目覚めたら若返った天才魔法師は愛弟子と魔王に求愛される

野良

文字の大きさ
11 / 15

4 試験

しおりを挟む
午後の授業は魔法回路についてだったが、それも難なく終えたセラフィーは家から登園しているデイジーと別れ、ジェシカに案内されて寮の自室へと足を踏み入れていた。

部屋はベッドとクローゼット、そして勉強机のみという質素なレイアウトだったが、馬小屋でも眠れるセラフィーにとっては何も問題ない。

「お風呂や食堂は20時まで開いているから、それまでに済ませてね。21時の消灯以降に出歩いていたら厳罰になるから気を付けるのよ」

「ゆっくり休んでね」と部屋を後にしたジェシカに礼を言ったセラフィーはぐるりと部屋を見渡すと、小振りな窓を開け外を覗き込んだ。

小高い場所にある学園寮からは夕日に照らされた街並み、そしてセラフィーが住んでいた魔法研究棟が見えた。

セラフィーはしばらく研究棟を見つめた後「そうだ」と何かを思いつき、窓を閉め急ぎ足で部屋を出て行ったのであった。



◇◇◇



「良かった!まだあったか」

セラフィーは誰も立ち入らないであろう、静まり返った研究棟の裏にひっそりと植えられている一本の小さな木を見つけた。

一見、普通の木に見えるよう目眩しの魔法をかけてあるが、触れた人に魔力を分け与える魔法樹という樹の枝をセラフィーが育てたものだった。

『昔、研究の為に陛下に頼みこんで枝を分けてもらった甲斐があったな』

魔法樹は王宮の中庭に植えられており、許された人でなければ触れる事ができない。

そのため枝を貰うという事自体が前代未聞だったが、功績を認められているセラフィーのみ許された事だった。

セラフィーは木に触れて目を閉じると、微量な魔力が体内に流れ込んでくるのを感じた。

「本当はお前の母にも魔力を分けてもらいたいんだがな…しばらくの間、私に力を貸してやってくれ」

セラフィーは地面に腰を下ろし、木と寄り添うように穏やかな時間を過ごした。

その日、日が暮れ辺りが薄暗くなっても魔法塔にランプの光が灯ることはなかった。



◇◇◇


3日後、デイジーが言っていたように1回目の試験が行われた。

試験は筆記試験と実技試験があり、2人とも筆記試験は問題なく終えたが、デイジーにとって問題の実技試験は北の森付近の採石場で行われた。

高等科の全クラスの生徒が集まり、先日食堂で会ったウィリアムや主任であるレオも他の教師達と一緒に試験の様子を見守っている。

「今回の試験は、私達がこの採石場の中に隠した魔法石を見つけだし、それを使って試験官の指示通り魔力をコントロールしてもらいます」

試験官の一人である教師が試験内容を説明すると、生徒達にどよめきが起こった。

「魔法石を見つけるのも大変なのに、その魔力をコントロールなんて…レベルが高すぎよ」

セラフィーの隣ではデイジーがガクリと肩を落としていた。

「デイジーなら普通の石と魔法石の見分けもつくだろう。コントロールに関しては、魔法石を自分の身体の一部だと思えばスムーズに魔法石の力を使う事ができる」

セラフィーが背中をポンと叩き励ますと、デイジーは顔を上げ

「分かったわ。やってみる」

と眉尻を下げながら頷いた。



試験はSクラスから行われたが、やはりいつもに比べレベルが高いのか、Sクラスでもミスをする生徒が多かった。

しかしそんな中でも、王太子ウィリアムと彼の友人達は抜群の魔力コントロールを見せ、生徒達は歓声を上げたのであった。

「そろそろね…」

次々と生徒の試験が終了し、もうすぐCクラスの順番に差しかかろうとした時、隣にいたデイジーがポケットから液体の入った小瓶を取り出しポンッと栓を抜いた。

セラフィーは小瓶の匂い…正確には中の液体の匂いに気付き、咄嗟とっさにデイジーの手を制止した。

「えっ!?フィー!?」

驚いたデイジーが目を丸くさせるのをよそに、セラフィーは眉間にシワを寄せ

「飲むつもりなら今すぐ辞めなさい」

と忠告すると、デイジーは手を下ろし小瓶に再び栓をした。

「どこでこれを?」

セラフィーの問いにデイジーは動揺した様子で

「わ、私が魔法の実技が苦手なのを心配した父が、同業者の友人から特別に購入している薬なの。これなら魔力コントロールも上達するだろうって紹介されて…」

と答えた。

セラフィーは視線を小瓶に移し、しばらく考え込むと

「ちょっと背中を向けてもらえるか」

と後ろ向きになったデイジーの背に片手を添えた。

『やはり魔法回路が狭くなっている』

デイジーと彼女の父親が信じていた薬は魔力コントロールを上達させるものではなく、体内の魔法回路を狭くしていく毒薬のようなものだった。

『恐らくデイジーの父親の成功を恨んでの犯行だろう…それにしても酷い』

もしデイジーがこのまま薬を飲み続ければ、完全に魔法師としての未来は閉ざされていただろう。

セラフィーはグッと拳を握ると

「デイジー、私を信じてこの薬はもう飲まないと誓ってくれ」

そう言うと「えっ?」と困惑したデイジーは、振り返りセラフィーを見た。

今、本当の事を話せばきっと動揺して試験どころでは無くなってしまう。

セラフィーは目を見つめながらデイジーの手を握ると

「大丈夫だ。必ず上手くいく。私を信じてくれ」

と力強い言葉でデイジーに訴えた。

デイジーはしばらく黙っていたが、こくんと頷くと

「あなたは私の初めての友達だわ。フィーあなたを信じる」

そう言って微笑んだ。



◇◇◇



セラフィーはデイジーの背中に両手で触れると「ふぅー」と小さく、そして細く息を吐いた。

『集中しろ』

セラフィーはデイジーの魔法回路に自身の魔力を少しずつ流し込み、狭くなった魔法回路を徐々に広げていく。

少しでも流し込む魔力量を間違えればデイジーの魔法回路は破裂してしまう為、セラフィーでなければ考えられないような治療法だった。

『よし、これで大体の回路は修復できたはずだ』

セラフィーが手を下ろし「終わったぞ」とデイジーに声をかけると、手のひらを見つめたデイジーは

「なんだか身体中が温かくなったわ」

と自分の身体の隅々まで見渡していた。

「次の生徒デイジー!前へ!」

「は、はい!」

丁度終わったタイミングで試験官に呼ばれたデイジーは、セラフィーに手を振り試験へと挑んでいった。

「桁外れな魔力コントロールですね」

セラフィーがふぅと息を吐き座ろうとしたその時、どこから見ていたのかセドリックが声をかけてきた。

「お前…仕事をさぼって何をしているんだ」

セラフィーが睨みつけると

「これも大事な仕事なんです!事前に優秀な人材を把握しておくのも側近の努めですから!」

と焦った様子でセドリックは両手を振った。

「素敵な友人ができたようで安心しました。少し寂しい気もしますが…」

「??なぜセドリックが寂しくなるんだ?」

セドリックの言葉の意味が分からず、首を傾げるセラフィーに意味ありげな笑みを返したセドリックは

「ほら!もうすぐフィーさんの番ですよ!」

そう言ってセラフィーの背中をポンッと叩いた。

「頑張ってくださいね」

だんだん遠慮が無くなってきた側近の態度にセラフィーは若干引きつった笑顔を浮かべたが、ニコニコと笑うセドリックの顔に毒気を抜かれ

「行ってくる」

と小さく手を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する

紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!! 完結済み。 毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

処理中です...