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二章 洋菓子作り
六話 現世へ
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翌日、翡翠は約束通り、現世のお金を持って帰還した。翡翠の部屋へ呼ばれると、
「美桜。あちらのお金は十分に用意した。明日、買い物に行こう」
と言われ、美桜は両手を合わせて、
「嬉しい!」
と弾んだ声を上げた。
現世へ向かう日、美桜がバルコニーに行くと、翡翠と穂高が待っていた。
(穂高さんも一緒?)
美桜が小首を傾げると、翡翠が、
「たくさん買い物をするのだろう? 穂高は荷物持ちだ」
と、穂高を見やった。穂高は無表情のまま頷いたが、どことなく不満そうだ。
「では、行こう」
一瞬後、翡翠の姿が青銀色の龍へと変わり、
「美桜も穂高も乗りなさい」
と、促した。穂高が「失礼します」と言って、翡翠の背中に跨がる。美桜も、
「乗せてもらうね、ありがとう、翡翠」
翡翠の背に乗ろうとしたが、着物姿ではうまく足が上がらず四苦八苦していると、穂高が手を引いて、引っ張り上げてくれた。
「ありがとうございます、穂高さん」
頭を下げたら、穂高は、
「ぐずぐずされても困りますから」
と、そっぽを向いた。相変わらず、無愛想だ。けれど、美桜が翡翠から滑り落ちないようにとの配慮からなのか、後ろから軽く体を抱き、支えてくれた。思わず耳を赤くした美桜に、
「他意はないです」
穂高が、素っ気ない言葉をかける。
二人が背中に収まったのを確認すると、翡翠はバルコニーを蹴って空へと飛び立った。よく晴れた青空の中、上へ上へと舞い上がっていく。
すると、ふっと視界が切り替わり、美桜は暗闇の中に飛び込んでいた。細長い穴の中を、翡翠は慣れた様子で辿って行く。出口の明かりが見え、気がつくと、美桜は龍穴神社の境内に立っていた。両隣に、人の姿に戻った翡翠と穂高がいる。
「さあ、現世に着いた。美桜、おーぶんとやらは、どこに売っているのだ?」
翡翠に問われたので、
「家電量販店だよ」
と答える。
「その家電量販店とはどこにあるのだ?」
「ええと……確か、この近くにあったと思うんだけど……」
ここから少し歩けば繁華街だ。百貨店の地下には食料品売場もあるし、そのすぐ近くに大きな家電量販店もあったはずだ。
「ならば、行こう」
いつもどおりクールな翡翠だが、美桜には、心なしか彼がうきうきしているように見える。
(もしかして、お買い物が楽しみなのかな?)
微笑ましい気持ちでいたが、ふと疑問に思い、
「翡翠の姿って、普通の人も目にすることができるの?」
と聞いてみた。すると、
「俺の姿は、通常は見えていない。だが、見えるようにすることもできる。買い物をする時は、人間に変化するつもりだ」
と、説明され、びっくりした。
「穂高さんも同じですか?」
気になって穂高に尋ねると、穂高の代わりに、
「穂高は元人間だからな。変化するまでもない」
と、翡翠が答えた。
(穂高さんって、人間だったの? 元っていうことは、今はあやかしだっていうこと?)
「それってどういう……」
詳しく聞いてみようとしたが、穂高にじろりと睨まれて、美桜は口をつぐんだ。
(そのことには触れないで欲しいって感じみたい……)
「さあ、美桜。行こうか」
翡翠が美桜の手を取った。いつものように腕に添え、エスコートをするように歩き出す。仲睦まじい二人の姿を、穂高が複雑な表情で見つめていた。
「美桜。あちらのお金は十分に用意した。明日、買い物に行こう」
と言われ、美桜は両手を合わせて、
「嬉しい!」
と弾んだ声を上げた。
現世へ向かう日、美桜がバルコニーに行くと、翡翠と穂高が待っていた。
(穂高さんも一緒?)
美桜が小首を傾げると、翡翠が、
「たくさん買い物をするのだろう? 穂高は荷物持ちだ」
と、穂高を見やった。穂高は無表情のまま頷いたが、どことなく不満そうだ。
「では、行こう」
一瞬後、翡翠の姿が青銀色の龍へと変わり、
「美桜も穂高も乗りなさい」
と、促した。穂高が「失礼します」と言って、翡翠の背中に跨がる。美桜も、
「乗せてもらうね、ありがとう、翡翠」
翡翠の背に乗ろうとしたが、着物姿ではうまく足が上がらず四苦八苦していると、穂高が手を引いて、引っ張り上げてくれた。
「ありがとうございます、穂高さん」
頭を下げたら、穂高は、
「ぐずぐずされても困りますから」
と、そっぽを向いた。相変わらず、無愛想だ。けれど、美桜が翡翠から滑り落ちないようにとの配慮からなのか、後ろから軽く体を抱き、支えてくれた。思わず耳を赤くした美桜に、
「他意はないです」
穂高が、素っ気ない言葉をかける。
二人が背中に収まったのを確認すると、翡翠はバルコニーを蹴って空へと飛び立った。よく晴れた青空の中、上へ上へと舞い上がっていく。
すると、ふっと視界が切り替わり、美桜は暗闇の中に飛び込んでいた。細長い穴の中を、翡翠は慣れた様子で辿って行く。出口の明かりが見え、気がつくと、美桜は龍穴神社の境内に立っていた。両隣に、人の姿に戻った翡翠と穂高がいる。
「さあ、現世に着いた。美桜、おーぶんとやらは、どこに売っているのだ?」
翡翠に問われたので、
「家電量販店だよ」
と答える。
「その家電量販店とはどこにあるのだ?」
「ええと……確か、この近くにあったと思うんだけど……」
ここから少し歩けば繁華街だ。百貨店の地下には食料品売場もあるし、そのすぐ近くに大きな家電量販店もあったはずだ。
「ならば、行こう」
いつもどおりクールな翡翠だが、美桜には、心なしか彼がうきうきしているように見える。
(もしかして、お買い物が楽しみなのかな?)
微笑ましい気持ちでいたが、ふと疑問に思い、
「翡翠の姿って、普通の人も目にすることができるの?」
と聞いてみた。すると、
「俺の姿は、通常は見えていない。だが、見えるようにすることもできる。買い物をする時は、人間に変化するつもりだ」
と、説明され、びっくりした。
「穂高さんも同じですか?」
気になって穂高に尋ねると、穂高の代わりに、
「穂高は元人間だからな。変化するまでもない」
と、翡翠が答えた。
(穂高さんって、人間だったの? 元っていうことは、今はあやかしだっていうこと?)
「それってどういう……」
詳しく聞いてみようとしたが、穂高にじろりと睨まれて、美桜は口をつぐんだ。
(そのことには触れないで欲しいって感じみたい……)
「さあ、美桜。行こうか」
翡翠が美桜の手を取った。いつものように腕に添え、エスコートをするように歩き出す。仲睦まじい二人の姿を、穂高が複雑な表情で見つめていた。
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