龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか

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一章 幽世へ

二十五話 翡翠からの頼み

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 そんなことを考えていると、

「さて、美桜、ここからが本題だ」

 翡翠に背中をぽんと叩かれた。

「本題?」

 翡翠の付き合って欲しいこととは、買い物ではなかったのだろうかと首を傾げた美桜に、

「地階に行くぞ」

 翡翠は下を指差した。

「地階には何があるの?」
(デパートの地階といえば、もしかして……)

 美桜はピンときた。

「食料品売場だ」

 大階段の両脇から伸びている小階段を下りると、揚げ物の良い香りが漂ってきた。

「うわぁ! デパ地下だぁ!」

 地階フロアの中には、たくさんの店舗が並んでいた。カツ、焼き鳥、サラダ……ありとあらゆる料理が販売されているようだ。
 美桜の目が輝いた。人間の世界のデパ地下と、雰囲気が似ている。
 けれど、ここは幽世。冷蔵ショーケースやフライヤーの電力はどうしているのだろうと不思議に思い、翡翠に聞いてみると、

「雷獣の一族を雇っていて、自家発電でまかなっている。冷蔵の方は、専門の雪女がいて、随時冷気を補っている」

 という答えが返ってきて、驚いた。

「こんなに大きなお店の電力を作っているのがあやかしなんて、すごい。大変じゃないのかな?」

 心配をしたが、

「雷獣は、百匹ぐらい雇用している。発電室でのんびり昼寝をしたり、菓子を食べたりしながら、仕事に就いてもらっている」

 と説明され、

「あれ、意外と、好待遇……」

 美桜は、ふふっと笑ってしまった。 

「美桜は食料品売場が好きなのか? 一番、いい顔をしているな」

「翡翠はお見通しなんだね。うん、好き」

「ならば、自由に見たら良い。何か好きなものがあれば買ってやるぞ」

  翡翠にすすめられて、美桜は、わくわくした気持ちで、フロアをまわり始めた。
 地階も、多くのあやかしで賑わっていた。のっぺらぼう、二足で歩いている猫、頭に皿のある男性。首を伸ばしてショーケースをのぞいているのは、ろくろ首だろうか。

「わあっ、あれ、クジラの竜田揚げだね。めずらしい! あっちは馬肉のハンバーグかぁ」

 食べたことのない惣菜を見つけ、美桜の目が輝く。美桜が興味を示した料理を、翡翠が片っ端から購入していく。
 一通り惣菜のコーナーを見て回った後、美桜は、

「あれっ? お菓子のコーナーはどこにあるの?」

 と、首を傾げた。

「まんじゅうや、干菓子なら、こちらで売っている」

 翡翠に連れられて行くと、確かに、まんじゅうや干菓子、煎餅といった和菓子のコーナーはあったが、洋菓子のコーナーがない。

「もしかして、ケーキとか、クッキーとか、焼き菓子なんかは、取り扱っていないの? そういえば前に、幽世には洋菓子がないって言っていたね」

 龍穴神社で聞いた話を思い出すと、翡翠は、

「その通りだ」

 と頷いた。

「だから、美桜に依頼したい。美桜が現世で俺に作ってくれたような菓子を、幽世でも作ってくれないか?」

「洋菓子を……?」

「美桜が作ってくれた、どーなつやまどれーぬという菓子は、とてもおいしかった。あやかしは甘いものが好きだ。しかし、こちらの世界には、美桜が作ってくれたような菓子を作れる者はいない。だから、蒼天堂で美桜の菓子を売り出したい。美桜は働きたいと言っていただろう。蒼天堂で、洋菓子の店を開いてくれないか?」

 予想外の仕事を依頼され、美桜は驚いた。

(私が、幽世のデパ地下でお菓子屋さんを開く?)
「で、でも、お店なんて、私……」

「美桜ならばできる」

 真剣なまなざしの翡翠を見て、ふと、美桜の胸中に、使命感のようなものが芽生えた。

(私を助けてくれた翡翠のお願い、叶えたい)

 美桜は翡翠の顔を見上げると、

「うん。どこまでできるのか分からないけど、私、やってみたい」

 と頷いた。
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