鑑定でも受けるか、道徳教育を受けさせてもらうか、対策を打っておいた方が良さそうだな。
「ユキ様、ほら、ちゃんと着てください」
雪兎にパラシュートを着けさせ、もしもの時に備える。その備えを使う時は来ず、ヘリは無事にプライベートジェットが待つ空港に到着した。
「ユキ様、行きましょう」
当初は俺だけが飛行機に乗り、日本に帰る予定だった。けれどもう状況が変わった、飛行機のパイロットも、整備士達も、その他の使用人達もそれらを理解している。雪兎も共に乗って帰国するのだ。
「ポチ……」
俺の羽織を頭から被せて飛行機に乗り込んだ。
「まだ脱いじゃダメですよ」
俺の羽織も、パラシュートも、まだ必要だ。ヘリが無事だったからと言ってプライベートジェットも無事に飛べるとは限らない。
「ポチさん、少しよろしいですか」
「はい」
「米空軍に申請した護衛の到着を待つため、離陸は今より五分四十秒後となります」
「……その護衛機の中にユキ様の殺害を狙う者が居ないという確証は?」
「先代様と現当主様が先程徹底的な調査を行いました。物心つく前からの記憶、今回の作戦への思い、全て問題の無い者を選び抜きました」
祖父は目を合わせた者の記憶を、雪風は感情を読み取ることが出来る。思想調査にはピッタリだな。カメラなどを介しても能力が弱まりすらしないのは先程俺が体験したばかりだ、曽祖父は俺の怪我を治してくれた。
「了解。頑張ってください……と、他の方にもお伝えください」
それから約五分後、予定通り飛行機は陸を離れた。窓から外を見ると戦闘機らしき姿が見えた。
「…………」
そんなもの見ていても仕方ない。俺は窓から顔を離し、俺の羽織の下から俺の顔を見上げている雪兎の頭を羽織越しに撫でた。
「ポチ……もう大丈夫なんだよね?」
鉄錆臭い。先程雪兎が能力を行使し、破裂させてしまった人間のものだろう。俺も雪兎もあの瞬間は真っ赤になった、今はチョコレートのような色だ。
「分かりません、まだ油断はしないようにしてください」
動く度にパリパリと音が鳴り、赤黒い粉が落ちる。不愉快だ、あの男は死んでもなお俺と雪兎に不快感を与える、殊更不愉快だ。
「早く家に帰ってシャワー浴びたいですね」
「え……? あ、うん……そうだね」
「……前も危なかったですけど、今回はより危なかったですよね。何人か死んじゃいましたし、ユキ様もう海外の大学に通えなんて言われないんじゃないですか?」
「あ……そう、だね」
雪兎の声が僅かに明るくなった。泣き止んでもずっと暗い顔をしていて心苦しかったから、この兆候は嬉しい。
「一緒に居られる時間伸びそうですね」
「…………そうだけど、喜べないよ。僕を狙ってきた人達のせいで、使用人さん、何人も……ぅ、うっ、うぇええぇんっ……ぽち、ぽちぃっ、ひっく、ひっく……ぅええん……」
また泣き出してしまった。俺は雪兎を膝に乗せて抱き締めて慰めながら、心の中でほんのりと死んだ使用人達を恨んだ。ヤツらが大怪我程度で済んでいれば雪兎が気に病むことはなかったのに、と。
「……よしよし」
死んだ人間に対して悲しむことも冥福を祈ることもせず、厄介がるなんて、俺はどうかしている。若神子邸に帰ったら精神鑑定でも受けるか、道徳教育を受けさせてもらうか、対策を打っておいた方が良さそうだな。
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