龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか

文字の大きさ
26 / 80
一章 幽世へ

二十六話 本当にお嫁さんにするつもり?

しおりを挟む
「翡翠は自分のお店の上に住んでいたんだね」

「そうだ。蒼天堂の上が、居住区の蒼天城だ。蒼天堂は一階から四階が店舗。五階は従業員食堂などになっている。蒼天城はその上の三階分だ。六階が蒼天城で働く使用人たちの部屋、七階が客間、最上階が俺の部屋だ。ちなみに、蒼天堂で働く従業員たちは、通いの者ばかりだ」

 蒼天堂で買い物をし、エレベーターで居住区へと戻ってきた美桜と翡翠が、話をしながら廊下を歩いていると、

「翡翠様。どちらへ行っておられたのですか?」

 穂高が二人を見つけて歩み寄って来た。

「美桜と下に買い物に行っていた」

「婚約者殿と?」

 穂高にじろりとした視線を向けられ、美桜は思わず翡翠の背中に隠れた。穂高は、美桜に対して、良い感情を持っていない。彼の冷たい視線を受けると、千雅と真莉愛のことを思い出し、美桜の胸が苦しくなる。

「今晩の夕食に出してくれ」

 翡翠が惣菜の入った紙袋を差し出した。穂高が受け取り、紙袋の中に視線を落とし、めずらしいものを見るような顔をして、

「……支配人直々に、惣菜を購入されたのですか」

 と、言った。

「久しぶりに客としてまわったが、楽しかった。いつもは視察だからな」

「かしこまりました。では、夕食の際にお出し致します」

「俺の分も桜の間に運んでくれ。美桜と食べたい」

 翡翠に肩を抱き寄せられ、美桜の頬が赤くなる。穂高が険のあるまなざしで美桜を見ているので、びくびくしていると、翡翠が、静かな声で使用人頭の名を呼んだ。

「穂高。美桜のことは丁重に扱えと言ったはずだ」

「……失礼しました」

 穂高が慇懃無礼な態度で美桜にお辞儀をする。美桜もぺこりと頭を下げた。
 惣菜の袋を持って穂高が去って行くと、美桜は思わず、ふぅと息を吐いた。

「美桜、怖がらせてしまったな。穂高には後でよく言っておく」

 翡翠が美桜の頭を優しく撫でた。美桜は「ううん」と首を振り、微笑んだ。

「穂高さん、きっと、私が急に人間の世界からやって来たから、困っているんじゃないかな」

「美桜はそう捉えてくれるのか」

 翡翠が胸元に美桜の頭を引き寄せた。そのまま髪に口づけられ、美桜の息が止まりそうになる。

「翡翠……」

「うん?」

「ち、近い……。離して……」

 真っ赤になりながらお願いすると、翡翠は「そうか?」と、残念そうに美桜を離した。

(翡翠、私をお嫁さんにするって言ってから、スキンシップが多くなったみたい。戸惑っちゃう……)

 ドキドキしていると、

「さあ、桜の間へ行こう。買った商品も届いているはずだ。着せて見せてくれ」

 近いと言ったのに、翡翠は美桜の肩を抱いたまま歩き出す。
 翡翠に触れられることは嫌ではないが、今ひとつ、本音が見えなくて困ってしまう。自分はからかわれているのではないだろうか。

(翡翠は、本当に私をお嫁さんにするつもりなのかな……? 私なんて、貧相で、頭が悪くて、取り柄のない女の子なのに……。翡翠には釣り合わないよ)

 美桜は、隣を歩く翡翠の綺麗な横顔を盗み見て、ひっそりと落ち込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...