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郊外の一軒家
はじめての……なな
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米空軍の護衛は途中で日本の航空自衛隊に入れ替わった。若神子家の権力はどうなっているんだ、こう思うのは何度目だろう。
「ユキ様、着きましたよ」
若神子邸の敷地内に飛行機が着陸したので、雪兎を連れて外に出た。もう警戒する必要はなさそうなので雪兎に被せている羽織を脱がそうかとも思ったが、何だか憔悴して見えたので羽織に包んだまま雪兎を抱えた。
「ただいま戻りました」
使用人に扉を開けてもらい、雪兎を抱えたまま邸宅に入る。
「真尋! 雪兎は……雪兎! 雪兎っ、大丈夫か?」
俺達を出迎えた雪風の声を聞き、雪兎が俺の腕の中でもぞりと動く。下ろしてやると雪風は玄関だというのに膝立ちになって両手を広げたが、雪兎は足を動かさなかった。
「……ユキ様?」
「雪兎、おいで?」
微かに頭を横に振り、俺にぎゅっと抱きつく。
「雪兎……」
「…………雪風、先に風呂……いいか?」
「あっ、あぁ! もちろん、準備させてある。行ってこい。終わったら別棟に来い、俺もそっちで待ってる」
「おじい様んとこだな、分かった」
雪兎を抱き上げてそこらの銭湯よりも広い風呂に向かった。脱衣所で服を脱ぐとパリパリと音がして、赤黒い粉が散った。
「…………うざ」
俺の血もあるだろうが、ほとんどは雪兎が破裂させた人間の血だ。せっかく雪兎が仕立ててくれた着物が酷く汚れた。その匂いと音と色の不快感が思わず口に出た。
「はぁ……ユキ様、さっさと脱ぎましょう」
「…………うん」
俺はさっさと全裸になったが雪兎はまだ脱いでいなかったので、脱衣を手伝ってやった。全て服を脱がしても雪兎の綺麗な白い肌や髪の一部は汚い色に染ったままだ。
「……ポチ? どうしたの? 顔……怖い」
「…………俺の顔は元々怖いでしょう」
「違うよぉ、ポチ可愛いもん……表情が怖いの」
「そう……ですか。まぁ、ユキ様のお美しい御髪も御肌も穢れてしまって、気がたってるんでしょう。すいませんね態度に出るタイプで……さっさと洗っちゃいましょう。服どうします? もう捨てます? 俺はユキ様がくださったものなので洗ってもらうつもりですけど、ユキ様はどうされます?」
「………………捨てて」
「分かりました」
「ポチのも、捨てていいよ。また仕立ててあげるから」
「嫌です」
「…………そっか。でも新しいのは仕立ててあげるからね」
風呂に入り、血を全て洗い流しても雪兎の顔は暗かった。髪を染めた血を落とす際痛そうにしていたのが悔しい、もう死んだアイツが腹立たしい、雪兎の手にかかったことが憎らしい、俺がこの手で殺してやりたかった。それも、産まれてきたことを後悔するくらいに惨たらしく。
「オキシドール髪にも顔にもぶっかけちゃいましたけど、肌とか荒れませんかね?」
素早くやる必要があったとはいえ首を折ったり頭を撃ち抜いたりするんじゃなかった、アイツらももっと苦しめればよかった。人類誕生から現在までに生まれた全ての拷問を試してやったとしてもなお、雪兎を泣かせた罪の1パーセントも精算出来ないだろうけど。
「…………大丈夫だと思うけど。でもポチ、ちゃんと保湿液塗るんだよ」
「はいもちろん、ユキ様が触れるものですから」
雪兎を狙った連中はおそらく下っ端だ、組織が存在するはずだ。雪兎の暗殺未遂事件に関わる者全て抹消しなければならない、でも、きっと俺はそれをさせてもらえない。
「ポチ……」
「はい?」
「……髪、乾かして」
「はい、ユキ様」
俺の仕事は雪兎のペット。迎撃は許されても報復する権利はない、悔しい限りだ。
「ユキ様、着きましたよ」
若神子邸の敷地内に飛行機が着陸したので、雪兎を連れて外に出た。もう警戒する必要はなさそうなので雪兎に被せている羽織を脱がそうかとも思ったが、何だか憔悴して見えたので羽織に包んだまま雪兎を抱えた。
「ただいま戻りました」
使用人に扉を開けてもらい、雪兎を抱えたまま邸宅に入る。
「真尋! 雪兎は……雪兎! 雪兎っ、大丈夫か?」
俺達を出迎えた雪風の声を聞き、雪兎が俺の腕の中でもぞりと動く。下ろしてやると雪風は玄関だというのに膝立ちになって両手を広げたが、雪兎は足を動かさなかった。
「……ユキ様?」
「雪兎、おいで?」
微かに頭を横に振り、俺にぎゅっと抱きつく。
「雪兎……」
「…………雪風、先に風呂……いいか?」
「あっ、あぁ! もちろん、準備させてある。行ってこい。終わったら別棟に来い、俺もそっちで待ってる」
「おじい様んとこだな、分かった」
雪兎を抱き上げてそこらの銭湯よりも広い風呂に向かった。脱衣所で服を脱ぐとパリパリと音がして、赤黒い粉が散った。
「…………うざ」
俺の血もあるだろうが、ほとんどは雪兎が破裂させた人間の血だ。せっかく雪兎が仕立ててくれた着物が酷く汚れた。その匂いと音と色の不快感が思わず口に出た。
「はぁ……ユキ様、さっさと脱ぎましょう」
「…………うん」
俺はさっさと全裸になったが雪兎はまだ脱いでいなかったので、脱衣を手伝ってやった。全て服を脱がしても雪兎の綺麗な白い肌や髪の一部は汚い色に染ったままだ。
「……ポチ? どうしたの? 顔……怖い」
「…………俺の顔は元々怖いでしょう」
「違うよぉ、ポチ可愛いもん……表情が怖いの」
「そう……ですか。まぁ、ユキ様のお美しい御髪も御肌も穢れてしまって、気がたってるんでしょう。すいませんね態度に出るタイプで……さっさと洗っちゃいましょう。服どうします? もう捨てます? 俺はユキ様がくださったものなので洗ってもらうつもりですけど、ユキ様はどうされます?」
「………………捨てて」
「分かりました」
「ポチのも、捨てていいよ。また仕立ててあげるから」
「嫌です」
「…………そっか。でも新しいのは仕立ててあげるからね」
風呂に入り、血を全て洗い流しても雪兎の顔は暗かった。髪を染めた血を落とす際痛そうにしていたのが悔しい、もう死んだアイツが腹立たしい、雪兎の手にかかったことが憎らしい、俺がこの手で殺してやりたかった。それも、産まれてきたことを後悔するくらいに惨たらしく。
「オキシドール髪にも顔にもぶっかけちゃいましたけど、肌とか荒れませんかね?」
素早くやる必要があったとはいえ首を折ったり頭を撃ち抜いたりするんじゃなかった、アイツらももっと苦しめればよかった。人類誕生から現在までに生まれた全ての拷問を試してやったとしてもなお、雪兎を泣かせた罪の1パーセントも精算出来ないだろうけど。
「…………大丈夫だと思うけど。でもポチ、ちゃんと保湿液塗るんだよ」
「はいもちろん、ユキ様が触れるものですから」
雪兎を狙った連中はおそらく下っ端だ、組織が存在するはずだ。雪兎の暗殺未遂事件に関わる者全て抹消しなければならない、でも、きっと俺はそれをさせてもらえない。
「ポチ……」
「はい?」
「……髪、乾かして」
「はい、ユキ様」
俺の仕事は雪兎のペット。迎撃は許されても報復する権利はない、悔しい限りだ。
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